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ともかく周辺環境を調査してみることにした。
みんな怖がって尻込みしたので、オレと鐶と美紀と始の4人で出かけた。
オレの直感が正しければ、学校の周囲が変化したのではなく、オレらは学校ごとどっかに飛ばされたのだ。
異世界召喚モノってヤツ?
だとすると、この先、魔王を倒すハメになるのだろうか。
……まさか、ないよな。
それはさておき、オレたちには食料の備蓄がないし、生活に必要な道具もない。
あるのは電気がないと使えない最新鋭のガラクタどもだけ。
「異世界きゃっほー!」
オレは先陣を切って林の中へ走ってゆく。
林の中はようするにヨーロッパのファンタジーっぽい雰囲気とでもいうのか。日本の野山という感じではない。
サバイバル生活がオレたちを待っている。
「異世界ファンタジーは制服当たり前ぇー」
「怪しげな家伝の武術とか、度を越えて超絶な無差別殺戮破壊魔法とか、何で動いてるか分かんないロボットとか…」
「べっぴんのお姫様と知り合いに慣れますようにィ!」
みんなオレに輪をかけてヘンですね。
「君たち、そういうオタクなことを言うなよ」
マサオが前髪をかきあげながら言った。
マサオは2分で立ち直っていた。
つーか、何で着いてくんだよ、コイツ?
「お前、何しに着いてくる?」
「きついね、どうも」
「お礼を言われる筋合いはない」
「皮肉はやめるんさー」
「てめー、何で着いてくる?」
「より砕けた言い方に直してもムダさ」
「……おい」
「なにさ?」
「いやな」
「もったいぶらず、はっきり言え」
「そうか、じゃあ、お前の後ろに凶暴そうなゴリラとイノブタの親戚のような野生動物が今にもがぶりと行かんばかりに牙を剥いて爪を立てて」
がぶり。
あ、間に合わなかった。
オレの親切な忠告も空しく、マサオは背後から獰猛な野生動物に襲われたのだった。
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「せいっ!!!」
どごっ。
「きーきーっ」
野生動物さんは、鐶の一撃(重たーいパンチ)を食らって逃げ去りました。
「こらー、もっと早く言え!」
マサオは抗議したが、
「おお、生きてるそ、コイツ」
オレは顔も見ずに言う。
「タフだな、お前、ぎゃはは」
始は笑っている。
「肋骨を折ってやったよー。うーん、いつやっても素敵な感触よねぇ」
鐶はニヤーッとして拳をぶらぶらさせてた。
その指には鉄甲。
メリケンサックの日本版とでもいうか。
ちなみに鐶の家伝の武術は『獄門流』という。
名は体を現すを地で行ってるというか、暗器を使った陰険な技が特徴なのだ。
道場破りの両手両足を折って再起不能にしたとか、行方不明になったとかはまだ良い方で、殺して肝を取って食べたとか、さばいて肉屋に卸したとか、気味悪い噂が流れている。
……本当にやってそうだから怖いッス。
「鐶ちゃん、キモッ!」
美紀は1メートルくらい引いた。
「キモくないもん!」
鐶はぷいっと顔を背けるが、
「キ、キモーッ!?」
マサオがまた反応した。
どうやら厳禁ワードらしいな。
いや、マジで収集がつかん。
誰か何とかしろや。
で、周辺環境の調査結果だが、お手上げ。
はっきり言って広すぎてオレらの足では調査しきれませんでした。
歩いて行ける範囲内では、まず川を見つけた。きれいな水だ。水源として使える。
学校にある給湯室や調理実習室、理科実験室の火で沸かせば飲めるだろう。
確か、給水用のポリタンクがあるはずだしな。
「後は食料だが…」
「誰が毒見するんだよ」
「お前、やれや」
「やだよ、自分でやれよ」
繰り返し。
「あんたたちには学習能力ないのかね」
鐶がバカにしたように言って、取ってきたキノコや植物をより分け始めた。
「お、お前、もしかして見分けられるのか?」
「うん」
鐶は満面の笑みを浮べ、
「ウチの流儀は、毒物を扱うことならエキスパートだよ!」
……。
「……」
「……」
みんな100メートルくらい引いていた。
心理的にだけど。
……毒のある植物やキノコが分かるってことね。
それは裏を返せば、同時に毒のないものも見分けられるってことにつながると。
「なーる、そいつは凄いさー」
マサオだけがリアクション。
恋は盲目。
新出単語
暗器:『隠し武器』のことです。