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 さて、始の様子を見てみようか。

 アクセサリーに意識を向けると、千里眼の効果が現れる。

 町中の様子だ。

 始と可愛い女の子が、仲良く並んで歩いている。

 アクセサリーは、すでに女の子の身に着けられているようだ。

 髪留め。

 女の子は、小柄で元気な町娘って感じか。

 セミロングの髪だ。

 ちょっと日焼けしているようだが、笑い顔が人を惹きつける。

 有体にいえば、華がある。

 ……始がころっといっちまうのも無理ねーな。

 オレは、内心思った。

 確かに可愛い。

 立ち居振る舞いも、町娘っぽい。

 非の打ちどころがない。

 でも、なんか完璧すぎるぐらいに完璧なスキのなさだ。

 まるで、あつらえたかのようにな。

「でさー、可哀想だよなあ…」

「うん、そうね」

 ちょうど話題が尽きたのか、今日、オレが流した話をしていた。

「……ごめん、辛気臭くなったよな」

「ううん」

 町娘はかぶりを振る。

「あ、あれ見てみようよ」

 露店の小物屋を指さす、始。

 嫌われたくない一心だな。

 ま、がんばれ。

 というような光景が続いた。

 他人のデートをのぞいていても、腹立つだけなので。

 一旦ストップ。

 魔力も消耗することだし、一定時間置きに見てみようかな。


 雑事や諸事をこなしてから、再度のぞいてみる。

 ……あり?

 始は?

 件の女の子だけが、てくてく町を歩いている。

 もう一回見回しても、始の姿はない。

 もしかして、家に帰る途中?

 もうバイバイしたのか?

 早いな……つーか、絶対、魔王の手先。

 女の子は、家に着いたようだった。

 オレらの世界で言う、アパートっぽい住宅地だ。

 玄関を開け、家に入ると、中には誰かがいた。

 まだ陽が落ちていないのに家の中を閉め切っている。

 暗いので姿はよく見えないが、魔力を感じる。

「情報は?」

 その誰かがしゃべった。

 声からすると、女だ。

 ビンゴだな。

「…はい、囚われの身の女が処刑となる運びのようです」

「囚われ…?」

 そいつは言った。

「ああ、アクールのことだな」

「……」

 女の子は部屋の中で突っ立っている。

 必要な事以外はしゃべらないって感じだった。

「御苦労、また明日、頼むぞ」

「はい」

 女の子は退出した。

 自分の部屋へ向かう。

 女の子の部屋は、明るかった。

 でも、あれ?

 カーテンを閉めたよ。

 なんだろ?

 と思って見守っていると、

 おうっ。

 服を着替え始めた。


 うおぅ!


 なぜ、今、ここで、着替えを?

 でも、役得。

 女の子は服を脱いだ。

 上半身裸になる。

 大きくはないが、適度な膨らみがまぶしい。


 おおっ!


 何か、すげえ、興奮するぜ。


 女の子は、乾いたタオルで身体を拭いた。

 汗を拭きたかったんだな。

 それだけ緊張したってことか。

 汗を拭くたびに膨らみが揺れる。


 ぶふぅっ


 この何気ない動作が、また萌えーだな。

 やっぱオレ、変態。

 でも、のぞきをする奴の気持ちが分かった。

 多分、止めらんなくなるだろうな。

 今度、3人をのぞいてみよ。

 うひひ。

 ふと、女の子が背を向けた。

 背中には、幾つもの傷跡。


 興奮は覚めた。


 代わりに、哀しみのような憤りのような嫌悪感が込み上げてくる。

 人にこんな仕打ちをする連中がいる。

 世の中には、そういう事はたくさんある。

 分かってるつもりでも、実際に目にするとショックだ。

 オレも甘いな。

 特に身内には甘いだろう。

 オレは、千里眼を使うのを止めた。


 ******


 やはり、オレはこの世界に良い統治を敷くべきだ。

 良い統治とは、民がある程度自由に暮らしてゆける、実際には強制や不自由があっても、夢や自信を持ち、何かに打ち込めたりできる世界を作る事だ。

 もちろん、すべてが満たされる理想世界は実現できないだろう。

 そんな世界では、人間は暮せない。

 腑抜けて廃人になるだけだ。

 理想を実現させるのではなく、理想を追ってゆける頑張ってゆける社会づくりをする。

 それが肝心。

 それが肝要。

 人には、困難もまた必要だ。

 困難に打ち勝てれば最高だが、そうではない場合もある。

 何とか折り合いをつけて暮らしてゆくしかない時もある。


 人間は、原始の世界から、ずっとそうして暮らしを良くしてきたのだ。

 野生動物から身を守り、餌の身分から脱却し、動物を飼育し、野菜や果物を植えて食料を確保し、様々な事をやってきた。

 人は、ほっといても前進する。

 内に矛盾を抱えつつも、それをいつかは乗り越えて行く。

 オレは、その先頭に立つだけだ。

 オレが力を有しているわけではない。

 人々の見えない力が、オレを動かしているのだ。


 オレは、この世界を統治する。

 人も、魔族も、一定のルールの下に暮らせる世の中を作り出す。

 そのために戦い、努力するのだ。


 そう考えると、少しは落ち着いてきた。

 可哀想な境遇の者をすべて救うことはできない。

 同情するより、それらの人々を作り出さないような社会づくり、それらの人々を助ける社会づくりをする。

 それがオレの推し進める救済だ。

 オレの前世である種族を救うことにもつながる。

 あ…いや、それは魔王が既に実現してるんだったか。

 こうしてみれば、魔王も悪さをしているのではない。

 魔族のために、人間たちの国の力を弱めて取り込もうとしているだけだ。

 オレとは、最終的に考えが相容れないだろうが、救済を推し進めているという一点においては、その目指すべき方向は一緒だ。

 そのためには汚い手も使おう、正攻法も使おう。

 全力で、手を抜かずに、戦う。

 それがオレ流の誠意だ。

 どちらが敗れようが、恨みっこなしだ。

 少なくとも、オレは恨まない。


 魔王は、アクール処刑の報を聞き、動揺するだろうか?

 動揺するだろうが、とりあえずの間は、打つ手を間違えないような気がする。

 しかし、それがいつかは魔王の心に影響するはず。

 言ってみれば、布石だ。

 布石は多ければ多いほど良い。

「カイ君?」

 気づくと、美紀が部屋に入って来ていた。

「どうしたの、ぼんやりして?」

「うん、ちょっと考え事」

 オレは、美紀を見て、微笑む。

「なんか悲しそうだよ?」

「そうか?」

「うん」

 美紀は、うなずいて、


 ぎゅっ


 オレを抱きしめた。

「大丈夫、あたしがついてるから」

「おう、何だか元気が出てきた」

 オレは、カラ元気。

 カラ元気でも出ないよりマシだ。

「サンキュー、美紀。お前がいればオレは何も必要ない」

「ホント?」

「……いや、鐶とヒルデも必要」

「ふん」

 美紀は怒ったような素振りをしてみせるが、それは本心じゃないようだった。

「カイ君を独り占めできないのは悔しいけど、……でもね、何だかね、最近は、鐶ちゃんとヒルデちゃんも家族なんだって思えてきたんだよ」

「そうだな」

 オレは美紀を抱きしめると、


 ちゅっ


 キスをした。

「……カイ君」

 美紀は顔を染めている。

「……うん」

 オレはうなずく。

 そろそろ、来ますよ。

 次に起こるであろう、予定調和に備えた。

 そう、まな板の鯉の如く。


「カイ君、命が要らないようね懲りもせず殺し技を掛けてやるから!」

『カイ、呪いの恐ろしさがまだ分かってないようね!』


 やっぱり、シバかれました。半端なく。


 ちなみにアクールちゃんは、鐶にしごかれて、修行終了とともにバタンキュー。

 部屋には、引きずられてお帰りになりましたとさ。

 どっと払い。


 ******


 始の件はどうすべきか?

 第一に、始を守らねばならない。

 次に、泳がせてできるだけ利用せねばならない。

 つまり情報を得たり流したりして活用してゆくってこと。


 護衛をつけたろ。


 オレは即決。

 アクセサリーに魔力付与を施した。

 今度のは『プロテクションエビル』と『ゴーレム』の二つ。

 プロテクションエビルは読んで字の如く。

 悪……負の存在から身を守るためのものだ。

 ゴーレムは超小型、鳥を模している。

 普段は小さなアクセサリーだが、緊急時には普通の鳥サイズに変身する頼もしいヤツ(?)

 鳥型ゴーレムには『フライ』の魔法もくっつけていた。

 歩くより飛んだ方が早いので。

 お相手の女の子ではなく、始に渡した。

「身だしなみに気をつけないと、嫌われるぞ」

「おお、サンキューな」

 始はやはり考えもせず、アクセサリーを受け取った。

 ま、それなりに様にはなっている。


 女の子の方は、あまり危険はなさそうだが、家にいたヤツは手強いだろうな。

 オレは直感していた。

 魔力を持っていた。

 明るいのに部屋を閉めきっていた。

 ……吸血鬼?

 または他のアンデッド系か。

 とにかく、陽の光が苦手なヤツだ。

 厄介だが、弱点のあるやつなら対応可能だ。

 倒すには、やっぱ魔法だよな。

 エリザベスに助力願うか。


「戦の準備で忙しい中すいませんね」

「カイに頼まれたら、むげにはできまい。用件は?」

「実は…」

 オレは説明した。

「うむ、早急に退治した方がいいな」

 エリザベスは緊張してる。


「そうですね」

 バークレーがうなずいた。

「吸血鬼かどうかは分かりませんが、もしそうだとしたら危険です」

「だな、吸血鬼はその気になればすぐ仲間を増やせる」

 エリザベスがいきり立つ。

「でも、戦の準備はいいんですか?」

「あ、そうか…」

「他の手の空いてる隊にやらせましょう」

 バークレーがすぐ解決策を示した。

「そうか、私も参加したかったな」

 野次馬根性旺盛だなあ。

 

「すぐ当たってみるよ」

 エリザベスは請け負った。


 ******



 そして、すぐに紹介された部隊の者がやってきた。

 見た感じバークレーのような副官タイプだ。

 ……いや、バークレーもいるけどよ。

「コーディと申します。王宮警備隊所属です」

 警備隊って事は、普通は、王宮から動かない人達だよな。

 さらにヴァルハラの保安に全く無関係でもない。

「カイです。ご存知の通り王国守護の任に預かってます」

「はい、存じ上げております」

 コーディーは慇懃に礼をする。

「王都に顕現せざる危険が迫ってます」

 オレは厳かに言った。

「それはどのようなものですか?」

「生きながら死んでいる魔物の事はご存じでしょうか」

「例えば、吸血鬼のようなものですか?」

「断定できてはいませんが、そうした魔物が王都に潜伏している可能性があります」

「我々は、何をすればよろしいので?」

「魔法使いを貸してください」

「質問してもよろしいか?」

「どうぞ」

「どのような作戦をお考えですかな?」

 ま、戦力を貸す側としては当然な質問だ。

 部下達の安全、能力的にこなし切れる難易度か? など気になる事はたくさんあるだろう。

「敵は、まだ我々が気付いた事を知りません。今の内に強襲をかけて一気にかたをつけます」

「して、期日は?」

「明日の朝」

「確かに。夜、吸血鬼と戦うほど愚かな事はありませんからな」

 コーディはうなずいた。

 基本的には同意したという事だろう。

「具体的な方法ですが、敵は民家に隠れてますので突入戦になります。魔法封じとホールドで先手を打ち、魔力のある武器を持った戦士が捕縛」

「捕縛ですと?」

 コーディは不満を露にした。

「そいつは、魔王の手先です。出来る限り生かして捕まえる必要があります。あなた方も間者を捕らえたらなるべく生かして情報を得ようとするでしょう?」

「ですが、アンデッド系は危険の度合いが違います。第一、周囲の市民を巻き込んでしまいかねません」

「全責任は、私が負います」

 オレは断言した。

 でないと、決まらない雰囲気だ。

「そこまで仰られるのでしたら、仕方ありません」

 コーディは、それ以上主張をせず、

「必要な人数はすぐにお知らせ頂けるのでしょうね?」

「はい、今、コーディ殿と話してる間に計算したところ、戦士三名、魔法封じの使える者五名です」

「え、いや、しかし、ホールドを使う者は?」

「私がやります」

「はあ…守護職殿が?」

「私は、クラス的には、魔法使いなんです」

「それも大のつくレベルのね」

 バークレーが補足。

「…そ、そうでしたか」

 コーディは面食らってから、恐縮してたが、やがてお辞儀して退出。

 バークレーも一緒に退出。


 始にやったアクセサリー達は無駄になったっぽいが、まあ良しとしよう。

 始、無事に戻ってきたっぽいしね。

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