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シルヴェスタ以下は捕虜となった。

捕虜は生かして利用する事。

そのためのはかりごとだ。


オレは、シルヴェスタに面会した。

「はじめまして、シルヴェスタ殿。私はカイと申します」

「誰であろうと卑怯者には変わりない」

「嫌われたもんですね。ですが、時には卑怯も必要とされます」

 オレは、うそぶいてみた。

「ときに西部ヨツンの挙兵に正義があると思いますか?」

「世迷い言を。世の中勝てば正義だ」

「なるほど一理ある。では、卑怯も後々世のためになれば、卑怯ではなくなるのではありませんか?」

「こじつけだな……」

 シルヴェスタは一笑に伏すが、その後は黙りこくってしまう。

 うーん、言い合いには勝ったみたい。

「お気に召さないようなので、話題を変えましょう。

 シルヴェスタ殿、あなたはお味方にどう思われているんでしょうね」

「忌々しいアングルボザと一兵卒のお陰で、裏切ったと思われているだろう。もう、連中とは顔も会わせられん」

 ふて腐れモード全開だった。

「もし、我が方が受け入れると言ったら?」

「…しかし、そのような信義にもとる事は……」

 シルヴェスタは渋面を作る。

 あ、迷ってる。

「我々ミッドガルドは、ヨツンヘイム全土と友好的でありたいと思ってます。もちろん、大人の関係ですよ?」

 オレが付け加えると、


 ふっ。


 シルヴェスタは失笑したようだった。

「資源が目的か?」

「それは踏み台に過ぎません。」

「なに?」

「魔王軍を倒す事、最終目標はそれです」

「……」

 シルヴェスタは、驚きで眼を見開いた。

「失礼ですが、私見を言わせてもらえば、西部連合のリーダーが描くビジョンは平凡だと思いますがね。勝ち負けはまあ、置いといて、最後は半鎖国状態になり、内部抗争に明け暮れるのが関の山でしょう」

「だが、西部には狼のチェダイ殿以外に部族間をまとめられる者がおらぬ」

「そうですか」

 オレはうなずいて、

「ところでフォー教はご存知ですか?」

 いきなり話題を変えた。

「……ぐっ」

 シルヴェスタは、唸ったが、なんとか冷静さを保っていた。

 でも腹の中では、いきなり話題を変えんな、このアマァ! とか思ってんだろーな。

「ワシは教徒ではないが、それなりに教えを理解し、学んできたつもりだ」

「つまり、悪い印象はお持ちでないと?」

「うむ、そういって構わない」

「では、フォー教のとりなしがあれば部族間がまとまるとは考えられませんか? もちろん狼のチェダイ氏も含む話です」

「そのような事ができると?」

「既に聞き及んでおられるかもしれませんが、フォー教団はムスペルヘイムより追い落としを食らいました」

「なんと!」

「恐らく、ヴァナヘイム経由でヨツンヘイム西部に逃げ込むと思われます」

「ふーむ」

 シルヴェスタは考え込んだ。

「ヴァナヘイムで捕縛されるだろう?」

「恐らくは。しかし、殺さぬよう手をまわしてあります」

「用意周到だな」

「いえ、それが仕事ですから」

 オレが答えると、

「いや、カイ殿」

 シルヴェスタは真面目な面持ちで、

「なぜ、ワシらを助けようとする?」

「それが魔王軍を倒す早道だからです」

 オレは繰り返し、力説した。

「なぜ魔王を倒そうとする?」

「魔王の所業は見過ごせません」

「悪行を重ねておると聞くからな」

「いえ、そうではありません」

 オレは頭を振った。

「魔王軍は、魔族だけを見ています。人を敵とみなし、人を退けようとしている。それでは真の意味での平和は訪れません」

「真の平和だと?」

「そう、私なら、人と魔族とが共存できる世の中を作ります」

 オレが言った途端、


 ぽかん。


 シルヴェスタは口を半開きにして、オレを眺めた。

 こいつ、アホちゃうか?

 ってな面相だ。


「……面白い。カイ殿の考え、ワシは気に入った」

「ありがとうございます」

 オレは頭を下げた。

 単に褒められたことに対するお礼を言ったつもりだったが、

「いや、顔を上げられよ」

 シルヴェスタは、突然、膝をついた。

「カイ殿。熊のシルヴェスタは、貴方様についてゆきますぞ」

 案外、変わり身早いのね。

 文句言う筋合いじゃないけど。


 で。

「ほんと、オヤジキラーよね」

「呼吸するようにオヤジを殺すね」

「いじめんなよ〜」

 また5人娘にいじくられました。ネチネチと。



 後れ馳せながら、東西ヨツンヘイムの勢力関係を整理してみよう。

 東は、鷲のフレースベルグを始め、鷹のスヴァーリ、禿鷹のイムル、鷂のサルーシなどが主な部族。

 西は、狼のチェダイを中核に、熊のシルヴェスタ、狐のトムルに、ヤマネのスヴァティーなど。

「鳥さんチームと動物さんチームだね」

 美紀が言った。

 確かにそうだ。

 ……いい年したオヤジ達の血で血を洗う戦いだがな。

「動物さんチームは、西側から囲むように寄せてきて、鳥さんチームは、それを個別に押さえたところだね」

 作戦本部のテーブルに広げられた地図を見て、美紀が言った。

 地図上には、木彫りの駒が布陣してある。

 美紀のやつ、よく分かったな。

 将棋とかチェスに詳しかったっけ?

「これって、こうじゃん?」

 美紀は、勝手に駒を運んで行く。

 ちなみに美紀が面白半分に進めたのは、会議用のコピー。

 原版は、別のテーブルにとってあるから構わないがな。

「相手がこう、

 こちらはこう、

 相手がこう出るから、

 はい、詰み!」

 みんな、唖然と駒を見ていた。

 確かに敵軍を誘導し、追い詰めている。

「美紀、もう一度やってもらえるか?」

「うん、いいよ」

 戦線がこれだけでかく広がってるのに、同時にすべてを把握している。

 味方の駒を、異なる速度で、同時に動かして行く。

 コイツ、もしかして戦場を俯瞰できるんじゃ?

 オレらは話し合った後、美紀に頼ってみることにした。

「よし」

 キューブリック将軍は、会議参加者に命じた。

「各々方、すぐに伝令を」

 かくして軍師・美紀が誕生した。


 ******


 夜襲により後退した敵前線へ、ちょこまかとちょっかいをかけて引きずり出し、側面へ回り込み強襲。

 実は、ちょっかいをかけてる間に伏兵を進めていたのだ。

 強襲で敵を叩き、敵が体勢を建て直した頃、更にちょっかいをかけていた部隊が集結して強襲部隊と共同で敵軍の一部を挟み撃ちにしたのだ。

 強襲部隊の負担は大きいが、他の部隊を動かし敵側面を攻撃して敵の力を集中させない。

 常に、相手を分散させ、こちらは集中できるように動いていた。

 そして、敵の一部を撃破し削り取る。

 それが何度も繰り返された。

 敵は、戦えば戦うほど弱まっていった。

「よし」

 キューブリック将軍は、降伏勧告をだした。

 ヴァナヘイムの支援する方面でも敵軍を後退させた、との伝令がきたからだ。

 ついでにフォー教の幹部たちが保護されたとの情報も入った。

 フレースベルグが戦ってる北東方面も戦果は上々のようだ。

 ちなみにオレたちは南東方面、ヴァナヘイムは南西方面を支援。

 頃合いやよし、という訳。


 ******


 では、フォー教の幹部に会いに行こう。

 エリザベス隊に護衛を頼んで移動する事になった。

 ヴァナヘイムの方からも、フォー教の幹部たちを護送して来てくれるという。

 東西から、真ん中の地点を目指して行くと。

 お互い時間が惜しいのだし。

 しかし、美紀にあんな才能があったとはな。

 地図上の駒をツールとして、まさかあれだけの事をするとは。

 目を見張るべきは、命令無視したり、機転が利かずにもたつく部隊長がいたら、次に命令する時にはそれを考えた指示をしているところだった。

「お前は孔明か?」

「えへへ。偉いでしょ?」

 美紀は言って、物欲しそうな顔。

 う…キスをせがまれてる。

 オレにボコられろと?

 でも美紀とキスしたい。

 どうせボコられるんだから、少しでも多くキスするべきだな!

 …あれ、前にも同じ事考えたような。

「美紀!」

「きゃっ!?」

 オレは突然、美紀の唇を奪った。

 ぶちゅうっと。

 もち、ボコられ。


「天誅!」


 エリザベスまで。

 なぜに?


「いちゃつくな、私の目の前で! ムカつく!」

 何かあったのか?

 でも、正直、彼女らの攻撃、全然効かなくなってきた。

 オレの体の耐性が上がったのか、それとも彼女らが手加減してるのか。

 ま、手加減だよな。

 とかやってるうちに目的地に到着。


 ミッドガルドへ戻って国内ルートを行こうとも思ったが、逆に魔王の手の者に襲われかねないし、ヨツンヘイム東部部族の圏内を通らせてもらっていた。

 タタールという場所だ。

 やはり会議用のデカいテントに通される。

 啄木鳥のギタリ率いる部族。

 まずギタリに挨拶をする。


 この度は…、よいよい、面を上げられよ…


 てなお約束がなされ、さらに若干遅れて到着したヴァナヘイムの使者達と面会する。

 フォー教の幹部達は捕虜とは言うものの、賓客待遇。

「お初にお目にかかります」


 アーミートーフォー。


 フォー教の幹部達はいきなり拝んだ。

「教団主が志半ばで成仏されたので、私が代行いたしております。ヤーマと申します」

「お察しします」

 オレは合掌を返してみせた。

「…失礼、ミッドガルドの方々と伺ってましたが?」

 ヤーマは困惑。

 オレらはエリザベス隊を除くと、みなアジア人だからなぁ。

 アクールは、見た目ムスペルヘイム人だし。

「誤解召されるな。我々は見た目は、あなた方と似ているが、そうではないのです」

 オレは、簡単にオレらの事を説明。

「正直、にわかには信じられぬ話です」

「我々の世界には、仏教というものがあります。一切階苦、諸行無常。少なからず生活の中にその思想が宿っています」

「それは……我々にとって良いことなのでしょうか」

 ヤーマはつぶやく。

「恐らく、あなた方には悪くない提案ができると思います」

 オレは言った。

「実は、我々はヨツンヘイムが内戦状態に陥るのは望んでいません。

 早急に戦を終結させ、和平を結んで欲しいのです」

「それは何故ですか?」

「魔王の軍勢と戦うために」

「後顧の憂いを無くしたいと?」

「そうです。魔王の軍勢は人を敵視しています。

 …ああ、失礼。これは釈迦に説法というヤツでしたね」

 ヤーマたちは身に染みて分かっているはず。

「人と魔族がいつまでも反目していては真の平和は訪れません。

 ヨツンヘイムと良く通商を結び、互いに国を富ませる事が、魔王の軍勢を打ち負かす最短の道です」

「我々に何をしろと?」

「西部ヨツン部族は、フォー教を信仰するものが多いそうですね」

「つまり停戦を勧めろと仰るのですね」

 ヤーマは、やっと納得言った表情。

「はい。

 停戦のお膳立てをして頂く代わりに新たな布教の地を提供したく考えてます」

「しばし相談したいのだが」

 ヤーマは即答を避けた。

「どうぞ」

 オレはうなずいた。

 しばらくして、

「その提案、お受けしましょう」

 ヤーマはうなずいたのだった。

「実はもう一つ、これはお願いなんですが」

「何でしょうか」

「我が方に捕虜となったニドヘグがおります。

 彼らは、フォー教を信仰してますが、国許に戻せば消される命運。

 いっその事、ヤーマ殿に預かって頂ければ」

「……分かりました」

「ニドヘグ達には東西ヨツン部族の橋渡しをしてもらいます。それと貿易」

「といいますと?」

「ニブルヘイムには絹糸があります。それを買い取って製品化し、ヨツンヘイムやヴァナヘイムに買って頂く。

 またヨツンヘイムから原料毛糸を買い、絨毯にして他国へ売ります。

 その拠点となって欲しいのです。

 もちろん西部ヨツン部族にも利益がある話です」

「我々にも一枚かませて欲しいですな」

 ヴァナヘイムの使者が冗談交じりに言った。本心だ。

 ちなみにヴァナヘイム人は、顔が濃かった。

 アルブレヒトや辺境のエリック男爵のような、髭の、今にもオペラをおっばじめそうな雰囲気だ。

 まさか、ヴァナヘイムはこの手の人種しかおらんのじゃあ?

「もちろんですよ」

 オレはうなずいた。

 ヴァナヘイムの使者は、安心したようだった。

 細かいところは後で決めると。

 とにかく今は西部部族だ。

 既に降伏勧告は出した。

 後はヤーマ達に任せよう。

 断れば、全軍が西部ヨツン部族を押し潰しにかかる。

 皆、それが分かっているので、降伏を受け入れるしかないのだ。

 オレらは、鷹のスヴァーリのところへ戻った。

 ほどなくして、狼のチェダイが降伏を受け入れた、との伝令が入った。


 オレは、キューブリック将軍と巨人族の面々に別れを告げ、エリザベス隊とアスガルドに戻った。

 すぐに大司教に報告する。

 次は、王様に謁見と。

「ヨツンどもが再起せぬようにするには、どうしたらよいかのう?」

 報告を聞いて、ジョージ13世は真っ先に言った。

「彼らに我々に従った方が得だと思わせる事です。

 同時に再起すれば叩き潰される、不利益になると暗に知らせる事ですね。

 そのような状況を作って行きます」

「うむ」

 ジョージ13世はうなずいた。

「ときにそちの身の上話はダグより聞いた」

「はい」

「上様には、何卒寛大なご…」

「あーよいよい」

 ジョージ13世は、興味ないって風に手を振る。

 何モン、このオッサン?

「それよか、そちの大切な妾の一人を失ったそうではないか」

「あ、はい」

「ワシがそちだったら、できるか否か判らぬ。

 ……いや、愛しのヘレンちゃんを、……できるはずがない!!」

 ジョージ13世は激昂。

「おっとすまぬ、ちとエキサイトしてしまった。

 とにかく、そちの忠義はみてとった。

 これからもよろしく頼む」

「ははーっ」

 てな訳で退出。

 うーん。

 ジョージ13世って、器がデカイんだか、小さいんだか。

「あら、いいじゃないの」

 ヒルデが言った。

「それだけ相手を愛してるのよ」

「うん、ボクも」

 オレは、ヒルデにキス。

「あん、もう」

 ヒルデが頬を赤らめた頃には、オレはボコられてた。

 速攻っすか?

 君たち?

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