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今回は文中に歌とか入れちゃったので、著作権とかに抵触する場合は削除しようかと思います。
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客が訪ねてきた。
朝っぱらからである。
誰かと思って出てみると、アラン司祭だった。
庭に突っ立っており、ロン毛こと………
……あれ、こいつ何て名前だっけ?
ま、いいや。
アラン司祭は、ロン毛と世間話をしていた。
「おはよう、アラン司祭殿」
オレが挨拶すると、
「おはようございます、カイ殿!」
アラン司祭は元気が有り余ってるって感じのデカイ声。
……何か、また思いついたんだろうか?
オレが内心思った瞬間、
「とりあえず聞いてください!」
アラン司祭はウザイくらいに元気ほとばしって叫んだ。
「ユグの木を使った飛行機では、いずれ輸送に限界がきます」
アラン司祭は熱弁していた。
「輸送量、輸送頻度ともに安定したもっと他の手段を構築しなければならないでしょう」
「あ、やっぱそう思う?」
オレは同意。
そうなのだ。ユグの木を使った飛行機には弱点が一つある。
製造コストが高いことだ。
賢者の石が希少アイテムなこともある。
もちろん価格も一般ピーポーからしたら目玉が飛び出るほどの額だ。
それを量産して、国中に輸送ルートを作るとなると、国家予算が消えてなくなるかもしれない。
「でも、他の手段っていってもねぇ」
オレはやんわりと否定的なことを言ってみた。
アラン司祭にアイディアがあれば、続きがあるはずだしね。
「いえ、ユグの木を使った何かで地上を走ればいいんです!」
アラン司祭は意気込んで言った。
「ん、それ、どういうこと?」
オレは咄嗟にイメージできずに聞き返す。
「これを見て下さい」
アラン司祭は荷物の中から木製の模型のようなものを取り出した。
四角い箱のようなフォルムに円形の車輪がくっついている。
……列車?
「先日、ムスペルヘイムの一戦で魔王軍が用いた水車のようなものの話を伺いましたよね?」
「そうだっけ?」
「ええ、お話だとかなり大きな物体のようですが、移動するだけならそこまで大きくしなくても問題ありません」
「ああ、それでこのサイズなんだ」
「その通りです!」
アラン司祭はガッツポーズ。
「これに有人ゴーレムの駆動機構を流用して動かしてやれば」
「この輪が動いて移動するって訳か」
オレはうなずいて、
「そしたら専用の走る道を敷いてやればいいんじゃね?」
「え?」
アラン司祭は一瞬、呆けたような表情。
「いや、馬車とかだって、ある程度均した平らな道じゃないと走れないでしょ?」
オレは説明をした。
「む…」
アラン司祭は考え込む。
「移動する距離が長ければ長いほど、色々な地形を通り抜けないといけないだろ」
オレは説明を続ける。
「色々な地形に対応できる駆動車にするより、固定化された一つの地形を走るだけにしたら比較的簡単に実現できる」
「そう言われれば、確かにそうかもしれませぬなぁ…」
アラン司祭は、うむ、うむとうなずき始めた。
「そうするとどういった道を敷けばいいんでしょうなぁ?」
「そう簡単に壊れない素材がいいな」
オレは曖昧に答える。
「それから、加工が簡単で比較的安価だと都合がいい」
「鉄…でしょうかね」
アラン司祭はすぐに思いついたようだった。
オレたちは案を出し合った。
鉄を細い線状に加工して敷く。つまりレールだ。
同じく車輪にも鉄を履かせて強度を上げる。
技術的に可能なら、鉄で車輪全部を作ればよいかもしれない。
車輪に溝を作ってやれば、回転するだけで自然とレールの上を走る。
「登り坂の時はどうします?」
「うーん…」
オレは学校から持ってきた本の内容を思い浮かべた。
確か、初期の鉄道は力がなかったから、坂道を登る時は蛇行していたとか書いてあったけ。
「左右に蛇行するように登らせればいい」
「おー、その手があったか!」
アラン司祭は、某実戦柔術家みたいな事を言って手を打った。
「下り坂は減速する機構を組み込めばクリアできる」
「ふむ、ふむ、勉強になります」
アラン司祭はメモを取り始めた。
よっぽど物を作るのが好きなんだなー。
「あと、いつも魔力に頼るのもワンパターンだよな」
「ですなぁ」
アラン司祭は相槌。
「魔力以外の動力源も使えたら、魔法使いでない一般人でも操縦可能ですな。
そうなると結構な頻度で物資を運べますね」
アランはどんどん話を先に進めて行く。
「うん、ムスペルヘイムの石炭やゴム、漆黒の木も運べそうだな」
「軍隊も」
「だな」
「当然、敵もバカじゃない。このルートを破壊しようとしますね」
「うん、武装が必要だ」
オレは話を次のステージに移した。
「機体に有人ゴーレムを取りつければいいんじゃないでしょうか」
アラン司祭は安直に言う。
安直ではあるが、要は効率だ。同じ形式の物をバリエーションを増やして使って行くのが効率的だ。
「あと魔力増幅器を取りつけて魔法を打ち出せればいいかも」
言いつつ、オレは某日本が誇る○崎アニメのワンシーンを思い出す。
「あ、有人ゴーレムを運べば一石二鳥ですね」
アラン司祭がまた手を打った。
「荷物が自分で護衛ってか、いいな」
オレは思わず笑い出す。
「ところで、アラン司祭」
オレはふと頭に浮かんだ単語を口にした。
「ミッドガルドには蒸気機関はあるのか?」
「……何ですか、それ?」
アラン司祭は首を傾げた。
「スチーム、つまり蒸気の圧力を利用して物を動かす仕組みかな」
実はオレもよく知らない。
現代では内燃機関に切り替わっているし。
「はぁ…つまり熱した鍋とかから上がる湯気ですか?」
「ほら、ケトルってあるだろ」
オレは例を上げる。
「中の水が沸くと注ぎ口から勢い良く蒸気が噴き出してくるじゃんか」
「それが蒸気圧?」
アラン司祭は、はっとした。
「そう」
オレはうなずく。
「蒸気の力で風車みたいなものを回すんだ。そこから先はアラン司祭自慢の歯車機構と同じだ」
「へー、そんな事ができるもんですかね」
アラン司祭は感心していた。
「ケトルよりもっと大きな釜を使えばできるかな」
オレは何となく酒造所の蒸留釜を思い浮かべる。
「蒸留釜みたいなものでもいいんですかね?」
アラン司祭は聞いてくる。
偶然なのか、思考の方向がシンクロしたらしい。
「その辺からスタートして、不具合があれば改良してゆけばいいかもな」
オレはそこで一旦、話を打ち切った。
他にもやることが一杯あるのでね。
オレの愛しの娘さんたちとのスキンシップとかな。
しかし、アラン司祭は発想力が豊かだなあ。
「ふーん、水車のお化けを聞いてこんなもの作るなんてねぇ」
鐶がアラン司祭の置いてった模型を眺めている。
「想像力がか・な・り豊かな人なんだね」
美紀が言った。
“かなり”のところを妙に強調していた。
『てゆーか、何なの、これ?』
ヒルデが興味深げにオレ達を見る。
「何って」
「列車?」
「鉄道?」
「そっか、ヒルデちゃんは知らないものね」
『だから、どういうものなのよぅ?』
ヒルデは拗ねたように口をとがらせる。
その仕草が結構可愛いので、思わず見とれてしまう、オレ。
げしっ。
どごっ。
鈍い音がして、オレは呻いた。
「馬車ってあるじゃない」
『うん』
「あれをうーんとでっかくして、馬じゃなくて蒸気とかの力で動かす?」
『へ?』
ヒルデは呆けたように口を半開きにした。
もちろん理解の範囲外だったのだ。
「ほら、ケトルを火にかけるとさぁ」
鐶と美紀はどこかで聞いた説明をしだす。
『ふーん、そんなことができるんだー』
あまり興味がないからか、ヒルデは割と平然と受け入れたようだった。
知識人とか常識人の方が固定観念が強固で、カルチャーショックを受けるのかもしれない。
アラン司祭はその点でも、異常なくらいに頭が柔らかい訳だ。
『じゃあ、それに乗って色んなところへ行けるわね』
「あー、旅行いいよねー」
「みんなで行きたいねー」
オレの愛する娘さんたちは旅行の話で盛り上がっている。
確かに、この娘たちと旅行にでも出かけたら、すっげー気晴らしになるよなあ。
「ねえ、アラン司祭ってさぁ」
鐶がオレを見た。
「何だと、オレは許さんぞ!」
オレはいきなり立ち上がり、
「よくも、オレの鐶に何をした、あのキカイヲタッ!!」
「……」
ゴスッ
鐶は黙ってオレの後頭部をぶったたいた。
ふおぅ!?
「カイ君がやきもち妬いてくれるのは嬉しいけど」
そして、絶対零度の瞳でオレの顔を覗き込む。
「まずはあたしの話を聞きなさい」
「ハイ、ボクちゃん何でも聞きますよぉっ」
オレは何故か正座しつつ、作り笑いを向けた。
「あのね、アラン司祭って何者?」
鐶はいつになく真面目な顔である。
「へ?」
オレは呆けた感じで首を傾げた。
「何者って?」
「あの発想力って、ホントに自分で考えたものかなーって思ってさ」
鐶は言った。
「例えば武術の話をするとさ、一人の武術家が思いつくことなんて高が知れてるんだよ。
その流派が蓄積してきた経験と発想が、実はその流派を形どってると言っていいんだよね」
「ふうん」
オレは思わず腕組み。
「てことは、あれか。
機械の進歩なんかも同じで、一人の天才がすべてを作り出すのはほとんどなくて、何人ものエンジニアが長い年月をかけて少しずつ積み重ねてゆくのが自然だってことか?」
「うん、アラン司祭はなんか不自然なくらいに発想力を持ってると思うよ」
鐶はうなずく。
「うーん、言われてみりゃ確かにそうかもな」
オレは腕組みしたまま、思い出していた。
有人ゴーレムに使用した歯車機構。
有人ゴーレムを輸送する飛行機。
有人ゴーレムの兵装。
そして、列車。
オレが発案したものが多いけど、それでもこの世界には希薄な概念に着いてきて、確実にイメージ通りの物を作り上げてきた。
ちょっと探りを入れる必要があるかもな。
ないとは思うが、魔王の手先とかいう線も考えられなくもないのではないだろうか?
「鐶、ちょっちアラン司祭の身辺を探ってみようか?」
オレが言うと、
「オッケー」
鐶はその言葉を待っていたのか、嬉々としてうなずいた。
オレと鐶は各方面の進捗状況を確認してから、アラン司祭の身辺を探りに行く。
アラン司祭の家が分らんかったので、
「やあ、バークレー! 一緒にアラン司祭の事を探りに行こう!」
神殿に居たバークレーを無理やり連れてきた。
「な、何ですか!? いきなり!?」
バークレーは訳が分からないといった感じで聞いた。
「アラン司祭の家、分かるだろ?」
「何で、アラン司祭を?」
バークレーの頭はフル回転しているようだった。
「でも、多分、彼は工房の方に居ますよ」
「そっか、あの手のメカヲタって工房に生息するからな」
「ヲタって…」
バークレーは、オタク、ヲタク、オタ、ヲタなどの単語を理解している。天界語としての認識だが。
「じゃ、工房に行こうか」
鐶が言って先導した。
すぐに工房に着いた。
夕方近くになっており、工房には人気がなかった。
工房の連中は帰ってしまったようである。
しかし、窓から明かりが漏れており、誰かがいるようでもある。
「いるいる」
バークレーが工房へ入ろうとしたが、
「ちょっと待った」
オレがその襟首を引っ張ったので、
「ぐえっ!?」
バークレーはヒキガエルのような声を上げてバランスを崩す。
「すぐに入っちゃったら意味ないじゃんか」
オレが言うと、
「はあ、そうですか」
バークレーは首を傾げる。
「ところで思ったんですが、工房なら拙僧がついてこなくてもいいじゃないですかねぇ」
「しっ、何か聞こえるよ」
鐶が言って、オレ達をたしなめる。
♪One, two, Freddy's coming for you.
Three, four, better lock your door.
Five, six, grab your crucifix……
「……」
「……何、この歌?」
「聞いたことのないフレーズですね」
オレたちは顔を見合わせた。
かったるく、そして気だるげな、不気味な旋律。男が歌うと違う意味で不気味だ。
……これは確か、古いホラー映画の劇中で歌われてたものじゃなかったかな?
オレははるか遠い記憶を呼び覚ます。
もちろん、リアルタイムでは見てない。TVの洋画劇場か何かで見たような気がする。
「アラン司祭は、オレたちの世界…」
オレはそこまで言ってから、
「つまり、天界出身だ」
言い直した。
「え!?」
「はあっ!?」
鐶とバークレーが驚いた。
…多分、英語圏の人間だな。
……しかもホラー映画マニアときた。
「よし、ここはオレに任せろ」
オレは一歩前に出る。
「いや、任せろって何する気?」
「普通に聞けばいいのでは?」
鐶とバークレーは、はあ?という顔をしたが、
♪ZUNZUNチャッ
ZUNZUNチャッ
オレは妙な腰のくねりと手をこねまわすような動きをし始める。
♪うぃーうぃる うぃーうぃる ろっきゅー
最も有名な部分を歌いだし、
両手を掲げてバンザイ。
工房の中まで聞こえたはずだ。(笑)
「それ、フレディ違いだろーが、ふぁっきゅー、めーん!!」
すぐにアラン司祭が飛び出してきた。
「てか、東○寸々茶とか混じってるだろ!!1」
ツッコミ乙。
「良く知ってるな、アラン司祭」
オレはニヤニヤしながらアラン司祭を見た。
「マイガッ!?」
アラン司祭は目ん玉飛び出そうな古臭いアニメの驚き方で、叫んだ。
「カイ殿ではないですか、ここここんな時間になななな何用で?」
思いっきり、きょどってる。
「アラン司祭、何人よ?」
オレは単刀直入に聞いた。
「……何をおっしゃってるか分かりませんなッ」
アラン司祭はしらばっくれようとしてる。
バレバレなのにな。
気が動転してるんだろう。
「どんすとっみな~ぅ!」
オレはまた歌いながら、アラン司祭の周囲をぐるぐると回り、両手で何かを振って叩く真似をする。
「…うっ」
アラン司祭は、ピクリと反応した。
歯を食いしばり、何かを必死に我慢しているようだった。
ぶるぶると手足が震える。
「どんすとっぷみ、すとっぷみ」
オレは構わず続けた。
「ビリヤードのキューでゾンビ死ぬわけねーだろ、ショーンのアスホーッ!!!」
アラン司祭はついに我慢しきれなくなったのか、また叫んだ。
「……拙僧、天界の習慣にはついてゆけませぬ」
バークレーは、オフーと頭を振った。
「いや、天界でもこの人達は、特殊なヘンタイ紳士だよ」
鐶がヤレヤレだぜと言わんばかりにため息をついた。
「はぅっ!? 紳士ッッ??!」
「ヘンタイ紳士とはッ! なーんたる侮辱!!」
アラン司祭とオレは、振り向きざまに愕然とした表情。
「何か、文句あるの?」
鐶は絶対零度の視線をオレたちに向けた。
「……いえありましぇーんッ」
「なかとですよッ」
オレとアラン司祭は同時に言った。
二人とも何故か正座している。
ついやっちゃうんだ☆
反射的にな。
「紳士?」
バークレーが首を傾げる。
「いや、説明すると長くなるから、またの機会にな」
オレは立ち上がり、
「アラン司祭、あんた何人だ?」
「バレたら仕方ありませんね」
アラン司祭は器用に肩をすくめた。
「お察しの通り、私はこの世界の人間ではありません。
カイ殿達とは別の地域の人間になりますがね」
「ああ、なるほど天界にも国のようなものがあるんですね」
「そう、大分離れてますが、まあ、ニブルヘイムとヴァナヘイムくらいでしょうかね」
「はあ、それは結構離れてますね」
バークレーは分かったような分からないような顔。
「でも、何で?…」
鐶が良い斬らないうちに、
「はい、カイ殿たちとは別にこちらの世界に移行したのです」
アラン司祭は若干の間、目を閉じた。
なんか色々とあったっぽい雰囲気である。
「ふーん。オレたちだけじゃなかったんだ」
オレは腕組みした。
もしかしたら、アラン司祭の他にもいるのだろうか?
「じゃあ、アラン司祭の他にもいるのか、天界人?」
「……いえ、私だけですね。他にも一緒に飛ばされた者がいたのですが、皆、死にました」
アラン司祭は落ち着いた感じで答えた。
察するに、大分前の話のようだ。
でなければこんなに落ち着いてられないだろう。
「ところで、アラン司祭って日本語しゃべれるのか?」
オレは聞いてみた。
「え、あ、はい。一時期日本に居たことがあります」
アラン司祭は説明した。
彼はアメリカ国籍の人間だった。
仕事……やはりエンジニアだった……の関係で、日本に何年か駐在したのだそうだ。
仕事の内容は専門的過ぎてよく分からなかったが、機械の販売業のようである。
もちろん自分で機械製作できるレベルの腕前であることは言うまでもない。
「私には全部同じ言葉で話してるように聞こえるんですがね」
バークレーは訝しげな顔をしてる。
多分、魔法的な力で意味合いだけを伝えてるんだろうからなぁ。
オレには英語は英語として聞こえ、日本語は日本語として聞こえたけど。
「でも、何でまた司祭に?」
鐶が言った。
「話せば長くなりますが、
簡単に言うといろいろあって、
ある家に身を寄せまして、
その家のコネ利用して
神殿に入って修業して
司祭になったという訳です」
「めっちゃ短いじゃん」
「ねー」
オレと鐶は顔を見合わせる。
ぐー
バークレーは寝ている。
疲れもあり、話の内容がつまら……いや分からないのだろうな。
「これで、わざわざ知らない振りをしながら、カイ殿たちに提案する必要はなくなったね」
アラン司祭は、ワハハと笑いながら言う。
「最初から打ち明けてくれればよかったんじゃね?」
オレは口を尖らせつつ、アラン司祭を一瞥。
にへらっ
と、アラン司祭の表情が緩んだ。
おっと、しまった。
オレは今、女性形態だったな。
ゴスッ
鐶がオレの背中を蹴った。
ビシッと鋭い衝撃が走る。
うん、いつもの展開。安心の衝撃力w
「……段々、カイ君に打撃が利かなくなってきてる気がするんだけど?」
鐶はジト目でオレを見る。
「んなこたないさ」
オレは、一応トボケ気味に慰めるかのように言った。
「ま、用心に越したことはないからね」
アラン司祭は悪びれもせずに言う。
いつの間にかタメ口っぽくなっていやがる。(笑)
ま、あんまり畏まられても窮屈だから、いいんだが。
「ところで建築技術はいつ学んだんだ?」
「神殿に入ってからだね」
アラン司祭は腕組みして言う。
何か思い出に耽ってるようにも見える。
「あまり進んだ機械を作ったりすると不審に思われるから、建築技術を継承する司祭に弟子入りしたんだ」
「あ、そっか」
オレは納得した。
「でも、君たちに会って有人ゴーレムを作ってゆくうちに情熱を押さえきれなくなったワケ」
「そのお陰で、オレたちはすごく助かってる」
オレはそこで、力強くうなずいた。
「今後もよろしく頼む」
「そう言ってもらえるとうれしいよ」
アラン司祭は微笑んだ。
アラン司祭に出会えたのは幸運だった。
オレたちだけでは、こんなに新しい兵器を開発できなかっただろう。
もし他にも同じように世界間を渡ってきた者がいるのだろうか。
いれば是非に仲間にしたい。
絶対に魔王軍には渡せない。渡してはいけない。
何か良い方法でも考えよう。
☆
シェリルと連絡を取った。
「どうだ、そっちの様子は?」
オレが聞くと、
『向こうに動きはありませんが、すごい勢いで木材や金属をかき集めているようです』
シェリルは意味ありげに言った。
「……新たな魔力増幅器を開発してるってことか」
オレはすぐに気付いた。
『だと思います』
シェリルはうなずいたようだった。
『恐らく、我々の有人ゴーレムを真似て、自分で動くタイプの物を作るでしょう』
「だな」
オレもうなずく。
『私は、向こうの研究施設の責任者を知ってますが、そいつの性格から言って絶対に作ろうとします』
「ふーん。何てヤツなの?」
オレはふと気付いて聞いた。
『デュランデュランと言います』
シェリルは答える。
「…面白い名前だな」
オレは思ってもないことを言ってみた。
『デュランデュランは悪魔の血を引く一族で、魔族の中でも知力に秀でていています』
シェリルはべらべらとしゃべっている。
ウンチクが好きな性格みたいである。
『天界でいう“えんじにあ”や“さいえんてぃすと”に相当するでしょうね』
「それ、絶対、頭に“マッド”って着くだろ」
オレは思ったことをそのまま口にした。
『イカレたって意味ならその通りです』
シェリルはやはり即答。
イカレた科学者。もしくは技術者。
うんざりした気分になる。
何が飛び出すか分からない。こういう敵は初めてだ。
魔王軍がオレらを相手にしていて、同じように思ったことだろう。
逆の立場になると、結構嫌なものだ。
「そいつを暗殺できるか?」
オレはダメ元で聞いたが、
『……ムリですよ』
シェリルは即座に言った。
『同じ魔族と言っても、吸血鬼程度では悪魔には太刀打ちできません』
「デビル、デーモンどれになるんだろうな?」
オレは戯れに聞いてみる。
『“夜の斧の一族”とかいうはずです』
「あ、それってテスカポリトカのことじゃん?」
オレは昔見たアニメを思い出していた。
……確かヨナルデパズトーリが夜の斧という意味だったはず。
で、ヨナルデパズトーリはテスカポリトカの化身のはず。
『よく御存じですね』
シェリルは感心した様子だ。
『私、魔王軍の図書館を管理してましたけど、遠国の魔神にそのような名前があったような気がするなーって程度ですよ』
「へー、シェリルって図書館の管理してたんだ」
オレは頭の中に思い浮かべた。
もちろん、図書委員っぽいメガネを掛けたシェリルの姿である。
『カイ様、今、いやらしいこと考えましたね?』
シェリルの声のトーンが落ちる。
「いや、そんな不謹慎なことは考えちょらんですばい」
『どこの訛りですか』
「うん。それより、そのデュランデュランってこちら側に引きぬけそうなヤツか?」
オレはいつもの如く急に話題を変える。
『いえ、難しいでしょうね』
シェリルは頭を振ったようだった。
最近はもう耐性ができちゃってて、着いてくるんだよな…。
「そんなに忠義心のあるヤツなのか?」
オレは聞いてみた。
『というより、魔王にぞっこんなんです』
「へー」
オレはちょっと感心した。
「やっぱり魔王の愛人なのか、まあ一人ぐらいは裏切らないヤツがいた方が…」
『いえ、魔王をしばくのにご執心なんです』
シェリルはさらりと言った。
「…は?」
オレは思わず変な声を出してしまった。
『我々の間では唯一、魔王をいじめるのに執着していたヤツです』
「てことは、そいつを引き抜くには…」
『カイ様がそのしばかれるポジションに収まる必要がありますね』
シェリルは投げやりに言った。
……やだ。
『暗殺はムリですから、いっそのことしばかれてみては?』
シェリルは所詮他人事という具合に言うが、
「ばかこけ、なんでそんなポジションに入らにゃならん!」
『いい方法だと思いますけどねぇ』
シェリルは笑いながら言う。
『カイ様がちょっと我慢するだけで、敵方の戦力を激減させられるし、こちらの戦力を増加させられるし』
「むむむ…」
オレは唸った。
「何が、むむむ…だよ?」
鐶が踵落としをオレの脳天に叩き込んだ。
「いいじゃん、いじめられても。案外、クセになるかもよ?」
「オレはドMか?」
オレは怒鳴ったが、
「じゃあ逆にしばいてやりゃいいじゃん」
鐶はどうでもよさ気に言った。
言い切った。
「意外と喜ぶんじゃうかもよ、そいつ」
「“悔しいけと感じちゃう、ビクンビクン”ってやつかーッ」
「うるさいッッ」
騒いでたら、美紀に締められますた。
とっぴんからりんのぷぅ。
さて、鉄道だ。
どこから作ろう?
いや、この場合はどこからどこまでを結ぼう? と言った方が適切か。
A地点からB地点まで。
テラ懐かしスw
ってなフレーズだが、要はどっからどこまで資源を運ぶかって問題ね。
とりあえず現時点でオレらが取り扱ってる資源はというと、
・石炭
・泥炭
・ゴム
・アクアヴィット
・ユグの木
・アラビカ豆
こんなもんか。
ゆくゆくは西部ヨツンヘイム産のチーズやニブルヘイム産の絹なんかも運びたいが、まずはヨツンヘイムとアースガルドの南北ルートだな。
その次にニダヴェリールとムスペルヘイムのナムール領と。
ホントはヨツンヘイムからナムール領までドカンと一直線にラインを引きたいが、建設費と維持費で国家予算がなくなるかもしれんので、短距離で妥協すべきだな。
パイロット版として、まずヴァルハラとビフレストを繋いでみよう。
某国みたく線路に入り込んで好き勝手にやられても困るので、線路は何かで囲っておくのが良いのかも知れん。
でも、そんな作業ムリっぽい。
この辺は実務段階の連中に考えさせればいいだろうな。(丸投げ)
んで、列車には軽量級の有人ゴーレムを乗せるか機関車の一部にゴーレムを取りつけると。
基本的な考え方をまとめ、オレはアラン司祭と打ち合わせを重ねた。
一応、公共事業となるので、大司教に報告し、キング・ジョージの了解を取り付けてもらい、事業団としての鉄道会社みたいなものを設立。
そこの経営者にはロンドヒル公爵を推薦した。
公爵はニダヴェリール方面担当、ヨツンヘイム方面はアルブレヒトに担当してもらう。
従って、アルブレヒトには副社長として入ってもらう。
あと、ハルバート商会に公爵の下で細かな実務をやってもらうことにした。
実際に物を作る工務はアラン司祭のチームにやってもらうと。
うん、いびつだがまあよし。
ロンドヒル侯爵には政財界との取りまとめ役をしてもらって、実務的な部分は北はアルブレヒト、南はハルバート商会にやってもらう形だろうな、実質的に。
アラン司祭は早速、線路と列車の製作に取りかかった。
彼の工房の敷地には既にミニチュアの機関車が走っていた。小さな円を一周するだけのものだが、いつのまに作った、アラン司祭よ。
……デュランデュラン、引き抜けないかな…?
オレはチラッと思ったので、シェリルに連絡を取ってみた。
「なあ、シェリル。デュランデュランって新技術とかテクノロジーとかに弱いか?」
『え、多分、すぐに飛びつく方だと思いますよ』
シェリルは困惑気味に答える。
『何か、考えでも?』
多分、ろくでもない事でしょうけどね。と言外に匂わせてる。
ま、オレが以前シェリルにやったことを振りかえれば当然そう思うか…。
「うん、鉄道の事をリークしたらどうかな?」
『はあ?』
シェリルは更に困惑。
『それって魔王軍に技術持ってかれて終わるんじゃないですか?』
「鉄道の研究製作をさせてやるからオレらの側につけってのはダメかな?」
オレがご都合主義的に言うと、
『……』
シェリルは黙り込んだ。
……やっぱダメかね?
『やってみないと分かりません』
「え?」
『でも、一回こっきりのギャンブルです。接触したら私の存在もバレますし、下手をすると消されるかもしれません』
シェリルは緊張を含んだ声。
「あ、そっか。そんな事はお前にはさせられねーな。この話は忘れてくれ」
オレは慌ててこの案を引っ込めるが、
『いえ、カイ様。この案は意外とイケるかもしれませんよ』
シェリルは予想に反して言った。
「ぬわんだって?」
『魔王軍は我々がこんなムチャな策を取るとは考えてないはず。堅実に一歩ずつナムール領から征服してゆくと思ってるんじゃないでしょうか?』
「かもな」
オレはもちろんそのつもりです。
これまで各方面に出した指示もその考えに則ってますよ。
『ここで奇をてらって見るのも一つの方法じゃないですか?』
シェリルは真面目な声で言った。
『どうせ、こちらもあちらもお互いに警戒しあって堅実案しか出してないでしょう?』
「う、む…。それはそうかもしれんが…」
オレは唸ってしまった。
確かに、魔王軍の動きが見えないのも事実なんだよな。
「しかし、だな。お前を危険な目に合わせるワケには…」
『私たち魔王の愛人間には、ちょっとした連帯感というかライバル感というか、そういうものがあります』
シェリルは構わずに続けた。
『アクールと私がヴァルハラで会った時も同じでしてね、敵側だからといってすぐに殺し合うワケでもありません。ちょっとしたケンカぐらいならしますが』
「しかし、お前が生きてるってバレるぞ?」
『別にいいじゃないですか、バレても』
シェリルはしれっとして言った。
『カイ様もいずれはバレても構わないと思ってるんでしょ?』
「ま、まあな…」
オレはどきっとした。
『私やアクールが処刑されても魔王が方針を変える訳ないですし、生きていて寝返ったと知られてもこちらに損はありません。かえって魔王の頭を悩ませるのでいいんじゃないですか?』
……そうかも。
知られてない時は隠し玉として役に立ってもらったが、もし知られたとしても、それは魔王が今までよく知ってる者たちを相手にするって事だ。
魔王はシェリルたちの事を良く知っている。
弱点も知ってるが、代わりにどういう強みがあるのも知っている。
魔王にしたらイヤな相手だろう。
有能な味方であればあるほど敵に回った時には厄介なのだ。
「でも、デュランデュランがお前を襲わないって保証はない」
『私とアクールの二人で会えば油断するかもしれません。私たちにとっては懐かしい顔ぶれですからね』
シェリルは自信たっぷりに言った。
「うーん、でも、吸血鬼でも太刀打ちできない相手なんだろ?」
『じゃ、カイ様も立ち合ってください』
シェリルはさらっと言った。
『要はナムールの時と同じです。懐柔はお得意でしょう?』
「うはっ…おまい、意外と大胆な策を思いつくのな」
『カイ様から学んだんですよ?』
シェリルはくすりと笑った。
結局、オレはシェリルの案を採用した。
アクールとも打ち合わせをした。
打ち合わせの結果、
1)シェリルとアクールが彼女らだけが知りえる合図みたいなもので、デュランデュランを呼び寄せる
2)オレが映像と音声投影の魔法で調略
という流れになった。
『カイ様』
アクールの声がした。
『デュランデュランがきました』
シェリルの声もした。
脳内に映し出された映像は夜の野っぱらみたいなところである。
シェリルとアクールが並んで立っている。
その向こう側に白衣を着たメガネの理知的な女が現れた。
瞬間移動っぽい。
『あら、誰かと思えばシェリルにアクールじゃない』
デュランデュランは表情を変えずに言った。
予想していた以上に冷たい感じのする声色である。
『生きてたのね』
『驚かないのね』
シェリルが言った。
『だってウソっぽいじゃない』
デュランデュランは肩をすくめる。
『まるで誰かが魔王様を動揺させたいみたいなシチュでしょ?』
『考えすぎね』
シェリルは小馬鹿にするように鼻で笑う。
アクールは緊張してるのか、まったく口を開かない。
『そうかしら?』
デュランデュランは首を傾げた。
シェリルの態度など眼中にないようだ。
『で、何のようなのかしら?』
『もちろん、私たちが生きてるってことは…』
『裏切った』
デュランデュランの目が光を反射したように見えた。
『…そうでしょ?』
『うん、そう』
シェリルは悪びれもせずにうなずく。
『二人して、なぜそんなに軽いの? お相手のヒトってそんなに魅力的なのかしら?』
デュランデュランは不思議そうに訊ねた。
『うん』
『会えば分かるかもね』
アクールとシェリルは即座にうなずいた。
『……あら、即答ですか』
デュランデュランは若干、ずっこけた感じだ。
メガネがカクッとずり落ちる。
『てゆーか、ここにお呼びしてるから』
『会えよ?』
シェリルとアクールが連続的に言った。
『は?』
デュランデュランは一瞬、何を言われたのか分からなかったのか、点目。
『カイ様、カモン!』
シェリルが言ったんで、
「呼ばれて飛び出て、はい、魔王の片割れでございっ!」
オレは映像投射。
『h、はあ?』
デュランデュランは点目のまま、茫然とオレを見てる。
「デュランデュラン、キミ、オレのところに来ないかい?」
オレは白い歯をきらりんと光らせてみた。
もちろん女形態である。
「今ならまだ愛人さんたちは5人しかいないぜ」
『……』
デュランデュランは点目のまま。
「それから、キミの大好きな研究をさせてあげよう」
オレは言って、映像を切り替える。
ぽーっ。
という汽笛の音とともにアラン司祭製作のミニチュア機関車が映った。
チーム・アランの面々が座席に乗っており、デュランデュランに向かって不自然すぎる笑顔で手を振った。
がしゅ、がしゅ。
というスチーム特有の駆動音が響いてくる。
あまりエンジニアッ気のないオレですら、何だか無性に熱くなってくるのだから、真性マッドなエンジニアとかサイエンティストな彼女にしたら、相当心が動いたはず。
『くっ…』
デュランデュランは呻いたようだった。
『この程度の事で私の心が動くとでも?』
あ、意外に耐性があるんですね。
「いや、今の取り組んでる研究、続けても全然オッケーだから。
むしろ資金も湯水のように使っていいから、色々と作ってもらった方が都合いいし」
オレは太っ腹なところを見せる。
『…うっ』
デュランデュランはかなり心を動かされたようだったが、まだ「うん」とは言わない。
「あるぇ? 有人ゴーレムの作り方、知りたくないー??」
『そ、そんなもので釣られるワケない』
…かなり我慢してらっしゃる。
「カモン、ユグの木の歯車機構ッ!」
オレが言うと、また映像が切り替わった。
アラン司祭が有人ゴーレムに乗りこんでいて、にこやかに笑った。
アラン司祭は魔力を持ってるらしく、有人ゴーレムがゆっくりと歩き出す。
『ふぐぅッッ!!!』
デュランデュランは両手で頭を抱えてのけぞった。
をを!
今度はかなり効いたみたいだ。
『ち、ちくしょう! こんな事で…』
デュランデュランはまだ頑張っていた。
「うん、君は頑張ったよ、よく頑張った。でもそろそろゴールしても良いんだよ?」
オレは何か気さくで、良いことを言ってるっぽいけど実は何の中身もない言葉を口にしてみた。
『あ、あの…』
アクールが言った。
『こっちにつけば、カイ様、いじめ放題』
『今後ともよろしく』
デュランデュランはあっさりと言い切った。
デュランデュランの受け入れには、やはりオレ自身が出向かないとダメだろう。
研究機関の長ともなれば重要人物でもあるしな。
どこで会うか。
護衛はどうするか。
受け入れ先をどうするか。
急ピッチで動かなければならない。
とりあえずの受け入れ先はアラン司祭の工房か。
会う場所はナムール領はダメだろうな。
みんなに反対されそうだ。
となると、ニダヴェリールまで来てもらうのがいいか。
アクールはハルバート商会の警護があるから、シェリルにエスコートしてもらおう。
ゴムとかを運ぶ飛行機の便があればそれに乗せてもらえばいい。
オレの方は、あちらに行き来する飛行機の便に乗ればいい。
飛行機の数はまだまだ少ないものの、一応、定期便らしき往来ができてきている。
運賃はバカ高いが、確実に素早く運びたい品物などについては利用する客が少なからずいる。
鉄道とは違い、ヴァルハラからの積荷の受付はアルブレヒトに任せている。
荷渡しについては、ドラシールやニダヴェリールはロンドヒル公爵に任せており、ナムール領ならハルバート商会だ。
あちらから積む荷は逆。
大雑把にいうと、有人ゴーレムの製造工場とナムール領のゴム工場の間を行き来するのがメインで、その他に完成した有人ゴーレムをヴァルハラに運んだりするのがあり、それらのついでに余ったスペースに商売の積み荷を運ぶみたいな感じだ。
つまり南北、縦の路線である。
いずれはニブルヘイムと西部ヨツンヘイムを結ぼうと思っていたが、鉄道ができればあまり必要はなくなるかもな。
さて、鉄道だ。
鉄道を敷いていった後に起こる問題を考えてみよう。
これまで鉄道なんて見たこともない人達なので、地元民が事故を起こす可能性がある。
魔王軍の工作もありそう。
それらを解決するための一つの方法として、鉄道全線に軍隊を置こう。
鉄道警備隊だ。
鉄道の修繕も兼ねてやってもらえば良い。
維持費はかかるが、必要な費用と言える。
王宮直属にした方が瞬発力が高まって良いだろう。
地方地方で人を集めるとまとまりに欠けて、いざって時に力を発揮できないし。
地元との軋轢はできるかもしれんが、そこは仕方ない。
システムが上手く回ってきたら、徐々に地元の人間を雇う方向へシフトしてゆこう。
あと地元の領主を抱き込んで、地元民にお土産物や弁当を売らせれば儲かるぜ!ってな事を吹き込もう。
人が集まるようなら宿場町を作ってもいいだろうし。
村興しみたいな展開になってるが、それもまたよしだ。
鉄道による経済効果を期待だ。
人は物が集まりやすい所、つまり便利な所に住みたがるし、人が集まれば物がもっと必要になり運搬の必要性が高まる。
駅の近くに工場があるのなら更によい。
物資の運搬が楽になる。
つーか、そういう風に鉄道を敷いてやるべきだな。
「で、そのデュランデュランってヤツを迎えに行くワケね?」
鐶が恐い顔でオレを睨んでる。
「あたしたちには一言も断りなしに決めたってワケ?」
美紀も恐い顔でオレを睨んでいる。
『ま、あんたの女癖は今に始まったもんじゃないしね』
ヒルデだけが呆れ顔で肩をすくめる。
が、ホントは腸煮えくり返ってるに違いない。
「うん、すまん、みんな」
オレはペコリと頭を下げる。
「魔王の愛人を引きぬけるなら引き抜くのが一応、大司教との間で決めた方策なワケだし、オレらも遊びでこんなことしてるワケじゃない。
魔王軍を下して平和な社会を作るのが目的だし、学校のみんなを元の世界に戻す方法を見つけなきゃならん」
「ま、それはそうだけど…」
鐶はため息。
「でも、感情は納得してないのよね」
美紀はベキボキと拳を鳴らしている。
……またですか。
『止めなさいよ、二人とも』
ヒルデが咎めるように言った。
『愛人が一人増えるぐらいで、いちいち騒がないの』
「でも、やじゃん」
「ねえ?」
鐶と美紀は不満そうだったが、
『この先、何人増えようが、あたしたちの優位性は揺るがないわよ』
ヒルデは自信たっぷりに言い切る。
「おお、よくぞ言ってくれた、ヒルデちゃん」
『だから、ちゃんづけは止めなさいってば』
ヒルデは比較的懐かしいことを言って、
『その代わり』
ギロリ。
オレを見た。
『理由もなく可愛いからって愛人増やそうとしたら、その時は覚悟しなさいよ?』
その目が確実に語っていた。
そんときゃ、呪い殺す。
「はい、わかっとりますですぅ!」
オレは恐怖から敬礼をした。
護衛は鐶。
美紀とヒルデはまた刺繍ものの納期があるとかで、同行しない。
見送りには来てくれたが。
エリザベスとバークレーもいる。
「ごめんね、ホントは一緒に行きたいけど…」
美紀は未練いっぱいの眼差しである。
別れ際にチュー。
おお、元気いっぱいになったぞ。
『ふん、ただの出張みたいなもんじゃない』
ヒルデはそっぽを向く。
『でも、せっかくだから』
言って、ヒルデもチュー。
素直じゃないな、君は。
でも、そこがいい。
『ヘンタイ紳士』
「ぐわー、なぜその言葉を!?」
「遊んでないで行くよ?」
鐶がオレを引っ張った。
「見せつけてないでさっさと行け、変態紳士!」
エリザベスが何か怒ってました。
いちゃついてたのが気に障ったのでせうか?
てか、なぜに紳士が流行?
散々な出発でしたが、飛行機の中では平穏そのもの。
操縦士は気のよさそうなおっさんで、副操縦士は見習いっぽい少年。
昔風に言うと徒弟ってヤツか。
裕福な階層の出ではなさそうだが、操縦士やってるんだから魔力があって魔法も使える人だよな。
まあ、貴族連中がこんなきつい仕事する訳ないし、できもしないだろう。
そのうち飛行機操縦士のギルドができそうだ。
飛行機の中ではやることないんで、鐶と適当に話をしたり、操縦士のおっさんや見習いの少年と話したりして過ごした。
積み荷は乗っていたが、商人は乗ってない。
まあ、人件費を考えたら乗らんわな。
その分は操縦士さんたちがやってくれる。
確かに速くて確実だけど、積み荷の扱いが粗雑だと利用者がいなくなるから、自然とやるようになったのだろう。
どんどん運用面でのルールが固まってきてるようだ。
2日とかからずにニダヴェリールに到着。
「「お世話になりました」」
操縦士たちは、積み荷やら何やらで忙しそうだったので、挨拶を早めに切り上げて発着場から出る。
もちろん料金は前金で支払ってるが、一応チップを渡しておいた。
今後も利用するかもしれないし、印象を良くしておいて悪いことはない。
発着場から出るとすぐロンドヒル公爵の手配した者が待っていた。
「お待ちしておりました」
いかつい顔の一目で軍人と分かる風貌の大男が慇懃に礼をする。
「ゴシドと申します。以後、お見知りおきを」
ゴシドの後ろにも似たようないかつい連中がずらりと並んでいた。
「お迎えご苦労様です。ゴシド殿」
オレは軽く礼を返して、
「この度は忍びですのであまり派手な歓待は無用です」
「はあ、そうでしたか」
ゴシドは若干、緊張の面持ちで、
「公爵閣下には丁重にお迎えするようきつく言われておりましたゆえ…その、申し訳ありませぬ」
「ま、いいじゃないですか、カイ様」
鐶が助け船を出した。
「ここで立ち話してる方がよっぽど危険だよ、早く移動しよ?」
「それもそうだな」
オレはうなずいた。
「では、参りましょう」
「は。それではこちらへ」
ゴシドの案内で馬車に乗る。
ゴシドたちは、オレらを貴婦人か何かだと思ってるのだろう。
丁寧な取り扱いをしている。
外見と教養は関係ないってことか。
飛行機の発着場は、郊外に作られているようだった。
ニダヴェリールといえば昔は石炭だが、今は交易中心らしい。
ドラシールより北から入ってくる物資、ムスペルヘイムから入ってくる物資。
それらを売り買いする商人たちが集まる交易場があり、領主たちはその場所代をはねている。
金を取る代わりに商人たちを守ったりするわけだが、これって現代で言うヤクザの手法だよな?
そんなことを考えてると賑やかなところに入った。
交易場だな。
ここでは交易場の近くに発着場を設置しているようだ。
積み荷を載せやすいだろうから、合理的ではある。
「着きましたぞ!」
ゴシドが大声で言った。
コイツも地声デカ男ってヤツだな。
オレと鐶が馬車を降りると、どこかの商館っぽい建物の前だった。
「相手方は既にお待ちの様子です」
ゴシドがそつなく情報を伝えてくる。
「それは重畳。情報ありがとうございます」
「いえ、お役に立てて嬉しく思います」
なんか堅苦しい会話だが、地位のある連中相手には必要だ。
ゴシドの先導で商館に入ると、
「カイ様~ッ!」
聞き覚えのある声がして、
ゲシッ
何か柔らかい物が突進してきた。
言うまでもなく、シェリルだ。
「ふっ」
思わず踏ん張って耐えると、
ゴシドたちが目を見開いて驚いたようだった。
貴婦人だと思ってた女が「ふっ」とか言って踏ん張ってるんだから、無理もない。
いや、オレ、女じゃねぇし。
「カイ様、会いたかった~~~ッ」
シェリルは、まさに頬ずりせんばかりに抱き着いてきたが、
「あのね、今はそんなことしてる場合じゃないの、早く相手を紹介しなさいよ!」
鐶がぐいっとシェリルを引き剥がす。
……片手でやりやがったぞこいつ。
周囲の軍人たちが「おおっ」と息を飲んだのが分った。
貴婦人らしからぬ腕力だ。
「ふーんだ、鐶には分からないよ、この気持ち」
シェリルは何だか子供っぽいことを言ってるが、
「はいはい、あとでいちゃつけばいいでしょ」
鐶は大人の態度でかるくあしらう。
「まずはお仕事、お仕事」
「うん、デュランデュランを紹介してくれ」
オレはチラと向こうで顔を覗かせている女を見やりながら言った。
商館の扉から顔を出している。
デュランデュランらしい。
「はい、了解です」
シェリルは敬礼した。
*
「改めて紹介するけど、カイ様だよ」
シェリルはオレを紹介した。
相手はもちろん、デュランデュランだ。
商館の個室を借りている。
「カイ様、コイツがデュランデュランです」
「お初にお目に掛かる」
デュランデュランは目礼した。
意外と礼儀正しいのな。
「前は映像だったからな、よろしく」
オレは目礼を返した。
「ところで、こちらは?」
デュランデュランは鐶を見やりながら聞いた。
「オレの護衛の鐶だ」
「……」
デュランデュランは無言。
シェリルが何やら耳打ちすると、
「そ、そうか」
デュランデュランは何やらうなずいた。
……ん? なんだろ?
「では、早速、教えて欲しいのだが」
デュランデュランは本題に入った。
前回の邂逅で見たミニ列車や有人ゴーレムの事が聞きたいらしい。
「あの蒸気で走るモノはなんだ?」
「蒸気機関車だな」
「どんな構造なんだ?」
「あー、それはアラン司祭に聞いてくれ…」
「人を乗せて動くゴーレムのようなモノは、どういう仕組みなのだ?」
「あれはユグの木を使って駆動系を組み立ててる。そんで上半身部分はゴーレムだ」
「なるほど、そんなアイディアなのか」
などと言うふうに、オレは一つずつ質問に答えていく。
ま、ほとんど「アラン司祭に聞いてくれ」だったが。
「とにかく、こっちの工房では自由にやってもらって構わないから」
オレは言ったが、
「あっちの工房でも好き勝手にやってたじゃないの」
シェリルがツッコミを入れる。
話の腰を折るなよ。
「私はどこに居ても好き勝手自由にやるぞ」
デュランデュランは宣言した。
「そーよねぇ、それが原因で内部では嫌われてたもんね」
シェリルがため息をつく。
「う、うるさい」
デュランデュランはそっぽを向いた。
ちょっと赤面している。
「ま、話は帰り道でもできるから」
鐶が言った。
久しぶりの投稿になります。
書いてるヤツが凡人なのでアイディアが枯渇してきてる今日この頃。
とにかく気長に書こうと思います。