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 そういえば、始はどうしたんだろう?

 最近、姿を見ないようなんだけど。

 生きてるんだろうか?

 オレが何か言う前に、

「そういえば、始君さぁ、外に付き合ってる娘がいるらしいよ」

 美紀が、ぽつりと言った。

「え、それ、まずくない?」

 鐶が思案顔で答える。

『あら、恋愛は自由よ』

 ヒルデは、ちょっと反発気味に言うが、

「そうじゃない」

 オレは説明した。

「オレらがこの世界の人間と恋愛関係に落ちるってのは、この世界に残ることを覚悟しなければならないってことだ」

『あ、そうよね…』

 ヒルデは、納得したようだった。

『カイ、あんたはもちろん、ここに残るよね?』

 で、真剣な眼差しで念入りに確認。

「うん」

 オレは即答。

「勝手に決めて悪いけど、鐶も美紀もオレと一緒にこの世界で暮らそう」

 そして、今後の身の振り方を瞬時に決めてしまった。

「もちろん、学校のみんなを元の世界に戻すのが先決だし、それを達成した後の話だけど」

「……いいよ」

 鐶がうなずいた。

「カイ君と一緒なら、場所は選ばない」

「…あ、あたしも」

 美紀は、おずおずと答えた。

「カイ君の役に立てるよう、がんばる」

『ごめん、タマキ、ミキ。あたしのワガママで別世界に残ることになっちゃうなんて』

 ヒルデは済まなさそう。

「いいのよ、別に。あたし、血沸き肉踊るワイルドな世界の方が性に合ってるみたいだし。むしろ、こっちの世界の方が、あたしの魂にはしっくりくるってかんじ?」

 鐶は、さらっととんでもないことをカミングアウト。

「お前、ヘンだぞ」

 オレが言うと、

「カイ君は黙ってなさい!」

 鐶は、凄い怖い視線で一瞥しただけ。

 はーい、ボク黙ってますぅ。

「あたしも、あの、カイ君と一緒なら。…今でも興味のあること見つけて楽しく暮らしてるし」

 美紀はぽつりぽつりと答える。

 うむ、これが正しい。

 正統派。

 鐶は、やっぱおかしいね。

 どっかぶっ壊れてるっていうか…

「カイ君? お仕置きしてほしいみたいね」

 気づくと、鐶の怖い顔が迫ってました。

 う…。

 いつの間に近づいた?

 なんて、バトルものみたいな事をいいつつ、


 ちゅ。


 オレは思わず、鐶の唇にキスした。

「あう…ッ」

 鐶は予想外の事にびっくりしたようだったが、同時に顔を赤らめ、嬉しそうにはにかんだ。

 ふ。

 甘いな。

 オレは自分の世界に浸って、現実逃避。

 だってね……

「カイ君、自分が何をしてるか分かってんの?」

『カイ、あんた。どうしてもこりないようね?』

 美紀とヒルデのこわーい顔が迫りくるから。

 後は言わずもがな、な展開。


 千里眼といったか。

 離れた場所の光景を見る魔法。

「魔力付与した物体に千里眼をくっつけるってことは?」

「理論的には可能です」

 バークレーがうなずく、

「ただ、普通の魔法使いでは、それを維持するのは困難でしょうね。千里眼自体が結構ハードに魔力・体力を消耗する魔法ですし」

 言ってから、また思い出したように、うなずく。

「あ、でも、カイ殿ならできるかも?」

「後でやってみよう」

 オレは、すぐには実行しなかった。

 なぜなら、宿にエリザベス一行が来ていたからだ。

 それでバークレーがいると。

 ヨツンヘイム西部では、やはり戦争の準備をしている様子だとの情報が入ったらしい。

 人、物、金。

 この3つが急激に変動している、つまり、普段の何倍も出入りしていたり、まったく出てこなくなったりしていれば、それは戦争の準備をしているということだ。

 現代では、戦争はマイナスイメージのみがクローズアップされ忌み嫌われているが、この世界ではそうではない。

 戦争により、確かに人は死に、また残酷で、恨みやつらみが残る。

 でも、その代償を払っても、相手の国の資源や土地をぶん取りたいのだ。

 なぜぶん取るかというと、それをして活用していかなければ、いずれジリ貧に陥り、他国に潰されるか吸収されるからだ。

 平和政策は、最初は良くても、徐々に策略を用いて国の礎を崩そうとしてくる他国の罠を防げなくなる。

 自他共に等しく戦いを仕掛けてくる。

 そういう世界においては、平和政策というのは政策としては有効的ではない。

 様々な概念の発達した現代においては、一概にそうとは言い切れないかもしれないが、純粋に戦略的な面からみたら、日本は、既にその傾向が現われていると思う。

 オレが、元の世界に帰りたくない理由の一つは、それだ。

 ま、話がそれたので元に戻そう。

 戦争になったとしても、その後だ。

 まずはしっかり終結させること。

 そのために段取りを組み、だらだらと消耗戦になだれ込まないようする。

 次に保障関連。

 賠償金だな。

 戦争を経済としてとらえれば、相手にいちゃもんをつけて金を巻き上げるための手段だって事。

 ま、こう言うと何だかチンピラみたいに聞こえるけど。

 それらを鑑みると、やはりヨツンヘイム東部、ヴァナヘイム、ミッドガルドの三者で相手を取り囲み、さらにフォー教を利用し、間を取り持ってもらうのが良い。

「そういえば、ムスペルヘイムでフォー教の追い落としが始まったみたいだ」

 エリザベスが、軍部のどっかから得たらしい情報を教えてくれた。

「じゃあ、予定通りってことですね」

「そうだな」

 そちらは追って情報を得るってことで決まった。

 エリザベスたちと、派兵の事前打ち合わせをする。

「そろそろお昼だし、食事してから帰ったら?」

 オレが誘うと、

「そうだな、お言葉に甘えるか」

「そうですね」

 エリザベスとバークレーは、うなずいた。


 で、千里眼を魔力付与した人形に乗っける件だが……。

 オレはまず一体に試すことにした。

 前にロン毛の素性を透視したのも、いわゆる千里眼だったようだ。

 その時の光景を思い浮かべる。

 すると、宿の庭の風景が頭に浮かんだ。

 それを維持しつつ、人形へ風景イメージを送る。

 ……なんかPCのドラッグ&ドロップみたいだな。

 ぽとん。

 人形へ風景イメージを落とすと、オレの頭から風景が消え去った。

 人形を意識を向け、眼を閉じてみると、宿の風景が浮かんだ。

「よし」

 オレはうなずいて、人形を試す方法を考えてみた。

 目的は、始にこれを持たせて……って、こんな木彫りの人形持ってく訳ないか。

 別のアクセサリ系のものにするとよかったな。

 後でやり直してみよう。

 それはそれとして、時間も惜しいし、この人形でテストだ。

 オレは鐶と美紀の部屋に行ってみた。オレの部屋の隣だけどね。

 二人とも留守だ。

 部屋のタンスの上に人形を乗っけた。

 上出来。

 と思ってたら、

「カイ君、あんた何をたくらんでるの?」

 すぐに、鐶が人形を持ってオレの部屋に入ってくる。

「テストだ」

 オレは即答。

「千里眼の」

「……」

 鐶は無言。

「えっとな、始にそういう千里眼の力を与えたアイテムを持たせて、素行調査しようとな……?」

「……理由は分かったけど、なんであたしたちの部屋に?」

 鐶はおっかねぇ目でオレをにらむ。

「いや、決して、お前たちの着替えをのぞこうだのといった邪な考えはないぞ?」

 オレは慌てて言ったが、


 ごすっ


 鐶のきっつい一撃がオレの脳天に炸裂。

「きびしい一撃でゴンスな」

「ふん」

 鐶はそっぽを向き、

「そんなに見たいんなら、直接、口説いてみなさいよ?」

「オッケ、速攻、口説く口説く!」

 オレは光の速度で鐶に近寄り、鐶の柔らかな体を抱きしめようとする。

 が、

「何してる、そこぉっ!!」


 ぐしゃああっ


 やはり、邪魔が入ったのでした。

 美紀が戻ってきたのね。

 はい、単なる日常のワンシーンです。


 ******


 それはそうと、諸事についてを進めておかなくては。


 コーヒーショップは開店した。

 ロンドヒル公爵が何から何まで手配して、しっかり貴族向けのサロンに仕上げた。

 自分が利用したいんだろうな。

 アラビカ豆栽培地での小麦試験栽培は、秋になってから開始。

 土地は確保済み。

 醸造アルコールについては、アルブレヒトがしっかり管理している。

 商売として成立させていた。

 パーコレーターにアルコールランプというのも定着しつつある。

 ロンドヒル公爵が大量購入したので、貴族間で流行りそうだ。

 庶民向けには、飲食店にレンタル、それとは別にカフェを作るってのがいいか?


 後は人質の利用だが、大司教に相談しよう。

「捕虜のニドヘグだが、フォー教に預けるってのはどうだい?」

 あり? 先を越されたよ。

「それ、逃げてくるはずのフォー教首領格の事ですか?」

「他に何があるよ?」

 オレが考えてたのと何が違うんだろ?

「ヨツンヘイム西部に送るんだよ」

 逃げるだろ、それ。

 …いや、約束させれば大丈夫か。

「奴らを何時かは帰れるように取り計らうとして、まずはヨツン西部で働いてもらう」

「でも、何をさせるんです?」

「代官として赴任ってのはどうだ?」

「いっそ、領地を与えては?」

 オレは思いきって言ってみた。

「最初は疑うでしょうが、意外に義気に感じてくれるかもしれません」

「お前、冗談だろ?」

「彼らは我々より絹糸についての知識があります。

 ニブルヘイムから、購入した製品を西部へ売りさばくのにはうってつけです。

 また絨毯の原料を扱う拠点ともなります」

「お前、トンでもない事考えるなぁ」

 大司教は笑った。

 でも、目が笑ってない。

「王に伺いを立ててみるよ」

「頑張って下さい」

「気楽にいうよな」


 それとアクールだ。

 この前、エリザベスがトンでもない事言ってくれたので、非常に難しい状況だ。

 でも、魔王と元ネタが一緒なのは本当だしなあ。

 どうしたもんか?

 考えても仕方ない。

 直接様子を見てこよう。

「カイ君。またあの娘のとこにいくのね?」

 鐶が呆れた顔で、

「利用価値ない。敵の情報得られない。ムダ飯食いのお荷物だよ、あの娘」

 ぐ…。

 痛いとこ突いてきやがる。

「あたしだったら、洗脳して魔王軍に返して暗殺させるけどな。成功すれば儲けもんだし、厄介払いにもなるし」

「そんな君には、陰険マスターの称号を授けよう」

「いらない」

 鐶は即で拒否。

「んまー、憎らしい。犯しちゃうんだから!」

 オレは、なぜかオカマ言葉。

「なら、やってみせてよ」

 鐶は抗うでもなく、さらっと言う。

 …あの、そうやって受け入れられても困っちゃうの、ボク。

「ふん」

 オレがまごついてたら、鐶はさっさと行ってしまった。

 おーい、待ってよぅ。


 アクールちゃんは、最初は無表情だったが、オレを見てるうちに、どんな心的変化を起こしたか、いきなり頬を上気させた。

 横で鐶の視線が強くなる。

 痛い。

 突き刺さるよぅ。

「あなた……一体何者?」

 アクールは、おずおずと訊いてくる。

 これまで表面に表れていた敵意が消えている。

 かなり悩んだのか。

 でも、結論は出ないだろうな。

 オレと魔王には、共通点が多い。

 ま、同一人物から分かれたのだから、当然だがな。

 シェイプチェンジャーやドッペルゲンガーの種族では、ここまで魔力を持ち、尚且つ男にも女にもなるのはそういないはずだ。

 だって、ムスペルヘイムじゃペット化されてたんだから。

 基本的には人間以下、犬猫並みの能力しかないってことだ。

 しかし、違う点もある。

 オレは現代世界の知識を持っている。

 それを生かして、この世界にないものを作り出すことが出来得る。

 アクールはそれが怖いのだ。

 学校という、図書館という、まごう事なき異世界の物証を見て、直感したに違いない。

 コイツは消さなければならない。

 ……でも、ホントウに魔王と関係あるのか?

 考えて考えて、悩んで悩んで、そして今も結論は出ていない。

「オレはミッドガルドの守護者さ」

「……」

 アクールは目を閉じた。

「なら、あなたを生かしておくわけにはいかない」

「檻の中から出れたらな」

「……」

 アクールは何も言わない。

「任務に忠実なのもいいが、もっと人に頼ることも考えろ」

 オレは何気なく言ったが、

 アクールは、突然、眼を見開いた。

 ……なんだ?

 オレを凝視しているぞ?

「……」

 アクールの目に涙が浮かんだ。

 ……あれ、どうしたんだろ?

 オレが泣かせたってこと?


 ごん。


 鈍い衝撃が後頭部に来る。

 鐶だ。

 だが、それ以上のお咎めはない。

「もしかして、魔王にもそう言われたか?」

「……」

 アクールは答えない。 待てよ、この娘、魔王と連絡取り合ってるって考えた方が良かったんだよな。

 だとしたら、学校の事が伝わっていても不思議じゃない。日本語は読めないだろうから、ムリして手に入れようとはしないだろうが。

 それを知った魔王がどうするかだ。

 恒例のオレが魔王だったらタイムと。

 …どうもしないな。

 スパイを張り付かせて、情報を集めるくらいか。だって想像もつかない知識だもん。やるべき事はやりつつ、入った情報に気を付けるしかない。

 それにフォー教の追い落としが始まったなら、下手には動かないはず。

 利を計り、着くべき勢力に着く。恐らくフォー教の分が悪いがな。

 狙うなら今かもな。

 オレは閃いた。

 魔王に揺さぶりをかけてやる。

 うひひひ…!

「また来るぜ」

 言って、オレは牢を後にした。


「何、企んでんのよ?」

 鐶がオレを問い詰めるかのように言った。

「アクールを処刑する」

 オレが答えた途端、


 ざわっ


 なぜだか分からんが、鐶の凄みが増す。

 いや、何かマジで絞め殺されそうだよ?

「…って情報を流す」

「…」

 鐶の殺気が急速に萎んだ。

「魔王が愛する娘たちの一人だ。処刑されるかも? って情報が入って来たら心中穏やかじゃないはずだ」

「カイ君こそ、陰険だよ。キングオブ陰険だね」

 鐶は言った。

「ところで、始の入れ揚げてる相手って?」

 オレが突然話題転換すると、

「…カイ君。なぜに今ラブラブ話?」

「ほら、あれだ。始がモテるわけない。だから、そいつは魔王の手先だ」

「……」

 鐶は驚いてる。

「始を通して、アクール処刑執行の情報を流す」

「違ってたら?」

「ま、ルート的には、誰でも構わないさ。魔王の耳にこの情報が入れば」

「ホント、陰険よね」

 鐶はジト目でオレを見る。

「何とでも言え」

 オレは策略大好きさ。


 早速、大司教に話をし、許可をもらう。

 表向きには処刑しちゃうので、貴族向けの牢には入れられなくなる。

「じゃあ、お前、面倒みてやれ」

 大司教は気楽に言い放つ。

「簡単に言いますね」

 オレはイヤな顔を返しつつも、心の中では謀。「それより、ニドヘグだが、王の許可が出たぞ」

「それはなにより」

「ニドヘグの説得は任せた」

「はい、お任せ下さい」

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