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 無言。

 みんな無言。

 鐶も美紀もヒルデも無言。

 困った。

 オレの前世は困ったチャンだ。

「……あの、魔族をまとめ上げるって、それ、魔王ジャン?」

 オレは核心っぽい、つーか核心を突いてみたが、


 いーえ。

 いーえ。

 いーえ。


 三人娘の気になるポイントは、違っているようだった。

「じゃ、あの……あの子がまだ、生きてるのに、転生たるオレが何でかここにいるってこと?」


 いーえ。

 いーえ。

 いーえ。


 三人娘の気になるポイントは、やっぱり違っているようだった。

「えーと、そのォ、とっかえひっかえの部分?」


 うん。

 うん。

 うん。


 三人娘は、深々とうなずいた。

「カイ君、ちょっといらっしゃい」

「大丈夫、痛くしないから」

『あの時の心の痛み、思い知れ!』

 言って、三人娘がオレに一発ずつパンチを食らわした。

 顔面。

 ボディ。

 顔面。


 ぐふっ。


「オレがやったんじゃないのにぃ…」

 オレは涙交じりにつぶやくと、

『分かってるけど、でも殴らないと気が済まないんだもん』

「ねえ」

「うん」

 三人娘は口々に言い、うなずき合う。

「さいですか…」

 オレは、既にグロッキー。

 心身ともにヘロヘロだったが、何とか声を絞り出した。

「で、核心なんデスが?」

「あ、そうそう」

「ヒルデちゃんの話からすると…」

『そう、あの子が魔王の正体よ』

 ヒルデは、やっと核心に触れた。


『今まで、黙っててごめん…』

 ヒルデはうなだれた。

「ヒルデ…」

 オレは、そっと彼女の肩に触れた。

 ヒルデの心情としては、魔王に敵対しているオレたちには、『あの子が魔王だ』なんて言いだしにくかったんだろう。

「あれ、でも、何で、魔王が生きてるのに、カイ君がここにいるの?」

 鐶が不思議そうに言う。

 いや、それ、さっき言ったんだけど…。

「そうよね、不思議ね」

 美紀も、うーんと唸る。

 だから、さっきオレが言ったつーの!

 ……無視されちゃったみたい。

 ぐっすし。

『そう、それはあたしも考えたんだけど、たぶん、こういうことだと思うの』

 ヒルデは言った。

『あの子は一回人間たちに殺されているのは言ったよね?』

「うん」

「そうね」

『あたしも直接見たわけじゃないけど、自制がきかなくなって暴れたとしたら、いずれは王国の精鋭に倒される。実際そうなった』

 ま、そうだな。

 でも、その先が良く分からんのだ。

『その後、あの子はやっぱり幽霊になった。あたしと同じようにね』

 ヒルデは目を伏せた。

 まて、それって……?

「霊気を吸って、ヒルデと同じように実体を持ったってことか?」

『たぶん』

「でも、それじゃあ、オレがここにいるって事が説明できない」

『それは、今居るあの子が想念の塊だからよ』

 ヒルデは辛そうだった。

『幽霊には、何種類かいるわ。ちゃんと魂をもったものもいれば、魂がなくて生前の怨念とか未練の感情だけが凝り固まったものもいる』

「魔王は、怨念だけが固まったものってこと?」

 鐶が恐る恐る聞いた。

『そう。あの子の魂は転生して、カイ君になったのよ。あの子の師匠みたく天に召されてね』

「うーん」

 オレは、未だ信じられずに唸った。

 だから、あの子は……魔王は、ヒルデの事が見えなかった?

 魂のない、感情だけの存在だから?

 ま、推測にすぎないが。

 色んな事について考えなきゃならないけど、まずは……

「よく話してくれたな、辛かっただろうに」

 オレは、ヒルデを抱きしめた。

『うん…』

 ヒルデは、オレに頭を預けてくる。

「よしよし」

 やはり、しばらくはそうしていた。

 鐶も美紀も我慢してくれるだろうしね。

 でも、後が怖いッス。


 そんで、移動2日目。

「みんなどうした、元気ないぞ? てゆーか、また女に戻ったのか?」

 エリザベスが心配して言ったが、

「なんだか疲れが出てきたみたいです」

 戻ったってゆーな。

 でも、もう、どうでも良くなってきたな。

「いかんな、ヴァルハラに着いたら英気を養っておけよ?」

「そうさせてもらいます」

 オレはうなずいた。

 けど、英気を養うって具体的に何をするんだろ?


 女の子といちゃつくとか?


「いや、そういう事を言ってるんじゃない」

 エリザベスの表情が、ガチガチに固まって、能面のようになっている。

 えっと、そっちの方面は、進入禁止だったようです。


 3日目の午前中にヴァルハラへ到着。

 魔王軍の刺客とかは来なかったみたいね。

 アクールが人質としているからかな?

 オレらは、まず神殿に行った。

 大司教に報告をする。

「おわっ、何だ、もう来たのか?」

 ひどい言い様。

「いや、だってよ、さっきお前の遣わした使者が来たばっかだしよ」

 あ、そっか。

 ほぼ同時に出発したんだっけ?

 余計な金を使っただけだったか。

 懸念事項についてを話してから、退出した。


 エリザベス隊とは一旦別れて、宿へ戻る。

「留守中、御苦労さん」

 オレはマサオに向かって言った。

「いや、なに、ボクの支配者としての力量アップができたさ」

 マサオは歯を光らせる。

 やめれ。

「それに、いかにカイ君が大変だったかが分かったさ」

 マサオは、ちょっと恥ずかしそうにカミングアウト。

「うん、そうだな」

 オレは適当にうなずいた。

 ヤローの恥じらう姿なんて、見たくもないなあ?

 そんで、マサオを始めとする代表者たちに今回の件について報告し、また懸念事項についてを話した。

 別に何も案はでなかったけどね。


 あ、そうそう。

 アクールちゃんは、また貴族クラスの牢屋に入れてきました。

 そろそろ、使い道が欲しいところだけど、どうしたもんかねぇ。


 ******


 うーんと、考えがまとまんない。

 あの子は魔王で、あの子はオレで?

 何がどういう風になっちょるですか?…って感じだ。


 まずは、魔王だが、オレと魔王の元ネタが同じってことは、オレはアスガルドの敵?

 いや、それは早計といもの。

 オレは、あくまでも天の御使いだしナ。

 むむむ。

 でも、同じ人物から分かれたってことは、能力的にも同じようなもんってことか。

 そうすると、何が違うかって話になってくるが、…やっぱオレらの世界の進んだ知識技術だろうな。

 魔法やらファンタジーチックな知識や能力では絶対負けてる。


 それと今後の身の振り方だ。

 魔王と同じ人物だったとしても、オレが魔王に身を寄せるなんてのは考えずらい。

 アスガルドに仕官したわけだから、サムライだから、裏切りは許しませんよってこと。

 それにエリザベスをはじめとする、アスガルド、ミッドガルドの人たちと仲良くなってしまっている。

 心情的にも裏切ることなんてできない。


 やはり魔王軍を下して行く事には変わりない。


 で、だ。

 負けてるとは言え、あまり知らない魔法についてを再勉強するべきか。

 だと、バークレーだな。


 それと科学技術。

 この世界にないものを新たに製作して、魔王軍との戦いに投入すべきだ。

 魔王軍に勝つにはそれがキーになるかもしれない。


 ******


 三人娘を連れ、再び神殿にきました。

 バークレーを訪ねる。

「あ、カイ殿、また来られたのですな、お忙しいことで」

 バークレーは、帰って早々、事務の仕事をこなしていた。

 タフだな。

「うん、ちょっと聞きたいことがあって」

 オレは、来意を告げた。

「魔法ですか…」

「そう、オレは魔法は使える。でも、魔法についての知識がない」

「ああ、そういうことでしたら」

 バークレーは何だか釈然としてないが、一応承諾。

「まず、魔法を行使するには、普通は杖などの精神集中するための小道具が要ります。カイ殿はなくても大丈夫のようですがね」

「あ、そうか」

 ファンタジーRPGなんかじゃ、お約束だもんな。

「杖ってどういう素材なんですか?」

「それは何からできているかってことですね?」

 バークレーは確認して、

「素材はユグの木が一般的です。

 ユグの木は、アスガルドならどこにでも生えていて、人の精神波に感応し、その力を増幅する力があります。子供のおもちゃにも使われてます。

 そして、杖は、魔術師ギルドや教会にて製作されるのが普通です。

 普通の魔法が使えない人間には無用の長物ですからね」

「ふーん、杖以外には何が?」

「宝石とか魔力を増幅する物質なら何でも使えるようですね、私はあまり詳しくありませんが、司祭の中にはその辺の専門家もいますよ」

「今日は、呼んでもらわなくてもいいです」

「そうですか」

 バークレーは曖昧にうなずいた。

「魔法は、一般的には、シンボルというものでくくられます。火、水、風、土、光などですね」

「ああ、それは何となく理解できる」

 エレメンタル・マジックとかいうんだっけ?

「バークレーさんの魔法は?」

「私のは、風のシンボルですね」

「風って?」

「伝達や感知系の魔法が主です」

 バークレーは説明はお手の物と見える。

 すらすらと答える。

「あれ? てことは、カイ君のシンボルって?」

「だよね」

 鐶と美紀が訊いた。

「うっ…そういえば、カイ殿は、火の魔法も使えば、風の魔法も使うようですね」

 バークレーは唸る。

「ごく稀に、二つ以上のシンボル魔法を使いこなす魔法使いもいます。大抵は百年に一度とかに現れる天才で、魔術師ギルドの中枢へ行ってしまうのですがね」

「最高でいくつのシンボルまで使えるんです?」

「これまで確認されているというか、記録に残っているのは、3つのシンボル魔法までですね。確か、100年ほど前にムスペルヘイムに居たとの記録があったような…」

 そうすると、オレも3つまで使えるかもしれないってことか。

 …それって、あの子の師匠のことじゃね?

「シンボルって、さっきの5つの他にはあるんですか?」

「ほとんど使いこなす魔法使いがいないんですが、ごく稀に、闇とか幻とかの希少シンボルを使う者も出てきたりします。それらのシンボルは希少すぎて研究が遅れており、どんな魔法かはよく分かっていません」

 ふーん。

 オレがそういうのを使える可能性は、ゼロじゃないだろうけど、期待薄だろうな。

 使えたら、もうけもんみたいな感じかね。

 オレらは礼を言って、神殿を後にした。


 とりあえず、アクールの様子を見に行く。

「ちっ、この浮気者!」

「あの娘が気になるのね?」

『所詮、あの子と同一人物よね』

 ひどい言われようだな、オイ。

「そんなんじゃねーよ」

 オレは言ったが、

「黙れ」

「死ね」

『ヘンタイ』

 さらにひどいお言葉が返ってくるので、弁解は諦めるっと。

「調子はどうだ?」

 気を取り直して、オレはアクールを向き直る。

「…見れば分かるでしょ?」

 アクールはお約束のやり取りをして、

「あなた、どこかで会ったことは?」

 何だか、急に聞いてきた。

「ないない、そんなことあるわけない!」

 オレは力いっぱい否定。

 だって、後ろに怖い人たちが三人もいるんだもん。

「そうよね」

 アクールはため息をつく。

 魔王の事を思い出してるんだろうな。

 同一人物だし、同じ雰囲気がにじみ出ちゃうんだろうか?

「ところで、何の用?」

「魔王ってどんなヤツだ?」

 オレは単刀直入に言ってみた。

「……答えるワケない」

「教えたくないってか、まあいいけどな。庇うほど良い男なんだろうな」

「……男じゃない」

「え? 女なの?」

 オレは仰天したが、

 あ、そっか。ヒルデが回想で言ってたっけ。女になった時もあるんだよな。

 魔王ならぬ、魔女ですか。

「あ、そうそう、話は変わるが、学校に行った感想はどうだ?」

「……」

 アクールは無言でずっこけた。

「……その間合い、魔王様に似てる」

 ぶつぶつと何やらつぶやいてたが、

「別に感想など無い」

「そうか」

 オレは目を地面に落とす。

「魔王軍には勝ち目はないぞ」

「裏切る気はない」

「そうか」

 オレは、あっさりうなずく。

「では、魔王軍のために死ぬ覚悟だな?」

「……意味が分からない」

「話は戻るが、魔王とはいつ知り合った?」

「関係ない」

 アクールはそっぽを向いた。

 もちろん、オレには関係ないんだがね。

「魔王とは契は交わしたのか?」

 オレが言うと、


 ぼっ


 アクールの頬が真っ赤に染まった。

「か、関係ないだろ!?」

 うん、関係ないけど、知りたいナ。

 いたいけなアクールちゃんを、魔王が、うにゅうにゅしちゃったのかどうか。ハアハア(笑)

「悪趣味なことはやめなさい」


 ごすっ


 鐶がオレの胴体を蹴った。

 廻し蹴りってヤツ?

「うううっ」

 オレはうめいて、うずくまる。

「……」

 アクールはうつむいていた。

「いや、すまん、急にその辺をどうしても聞きたくなってなぁ」

「真面目にやんなさいよ、真面目に」

「そうよ、セクハラで死刑にするわよ」

 鐶と美紀は、監視役のようです。

 いや、逆でしょ?

「では、またな」

「……って帰るのかよ!?」

 アクールちゃんは、ツッコミだったようです。

「いや、聞くことは聞いたし。それとも何か、質問に答えてくれるってーの?」

「……いや」

 アクールはふてぶてしくも頭を振った。


 結局、情報はなしってことね。

 でも、彼女は基本の姿勢を崩してないことが分かった。


 そして、ネチネチとした三人娘のイビリが入った。


 いっそ、魔王になり変った方がいいかな。

 そしたらこんな扱い受けないと思うけどな。

 ダメですか?

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