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 魔王軍が何をしているか、全く見えてこないな。

 もちっと情報を集める必要があるようだ。


 宿に戻ると、ロン毛が懲りもせず、木彫りをしていた。

 何を彫ってるのか?

 オレが冷やかし半分でのぞき見ると、


 どどん!


 てな感じで、約1メートル大の寸法の見覚えのあるロボットがあっ!!


 こ、これはガ○ダム!?


 しかも意外に巧い!?


 いつの間に練度を上げた?!


「どうだ、すげえだろ」

 ロン毛はオレに気付くと、得意そうに言った。

「ふ…腕を上げたな」

「まあな」

 オレが思わず褒めると、ロン毛は素で笑った。嬉しそうだ。

「カイ様、何コレ?」

 アクールが首を傾げる。

「異教の神か何か?」


「なんてバチ当たりな!!!

 ガン○ムをなんと心得る!?」

「ひぃっ!?」

 オレの剣幕に、アクールは一瞬びくっとした。


「いや、そこまでのもんかよ?」

 鐶のツッコミ。

 もち、指導的打撃技付き。


「済まねえ、つい興奮してしまった」

 オレは、その場に土下座。

「分かればいいのよ」

「いや、興奮するのは君たちに対してだけにすべきだった。それが分からずにホントに申し訳ない」

「そこまで分からなくていいのよ!」

 鐶のハイキックを食らった。

 照れ屋さんだなぁ。


 ******


「神っつーか、一種のゴーレムだよな?」

「うわ、もう復活かよ!?」

 鐶が大げさに驚く。

 効いてないのは、蹴った自分が良く分かってるようだ。


「動きにくそう」

 アクールの正直な感想。


「なんだと! アンバックとかあんだよ!」

 オレは再び吠えた。

「英語で書いてAMBACだ!!!」

 オレは中空に向かって、ウ○トラサインよろしく描いてみた。


「ひぅっ!?」

 ビクリとするアクール。


「そうだ! ○ンダムバカにすんな!」

 始がどこからか沸いた。

 オタクと言ったら、コイツを置いて他にはいない。

 つーか、失恋の痛手からは復活したのか?


「きゃっ」

 アクールは、タッキーっぽい気に本能的に恐怖を感じ取ったのか、鐶の後ろへ隠れた。


「でも、オレ、ホントはマ○ロスファンなんだ」

 ロン毛がぼそっとこぼす。


「てめえ、美樹○ファンかよ!!!」

「バ○キリー萌えかよ!?」

「この裏切り者! 歌でも歌って和平してろ!!!!」

「100万チバソングパンチ!!!」

「ぐふう!」

 ロン毛は地面に沈んだ。

 そうです、オレと始にボコられました。

 いや、オレも始も、よく知ってるな。マク○ス。実は嫌いじゃないだろ。……オレもな。


 でも、どうすんだ? こんなの作って。

 売れなかったら、ずっとここに置いとくのか?


 ******


「しかし、ゴーレムか。……男のロマンだ」

 始は、まだこだわっていた。

 つーか世迷言のレベルだ。

 恒例の代表者会議だというのに。


「ロン毛こと蟹屋敷にガ○ダムを彫ってもらい、カイにはそれでゴーレムを作ってもらわねばならん、是非とも!」

 ……コイツ、どんだけアホなんだ?

「いいな、ガン○ムゴーレム部隊だ!」

 始が言うと、

「燃えて来たぜ! オレの右手が光って唸る!」

 ロン毛が同調した。

 マ○ロスファンのくせに。


 いや、確かに。

 バル○リーとかのメカは捨てがたい。

 登場する女の子たちも可愛い。

 ……マク○スでもいいかな?


 思った瞬間、オレ様の愛人群たちがぶっ殺しそうな眼で睨んだので、

「ディ○ェンダーの一撃を受けてみよ!!」

 オレは、すらっトボケて叫んだ。

「強攻型トランスフォーメション!!!」

「ダイ○ロスアタック!!!!!」

 すぐに始めとロン毛が追随する。

 他の代表者たちは目が点状態で静観している。

「ぐわー!?」

「それが来たか!?」

 アホだ、こいつら。

 アホだが、一本筋が入っている。


 燃えるロボ型ゴーレム部隊。

 いや、これは冗談だとしても、ゴーレム部隊ってのはいい考えかもしれない。

 足は遅いだろうが、攻撃力、防御力、魔法体制、特殊攻撃耐性、どれも文句なしに高い。


「そして、是非とも有人として作成してもらう。またビーム兵器は基本仕様だ!」

 始は、もはや妄想の世界から帰らぬ人となってる。

 やっぱアホだ。

「あー、それ、魔法使いを乗せればいいじゃん?」

 鐶が言った。

「ゴーレムを鎧にして、火炎系か稲妻系の魔法を撃てばオッケーさ」

「魔導アーマー一丁あがりってか」

 美紀も悪ノリ。


 みんな頭からゴーレム関係の話が離れてないようだ。

 ま、せっかくだから有人ゴーレムの実現に向け考えてみようか。


 まず、ロン毛にデカイ木彫りの人形を彫ってもらう。

 胴体を空洞にしてもらう。


 大工の司祭に座席を設置してもらう。


 魔法使い……出来るだけ小さな体躯の者を乗せる。


「ちょっと待て」

 ロン毛が制止した。

「胴体を空にすると強度が弱くなる。体の真ん中から上下真っ二つに割れるかもしれねー」

 ……え、そうなのか?

「それに人が乗れる大きさだと中を彫って空洞にするのは骨だ。できればやりたくない」

「何か案はあるか?」

「そうだな…」

 ロン毛は腕組みしながら答えた。

「最初からパーツを分けて作って、後で組み立てたらいいな。彫る手間も省けるぜ」

 意外にいい考えだ。

 つーか、ロン毛にしてはまともな意見だ。

「るせえ、余計なお世話だ」

 ロン毛は悪態をつくが、それでいてどこか楽しそうでもある。


 部隊と呼べるくらいまで数を揃えるには、出来るだけ生産効率を高めなければならない。

 もちろん、実用性を失わない事が前提だが。

「カイ様、パーツ毎にエンチャントしたら別々のゴーレムになる」

「あ、そっか」

 オレは、ガクッと頭を垂れる。

「でもさー、複数のゴーレムを繋ぎ合わせたら?」

「それぞれのゴーレムに命令しないと」

 ダメだな。

 殺し合いの最中にそんな手間のかかることはしてられない。

 最多でも命令する対象は一つだ。


「じゃあ、ゴーレムにパイロットを背負わしたら?」

 オレは、ダメもとで、頭に浮かんだアイディアを言ってみる。

「ゴーレムが仰向けに転んだら即死ね」

 鐶が嘲るように笑う。

 うっ。


「前も見えにくいし」

 美紀が面白そうに口をはさんだ。

 ぐっ。


「鎧の役に立ってないし」

 がらっ。

 ドアを開けて、シェリルが入ってくる。

 ゴーレム話に参加したかったようだ。

 ちなみに、まだプロテクション・ピンクの魔法は持続中。

 げはっ。

 轟沈。


「あのー」

 シェリルは続けた。

「基本的な方向は間違ってないわ。

 戦の要になるのは魔法兵よ。

 ゴーレムという鎧で、魔法兵を守れるんだから、それが最大の利点でしょ?」

 うん、そうだ。


「魔法兵を守りつつ攻撃を掛けられるから良いのよ」

 うん、その通りだ。


「だから、自衛はゴーレムに任せて、中の魔法使いは移動と魔法攻撃に専念するってのがいいわよ」

 てことは、上半身をゴーレムにすればいいってか。

 腕を振り回して接近した敵を倒すと。


 でも下半身は?

 魔法使いの意思に沿って歩いてくれるものなんてあるかな。ゴーレム以外に。

「ユグの木は?」

 鐶が言った。

「あれって術者の魔力に反応して動くのよね?」

「そうだな」

 オレは、うなずく。

「脚の形に彫るか、骨組を組めばいいかもな」

 エリザベスとバークレーに相談してみよう。


 その日はそこら辺でお開きになった。

 なんだか久しぶりにみんなと話したなあ。


 ******


「ゴッ…ゴーレムに人を乗せるですかぁー?!」

 バークレーは、素っ頓狂な声を上げた。

「かなりキテますね、守護職サマのアィディアって」

 弟子のアンタレスもいたりする。

 こちらは支持派っぽい。

 若いだけあって、突拍子もない発想がクールだと思ってるのかもしれない。

「いや、古代の戦で、クロスボウの使用を検討した時の周囲の反応も、きっとこんなだったんだろう」

 エリザベスが、困惑しているためか、随分と分かりにくい例をひも解いて、肯定した。


「具体的には、ユグの木を使って足を作り、ゴーレム化した上半身と組み合わせます。胴体部は座席を設置してパイロットを乗せられるようにする」

 オレが説明を始めると、

「アラン司祭を呼んできましょう」

 バークレーは素早く活動開始した。

 で、アランを交えて設計を行い、図面を引いてもらった。


 翌日、試作機の製作を開始した。

 おお、すげースピードだぜ。

 つーか、この世界のヤツらも大概オタクだぜ。

 みな、この取り組みを面白く感じてるみたいだ。


 ロン毛は、木彫りの上半身を彫りにかかった。

 アランは、座席を製作にかかる。

 全体的なバランスや調整は、アランにお願いしている。

 オレらは、ユグの木を購入しに行く。

 マック司祭を伴って、伐木ギルドのジェイクを訪ねる。

「あれまたお越しですかい?」

 ジェイクは手下達と伐採した材木を積み上げる作業をしていた。

 オレらの姿を見ると、手を止めて、

「おめーら、しっかりやっとけよ」

 手下達にドスを利かせた声を掛けてから、こちらへやってくる。

 すぐに小屋の中に通される。

 あまりきれいではないが、まあ仕方ない。

「これに見合うだけの寸法のユグの木材が欲しいんです」

 挨拶もそこそこに、オレらが言うと、

「うーん」

 ジェイクは、のっけから難しい顔。

 その眼の前には図面の写しが広げられている。

「ユグの木ってのは、あんま太くねえかんなー」

 幹が太くないてことか。

 だから、杖に向いてるんだな。

 でも、今回はよろしくないなあ。

「木組みだべなぁ」

 ジェイクは、代案を出した。

「上に乗っけるもんに耐えれるように組むのが骨だべな」

「人、一人と木むくの上半身」

 オレは言った。

「しかも上半身は腕を振り回したりします」

「四足にしちゃダメだべか?」

「安定性は上がるでしょうが、重くなりますからね」

 オレは、にこやかにだがきっぱりと否定した。

「アラン司祭をよこしますので、打ち合わせをしっかりしてください」

 報酬は弾むが、断れば情報が漏れないよう措置を取らなければならないことを説明してから、帰途に着いた。


 すぐに試作機第一号ができた。

「ユグの木製の足を動くようにするのに少し苦労しましたが、全体的には問題なく仕上がってます」

 アランは説明をしながら、試作機を発表した。

 関係者はみんな、グランドに立っていた。

 エリザベスのつてを使って、軍の訓練施設を借りている。


 ロン毛の彫った上半身……ガン○ムに似てるがどっか違う感じだ。重量を軽くするよう言ったからな。


 むき出しの座席……いずれ盾となる装甲を張り付けよう。


 ユグの木製の足……何だかニワトリの足に似てる。ま、格好より実用性ってとこか。


「操縦者の魔力を感知すると中に仕込まれた歯車が動き出しますが、それによって生まれた動力を調速器によって安定したパワーにならして……」

 アランは酔っ払ったかのように説明しまくるが、誰も聞いていなかった。

「とにかく歩くってことね」

 鐶が勝手に締めた。

「アクール、用意はいいか?」

 オレは言って、着替えたアクールを促した。

 魔力があり、小柄で、戦闘経験もある者を探したら、最も適していたのがアクールだったのだ。

 アクールは、宇宙飛行士のような頭全体を覆う帽子、ぴったりしたチェニック、スボン、手甲、脚絆、ブーツを身につけている。

 旅支度のようにも見える装束だが、これがパイロットに適した服装なのだ。

 つまり、動きやすく、皮膚を守り、コックピットの内部に引っかかりにくい服装を検討した結果だ。

 布製なんで通気性もある。

「はい」

 アクールはうなずいて、座席によじ登った。

 彼女は、結構身軽だが、そうでないヤツのことも考えて足掛かりをつけた方がいいかもな。

 気がついたところを、後でアランに伝えて改良してもらおう。

 アクールは、座席に腰を下ろし、シートベルトを締めた。

 シートベルトは、車や飛行機などのような脱着式ではなく、原始的な木のバックルにベルトを通し、折り返して固定するタイプだ。

 ちなみに、座席は、当初、オレが考えていたように、足の上に乗ってるのではなく、上半身と下半身をつなぐ木枠に固定され、ちょうど宙づりになるような形だ。

 木枠は、ゴーレム化した上半身を嵌め込むためのガイドの役目もしている。

 上半身のゴーレムは胴体の底の部分が削られて、アーチ状に窪んでおり、パイロットの空間をより確保している。

「じゃあ歩いてみて」

 オレが指示を出すと、

「はい」

 アクールは精神を集中させた。


 がしゃん。


 がしゃん。


 ユグの木製の足は、軽い感じで動きだした。

 キーとなる魔力を注入すれば、エンジンがかかり動き出すってとこか。

 しかも、本来の機能である魔力の増幅効果もある。

 魔法に対するアシストまでばっちりだ。

「白線のところまで歩いて」

「……はい」

 アクールは精神集中を続け、グランドに引かれた白線まで機体を歩かせた。

 座席の左右には、グリップが取り付けられており、機体が揺れてもそれを握ってしがみつけるようになっている。

 白線の向こうには、的となる木の棒が地面に打ち込んであった。

 麦藁を編んで作った束を被せて人に見立てている。

 案山子だな、ようするに。

「魔法を使ってみて」

「はい」

 アクールがうなずくと、機体が止まる。

「風よ、気ままな風よ、突風となりて敵を倒せ!」

 アクールは攻撃魔法を唱えた。


 ごうっ


 突風が巻き起こり、麦藁を被せた立木が揺さぶられた。


 めりめりっ


 べきっ


 どさっ


 突風の魔法は初級魔法だが、立木が途中から折れてさらに根元から掘り起こされて倒れた。

 麦藁は散り散りになって地面に落ちた。

 増幅されているせいか、かなり威力が上がってる。


「次は、ゴーレムへ命令して」

「はい」

 アクールは再び機体を歩かせて、別の立木に近寄って行く。

 歩く速度は人間よりも大分遅いので、見てる方は若干イラつく。

 見守っていると、1分少々で、やっと到着した。

 アクールは、そこで右手のグリップに意識を集中させた。右手側のグリップには青く光る石が嵌め込んである。

「忠実な僕よ、目の前の木を倒せ」

 アクールの命令に、


 ぶん。


 こーん。


 上半身のウッドゴーレムは、右の拳を立木に叩きつける。

 甲高い音がして、立木は根元から掘り起こされて吹っ飛んだ。


 ひゅー


 どごっ


 立木は地面に激突。

 人間なら即死だろう。


 うむ、上出来。


 ゴーレムは、普通創造者の言うことしか聞かない。

 自然に創造者の魔力を識別してしまうのだが、それを解決するのに使ったのがグリップにはめ込んだ石だ。

 これは、賢者の石だ。

 レアアイテムなので、入手するには苦労したが、アスガルド王であるジョージ13世を動かして国中の貴族から強引に集めてきたのだ。

 もちろんそれ相応の対価と交換だが。


 ともかく、賢者の石は魔力増幅器であるともに、それ自身が魔力を有している。

 術者が賢者の石を手にして、つまり賢者の石を通してエンチャント魔法を使えば、創造された使役物は賢者の石を創造者と誤認する。

 こんなことをすれば、いちいち賢者の石を通さないと命令できず、また賢者の石を奪われゴーレムが的に回る可能性すらでてくるので、普通なら、役立たずゴーレムとなってしまう訳だが、今回はその誤認を逆利用した。


 操縦者は、賢者の石に触れて命令すれば、ゴーレムは言う事を聞く。

 魔法使いなら誰でも使いこなせる。

 また、有人ゴーレムは、使役物としてではなく、兵器としての認識だから、基本的には奪われないようにするしかない。

 敵の手に渡ってしまうなんてのは、既に戦略的に負けてると考えるんだな。

 あ、でも、暗証番号のようなセキュリティーの術を掛けてもよいかもしれない。


 欠点は1体につき1個必要なので、製作費がぐんとバカ高くなってしまったことか。

 しかも、賢者の石の数だけしか製作できない事になってしまう。

 まずは賢者の石を使うが、今後は代用アイテムを探そう。

今回、ロン毛が役立つ話。

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