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 ハルバート家は、恐らくジョンの奥さんが食いついてくるはずなんで、放っといても問題ないはず。

 あ、後、ロンドヒル公爵にも会わなきゃな。

 ニドヘグの牢に着いた。

「お久しぶりです、皆さん」

「カイ殿か、久しぶりですな」

 リーダー格のニドヘグが会釈をした。

 皆、簡素な服を着ている。

 健康度はよく分からんが、声を聞いた限りでは、大丈夫のようだ。

 結構落ち着いている。

「この度はいかな用向きで?」

「あなた方の処遇について」

 オレは厳かに言う。

「アスガルドに仕官して下さい」

「なっ…!」

 ニドヘグ達は絶句。

 その隙をついて、オレは言った。強く勧める。

「鞍替えしろと言うのではありません。一時的に強制されて下さい」

「どういう事ですかな?」

「我々の力のほどを見ていただき、お国に帰ったらその脅威を伝えてもらいたいのです。

 もちろん、あなた方の絹糸の知識が欲しいというのもあります」

「しかし…」

 ニドヘグのリーダー格は唸った。

「故事に、後の蜀の猛将関羽が後の魏の曹操に捕らえられ一時的に配下となった事があります。

 彼は耐え難きを忍び、生き抜いて、再び国に戻っています。

 その時に得た情報はお国のために役立った事でしょう」

「それは……シュウ国の将グワンユィーのことだな。……よく知っておるな」

 リーダー格は、驚きを隠せない。

 この世界とオレらの世界、歴史の流れなんかは似てる部分もあるようだ。

「だから、我々も生き延びろと言われるのだな? だが、そのような申し出を受ける謂れはない。

 それに貴国に買収されたとあっては……」

「ヨツンヘイムの採掘所を襲った時、生き残ろうと思ってましたか?」

「……いや」

 リーダー格は頭を振った。

「しかし、お手前は、自害するなと言ったり、死ねと言ったり、正直訳がわからん」

「あの時、死ぬ覚悟だったのなら、今度だってできるという意味です」

「それで貴公らに何の得がある?」

「他国の見識をもってもらえるのが恒久的な和平への近道です。

 内に籠られ、身勝手な思想に染まられるのが一番厄介なのです」

「何だと!」

 ニドヘグの一人が反感を露にするが、

「やめい、狼狽えるな」

 リーダー格が咎めた。

 ニドヘグたちは、ぐっと我慢したようだったが、まだ不満がくすぶっているのがよく分かる。

「確かに我らは外との交流を好まぬ」

 リーダー格が続けた。

「だが、内に籠り先鋭化するような種族ではござらん」

「だったら、それを証明するためにも受ければいいのでは?」

 オレは挑発するように言った。

「それとも外地へ行くのが怖い?」

「おのれ、黙っておれば好き勝手にほざきおって!」

 ついにニドヘグの一人が爆発。

「我等は臆病ものではないわ!!!」

 喚き散らした。


 ニヤリ。


 オレは、こういう状況を作りたかったのだ。

「では、外地に行くぐらい朝飯前ですね」

「ぐっ…」

 そのニドヘグはうめいた。

「お主は黙っておれ」

「しかし、兄者」

「お前のせいで我等が引き戻せぬ状況に追い込まれたのが分からんのか!?」

 リーダー格が怒鳴った。

「う…済まねえ」

「カイ殿」

 リーダー格は居住まいを正した。

「我等は食言することを何よりも嫌う。その意地、その証として、あなたの提案を飲もう」

「ありがとうございます」

 オレは直立不動、45度の角度でお辞儀を返した。

「それと、先ほどの無礼をお許しください」

 オレは頭を垂れる。

「何としてもあなた方にこの提案を引き受けてもらいたく、無礼を承知でやったこと」

「もう良いのだ」

 リーダー格は意外に穏やかな声。

「我等がこうなるのも運命。採掘所を襲撃しようとした時点で捨てた命よ。それを拾ってくれる者がいるのであれば感謝すべきなのかもしれん」

「……」

 今度は、オレが黙る番だった。

 精神性が高いな。

「よろしくお願いします」

 オレはそれだけを言って、退出。


 ******


 犠牲を強いている。

 各方面に犠牲を強いている。

 だから、失敗できない。

 魔王軍を打倒し、その組織を吸収し、力として人と魔族とが共存できる世界を作るまでは。

 だから、前進しなければならない。

 それができなければ、オレは無駄に命を散らさせたことになる。

 無駄に覚悟を決めさせたことになる。

 それらの犠牲に報いるためにも、オレは先に進まなければならない。


 ******


「カイ様」

 気づくと、アクールがオレの顔をのぞきこんでいた。

「カイ君、歩きながらぼーっとしない」

 鐶は素っ気ないが、その実、ちらちらとオレの方を盗み見ている。

 付き合いが長いので、そのぐらいは分かる。

「済まねえ、ちょっと考え事してた」

「どうせ、他の女のことでも考えてたんでしょ」

「良く分かったな」

 オレが言うと、


 ぐおおおおおおっっ!!

 ぬおおおおおおおっうっっ!!!


 鐶とアクールのどす黒いオーラが、オレを襲わんとばかりに燃え広がり、


 ぎぃん。


 目つきが一変。

 恐えー。

「いや、冗談だ」

 オレはすぐに撤回。


 しゅぽん。


 オーラが萎んだのを確認してから、

「ニドヘグたちを良いように使ってしまってるしなあ…」

 ま、ニドヘグだけでなく、周囲にいるものすべてに当てはまるか。

「そんなことで気に病まない」

 鐶はやはり素っ気ない感じで言い、

「そう」

 アクールがうなずいた。

「私たち魔族は、人間に蔑まれ、疎まれてきた」

 ……魔族は苦労が多いな。

「ムスペルヘイム人はそうではなかったけど、人間が魔族を利用しようと考えてたら、また違ったのかも」

「少なくとも、チャンスはある?」

「はい」

 アクールはうなずく。

 なんか知らんうちに成長した?

 アクールちゃんは、そういうところが可愛いのー。

「カイ様、姐サマが見てる」

 はっ。

 鐶のナイフのような視線が、オレに突き刺さる。

 ついでに、爪先蹴りもオレの腹に突き刺さる。

 いつもの事。

 痛ぇ。

 


 間を置かず、ロンドヒル公爵を訪ねる。

 ロンドヒル公爵は、王宮ではなくサロンにいた。

 そういや、サロンに来たのは始めてだな。

 サロンは、オレたちの世界でいう高級レストランに近い雰囲気だった。

 外見はそれほどではないが、中の装飾は、これでもかというくらいに、凝りに凝ってる。

「何調ってんだっけ?」

「さあ?」

 2人は首を捻る。

 ロンドヒル公爵は、すぐに姿を見せた。

 出迎えだな。

「カイ殿、知らせを頂ければお迎えに上がったのだが」

「いえ、お忙しい閣下のお手を煩わせては申し訳なくて」

 オレは、ちらりと向こうで談笑中の貴族っぽい一団を見やる。

 ねちっこい挨拶は、スルッとスルーだ。

 公爵は曖昧にうなずいて、

「今日はどのような用向きですかな?」

「はい。ムスペルヘイムについてお伺いしたく」

「左様か、ここでは何ですな。部屋を開けさせましょう」

 と、客室に通された。

 客室は、落ち着いた感じのわりと広い部屋で、庭から日光を取り入れてるので明るい。

 座ったか座らないかのところで、コーヒーが運ばれてくる。

 んで、コーヒーを飲んだか飲まないかの内にロンドヒル公爵がやってきた。

 うーん。

 展開早いね。

「お待たせした」

「いえ、てきぱきしてますね。さすが公爵閣下」

 オレは、おべんちゃら。

 男に何かさせたければ、まずは褒める事だ。


 さすが!

 ありがとう。

 助かります。

 またお願いしますね。


 これらいくつかのキーワードを掛けてやるだけで、男ってのはどんどん勝手に出来るようになって行く。

 そんな単純な生き物だ。

「公爵閣下をお訪ねして正解ですね」

「カイ殿にそう言って頂けると、お世辞でも嬉しいですな」

 ロンドヒル公爵は、まんさらでもない様子。

 若干の間。

 オレは本題に入った。

「話は簡単です。ムスペルヘムの情勢についてお伺いしたく」

「む…。遂に侵攻開始か」

「その準備です」

「左様か」

「何を話せば?」

「まずは、マハラジャたちについて教えて下さい。

 人、物、金、勢力範囲、その他特に留意すべき事項など」

「マハラジャは、本来地方地方に根付く豪族を前身とし、権力闘争に勝ち残った者達だ。

 マハラジャを王とし、周辺に貴族階級が集まっている。

 ま、この辺は我々とあまり変わらん。

 ムスペルヘイムは、おおよそ九つの地方に分かれている。

 北部高地の三州、

 乾燥地の四州、

 森林地帯の南州、

 砂漠地帯の西州。

 魔王の本拠地は森林地帯の南州、そして乾燥地の四州のうち二州、北の三州のうち一州を下していると聞く」

 縦長の勢力図だな、多分。

「うむ。北はニダヴェリール、北東はニブルヘイム、北西は辺境に近接している」

「だからヨツンヘイムにはフォー教を利用していた訳ですね」

「だが、フォー教は追い払われた」

「そう」

「次はどう出るかだな」

 ロンドヒル公爵は、つぶやいた。

「魔王軍の基本姿勢は他国の不仲を煽る事です。狙いやすいところから狙って行くでしょう」

 オレは、冷静に敵の方針と思われるところを伝える。

「石炭の時のようにか……」

 ロンドヒル公爵は、しばし目を閉じた。

 何だか感慨にふけってる?

「はい」

 オレは、うなずいてスルー。

「でも他国には躍起になってますが、ムスペルヘイム内の国々についてはあまり顧みていないようですね」

「魔王軍は、既にマハラジャ達を凌駕しているからな。マハラジャ達は、所詮まとまりのない烏合の衆よ」

 ロンドヒル公爵は、さらっと批判めいた言葉を吐く。

「話を戻そう。マハラジャは一州に1人いた」

「いた?」

「2人魔王軍にやられたので、今は7人だ。

 北部三州のナムール、カクーテキ、

 乾燥地四州のカールビー、テチャン、プルコギー、クッパ、

 森林地帯の南州はなし、

 砂漠地帯のビビンバの7人だ」

 旨そうな名前だな、オイ。

 つーかインドじゃねーのかよ?

「ビフレストのハルバート家とつながりがあるのは?」

「ナムールだが、なぜだ?」

「実は…」

 オレは簡単に事の次第を話した。

「商館か、面白いな」

「公爵閣下は政に欠かせませんから、つまり公人は駄目です」

「うむ、まあ仕方あるまい」

 ロンドヒル公爵は、うなずいて、

「だが、商館を建てて具体的に何を目的にするのだ?」

「マハラジャ達を味方につけられたら、良いと思いませんか?」

 オレは意味あり気に答えた。

「それはそうだが……」

 ロンドヒル公爵は、そこまで言ってから、はたと気づく。

「何か方案でも?」

「ムスペルヘイムは病気が多く、水も悪く、土地も痩せていて、貧富の差が激しいと聞きます」

「うむ、正直あのような土地に暮らす民が可哀想だな」

「そこです」

 オレは、指摘した。

「発想を切り替えてみて下さい。

 彼らにより良い暮らしを提供して行けるとしたなら?」

「……戦わずして下して行けるな」

 ロンドヒル公爵は、言った。

 頭の回転が速いね。

「だが、どうやって?」

「天界の知識を使います」

 オレは、具体的説明を避けた。

 実際、この中世ヨーロッパくらいの知識レベルの人たちに、細菌やらウィルスの話をしても理解できないだろうし。

 彼らにとって、一番分かりやすい説明が、「天界の業」だろう。

「ムスペルヘイムだけでなく、我が国、ヨツンヘイムにもテストして見ます。

 プラント化して販売すれば良いかと」

「気の長い話だ」

「国の行く末を思えばこそです」

「そうかもな」

「で、コーヒーショップ展開の時はよろしくお願いします」

「承知した」

「コーヒーごちそうさまでした」

 オレが頭を下げると、

「いつでも歓迎しますぞ」

 ロンドヒル公爵も慇懃に礼を返してくる。

 オレはサロンを後にした。

更新しますた。

ちょっちボリューム少ないれす。

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