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さあ、これで片付いたぞっと。
伸びをうつオレだったが、
どよ〜ん。
向こう側で不穏なムード満点の愛人さんが。
ぐっ…。
「いいよね、指輪もらえた娘は」
鐶がポツリと言った。
そんなに大きな声でないのにかかわらず、なぜかオレの心臓にぐさりと突き刺さる。
ぐぅ…!
お前は前にもらったじゃん。って理屈は通じない。多分。
「鐶、探したぜ」
オレはソッコー、身につけていたアクセサリーを外し、鐶に渡す。
本来は、外出用のマントをとどめるための金具だが、葉っぱを象ったアクセサリーとしての趣もある。
「こんなゴツいもん、どうしろってのよ?」
「じゃあ返せ」
「やだ」
鐶は拒否った。
これはこれで欲しいらしい。
「今日はこの辺で勘弁してやるよ」
「暴君め」
「べー」
鐶はアカンベをして去った。
素直じゃないな。
で、
「カイ君!」
「カイ様!」
「カイ様!」
「カイ!」
4人の愛人さん達が、オレを睨んでましたとさ。
ぐっすし。
******
シェリルが出発。
コウモリとか狼の姿で追いかけるとか言ってた。
アクールは有人ゴーレムのパイロットとして試作機を操縦する毎日。
鐶は魔法兵に杖術の訓練。(オレを含む)
ヒルデと美紀は、女子のみんなと刺繍をしたり、割雄と包の味噌作りを手伝ったり。
平和だ。
やはり魔王軍の動きがつかめない。
よもやパニクッてるんじゃねーだろーな?
いや、そんな希望的観測ありえねー。
やつらは必ず何かをしてくる。
そして、その目的は、オレらを不仲を煽ること。
こちら側の策にどんな穴があるだろうか。
前回、思考してから、だいぶ時間も経過して、状況が変わってきているかもしれないので、再度魔王側の視点で洗ってみよう。
まずムスペルヘイムやヨツンヘイムの生活環境改善について。
技術的な部分は欲しいところだろう。
が、ミッドガルドとナムールが仲良くなるのは防ぎたいはずだ。
魔王軍が何かとやりにくくなるのは明白だし、テリトリーのすぐ近くに敵の勢力になびく者が現れたら必ず工作を仕掛けてくる。
また一人がなびけば、他のマハラジャまで真似をしかねない。
奔流となったら止められない。
そうなる前に、敵の拠点を叩くのが良い。
もっと良いのは、拠点そのものを作らせないことだ。
ミッドガルドの使者を排除……いや、マハラジャにミッドガルド側の申し出を拒絶させればいい。
直接的に力で排除すれば、逆にマハラジャとミッドガルドに侵攻の口実を与えてしまう。
だから、この場はマハラジャ・ナムールに圧力をかけることが考えられる。
どんなことがあり得るかは、調査をするしかないが、 ナムールがミッドガルドと結託したら、甚大な被害を被るようにすればいい。
ナムールの地盤関係を調べてみよう。
オレはシェリル対応の指輪に精神集中。
「シェリル?」
『はい、カイ様』
思念の形で返事がした。
「調子はどうだ?」
『ハルバート商隊に気づかれずに尾行してます』
「うん、ご苦労様。余裕ができたらナムールの地盤を調べてくれないか?」
『了解です』
「じゃあ頼んだぜ」
『あ、ちょっと待って下さい』
シェリルは、何だか、すがるような感じで言った。
ここまでトントン拍子で会話が進んできたのだが、急にどしたんだろ?
「ん?」
『あの……キスしてください』
「なっ…」
『する振りだけでいいですから』
シェリルの恥じらうかのような期待が一杯詰まった言葉。
そういや、オレからキスしたことってなかったっけ。
「オッケー」
ちゅっ。
オレは口でキスするマネ。
略してキスマネ。
『うふ、カイ様、愛してる。じゃあねん』
シェリルは幸せそうに言って、通信落ち。
よいーん。
ってな感じで、オレが、余韻に浸ってると、
呆然。
それから、怒りへと変化する視線。
オレを見守る視線。
オレを見張る死の線。
うにゅ?
オレが、その意味を理解したくなくて、抵抗しているうちに、
「ちぇすとー!」
「どりゃあああ!!」
『死ぬわよ!?』
「カイ様のアホー!!!」
思い思いの魂の叫び。
もち、ボコられ。
******
んで、他にムスペルヘイムに詳しい人から、情報を得よう。
ロンドヒル公爵か。
早速、訪ねてみよう。
公爵閣下は、やっぱサロンにいた。
「おや、失礼だがどなたかな?」
ロンドヒル公爵は、不思議そうにオレを見た。
そして、鐶が護衛としてついてきているのに気づくと、
くわっ!
驚愕の表情。
「ま、まさか。カイ殿?」
「はい、男の姿の時には、初めてお目にかかります」
オレは、一応挨拶してみたが、
「うっく…」
ロンドヒル公爵は、言葉を詰まらせた。
「まさか…」
「驚かせたようで、すいません。私は男と女のどちらにもなれるのですが、何だか言い出せずにおりまして」
オレ……と鐶……は、ジョンハルバートの時と同じように説明したが、
「…そ、そんなぁ……」
違っていたのは、ロンドヒル公爵の落胆ぶりがスゲー激しかったってことだ。
いわゆる“燃え尽きちゃった症候群”とでもいうか、とにかく往年のジョーの如く、真っ白になって椅子に座り込んでしまった。
「……オヤジキラー」
「だから、その称号を出すな」
オレと鐶は、公爵閣下の様子を伺ったが、無反応。
しかたないので、別の人に聞こう。
追伸。
風の噂では、ロンドヒル公爵は、その日はついに回復しなかったとか。
******
情報的には、アルブレヒトからもらえました。
まとめると以下。
北部高地(三州):ナムール領、カクーテキ領、魔王領A
乾燥地(四州):カールビー領、テチャン領、プルコギー領、クッパ領
森林地帯(南州):魔王領
砂漠地帯(西州):ビビンバ領
( )は通称というか、三つの州だから三州とか南に位置するから南州という意味らしい。
乾燥地四州のうち、プルコギー、クッパは魔王と協力体制にある。…つーか、ぶっちゃけ乗っ取られてるらしい。
Aついてる魔王領は、分捕ったものって意味。
北部高地、乾燥地は石炭。
森林地帯は特になし。
砂漠地帯は交易。バザールってヤツか。
もちろん、食料品やその他の生活必需品なんかは普通に生産されているが、国内消費だけ。
輸出だの輸入だのをする体制にはないようだ。
ようするに炭鉱を握っていて、それを守るために武力が要るし、持ってたし。…ってとこか。
それを国内外に売りさばいて利益としているわけですな。
てことは、魔王軍は石炭の輸送ルートを遮断するだけでいい。
状況が許せば、奪い取ってもいいよな。
ま、魔族なら一部隊を配置するだけで、十分な効果が期待できそう。
石炭を売りさばけないとなると、マハラジャの収益が見込めなくなる。かといって正面から勝てる相手でもない。
すると、魔王になびかなければいけなくなる。
対対応は、マハラジャの収益を守るってとこか。
それには、
・石炭供給ルートを守る。
・石炭以外の収益を与えてやる。
の二つが考えられる。
でも、どっちもむずいよなぁ…。
まず、兵を送り込んで魔王軍を退かせるには、時間も金もかかる。ま、遠いので。遠征ってヤツになる。
では、石炭以外の収益となると……。
オレらが持ってる生産カードっていうと、酒造、味噌……だけか。
確か水が悪いから、おいしい酒は限られてるんだったな。
てことは、酒造設備を作ってやるってのはどうかな?
いや。
オレがマハラジャだったら、そんなあやふやな提案より、今現在持っている石炭を守るな。
……。
まてよ。
石炭以上の物を与えるって言ったらどうかな?
つまり、有人ゴーレム。
……を優先的にナムールへ販売してやるってのは?
その前にどっかで有人ゴーレムを実戦投入して、ある程度の評価を得ておかなければならないってのはあるが。
でも、悪くない提案だろう。
その見返りに、ナムール領内に工場を立てさせてもらう。
なんの工場かって?
もちろん、豊富な石炭を使って製鉄なんかをする工場だ。
有人ゴーレムは、とどのつまり“ウッドゴーレム”なんで、板金か何かで金属の鎧を被せてやるつもりだ。武器や盾を持たせてもいいかもな。
なんか、某操りっぽい兵士っぽいロボが出てくるファンタジーっぽい流れだが、まあよし!
将来的に相手国も有人ゴーレムを配備してきた時には、当然、有人ゴーレム同士の戦いになる。
その時のためには、少しでも装備を良くしておかないといけない。
魔力は乗り手のものを使ってるが、それを更に高めるためには、ユグの木だけでなく、他の素材も利用すべきだ。
そう、ナムール領に“漆黒の樹木”が存在していれば、それを使ってより強く魔力増幅をする機体が作成できるのではないか。
んでもって、大工司祭アランとかマックじいさんとかを投入して、これでもかこれでもかってくらい技術を詰め込んだ機体を作ってやるんだ、ガンダ○みたいに!
オレは、また指輪に精神集中した。
「シェリル?」
『はい』
すぐに返事。
「ナムール領に着いたか?」
『はい、ついさっき到着です』
「早いな」
ジョンハルバートの話では、3日以上かかるはずだが。アルブレヒトに確認済み。
『いえ、ハルバート商隊の足が遅いので、先行して入りました』
「あ、そっか」
いいんかよ、それで。
『彼らに先んじて、マハラジャ・ナムールに用件を伝えた方が効率的ですし』
「あ、そっか」
なるほど、頭いいな、こいつ。
『すぐにでも実行します』
「オッケー、ナムールに会えたら呼んでくれ」
『はい』
「それとな、ナムールの地盤が石炭ってことがわかったんで、その他の素材っつーか、漆黒の樹木とかそういうもんがないかを探してみてくれ」
『了解です』
通信終了。
またキスさせられた。
オレは好きだが、他の娘さん方がガタガタ言うので、困るッス。(泣)
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