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 そうそう、ヨツンヘイム西部に派遣したニドヘグ達の様子はどうだろう?

 既に現地に到着して活動開始してるはずだが。

 使者を送ってみるか。

 とか思ってたら、あっちから使者が到着した。


『ハロー我々ニドヘグ一同元気一杯、計画通りよん。バッハハーイ!』


 という内容。

 ……ウソだが。

 使者に伝言を伝え、駄賃を渡す。

 もちろん、労いの言葉をかけてやるのも忘れない。

 ちなみに伝言の中身は、


『ウィッス、着任ご苦労様でッス! まずは打ち合わせ通りにね、ヨロピク!!!』


 ……ウソだが。

 ま、使者がいなくてもいいような内容だけど、そこは指導要領ってやつで。

 ……何の指導だか分からんが。

 そのうちアルブレヒト商隊を送ってみよう。


 アルブレヒトのマイヤー商隊がヨツンヘイムへ向けて出発。

 目的は、生活環境改善と交易。

 生活環境改善は、現状調査及び対策の実施。

 交易は、現状調査。

 また現地サイドから管理者を一人出してもらう。

 現地サイドと連携した上で、事を押し進めるためだ。

 意見がまとまりにくく、動きが鈍るというデメリットはあるが、それでも現地側と共同でやってゆかねば長期的な関係は築けない。

 ともかく、アルブレヒトに一任だ。


 アスガルド本国だが、まずは学校のようなものを新設してみよう。

 魔法を始めとする技能を学ぶ教室みたいなもんか。

 短期コースから始めて、卒業者には仕事を斡旋してやる。

 それが目玉だ。

 神殿の司祭達を借りよう。

 それ相応の給料を払えば、よいだろう。

 ゆくゆくは、本格的なアカデミーにすると。


 で、ムスペルヘイムはハルバート家を活用する。


 でも、ハルバート家の商隊から一報がくるまで、する事がないので、有人ゴーレムの開発に浸ろう。(笑)

 もはや趣味の世界だぜ。

 有人ゴーレムの頭数は十数台と、だいぶ揃ってきた。

 といっても試作機ばかりなんで、各機の兵装はめっちゃ不揃いだが。

 しかし、これらの機体を実戦投入するには、まだ足りないもんがいくつかある。

 まず足。

 つまり移動手段。

 有人ゴーレムの歩行速度は、かなり遅いから、ロボものに付き物のキャリアーがいる。

 次にメンテ設備。

 交戦の末、破損、故障したりするだろうし、実戦で分かった不具合を補修したりする必要もあるだろう。

 それらを修理調整する設備がいる。

 つまり工房だ。


 アランに相談したら、

「カイ殿もそれを考えておられたか」

 と同調。

「キャリアーはどんなのが適してるんでしょうね?」

 しかも逆に尋ねられた。

「えーと、まずは要求事項を出して見ましょう。それに見合ったものを作ればいいんです」

「それもそうですなー」

 アランはうなずいて、

「複数の機体を一度に運べたらいいですな。

 後、工房が備わってる。

 移動速度が速い…」

「おいおい」

 ……むちゃ言うな。

 空でも飛ばさん限り無理だろ。

「空飛ぶ乗り物ですか、私もガキの頃は夢みてましたがね」

「待てよ。レビテーションでユグの木製の乗り物を浮かせられないか?」

 どの辺の大きさまで持ち上がるか分からんが、魔力増幅があるから結構いけるのではないか。

「有人ゴーレムの歯車機構を流用すれば推進力を得られるかも?」

 アランが言った。

 ユグの木で作った歯車機構ね。

 半分“永久機関”っぽくて反則気味だが、まあ、使えるものは何でも使うと。

「その魔法使い、不眠不休で延々とレビテーション掛け続けるわけ?」

 鐶がツッコミを入れた。

「あ、そっか」

「賢者の石にレビテーションを掛けさせればいい」

 アクールが案を出す。

「ああ、賢者の石の魔力が続く限り持続するって訳ですな。さすが、アクール殿」

「いえ…」

 アクールは恥ずかしいのか、うつむいてしまう。

 アランよ、オレのアクールちゃんにちょっかいかけるなよ。(怒)


 厳密には、賢者の石を通してユグの木の乗り物にレビテーションをかけるようだ。

 賢者の石は、律儀に魔法をかけ続けてくれるとのこと。

 ミーミル水のトラップを使って魔力を還元すれば、エネルギー効率もよくなるだろう。

 賢者の石ってつくづく便利アイテムだなー。

 こりゃ、将来は賢者の石争奪戦になるな。

 そうなる前に代用品というか、人造の賢者の石を開発しとく必要ありとみた。


「純粋な有人ゴーレム運搬目的の小型飛行機と、工房設備が積んであり、且つ大量の有人ゴーレムを運搬できる大型飛行機の両方を開発しましょう」

 アランが主張した。

 どんだけ時間がかかるやら。

 まずは、小型飛行機を製作して、眼の前の戦いに対応しよう。

 敵は有人ゴーレムの力は知らないから、急作りでも間に合うはず。

「「「えー!?」」」

 アランとその弟子達及びロン毛が、反発の声を上げる。

「まずは試作機を実戦投入してデータを取るべきだ。色んなアイディアは、その後に盛り込んでゆこう。

 どうせ、敵さんはこちらの力を知りえないんだ。

 有人ゴーレムの存在はつかんだかもしれないが、実戦での有効性までは分からんしな」

 オレが言うと、彼等はしぶしぶながらに承知。

 ……こいつら、手段と目的が完璧に入れ替わってやがる。

 手段と目的を取り違えんな。

 本来の目的は、戦に勝つことだっつーの!


 とにかく、急ピッチでキャリアーの製作が進められた。

 ハルバート家の使者は、すぐにやってきた。


『マハラジャ・ナムールの承諾を得ましてございます。

 既に商館となる建物を借り受ける手はずにて、同時に交易に適した商品の調査を開始しております』


 使者に、ねぎらいの言葉と返事を預け、送り返す。

 返事の内容は西部ヨツンヘイム組の時と同じ。

 んで、シェリルと通信。

「そっちの様子はどうだ?」

『万事順調です……と言いたいところですが、やはり敵方は何かを襲撃しようとする気配です』

「ま、予想通りだな」

『部隊はいつ到着しますか?』

「突貫で製作中だ。完成次第、出発させる」

『最速でお願いします』

 シェリルの声には緊張が見られた。

『敵方の動きは予想以上に早いようです。以前から、それなりに準備していたのでしょう』

「分かった、完成を急がせる」

 オレは、通信終了するや、製作室へ出向く。

「みんな、後、5日で完成させてくれ!」

「「「ええーっ!?」」」

 製作室の人員すべてが、不満の声を上げた。

「カイ殿、いくらなんでもその工期はキツ過ぎます!」

 アランが目一杯反対したが、

「敵の動きが思ったより早い。遅れれば遅れるほど、ナムール勢に死傷者が出る」

「しかし、ムチャですよ」

「100%完成を目指さなければ可能だろ。ギリギリ最低限の稼働で十分だ」

「ですがねぇ…」

 アランはあくまでも渋った。

「そんな未完成機で出撃させて、死ぬのはパイロットですよ」

 うむ。

 まあ、一理ある。

「……」

 オレは考える振りをしてから、

「分かった。10日に延ばそう。これ以上は延ばせない」

 妥協案を出す。

「お任せ下さい。10日で仕上げてみせますよ」

 アランは、自信たっぷりにうなずいた。

 ……5日でも大丈夫そうだったよな。

 おっと、大司教に報告しとかなきゃあな。


 で、工期が来た。

 進水式ならぬ、進空式に立ち会う。

「では、カイ様、姉サマ方、出陣します!」

「武運を祈る!」

 アクールと小柄な女性魔法使い1名ちゃんが、有人ゴーレムと一緒に飛行機に乗って飛び立った。

 1隻だけである。

 飛行機といっても、実際には船っぽい形をしている。

 レビテーションの魔法で浮かび、歯車機構を駆使して、船尾に取り付けられた巨大なファンを回し、前進する。

 冗談みたいな作りだ。

 ……宮○アニメ風の飛行船って感じか。

 補助としてバルーンを頭上にいくつも浮かばせている。

 万一、レビテーションの魔法が切れた時に使用するのかも。

 修理のための工房設備は一切ないので、もったいないが壊れたらそれまで、使い捨てだ。


 甲板には2機の有人ゴーレムを固定運搬できるようになっており、パイロットたちは狭いブリッジに押し込められる。

 1隻につき3人乗り。

 1人は操縦士……というか船の管理者、2人は有人ゴーレムのパイロット。

 隊長がアクールなんで、やはり隊員も女性ばかりだ。

 ちなみに何日か分の食糧と水、寝袋を積んでいる。

 トイレは尿瓶とオマルを完備。(笑)

 風呂には入れない。

 短期間で目的地に着く事を想定してるからなあ。


 ……アランのヤツ、前から構想練ってたな。

 でなけりゃ、こんなに早くは完成しない。

 アランは続けて同じく小型飛行機と、それに大型飛行機の製作を進めている。工房設備付きのヤツね。

 完成次第、現地へ向かわせる予定だ。


 再び、飛行機部隊が現地に到着するまで、することがないので、今度は西部ヨツンヘイムの件をメインに据える。

 現地でアルブレヒトがうまくやるだろうが、こちらでもアスガルドやミッドガルド全域のチーズ等の乳製品市場についてを調査だ。

 食い物とくれば、ヒルデと春巻だな。

『ちょっと、だれが食いしん坊バンザイ! なのよ!!』

「いや、そんなこと一言も言ってないッスよ、ヒルデさん」

 てゆーか、どこで覚えたんだ、そんな単語?

『あんたの世界には、そういう催し物があるって、春巻クンが言ってたわよ』

 ヒルデは言って、

『ああ、美味しいものがおなか一杯食べれる世界っていいわねー』

 何か別の世界に浸ってしまった。

「はい、戻ってくる! 現実世界に!」

 オレは強制的にヒルデを引き戻す。

『ううー』

 ヒルデは、恨みがましくオレを睨んで、

『あんたには、美味しいものをこの世界に残す義務があんだからね! 主にあたしのために!!!』

「イエス、マダム!!!」

 オレは変なノリで敬礼した。

 ……呆れるほどの食いしん坊ですなあ。

 究○のメニューとか○高のメニューとか作りそう、マジで……。

「ところで、アスガルドのチーズ事情っていかがなもんで?」

『チーズ!』

 ヒルデは、その単語を聞いただけで目の色変えました。

 なんか某シマリス兄弟の大作戦に登場する太っちょネズミさんっぽい発言ですなあ。

 オレは、100メートルほど引いてしまいました。

 心理的に。

「西部ヨツンヘイムの特産らしいな」

『そうね、以前は、こっちまで流れてくるのは稀だったわ』

 とすると、貴重品扱いか。

 チーズそのものは日持ちする保存食っぽい扱いのはずだから、輸送ルートの問題か?

『ただ、毎日食べる分には、地元の牧場で間に合うから、わざわざヨツンヘイムのチーズを買い求める人が少ないのよね』

 ああ、アスガルドの市場の問題か。

 そんなに需要がないのね。

 牛乳さえあれば作れるからなー、チーズ。

 直接食べる消費が少ないなら、チーズケーキなどの加工品はどうかな?

『地元の原料を使わずに、わざわざヨツンヘイムから運んでくるの?』

「…だよなー」

 じゃあ、兵糧としての可能性を探ろう。

『……エリザベスに聞いてよね、そういうのは』

 後は、もう一つの案だが、これは春巻がいないとな…。

 オレは、別の話題に移ることにした。

「絨毯とか毛糸は?」

『ヨツンヘイムの西の方は、そういうのが有名だったよね』

「そう、今でも商人が買い付けに行ってるだろうから、この方面はアスガルドに工場を建てて生産するのがいいな」

『技術を輸入しようってことね』

「うん」

 オレはうなずく。

「それにニブルヘイムの絹糸も扱えれば尚良い」

『へー、絹糸でも織れるの絨毯って?』

「できる。オレの世界では作ってたみたいだし」

『絹のドレスとかなら、貴族階級とか、豪商とか富裕層に売れそうよね』

「うん、フォー教の幹部にニブルヘイムに行ってもらって、製糸技術を輸入しよう。ニブルヘイムで布教をしていいって条件で」

『カイって、意外にやり手よね』

 ヒルデは、ニヤリとほくそ笑む。

 さすが商人の娘だけある。

「話ってなんスか?」

 春巻包が面倒臭そうにやってきた。

 ちなみに、オレとヒルデ(と鐶)は食堂にいる。

「君にピザを開発してもらう、デブッ!」

 オレは、いきなりカミングアウト。

「ピ、ピザでふかぁ!?」

 春巻包は、仰天しつつも、目を輝かせた。

「うん。

 西部ヨツンヘイムの特産品であるチーズを使って、ピザを開発!

 ムスペルヘイムにコーヒーショップをチェーン展開!

 春巻シェフの中華点心シリーズとピザを置くという、すばらしきこの野望!」

「おお。何だかわかんねーけど、燃えるこのシチュエーション!!」

 春巻とオレは、訳の分からんノリで、叫び出す。

『それを座して食べるのが、このあたし! ステキー!!』

 ヒルデもつられて変なノリ。

「あんたらね、疲れない?」

 鐶だけが、どっと疲れた顔をしてた。

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