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オレに何ができるのか。
それを考えたら、みんなを強引にでも引っ張って生き残るために何かをするということだった。
とりあえずは組織作りだ。
人間、一人でできることなどたかが知れている。
みんなが一致団結して努力してこそ、目的が達成されるのだ。
そう、元の世界に帰るというのが目的だ。
「カイ君ってさぁ」
鐶が傍らで言った。
「子供の頃から、みんなの先頭に立ってたよね」
「そうだっけか?」
オレは記憶をまさぐるが、何も浮んでこない。相当昔のことなのだろう。
オレたちは歩哨の任に就いている。
夜は、はっきり言って怖い。電気がないのでな。
「そうだよ、いつもカイ君が気づいて、みんなを引っ張って行くんじゃん。外の林へ行ったのもカイ君が思いついたんだし」
「そういやそうか」
オレはうなずく。
「…もっと外の世界を探索する必要があるな」
「うん、そうだね」
「そういやさー、この世界に人間っているのかな?」
「……いるかもな」
オレはその可能性を予想していた。
人間がいるとなると、その文明社会の恩恵に預かれるという利点がある反面、権力闘争や戦争、犯罪など難しい事態にも巻き込まれる可能性が出てくる。
「どんなヤツらがいるやら」
「異世界召喚ものなら、当然、中世っぽいファンタジー世界だよね」
「……コテコテだな」
「……」
「……」
ふと会話が途切れた。
鐶がチラリとオレを見た。心なしか瞳が潤んでるような感じがする。
……ま、まさか。
これはラブシーンっちゅうヤツですか?
キスはOKってヤツですか?
「……鐶」
「ん? なに?」
「オレら、まだ内臓の臭いが取れていない」
オレは悔しそうに力説する。
「女々しいかもしれないが、初めてが“内臓の臭い”なんってのはイヤ過ぎる」
「……そうかもね」
鐶は拍子の抜けた顔。
「すまん。でも、そのうちな」
オレは鐶の頭をくしゃくしゃとかき混ぜてやった。
「うん、あたし待ってる」
鐶は意外にも素直にうなずいた。
塩が切れた。
所詮、調理室に置いてある食塩などではこの人数はまかない切れないのだ。
岩塩か海水があればな。
恐らく、林の中にはないだろう。
「諸君、残念なことに塩がなくなった。不満もあるだろうが、しばらくはガマンしてくれ」
オレは代表者会議で口火を切った。
「いつまでガマンすりゃあいいんだよ?」
ロン毛が恨みがましく言う。
実際、オレの仕打ちを恨んでいるのかもしれない。ケツの穴の小さいヤツだ。
しかし、ヤツの言うことももっともだ。
その場のみんなの不安を代弁しているとも言えた。
「ま、塩の件も含めて色んなところで不便を解消するためには方法は一つ」
「何だよ、それ」
「林を越えて外がどうなってるのかを見てくる」
「……えっ!?」
クラスの代表者みんなが驚いた。
「この世界に人間がいれば、塩なんて問題じゃなくなる」
「それ、助けが来るってことだよね?」
茶髪の女子が喜び勇んだ。
「でも、外にいる人たちが私たちを助けてくれるって保証はないよ?」
おさげの女子が言った。
用心深いというか慎重派だ。
「……」
ずーん。
みんなの表情が一転して沈んだ。
「ご、ごめんなさい。そういうつもりで言ったんじゃないんです…」
おさげの女子が、おろおろと弁解をする。
「いや、おさげの言うとおりだ」
オレが助け舟を出すと、みんな複雑な表情になった。
ころころ表情が変わるヤツらだ。
「あの……“おさげ”じゃなくて、藤田です」
「オーケー、自分の意見をしっかり言ったな」
オレはニヤリと不適に笑い、
「藤田の言うとおり、人間が居たからといってそいつらが信用できるのかは分からない。でも、オレたちにはそれしか方法が残されていない」
そうなのだ。
生徒たちの中にはそれほど特殊な技能や知識を有するものはいなかった。
だから、一刻も早く林の外がどうなっているかを確かめなければならない。
つまり、人間が存在するか否かを確認することが急務だ。
その結果如何によって、オレらのこれからの取るべき行動が変わってくる。
オレはそれをみんなに説明した。
「人間が居なかったらどうするんだ?」
ロン毛が恐る恐る訊いた。
「オレらが自分たちで色んな生活のための技術や道具を作っていかなければならないってことだ」
「……それってどういう意味だ?」
「それはだねえ! ボクたちがいた世界では、コンビニなんかで簡単に手に入ったものは誰かが作ってくれていた訳さ、この世界ではそれをしてくれる人たちはいないってことさ」
マサオが頼まれもしないのに解説する。
「てことは……」
「おにぎりとかパンとかも?」
「そうだ」
「ジュースも?」
「そうだ」
「お酒もっ!?」
「おいおい」
「タバコも?!」
「未成年者だろ」
「P○Dとかマ○ックマッ○ュルームとか○ンナーも!?」
「犯罪者かよ、つーかコンビニにねーし」
「とにかくそういう訳なんで、残った生徒たちが生活に困らない程度に人選をし、捜索隊を結成するんだ」
オレの締めくくりの言葉で、今日は解散。
生徒たちの中で派閥が生まれて権力闘争をしだす前に捜索隊を送り出さなければな。
もちろん、オレが率先して捜索隊に入る。
鐶のその特殊すぎる特殊技能も必要だ。
後、マサオ。なんかの役に立つだろう。恐らく。
本来なら『ユニークスキル』を持ってるヤツらを集めなければならないのだが…。
実際集められたのは、
・オレ
・鐶
・マサオ
・ロン毛
・チビ
・始
・美紀
の7名だった。
オレ、鐶、マサオは最初からノミネートしていたが、ロン毛は何故か自分から志願してきた。
チビはクラスではイジメられていて代表者を押し付けられたそうなので、こういう危険が伴いそうな事はどのみち押し付けられる。半強制的に志願するしかない。始と美紀は、まあオレが無理矢理入れた。
それ以外にも志願者というか候補はいたが、使えそうなのがいないので外した。
ロン毛の野郎、何か企んでいるのだろうか?
ま、そうだとしても志願者がいるのは良いことだ。
逆に考えれば、反逆者の最有力候補を見張っていられるのだから、好都合なのかもしれない。
「よし出発!」
「おい、こんな軽装で良いのかよ?」
ロン毛は早くも不満を訴えてる。
「ただでさえ少ない物資や食料を持ってくワケねーだろ。林の中で調達だ」
オレが言うと、
「確認しただけだ、説明がなかったからな」
ロン毛は不機嫌そうにそっぽを向く。
段々正論を吐くようになってきたな。ま、オレのやり方が招いた結果なんだが。それでも、全生徒がバラバラでまとまりを欠いたままジリ貧に陥るよりはマシだ。
ともかく出発だ。
オレは先頭に立って歩き出す。
歩きながら鐶が食べられる野草や木の実を集める。
主食のたかきびだけは持ってきていた。実は米に慣れてるオレらには固くて不味く感じるのだった。旨そうに食べるのはマサオだけ。
とはいえ貴重な食料だ。
少しでも無駄にならんよう、持ち出したという訳だ。
どんどん林を歩いて行くと、突然向こう側の視界が開けた。
正面には荒れた土地が広がっており、所々に小高い丘が見える。人家はまったくなかった。
が、
「うげっ」
「何だあっ?」
始とロン毛が叫んだ。
草の生えたなだらかな平地には、大勢の人間のような直立二足歩行の生き物がいた。
最初は人間かと思ったのだが、それにしては肌が青黒かったり頭に角や瘤があったり……ファンタジーにお約束のゴブリンとかオークとか暗黒の尖兵みたいだ。