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謎の黒色水車の砲身から、赤い光が放たれた。
ナムール軍に着弾する。
どごおっ
派手な爆発。
が、ナムール軍の有人ゴーレムは、マジック・スクリーンを張っていた。
一度見てる攻撃は対処される。
『撃て!』
今度は、こちらから一斉に攻撃魔法が発射された。
色とりどりの様々な魔法が飛び、敵陣へ着弾。
攻撃と防御を分担しておいたのだ。
しかし、前回の戦いで、敵も同じ事を学んだようで、結構な数の魔法がマジックスクリーンに阻まれた。
でも、機体の数はこちらの方が多い。
防ぎきれなかった魔法が敵の通常兵の一部を屠った。
戦いのポイントは、いかにして敵方の魔力増幅兵器を破壊するか。
そのために、ナムール軍とアスガルド軍で役割分担をする事にした。
ナムール軍は陣の防衛。
アスガルド軍……つまりアクール隊は攻撃。
最新鋭の機体で部隊ごと突撃をかけ、敵方の兵器を破壊もしくは無力化する。
首尾よく破壊できれば、全軍で攻撃をかけて敵を押し潰す。
アクール隊の負担がかなり大きいようだが、その辺はナムールに恩を売り後々仕事をしやすくするためだから、頑張ってもらうしかない。
とにかく、アクール隊が出撃。
迷彩色にカラーリングされた丸みのある機体達が、敵陣へ突っ込んだ。
敵は、まさか正面から来るとは思っても見なかったのか、対応が遅れた。
『火球!』
一斉に魔法が撃ち込まれ、正面に立ちはだかったザコどもが一掃される。
『進め!』
アクールの怒鳴り声がするかしないかのうちに、部隊は前進。
浮き足だった敵に突っ込んで行く。
乱戦になると上半身のゴーレムの出番だ。
勝手に敵を認識し、トゲ付きナックルで敵兵を撲殺してゆく。
『トロールだ、気を付けろ!』
アクールが言うと同時に、黄色い肌の巨人達が殺到してきた。
『火球!』
隊員達は魔法を放つ。
確か、トロールは火傷を回復できないのだ。
普通の傷は、超速度で再生するんだが。
ぎゃああ。
トロールが火に焼かれて悶えた。
そこへ、火系以外の魔法使いの機体が突撃。
傷付いたトロールに、トゲ付きナックルを叩き込む。
さて、火傷を攻撃されても再生できるかな?
答え。できません。
傷を再生できなければ、トロールはそれほど脅威ではない。ただデカイだけの生き物だ。
どん。
例の水車から、攻撃魔法が撃ち出された。
トロールが倒れてもいないのに。
自陣内だというのに。
……味方もろとも倒そうってか。
しかし、火系の魔法使いの機体が、わずかな間にマジック・スクリーンを張っていた。
どごおぉっ
攻撃魔法がスクリーンに激突して派手に火花を散らす。
マジックポットにマジック・スクリーンを仕込んどいたのだ。
『エアーランス!』
トロールを殴り倒した機体達が魔法を放った。
貫通系。
効果範囲は狭いが、一撃の威力と当たってからの威力の伸びはかなり強い。
魔力の壁に守られた敵を狙うなら、この手の攻撃魔法が最適だろう。
エアーランスの魔法は、魔力の壁で一旦は止まったようだったが、そこからさらに威力を発揮し、魔力の壁を貫いていた。
水車の乗り手は、もろに魔法を食らった。
水車の動きが止まった。
アクール隊は、続けて水車を倒しにかかるが、水車隊もやはり攻守を分担してきた。
二台一組になり、一台がマジック・スクリーン。もう一台が火球を放つ。
貫通系の魔法でも、マジック・スクリーンを撃ち抜くのは、ほぼ不可能だ。
逆に、こちらもマジック・スクリーンを展開しているので、敵の攻撃魔法は効かない。
膠着状態に陥るかってとこで、“取って置き”の出番だ。
実は、オレらは、ただ黙って見守っているだけではなかった。
エリザベス、バークレー、キューブリック将軍などの面々が並ぶテーブルに現地の地図が敷かれており、その上に駒が並べられている。
地図はシェリルが送ってきた情報を元に鐶が作成した。
意外な能力である。
いや、意外な能力って言えば美紀だ。
美紀の天才軍師振りだ。
で、地図の正面には美紀が座ってる。
「メーサー1、2、3隊d−12に火炎魔法攻撃ね、鐶ちゃん」
美紀が指示を飛ばすと、
「メーサー1、2、3隊d−12に火炎魔法攻撃!」
鐶が、即座に現地のアクールとシェリルにそれを伝える。
ちなみに、シェリルはメーサー隊へ指示を伝える役。
オレはというと、千里眼で現場を見て地図上の駒を動かす役。
美紀の用兵をみんなで補佐しているのね。
美紀は、メーサー隊を使って敵の水車兵器を砲撃した。
マジック・スクリーンにも限界はある。
火力を集中すれば、いずれは倒せるという事。
メーサー隊もマジック・スクリーンを展開してるのは言うまでもない。
しゅみみん。
遂にスクリーンが消え失せ、
どおんっ!
水車が一つ撃破された。
その途端、敵の残存歩兵が全軍で突撃をかました。
メーサー隊を叩きに来たのだ。
そうしなければ後はない。
全滅覚悟だ。
だが、ナムール軍には、まだ通常軍と有人ゴーレムが丸々温存されている。
『それぇっ、怯むな!』
『魔族どもを我等の土地から追い払え!』
指揮官クラスが吼えた。
ナムール軍には自国の防衛という意識がある。
ここで命を散らそうとも、敵を食い止めなければならない。
そういう心境の者は、ちょっとやそっとでは怯まない。
両軍は正面から激突。
交戦。
「ピリカラカレー軍に指示」
美紀が言うと、
「……ナムール軍に指示!」
鐶は、ぐっと眉根を寄せつつ、命令を下した。
翻訳までするとは偉いな。
美紀はナムール軍に指示を与え、正面の軍を後退させつつ、軍を脇へと展開させて行った。
魔王軍の目的はメーサー部隊だ。
自然と前進して行く。
気がつくと、ナムール軍はぐるりと半円状に魔王軍を取り囲む形になっていた。
だが、この陣形では魔王軍に厚みが残っている。
美紀がヨツンヘイム戦で見せた、敵を取り囲み分断する戦法へ持ってゆくことはできない。
が、
「はい、そこでメーサー隊全隊、魔王軍に集中砲火を加えて」
美紀は指示を下した。
「メーサー隊全隊、魔王軍に集中砲火!」
鐶が復唱し、伝える。
どごぉおん!!
ばごおおん!
どごぉっ!
敵のど真ん中に、メーサー隊からの攻撃魔法が雨あられと撃ち込まれた。
逃げる敵は、ナムール軍が押しとどめ、斬り伏せる。
ナムール軍のいない方向に逃げたところで、アクール隊と自軍の兵器が膠着状態に陥っているだけである。
アクール隊は、防御と攻撃を役割分担している。
つまり、防御してない機体は手が空いているということ。
敵歩兵は、ものの数秒で全滅した。
……こえーぜ、美紀の超用兵力。
先読みしてる訳でもないのに、敵味方のパワーバランスを瞬く間に傾け、敵を不利に、味方を有利にする。
すべての行動が有機体であるかのように一つの働きをする。
敵味方の区別がない。
どちらも美紀の頭の中ではただのパーツだ。
たまたま、オレらは美紀の側だったってだけだ。
『全軍突撃!』
ナムール軍はすべての軍を前進させた。
歩兵部隊が全滅した今こそ、怒涛のように押し寄せ敵を潰すのだ。
再びメーサー隊が水車へ集中砲火を浴びせ、ナムール軍が残存兵を狩ってゆく。
アクール隊はメーサー隊と同調して攻撃魔法を浴びせて行く。
魔王軍は全滅した。
今回は字数少ないです。。