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 ニブルヘイム関連。

 大司教主導でニブルヘイムの外交官と交渉。人質を盾に『当方は関係ない』と言わせた。

 つまり約束させた。

 人質のニドヘグたちは国元へ返したかったが、返せば口封じに消される可能性大なので、今んとこ保留。


 ヨツンヘイム関連。

 石炭の採掘は順調。

 ニドヘグによる新たな襲撃はない。

 西部の情勢は、未だ不透明だが、アルブレヒト商隊にフレースベルグへ文書を届けてもらっている。

 いずれ、東部ヨツンは結束するだろう。

 また、キューブリック将軍が言っていた裏で動く人物より面会の申し出が来ていた。

 フォー教追い出し策は、実行可能だろう。

 ヴァナヘイムとの共同開発の話は、キューブリック将軍からの連絡待ちだが、ヴァナヘイムにとっても悪い話ではないので、問題ないだろう。

 ヨツンヘイム東部勢力、ミッドガルド、ヴァナヘイムの三方による包囲網ができれば、勝ちは決まったようなもんだ。


 商売方面。

 醸造アルコールを木精と混合して、混合アルコールとして販売する件は、アルブレヒトが順調に進めていた。


 アラビカ豆については、ロンドヒル公爵がうまく立ち回っていた。

 既にムスペルヘイムより輸入した物を、王宮及び神殿へ納品している。もちろん有料。

 庶民への普及までには至っていないものの、貴族階級には段々浸透しつつあった。

 コーヒーショップについては、もうすぐ第一号店が出来上がる。

 ただ、庶民が買って飲めるような値段ではなかったので、計画変更し、王宮のある中心地の一角にサロン的なものとして建設する予定だ。

 大工のアラン司祭が設計を担当。

 理容師をつけたり、風呂を作ったりとか?

 フランスでは不倫の聖地だったらしいけどナ。偏見100%超。


 アラビカ豆の栽培についても、ロンドヒル公爵は栽培地の選定を済ませていた。

 結構、せっかちである。

 もちろん、ミッドガルド最南端のニダヴェリールの土地を選んでいた。

 試験栽培から始めると、3年以上かかるだろうな。


「あのさ、カイ君」

 ふと、鐶が言った。

 みんなで、コーヒーを飲んでいる。

 ヒルデは最初は苦くてダメっぽかったのだが、ミルクと蜂蜜を入れたものは飲めるようになっていた。

「今、思い出したけど、アルコールランプって、よくサイフォンに使うのよ」

「あ、そうなんだ」

 オレは、はたと手を打った。

 だったら、パーコレーターを沸かすのにも使えるな。

「よし、ロンドヒル公爵に売りつけよう」

「でたな、オヤジ・キラー!」

「色香で迷わす、オヤジ・キラー! しかも清純派! 男だけど!」

 鐶と美紀は、はやし立てる。

『ムカつくけど、……でも、ちょっと興味あるわ』

 ヒルデは、腐女子のケがあるようです。

「みんなして、イヂメるなよ〜」

 オレは半泣き。


 ******


 オレらは、街に繰り出していた。

 キューブリック将軍の言っていた裏で動く人物との面会のためだ。

 鐶とエリザベスとバークレーが着いてきている。

 美紀とヒルデはお留守番。

 というか、家内制手工業の刺繍の発注が舞い込んで来て、オレのことなんかほっぽってるってのが実態。

 刺繍は、「オリエンタルで良いね」ってな感じで貴族たちに受けてた。

 どうやら、エリザベスが知り合いの貴族階級の女性たちに見せびらかしたのが原因っぽい。

 面会場所に到着。

 薄汚い宿だった。

 二階に通され、個室で待つこと、30分ぐらい。

「お待たせした」

 件の人物が入ってきた。

 眼帯。

 ヒゲ。

 身なりはこざっぱりとしているが、普通の庶民って感じ。

 しかし、物腰は武人っぽかった。

「オズワルドと申します」

「ふむ、聞いた名だな」

 エリザベスが首を傾げた。

「お互い忙しい身でしょうから、用件だけをお話しします」

 オズワルドは部屋の真ん中に置かれたテーブルを挟んで、椅子に座った。ドアを背にしている。

 いつでも逃げられるようにだろう。

 習い性になっているんだな。

「どうぞ」

 オレは、うなずいた。

「私は、いわゆる諜報組織に属しておりますが、今回の件については、独自に手の者をムスペルヘイムに潜入させておりまして、機会を伺っていました」

「といいますと?」

 オレが説明を求める。

「はい、薄々感づかれておられると思いますが、将軍はムスペルヘイムと縁が深い。独自の情報網とパイプを彼の国にお持ちです」

 そこまではオレも予想していた。

 問題はその先だ。

「将軍は、フォー教に恨みをもっています。彼らを倒すために独自に工作を続けてきました」

「王宮にも内緒でか?」

「王宮は、ムスペルヘイムなど眼中にありませんよ」

 オズワルドは事もなげに言った。

「というより、興味がない。将軍はそれを熟知している。だから、独力で工作せざるを得なかった」

「工作の中身とは?」

「はい、フォー教の地盤を壊し、ヤツらを放逐することです」

 オズワルドは答えた。

「既に、ムスペルヘイムのマハラジャ……つまり王侯貴族に相当する豪族たちを掌握済みです。

 彼等はそもそも新興宗教のフォー教を快く思っていません。

 ま、伝統の拝火教を快く思ってる訳でもありませんが」

 拝火教ってのが、対抗勢力なんだな。

 てことは、フォー教を罠にかけるだけの利益が見込めると。

「マハラジャたちにはどんな利益がありますか?」

「……フォー教には結構な財産があります。信者たちに寄進させたものですが、その財力を教団のために利用しているのですな」

「では、それを皆で分ける算段なのですね?」

「はい」

 オズワルドはうなずいた。

 でも、フォー教を倒したら、今度はマハラジャ同士で争い合うだろうな。独り占めしたいからな。

 それも計画の内か。

「ムスペルヘイムに内戦を起こさせる、と」

 オレは断定的に言った。

「そうです。ムスペルヘイムに内戦が起これば、我が国が付け入る隙ができますからね。そうでなくとも今より疲弊することは避けられぬでしょう」

「魔王の軍勢は?」

「ヤツらは動かないでしょう。利益がありません。

 むしろ、マハラジャの後押しをして財産をかすめ取ることを考えるはずです。

 ま、内戦になったらさすがに事態を収拾しようとするでしょうね。

 そして、ムスペルヘイムをまた一歩掌握するでしょうが、何事にもデメリットはあります」

 その程度なら、問題ないだろう。

 今でも、魔王の軍勢はムスペルヘイムのほとんどを掌握しているしね。

 それより、周辺のマハラジャたちを疲弊させられるのは好都合だな。うっしっし。

「分かりました」

 オレは、うなずいて、

「フォー教の首領格はヴァナヘイムへ亡命するでしょうが、それを殲滅しないようにお願いします」

「……それはいかなる考えによるものですか?」

 オズワルドは若干、警戒している。

 意見してくるとは考えていなかったのだろう。

「絶体絶命の窮地に追い込んだ時が付け入る隙となります。恩を売っておいて、ヨツンヘイム西部の部族とニブルヘイムへの策として利用します」

「左様ですか…」

 オズワルドは、緊張していた。

 国事に、しかも機密に関する事を聞いてしまったのだから、当然の反応だな。

「ご命令とあらば」

「しかと申し渡しましたよ?」

 オレは、そう言って締めくくった。

 いや、陰謀をこねくり回すのって、気持ちいいな〜。

 日頃のストレスが霧散する〜。


 ******


「カイも相当な悪者だな」

 帰り道、エリザベスは冗談っぽく言った。

「国益のためだしね」

「そうだな」

 エリザベスは何だか嬉しそうだった。


 どげしっ


 オレの背中に衝撃。

 オレは悶絶。

「ん、どうしたんだ? まさか、もう疲れたのか?」

「いえ、何でも」

 鐶のヤツ、覚えとけ!

 後ですんげーエロいことしてやるんだから!

「……なんか、急にいやらしい表情なんだが?」

 エリザベスは、心理的に300メートルぐらい引いていた。


 で、早速、大司教へ報告。

「キューブリックのヤツ、何をやらかすかと思えば…」

 大司教は、苦い顔。

「おっと、そうそう、ヴァナヘイムとの交渉はうまくまとまったってよ」

「はあ、急な話題転換ありがとうございます」

「そんなに褒めんなよ」

「いえ、褒めてません」

 大司教は、オレらを超えるノリの良さだ。

「では、王様に?」

「うん、これから伝えに行く」

 大司教は、すぐに王宮へ向かった。


 で、オレらはアクールちゃんを見に行く。

「よっ」

 オレは景気良く挨拶したが、

「……」

 返事はない。

 こちらすら見ていない。

「なんだ、元気がないな?」

「こんなとこに閉じ込められたら、元気もなくなるわよね」

 鐶が聞えよがしに言う。

 イジメに負けるな、オレ!

 ファイトだ、オレ!

「……あなたは一体何者?」

 アクールは言った。

「オレは天の御使いだ」

「……」

 アクールは再び黙り込む。

 なんか、深刻だな。

「あの学校に蓄えられた知識はどんなものなの?」

 アクールは、オレを見た。

 深刻な上に真剣そうな眼差しだ。

「んーと、教えない」

 オレはすらっとぼけた。

「敵に教えるわけないでしょん?」

「……」

 アクールは、すぐに諦めてうつむいた。

 かなりショックだったのかもな。

 自分たちの知らない知識技術があるってことに。

 でも、なんで?

「魔王様は負けない」

 アクールは言った。

「でも、魔王様が危うくなりそうなものがあるなんて、怖い…」

 なんだか、カミングアウトしてますが。

 なんで?

「わたしはどうなってもいい」

 アクールは、なんか切羽詰まっていた。

「お願い、その知識がどんなものか教えて!」

「と言われてもな、具体的には言えない」

 オレは突っぱねた。

「あなたのものになれっていうなら、そうしてもいい」

 アクールは爆弾発言。

 あの、自分が何を言ってるのか、分かってます?

「……」

 オレが目が点状態に陥ってると、

「カイ君?」

 鐶が怖い目でオレを睨んでました。

「一体、この娘に何を言ったの!?」

「いや、何も?」

 ねえ?

「カイ、お前、何をやってるんだ? 見損なったぞ!」

 エリザベスはカンカンに怒ってました。

 いえ、あの、濡れ衣なんですが。

「ちょっと待て、オレはそんなこと要求しないし、そんなことをしてもムダだ」

 オレには、怖い三人娘がいるからな。

 お仕置きされちゃうよぅ。

「……」

 アクールは、黙りこんでしまった。

 で、やっぱりお仕置きタイム。


 ぐしゃああっ


 オレの延髄に蹴り(?)が決まりました。

 ぽっくり。


 ******


 気づくと、宿の部屋。

 あら、またでしか。

 いい加減にして欲しいわね。

 思わず、オカマ言葉になる、オレ。

「あ、気がついた?」

 美紀がベッドの側に椅子を持って来て座っていた。

 図書館から持ってきた料理本を眺めている。

「ああ、いつの間に宿に?」

「バークレーさんが背負ってきたのよ」

 なに?

 てことは、オレのこの豊満な胸が、バークレーの背中に?

 ちっ、何か損した気分だぜ。

「……何考えてんのか分かんないけど、くだらないことは確かだね」

 美紀はひどい言い様。

「いや、何だか鐶がポンポン殴る蹴るの暴行を働くから、記憶が定かじゃなくて…」

「カイ君」

 美紀は笑顔である。

 突然、なんでだろう?

「あの魔族の娘に、一体何を言ったの?」


 うぐっ


 あなたもですか、美紀さん?


「正直に答えなさい、痛くしないから」

「先手必勝!」

 オレは飛び起きて、がばっと美紀に襲いかかった。

「キャッ…(でも、嬉しそう)」

 美紀が身構えると同時に、


 ごぃーん。


 オレの眼前に何か硬い金属の物が差し込まれ、オレはもんどりうって床に倒れた。

『油断も隙もないわね、カイってば』

 ヒルデが、言った。

 手には金だらい。

 なぜに?

 やっぱ、意識がもうろうとして、すぐに消え失せた。

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