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有人ゴーレムの様子を見に行こう。
製作室を訪れる。
大工のアラン司祭が、『ど〜しても!』っていうんで、王宮に頼んで市内の元製鉄所を貸してもらっている。
アラン司祭が好き勝手に物を作れるようにと設置した製作室だ。
アラン司祭は、彼の弟子たちを連れて、無人のまま荒れていた所内を掃除し、新たな設備を持ち込んでいた。
最初はボロボロのお化け屋敷だったのが、劇的ビフォーアフターって感じでピッカピッカにしたのだ。
うむ、さすが僧侶職。
オレらの宿よりキレイかもな。ムサイ男どもしかおらんのに。
「こんちは」
オレらが製作室に入ると、アラン司祭は弟子の僧たちに指示を飛ばしながら、自分もガンガン作業をこなしていた。
鬼の現場主任ってカンジ?
ちなみに、ロン毛のヤツもここで働いている。
作業を手伝いつつ、ゴーレムの元となる木彫りの彫刻を彫っていた。
うーむ、成長したなあ。
アラン司祭、板金を被せるのは既に思いついていたようで、手足に金属の鎧を装着した機体が製作済みだった。
「板金鎧を着せるのは確かに強度が上がって良いんですが、重量が半端でなく重くなります」
アランは、喜々として説明する。
「ただ、操縦席を守るには鉄板で装甲を被せてやる必要ありです」
「前が見えなくなるんでは?」
「心配無用です。操縦しようとすると賢者の石を通して自然とゴーレムの目線で外界を感じ取れます。精神感応ですね」
ふーん。
何だかご都合主義的な説明だが、まあ、ここはスルーだ。
「それよりも操縦者の魔力を一時的に貯めておく機構を設けました」
アランは、しゃべりに熱が入ってきたようだ。
「ミーミル水を詰めた管を脚に巻きつけて作ったトラップです」
「ミーミル水?」
なんだ、また新出単語かよ?
「魔力を捉える事のできる水です。……まあ水と言うより油に近い性質なんですが」
「へえー」
「操縦者からもたらされる魔力は、すべてユグの木で増幅されるわけではありません。
ユグの木が増幅可能な魔力以外は、利用されずに宙空に霧散します。
アクール殿の魔力は、カイ殿ほどではないにせよ、かなり魔力の放出量が多くユグの木が増幅しきれず、だだ漏れ状態になってるので、魔力トラップの設置により一時的に貯めれるようにしたんです」
「余剰分を貯めておくメリットって?」
「はい、いい質問ですね」
アランは、うなずいた。
……先生か?
ま、そういう職務もこなすんだろうな。司祭だし。
「貯めた魔力は、操縦者が魔力を使いきった時にバックアップとして使えます」
隠し弾みたいなもんか。
「貯めておいて、魔力回復を待って、上乗せするってのは?」
「ミーミル水に捉えられた魔力はいずれ時間とともに逃げ去るので、それまでに回復するなら可能ですね」
アランは、アゴをさすりながら答える。
運用面の話だから、操縦者に任せるのがいいのか。
「ところで、魔法を発動直前の状態にしといて、必要な時に撃てるようにできませんか?
例えば、使用頻度の高い炎系や雷系の攻撃魔法をチャージして、戦闘で使う。その他の魔法は自分で行使」
「いい案ですね」
アランは、うなずいた。
「早速、実現に向けて作成してみましょう」
うん、現場には来てみるもんだ。
アイデアが自然にわいてくる。
しばらく話してから製作室を後にする。
着実に、より高性能な機体が仕上がってきている。
既存のロボットものを見れば分かるように、製作コストと設計コンセプトのバランスが釣り合った機体が生まれてくるはずだ。
対人戦闘のみに絞った軽量級、
機動力を生かした中量級、
格闘戦メインの重量級など。
某バ○ルテックっぽいが。
ま、頭にゴーレム乗せただけの脚型キカイっちゅうアバウトな代物なんで、あまり複雑な機構は存在しえないけどな。
マグネット・コーティングとかはムリ。
たぶん微調整もできねー。
******
「ミーミル水って?」
オレは、アクールに訊いてみた。
この世界の知識は、この世界の住人に聞くのが良い。
「ミスリルを溶かしたもの」
アクールは答えた。
相変わらず、言葉少ないが、簡潔で最も理解できるのも確かだ。
「ミスリル?」
オレは、思わずオウム返しになる。
もちろんミスリルが何なのかを知らない訳ではない。
アトランティス伝説の『オリハルコン』とかと同様、架空の金属だ。
……確か、『ロード・オブ・ザ・リング』に出てくるんだったよな。ドワーフの国でしか採れないヤツ。
しかし、このファンタジックな世界では実在する金属なのかもしれない。
「ミスリルは軽くて丈夫な金属」
「でも希少なんだろ?」
「そう」
アクールはうなずく。
「ミスリルは、ある程度強い魔力に長時間さらされると液化する」
「それがミーミル水?」
「そう」
アクールは、またうなずく。
「伝説では、ミーミルという巨人が作ったとされる」
「で、ミーミル水か」
「そう」
アクールは、三度目のうなずき。
「ミーミル水は、魔法使いたちの認識では魔力を奪う存在。実際、古の戦いでは魔法使いの魔力を奪うために使われてる」
確かに。
そんなもんが近くにあったら、いざ魔法を行使するって時に魔力を奪われてしまうんだから、命にかかわる場合だってあるだろう。
「でも、どうやって貯めた魔力を使うんだろ?」
「限界まで貯まれば、自然と放出待ちの状態になるはず」
アクールは、あまり自信なさそうに言った。
もしや、魔王に聞かされたのだろうか。
寝物語として?
おお! すげー想像したら、ちょっち興奮してきたぜ。
「カイ様、顔がいやらしい……」
アクールは、オレをとがめるような顔。
「怒った顔も可愛いなあ、アクールちゃんは」
オレが言うと、
「……」
アクールは、頬を少し赤らめてそっぽを向いた。
後ろに控えている姉貴分のお方の視線もグサグサ刺さってくる。
いてえ。
「冗談だ。先を続けてくれ」
オレは、さっと表情を切り換えて促す。
「魔法使いなら、それを感じ取れる」
アクールは、まだ何か文句がありそうだったものの、とりあえず説明。
根が素直なのだ。
つまり、貯まりきって放出可能状態になれば、魔法使いになら誰にでも引き出せるということか。
しかし、この説明って……男の子の生理現象に似てなくもない。(笑)
「……」
アクールちゃんは、また赤くなってうつむいてしまう。
「セクハラ反対!!」
「げふぅ!?」
鐶にノックアウトされました。
******
『カイ様?』
シェリルから通信が入った。
夜も遅くにだったが、オレは起きていた。
半ば習慣的に策を練っていたのでな。
『マハラジャ・ナムール本人と面会してます』
面会って……。
一方的に相手の寝室に押し掛けて、術で自由を奪っといて、って事を言うっけか。
千里眼行使中。
かなり遠い距離なので、シェリルの指輪を中継地点とさせてもらっている。
『穏便に話を聞いてもらうための措置ですよ』
「そりゃそーだ」
マハラジャ程の地位にある人物に、正面から面会を申し込んでも受ける訳がない。
ナムールは、ターバンこそ巻いてなかったが、いかにもマハラジャって風貌をしていた。
高い鼻、ぱっちりした大きな目、分厚い唇、太い眉、でかい耳…つまり福耳。
各パーツを合わせると、またまたオペラ調人物の完成!
今にも、インド舞踊を踊りながら歌いだしそうな感じだ。
ま、バカな想像は置いといて。
身体の自由を奪われただけで、意識はある様子だ。
下着を着けただけの姿で、右手に湾曲したナイフを握っている。
むさいおっさんの下着姿なんぞ、みたくもないが、しょうがない。
で、向こう側にあるベッドには、若い女が同じく身体の自由を奪われていた。
……正妻って事はないよな。側室か愛人だよな?(笑)
さすがに下着は着けているが、こちらは目の保養ですなー。
『カイ様……何を考えてます?』
「なっ…、オレ様、下着姿の女性に見とれてなんかおらんとですたい!」
『……今度帰ったら、見せてあげます』
シェリルから嬉しい答えが帰ってきますた。
わーい。
なんていい娘なんだろう。他の凶暴な娘さんたちとは大違いですね。
『だから、この場は交渉に集中してくださいね?』
「うん、ボク、交渉に集中する」
オレは、
がっしーん!
と、超合金合体ロボの如く立ち上がり、
ビシィッ
と、敬礼して、
「ツ○ラのイ○ュージョン!!!」
映像投射の魔法を使った。
千里眼と同系列の魔法だ。
イリュージョン……いや、幻影系に入る気もしないでもないが、風系の範囲に引っ掛かってるようだ。
系統樹の端っこに。
オレの姿を投射する。
声も音声投射の魔法を使う。
たぶん、相手にはシェリルの指輪から、オレの姿が映写されたように見えてるだろう。
SFでいうホログラム映写機みたいな。
「あー、あー、マイクのテスト中」
オレはベタな事……誰にも受けませんでした……をしてから、
「こちらはアスガルドの王国守護職カイと申します。夜分に失礼する」
それを聞いたナムールは、口をパクパクさせた。
驚きのためか。
『なにっ……!?』
やっとの事で一言だけ。
顔は動くのな。
『アスガルドだと!?』
「はい、単刀直入に言います。我が国と積極的に交易をしてください」
『待てい! その前に疑問がある』
ナムールは、濃い顔をさらに濃くして言った。
『なぜ、吸血鬼なんぞを使っている? 魔族ではないのか?』
ま、フツー、そう思うよな。
「いい質問ですね」
オレは、アラン司祭のマネをしてみた。
ちょっと間を稼ぐのにはいいかもしれない。
「実は、私は、魔王の片割れなんです」
『はあ?』
ナムールは、目が点になった。
ま、フツー、そうだよな。
「話すと長いし、面倒いので言いませんが、魔王と同等の力を有する私には、魔族を使役するのはお手の物という訳です。数こそ魔王には及びませんがね」
『……』
ナムールは、今度はアゴが落ちた。
「とはいえ、私自身は、アスガルドに忠誠を誓っていますので、魔王とは敵対関係にあります」
『……』
さーっ。
あ、ナムール氏、引いた。
それこそ潮干狩りができるぐらいに引いた。
「ところで、ここまで知られたからには、是非とも協力していただきますよ!」
オレは吠えた。
『バカ言え! お前が勝手にしゃべったんだろうが!!』
ナムールは抗議したが、
「そんなこと関係ありませんな」
オレは、身勝手にもほどがあるって態度。
「知り過ぎた者には消えてもらいます。あなたが私の立場だったら、そうするでしょう?」
『……何が目的だ?』
ナムールは、若干譲歩したようだった。
「利潤の追求…と言いたいところですが、実は我々は魔王軍を倒したいのです。人とか魔族とか関係なく暮らせる世の中を作りたいので」
『むぅ…』
ナムールは唸った。
この話題には、あまり興味無いようだな。
『こちらには、なんぞ利益はあるのか?』
「最新の兵器を安価で提供しましょう。今はまだ知られていませんが、将来有用と考えられる兵器です」
『そのような話を信用すると思うか?』
「そう、ですから、デモンストレーションをします。マハラジャのご協力が必要になりますが」
『何をさせる気だ?』
「ハルバート家に商館の建設をお許し頂きたい」
『我が領地にか!?』
ナムールは、驚きを通り越して、呆れたようだった。
『魔王が黙ってはおらんぞ』
「はい、そうなれば、魔王軍はマハラジャの利権を侵害してくるでしょう。つまり、石炭に何かを仕掛けて来るはず。ま、輸送ルートを阻害するのが最も簡単で費用対効果が上がりますね。それを叩きます」
『ワシにメリットがないぞ』
「まあ、そう焦らずとも」
オレは、にこやかに言う。
「聞けば、マハラジャ連合はフォー教を駆逐されたとか?」
『うむ、だがそれが?』
「フォー教は、結構な財産を持っていたそうですね」
言った途端、ナムールの顔色が変わる。
「それをマハラジャの皆さんで仲良く分配された?」
『むぅ…』
ナムールは、また唸った。
「でしょうね」
オレは、せせら笑うように言って、
「どうでしょう、ここは我々と手を結ぶことで、マハラジャ連合の中で発言力を強められては?」
『むむぅ…』
ナムールは、三度唸った。
頭の中で凄い勢いで打算が働いているようだ。
『しかし…、魔王にアスガルドに与したと思われるな…』
「万が一、われわれが負けたとしても、脅されて仕方なく要求を飲んだと言えば大丈夫でしょう」
オレは、やさしく諭すように説明する。
まるで何かの勧誘員かのようだが、そこがオレ様クオリティ。(笑)
舌先三寸で丸めこめ!
「魔王軍といえど広大なムスペルヘイムの地、すべてを直接治めるほど人材がいないはずです」
『…そうかな?』
ナムールは、すがるような目を向けてきた。
「我々にしても、遠方の地を治めるのは費用がかかり過ぎて現実的ではありません。したがって、貴方様とは共存共栄、友好的な関係を築きたいのです」
もちろん、“お互い甘い汁を吸いましょうや、お代官様”って意味である事は言うまでもない。
『…うむ、そちの言いたいことは分かったがなぁ……』
ナムールは、尚も渋っていた。
うーむ、しぶとい。
「おやおや、マハラジャともあろう方が、こんな簡単な事がおわかりでない?
魔王軍とアスガルド、どちらが敵性勢力かは、わざわざ言わなくとも分かることですよ。
魔王軍は人を倒そうとしています。いずれは勢力が拡大した暁には、人間は、駆逐されるか、奴隷化されます。
プルコギー領、クッパ領は、すでに魔王に牛耳られていると聞きますが…」
『言ってくれるな』
ナムールは、難しい顔をする。
『だが、そちの言い分にも一理ある』
「では?」
『まずは、そちたちのお手並み拝見とゆこう。商館を建てた後、魔王軍を追い払ってもらう』
「はい、ありがとうございます」
オレは、深々とお辞儀をした。
相手は、交渉では、ほぼ完敗してる。だから、プライドだけは持たせてやらないとな。
『ふん、なかなかにやるでないか』
「いえ、マハラジャの足元にも及びません」
『そういうことじゃない、ワシの元に来んかと言っとる』
「はあ…」
……おい、勧誘かよ?
『女も金も地位も名誉も思いのままだぞ?』
うーん、そりは良いですなー。
でも、
「いえ、やはり一度仕えた主君を裏切る事は出来かねます。どうかご容赦のほどを」
『そうだな、物につられて、ほいほい乗り換えるようなヤツは信用できんしな』
どっちなんだ。
「ともかく、そういうことで」
『呪縛はいつ解いてくれる?』
「シェリル」
『はい、カイ様』
シェリルが言うと、彼女の眼が怪しく輝いて、
しゅばっ
次の瞬間には、シェリルは部屋ではなく、野外に移動していた。
おっと、素早いな。
シェリルは、術を解くと同時に外へ出たのだった。
交渉は済んだので、長居は無用という訳だ。
「ありがとな、シェリル」
『ほめて、ほめて』
「帰ってきたら頭ナデナデしてやろう」
『それだけ?』
「アクールの魔法が解けない事には……」
そこまで言ったところで、
きゅぴーん!
戸口に立つ、4組の双眸が光っていることに気付きました。
う…。
こえー。
怖すぎる!!
「カイ君、夜中にうるさいのよ!」
「またシェリルと通信で、いちゃついてたわね!?」
「天誅ー!!」
『あたしといちゃつけー!!!』
その後、どうなったのかは言うまでもないッス。