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 結局、ヒルデは『とっかえ、ひっかえ』については話してくれず、オレは一応仮釈放。

 でもそれ、まだ爆発してない爆弾が控えてるってことなんだけど。

 ともかく、学校へ向けて出発。

 最近、移動ばっかりだが、まあ仕方ない。

 道中何事もなく過ぎ、学校へ着いた。

「久しぶりだね」

「うん、何だかすごい昔の事のように思えるわね」

 正門に立ち、鐶と美紀が感慨に浸っている。

 懐かしいが、浸ってる暇はない。

「まず、犠牲者の墓を見舞おう」

「うん」

「そうね」

 鐶と美紀はうなずいた。

「うむ」

 エリザベスもうなずく。

 オレらは、墓参りを済ませ、公舎へ入ってゆく。

 一応、正門のところに見張りを残す。

「図書館ってどこだっけ?」

 鐶が首を傾げる。

「普段から行かないヤツには分かんねーよな」

 オレはからかうように言うと、

「ふーんだ」

 鐶は舌を出している。

 ふん、その内、その可愛い舌を心ゆくまで、ちゅーちゅーしてやるんだ。ボクのささやかな野望。

 つーか、この前、されちゃったけど…。


 ぐしゃっ。


「こっちだよ」

 美紀が能面のような顔のまま、言った。

 オレは、顔面を抑えてうずくまる。

 うーん、やきもち屋さんだな。

 また顔に出たのかな?

 オレ、表情に出やすいなあ。


 図書館。

 必要な資料を厳選する。

 授業の科目に沿って国語、数学、理科、社会などの教科書、それから授業で使用するより難しい物理、化学、工学などの専門書、料理やスポーツなどの実用書、娯楽のための小説や漫画、あると便利で役に立つ辞典などを選んだ。

 DVD書籍も多数あったのだが、電気がないので、パソコンもプレイヤーも無用の長物と化している。

 非常時には本が良い。

 鐶は時代小説を選んでいた。

 美紀は料理本と。

 ヒルデをはじめとする、この世界の人々は、日本語が読めないので、ただ珍しそうに本を手にとって眺めるだけだった。

『ねえ、カイ。暇な時に、あたしに教えてね、あんたの世界の言葉』

「オーケー」

 ヒルデのお願いに、オレは快くうなずく。

「……すごい」

 アクールは、ただただ書物の量に圧倒されていた。

 本好き?

 現代日本なら図書委員キャラなのかもしれない。

 眼鏡っ娘萌えッてヤツ?


 ぐしゃっ


 オレの足が踏まれた。

 くっ、鐶と美紀め。後で、エロいことしてやるかんな!

 男のうちにネ。

「どうだ?」

 オレはアクールの前に立つ。

「オレらがいた世界では、これで普通だ」

「……これで!?」

 アクールは素で驚いていた。

「図書館と名のつく建物なら、もっと膨大な量の本が保管されている。それを誰でも借りれる仕組みになってるんだ」

「想像もつかない世界」

「そこだ。オレらには進んだ文明の知識がある。魔王の軍勢が束になって掛かってきても、太刀打ちできる」

「……」

 アクールは答えない。

 ちょっとうつむいていた。

「君たちこの世界の人間には想像もつかないことができるんだ」

「……だとしても、もう後戻りはできない」

 アクールは、うつむいたまま言った。


 その日は学校に泊まる事にした。

 既に昼下がりの時間帯になっており、今から移動すると、エリック男爵の領地に到着するのが真夜中になってしまう。

 夜の行軍は危険だ。

 学校に立てこもった方が、まだマシである。

 翌朝になるまで、特に何も起きませんでした。

 鐶、美紀、ヒルデ、エリザベス、それにアクールは女子専用教室にいたんで、全然会えませんでした。

 それどころか、兵士たちの酒盛りに付き合わされて、グデングデンになって、気づくと朝だったという体たらく。

 ぐっすし。


 朝も早よから移動開始し、昼前にはエリック男爵領に着いた。

 アクールはまた貴族クラス捕虜用テントへ戻された。

「本国から使者が戻ってきたぞ」

 到着早々、キューブリック将軍がオレらを呼び寄せる。

 最初に将軍が出した使者の方だな。

「本国からは、なんと?」

「うむ、勝利を祝う。引き続き、戦線を維持し、頃合を見て徐々に引き上げろ。と言ってきた」

「魔王軍が戻ってこないとは限りませんからね」

「そうだな」

 キューブリック将軍は、うなずいた。

「ところで、ヴァナヘイムの反応はいかがですか?」

「ヴァナヘイムは、利益があるならと乗り気だ」

 将軍は、嬉々として話すが、

 ヴァナヘイムは、基本的には自分は何もせず、おいしい所をだけを取ってくつもりらしい。

 それでも良いだろう。

 こちらがしっかりと礎を築いてやれば、こちらの影響力が増すわけだから。首根っこを捕まえるともいうな。

「それは行幸ですね」

「うむ。して、御使い殿の必要なものはあったかね?」

「ばっちりです」

 オレは、うなずいて見せた。

「フォー教を取り込む策ですが、ムスペルヘイム国内で工作するというのはどうでしょう?」

「間者を利用するということか?」

 キューブリック将軍はしかめっ面。

 ま、どこの国でもそうだが、情報系の仕事ってのはその性質上、嫌われやすい。

「そうです。

 フォー教が、どこまでムスペルヘイムの中枢部へ食い込んでいるかにもよりますが、他に勢力のある宗教があれば、それを助力します。

 フォー教の根っこを切り離せば、布教した国々に根付かざるを得ません。そこに付け込んで利用するのです」

「うーむ」

 キューブリック将軍は、言った。

「確か、ムスペルヘイムには火を崇める宗教があったはずだ。フォー教とは敵対してる訳ではないが、対抗勢力としてはうってつけだろう」

「では、その宗教と手を組みましょう。教敵を労せずして打ち倒せるのなら、必ず飛びついてくるはずです」

「汚い手だな」

「それだけに効果がありますし、そのように立ち回ります」

「分かった」

 キューブリック将軍は、うなずいて、

「本国の私の知り合いに連絡を入れよう、そいつは裏で工作するのが専門なんだ」

「助かります」

 オレは、深々と頭を下げた。

 初の陰謀だ。

 見てろよ、魔王軍。きひひひひ。

 おや、意外に黒いキャラが似合うな、オレ。


 で、引き続き、大司教よりの使者が到着。

 便箋をもらい受け、バークレーに読んでもらう。

「まず、ニブルヘイムですが、交渉は首尾良く進んでおり、約束を取り付けたとのこと」

 次にヴァナヘイム。

「ヴァナヘイムと協力し、埋蔵資源発掘の件については、好きに進められよとの仰せです」

 いや、いつもながら器がデカイですな、大司教。

 あまり細かな事を考えないというか。

 上に立つ人ってそうだけど。

 で、キューブリック将軍にお願いして、将軍の仕立てた使者に会う。

「それぞれ使者を立てると、効率が悪いので、ご使者をお借りします」

「構わぬ」

 キューブリック将軍は、ぶっきらぼうに言った。

 意外に無頓着である。

「ダグ大司教様にこれをお渡し願います」

 オレは若干のお礼を兼ねた金品を一緒に手渡す。

「ははっ」

 使者は慇懃に礼をして、便箋と金品を受け取った。

 便箋は、バークレーに代筆を頼んだのだった。

 アスガルドの文字が書けないので。

 内容は以下。

「我が方は、彼の国に対する工作をしかけたく、具体的方法はフォー教の根っこを捕らえ、切り離してしまうものです」

 使者は、すぐに陣営を出発した。


 ******


 ヴァナヘイムとのヨツンヘイム西部開拓の件は、キューブリック将軍に任せた。

 同時にヨツンヘイム東部の部族と連携を取る必要がある。

 さらに謀略を用いて、フォー教をムスペルヘイムより叩き出さなければならない。

 宗教や思想が国を作りかえるってのは、歴史上例がある。

 それを他国が後押ししていたってのも、よくささやかれる話だ。

 曰く、日本が旧ソ連の革命を支援していたなどなど。

 本当かウソかはひとまず置いといて、謀略の一つとしては可能性がある。

 今回の件は、そこまでやらずとも、対抗勢力と手を結び、フォー教の地盤を弱めてゆくよう仕向けるだけでよい。

 ムスペルヘイム内で、何かがくすぶっていれば、それが徐々に表に出るはずだ。

 それも含めて調査しなければな。

 となると、オレらはヴァルハラへ戻るべきだな。

 キューブリック将軍にその旨を告げる。

「おう、そうか。さびしくなるな」

 ぶっきらぼうな中にも、何か初老の男のそこはかとない気遣いというか、気恥ずかしさというか、が詰まったセリフですね。

「はい、短期間ではありましたが、ありがとうございました」

 オレは型通りの文句を延べ、

「特にフォー教については助かりました」

「いや、なに。ムスペルヘイムには、昔、何度か任務で行ったのでな、いつの間にか詳しくなったのだ」

 キューブリック将軍は、頭をかいた。

 ……てことは将軍って元は特殊任務専門の人かよ?

 それが将軍職?

 オレらの世界だったら、情報将校なんじゃないのかね、フツー。

 よく分からん出世の仕方だが、ま、いっか。

「では、すべては責務のために」

「うむ、すべては責務のために」

 オレとキューブリック将軍は、うなずき合った。

 

 キューブリック将軍は、結論から言うと、ムスペルヘイムに通じている。

 でも、それが、すぐにヴァルハラに反旗を翻すなんてことにつながるわけではなく、単にムスペルヘイムとのパイプを持つ人物だという事だ。

 独自に情報網を持ち、それを活用して何かをするだけの事。

 ロンドヒル公爵の方が、もっとムスペルヘイムに近しいだろう。

 こうした人材を、ヴァルハラへ惹きつけて置かなければ、アスガルドの将来は危うくなるだろうな。

 ま、それはともかく、帰国の件をみんなに伝えなければな。

 まずエリザベスとバークレーだ。

「了解した」

 エリザベスは言った。

「だが、思ったより早い帰りになったな」

「魔王軍が効率主義だったお陰です」

「いや、それが怖いんだろう?」

「怖いのは怖いんですが、同時にある程度行動パターンが読めるので怖くないといえば怖くないです」

「何を言ってるか分からんぞ、カイ?」

 エリザベスは笑って、オレの背中をバシンと叩いた。

 痛いッス。


 で、鐶、美紀、ヒルデ。

「帰れるぞ」

「やった、帰れる」

「ずっとキャンプ生活だったもんね」

『ねー』

 いつもと変わらない。

 彼女らの嬉しそうな顔を見ると、癒される〜。

 絶対、離さんぞ、この娘たちだけは!

 

 最後にアクール。

「帰国だ」

 オレは言った。

「ま、君が囚われの身ってのは変わらんがな」

「……」

 アクールは無言だった。

 なんだろ?

 いつもは無視しようとして、しきれずに突っかかってくるのにな。


 ともかく出立。

 また3日掛けてエッチラオッチラ歩きづめ。

 2日目の朝に、オレの体が、またまた大変身。

 女になってました。

「あら、カイ君。また戻っちゃったのね」

「昨日、男の時にキスしたから、まあいいわ」

「ふん、あたしもしたもん!」

 そこで、二人とも若干、沈黙。

 そして、

「なんだって、この、浮気者ッ!」

「そうよ、どうしてくれんの!」

 矛先はやっぱりオレに向かってくるのね。

 朝から、賑やかだなあ。ボクの生活。逃避気味。

『こら、あんたたち』

 ヒルデが、本当はハラワタ煮え繰り返ってそうだけど、表面上は穏やかに言った。

『その程度のことで騒がないの』

「だってさー」

「そうよ」

 鐶と美紀はぶつくさ文句を垂れるが、

『あたしなんかねー、この子の「とっかえひっかえ」見てきてるからね』

「……」

「……」

 一同、沈黙。

 沈黙の○隊がオレを狙ってる。怖えー。

「いや、まあ、その、みんな、その辺にしてだなあ…」

 オレは焦りながらも何とか話題を変えようとするが。

「気をつけ!」

「は、はいィッ」

 ビシ。

 鐶の号令に、オレは思わず直立不動。

「さて、何からしゃべってもらおうかしらね」

 鐶の嫉妬と嗜虐とが混じった視線を浴び、オレは後悔した。後悔しました。

 絶対離さない〜?

 それでいいんか自分?

 いや、ここは一発、奮発して、一念発起!?

「問答無用!」

 オレはいきなり、叫んで、鐶に襲いかかった。

「キャーッ!?(驚きと期待と)」

「どっせいっ!!!!」

「うげっ」

 でも、美紀のパンチを食らって、叩き潰されたハエの如く地面に転がる、オレ。

 うむ。

 いつも通り。


『あのさー、そろそろ話そっかな』

「賛成」

「賛成」

「大反対」

 ヒルデの爆弾が破裂しそう。

 オレだけ反対しても多数決では負けるな。

 大ついてるから、ポイント2倍。

 それでも勝ってないけど。

「カイ君は黙ってて!」

「死なすぞ、くら?」

 はい、ボク、黙ってます。

 問答無用なのね。

 ストレスが一気に増加。百万倍くらい。

「いやぁッ!」

 オレはダッシュで抜けだそうとしたが、

「カイ君、どこに行くのよ?」

「あのな、ここにいろよ?」

 切れかかった鐶と美紀にとっ捕まりました。ぐすん。

『えっとね、あたしが死んだ後ね、気づくと死刑場にいたんだけど』

「あ、そっか」

「あの宿、元、処刑場なんだっけ」

 鐶と美紀はイヤそうな顔をする。

『その時にはもう誰もいなくなっていたんだ』

 かくしてヒルデの思いで話パート2が開始された。

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