30
ヨツンヘイムについた。
まずは、オレと鐶が、フレースベルグに事の次第を説明する。
エリザベスの部隊を見て、何が起きたのか分からず、巨人族が殺気だってしまうかもしれないので。
「分かった、カイ殿。ワシらも警備の数を増やそう」
フレースベルグはうなずく。
「ありがとうございます」
オレが頭を下げると、
「いや、なに」
フレースベルグはまんざらでもなさそうに頭をかいた。
オヤジー・キラーの本領発揮ね。
横で、鐶の目がそう語っていた。
「とりあえずの寝泊りは、このテントと隣のテントを使ってくれ」
フレースベルグは何気なく言ったが、
「えッ」
エリザベスが叫んでいた。
あ、そうか。
男、女で二つに分かれて使うと、あぶれるのはオレ。
つーか、オレの愛しい三人娘はいいとして、エリザベスと寝所を共にするなんてのは……。
オレはいいけどナ。
思った途端、
どごっ
鐶と美紀のツープラトン攻撃を食らった。
また顔に出た?
結局、オレと女性陣の間をカーテンで仕切ることになりました。
がっくし。
フレースベルグたちに説明するのに骨が折れたぜ、まったく。
で、早速、採掘所の下見。
すり鉢上の採掘所は既に、大掛かりなものになっており、巨人族の体力を思い知らされた。
掘り出された原炭は、大きな篩いにかけられ、石炭とそれ以外の石に振り分けられる。
篩いは巨人族の男が二人がかりで篩う巨大なもの。
これは、彼らにしか出来ないだろうな。
オレは思いつつ、採掘所の地形を見る。
周囲には軍隊が身を隠せるほどの障害物はなく、奇襲する側にはやりにくい。
逆にこちらは迎え撃ちやすい。
隠れるとしたら、何キロか先の丘の陰くらいかな。
あ、でも、この世界は魔法があるからなー。
オレは考えを改めた。
この前の魔族の女の子も、まったく気配を感じさせなかった。
もし、オレらの目から逃れられるような魔法があるとすれば、それを使って忍び寄ることは可能なはずだ。
そういう前提に立った時の対策は、
・看破する
・感知する
の二つだろうな。
看破するにはオレが四六時中見張っていなければならない。
バークレーも可能だろうが、二人ではムリ。
すぐに気力、体力が尽きる。
すると、感知するしかないのだが、これも同じ理由でムリっぽいな。
じゃあ、どうするか。
……うーん。
オレは思いついた。
寝なくても良い、休まなくて良いのにやらせよう。
魔法を使ってそういう警報装置のようなものが作れないだろうか?
バークレーに聞いてみた。
「そういえば聞いたことがありますよ、その手の魔法」
「どんな?」
「ようは魔力を付与して、そいつに感知の力を授けるんです」
「ゴーレムみたいなもん?」
「まあ、それも魔力付与ですね」
「小さな物でいいかな?」
「いいと思いますよ」
バークレーはうなずいた。
オレは早速、試すことにした。
テントにあった子供用の木の玩具を借りてきた。
人形だな。
全部で10個ある。
意識を集中し、人形へオレの魔力を注ぎ込む。
そして、感知の魔法、警報の魔法をかけてやった。
もちろん、オレは使ったことがないんだが、なぜか使えることが分かっていた。
目には見えないが、魔法使いには恐らくその光景が感じ取れたはずだ。
魔法の力が近寄ってくると、オレに警報を出す仕組みだ。
「相変わらず、むちゃくちゃ強い魔力ですね」
バークレーが呆れていた。
で、それを採掘所の要所要所へ置く。
「ちょっとテストしてみよう」
オレは短剣を取り出し、バークレーに渡した。
短剣には魔力が付与されている。
この前、見た時には魔力が感じられなかったが、他に適当なのがないし、ダメモトで試して見よう。
「ああ、これには魔力があったんでしたね」
バークレーは言って、人形の方へ近寄ってゆく。
ジリリリリ。
オレの脳髄にアラーム音が響いた。
おう、結構、うるさいぞ。
「うわっ?」
バークレーも驚いている。
魔力感知に長けた者なら、聞こえるようだ。
これなら、オレらが寝てたとしても、すぐに起きるだろう。
敵方の魔法使いにも、オレらが感知したことが分かってしまうだろうが、それは仕方ない。
後は、オレが気づいたら、どうしたらよいかをみんなと打ち合わせておけばいい。
もちろん、見張りや見回りは普通に続ける。
フレースベルグら巨人族、エリザベス隊、鐶を集めて、その話をした。
みんな了解したって顔でした。
******
初日は何もなかった。
ただ、朝、起きたら、男に戻ってました。
なぜ分かったかと言うと、男の(以下略)
げっ。
マズイですよ。
みんなに見つかる前に(特にエリザベス)、テントから出なければ…。
オレは直ちに服を着て、コソ泥のように、こそこそとテントを出ようとする。
が、外から入ってきた、エリザベスとばったり鉢合わせ。
神様の意地悪ぅッ。
うっ。
オレは瞬間、固まったものの、
「いや、あの、目が覚めたら、男に戻ってました、えへ……」
「きゃッ!?」
なんとか言葉を搾り出したが、それは、エリザベスの何だか可愛らしい叫び声にかき消された。
あれ?
彼女の視線が、オレの下半身へ、ごっつ集中しているんですけど…。
見ると、オレのソレは、局部的に大変動を起こしていた。
ズボンの上から分かるぐらいに。
いやん。
男の子の生理現象ってヤツ?
「あ……あ……」
エリザベスの肩が小刻みに震えている。
「え?」
オレは思わず首を傾げて、近寄ろうとする。
「朝っぱらから、何を見せるか、バカモンッ!!!!!」
エリザベスの鉄拳がオレの顔面に叩き込まれた。
有無を言わさずノックアウトです。
お約束。
「すまん、カイ。つい驚いてしまって」
エリザベスは、すぐに侘びを入れてきたが、
「いえ、こちらこそ、大変申し訳ありませんです」
オレとしては、逆に謝らざるを得ない。
「そうよ、カイ君。女の子にそんな事して、殴られただけで良かったと思いなさい」
鐶がムチャを言う。
「大体、カイ君が男になったり女になったりするから、いけないのよ」
美紀もムチャを言う。
好きで性転換してるんじゃないもん!
『へー、カイの男の時の姿って、こうなんだぁ』
ヒルデだけが、感心したようにオレに見入っていた。
そいうや、ヒルデは初めて見るんだっけ。
オレが男の時の姿。
「改めて惚れ直したか?」
『……べ、別にッ』
ヒルデはお得意のツンデレ発揮。
言葉とは裏腹に、頬が赤くなっているところが可愛い。
「いやいや、そこがヒルデの良いところだ」
『バカ、ヘンタイ、死ね』
ヤリィッ。
ツンデレ語ゲットォッッ!
「アホ」
鐶が言うと、みんな、
うんうん。
とうなずいていた。
なぜ?
ところで、フレースベルグの姿が見えないんだが……。
後で知った事だが、フレースベルグはテントの陰にいた。
「う…ううっ……カイ殿が実は男だったなんて……」
フレースベルグは、そんな風に嘆いていたとかいないとか。
******
ミッドガルド軍が辺境に居座る魔王軍を攻撃するまで、後、3、4日はかかるだろう。
出発準備は、ほぼ整っているから、移動3日、布陣即攻撃ってな感じで進むっぽい。
現地に到着済みの先発隊と辺境の諸侯軍が先んじて攻撃を仕掛けるだろうから、言わば派遣軍本隊はダメ押しだ。
現地部隊にしても、すぐ援軍が来ることが分かってるので、全力を出し切れる。
そして、激闘の末、相手がもう一杯一杯ってとこで、派遣軍本隊が到着し、更に兵力が投入されるのだから、敵の士気は打ち砕かれる。
ヴァナヘイムも呼応するので、魔王軍はおいそれと辺境に出てこれなくなる。
戦は多対一でやるものではない。
味方が多く、敵が一人の時にやり、敵が多く、味方がない場合はしない。
それが鉄則だ。
ただ、ヴァナヘイムの派遣軍は、恐らく最後に到着するだろう。
理由は簡単、ムダに被害を受けたくないからだ。
そして、ヴァナヘイムは、今回、それができる状況にある。
ミッドガルド側は、ヴァナヘイムが協力しているという事実があれば良いので、それで良しとすべきだ。
それを理由に、石炭採掘の取り分をより多くすることができるだろう。
ヴァナヘイムも粘ってくるだろうが、他の手と組み合わせて突っぱねてゆかねばな。
あ、でも待てよ、それって……。
「ちょっと待って」
オレが気づくとほぼ同時に、鐶が言った。
「それって、派遣軍の到着を待つまでもないんじゃない?」
「うっ…」
「ミッドガルド軍、辺境軍、ヴァナヘイム軍が終結する運びなんだから、魔王軍は既に劣勢なワケじゃん」
あ、そうか。
この前のオレの読みが外れてたのか。
味方が魔王軍に攻撃を仕掛けるタイミングを読み間違えていた。
以後、気をつけよう。
てことは、やっぱ、早めに石炭採掘所に来て良かったんだな。助かったぜ。
「あとさ、魔王軍って、ヴァナヘイム軍を派遣させないよう工作するよね?」
「うん」
オレはうなずく。
「それが石炭採掘所の破壊工作だろうな」
「その他には?」
鐶は心配性だった。
「他にもやってくる可能性はある。けど、採掘所の方を守れば、もう一方の工作は効果半減する」
「あ、そっか」
鐶は納得したようだった。
「徒手格闘でも、バカ正直に一手だけを出すより、何手かを織り交ぜて波状攻撃したほうが相手の体勢を崩せるだろう?」
「うん。でも、そのうちの一つでも防がれたら、その途端に効果は半減する。波状攻撃ってのはトータルで一つの攻撃だからね」
鐶は、オレの後を続ける。
なんか、こいつ最近、妙に鋭くなってきたな。
元々、持っていた素養が実戦を経て表に出てきたのかも。
魔王軍にとっては、できるだけ早く採掘所を潰したいってことになる。
またもや電撃策だ。
オレが、感想を漏らした時、
ジリリリリ。
警報が鳴った。
******
オレらは、すぐに採掘所へ向かった。
「邪悪なる魔法に守られし者どもよ、聖なる破邪の力によりその真の姿を打ち顕せ!」
バークレーが神聖魔法を唱える。
茶々を入れるようだが、聖と邪の概念のところは多分、気分の問題だ。
精神面では、いわゆる思い込みがものを言うからな。
精神集中への段取りみたいなものか。
つまり、ニドヘグが邪悪だということではない。
しゅん。
魔力の波が広がる。
その波に当てられて、何者かの姿がゆらりと見える。
と思った瞬間に、
しゅばっ
淡い光が発せられ、そいつらの姿が見えた。肉眼で。色つきで。
ニドヘグなのだろう、そいつらは、いわばファンタジーRPGの世界で言う、リザードマンのような姿をしていた。
彼等は総勢、30名はいるだろうか。
腰に大きな両手用の刀を佩き、日本古来の武士が着るような鎧で武装している。
さすがに鍬形のついたド派手な兜はつけていないが。
「総員迎撃準備!」
エリザベスが叫び、兵士達が武器を構えた。
石弓だ。
前回の籠城戦でも使ったが、あれは変則的な応用の部類に入る。
弓兵ってのは、本来は、このような開けた場所で最も効果を発揮するのだ。
だが、それは相手も同じ。
ニドヘグの何人かは、大きな弓を手にしていた。
まずは飛び道具の応酬になるだろう。
その間隙を縫って、飛び出した兵士達が白兵戦を繰り広げる。そういう流れだ。
分類的には、ニドヘグたちは、弓兵と歩兵、そして魔法兵の3種。
魔法兵は文字どおり魔法を使う兵士のこと。
こちらも、歩兵、石弓兵、魔法兵の3種だが、巨人族は重装歩兵と見た方が良いかもしれない。
重装歩兵は1ランク上の歩兵って考えればいいだろう。
ランクが高ければ有利な兵科でも、それだけ倒しにくくなる。
巨人族の男たちは、全員が勇敢な戦士であり、巨大な棍棒や斧で武装している。
ちょっとやそっとでは打倒せない。
そして、オレ。
オレは分類的には魔法兵にあたる。
が、自分で言うのも何だが、規格外の魔法が使える。
兵科は簡単にいえば、じゃんけんの関係に近い。
中国でいえば五行だ。
じゃんけんなら、グーはチョキに勝ち、チョキはパーに勝ち、パーはグーに勝つ。
五行なら、火は金に克ち、金は木に克ち、木は土に克ち、土は水に克ち、水は火に克つ。
兵科間なら、弓兵は遠間では歩兵、騎兵に勝ち、騎兵は歩兵に勝つって具合だろう。
こういうと歩兵が役立たずのようだが、そうでもない。
弓兵は無尽蔵に矢を打てる訳ではないし、騎兵は足場の悪いところでは戦力を発揮できない。
対する歩兵は弾切れもなく、足場の悪いところでも戦える。
つまり、各兵科の特徴を把握し、状況に合わせて使用することが重要だ。
現状は、ほぼ同じ兵科なので、単純に数の多い方が勝つって感じか。
だとしたら、こちらが優勢だ。
ちなみに美紀とヒルデは一番後ろにいる。
美紀は非戦闘員。
ヒルデは……何だろ? 幽霊? 屍解仙?
アンデッドモンスター?
いや、違うな。
『何か、ヘンな妄想してるでしょ?』
「いえ、滅相もございませんや、お代官様」
『誰が、権力者の代わりに天領を治める官吏よ? てゆーか、早くみんなを助けるか、あいつらを倒すかしなさい』
ヒルデは意外に詳しい。
つーか、代官の概念は西洋にもあるだろうしな。一般常識のレベル?
「アイアイサー」
オレは言って、魔法の準備にかかった。
エリザベス隊は既に石弓を発射していた。
それに呼応するようにニドヘグ弓兵が矢を発射する。
やや遅れて、ニドヘグたちが抜刀し、突撃をかけてくる。
ニドヘグたちには、それしか方法が残されていない。
数で劣るし、長引けは長引くほど、こちらの援軍が駆けつけてしまう。
エリザベス隊の歩兵たちは、盾を構えて応戦する。
盾があると、武器のほとんどが当たらなくなる。
したがって、連続攻撃で、揺さぶりをかけて隙を作り出さなければならない。
だが、それをすれば、時間がかかる。
ニドヘグたちは不利になる。
エリザベス隊はそれを狙っていた。
矢が飛び交い、歩兵たちが戦う。
それを後方から魔法兵が支援する。炎の魔法だった。
しかし、バークレーたち、こちらの魔法兵はレジスト・ファイアをかけていた。
しかも、防御用のマジック・スクリーンを併用している。
炎の魔法は戦では普通に使われるスタンダード過ぎる魔法だ。
だから炎系の魔法使いは、どの国でも重宝される存在で、時には奪い合いにすらなるという。
このままでもこちらが勝つだろう。
だが、相手は全滅する。
生き残ってたとしても、恐らくは俘虜の辱めを受けるくらいなら自刃する。
ニドヘグたちが、オレらの世界のサムライと同じ思想をもつならそうする。
「時間よ!」
オレは念じた。
急に、オレの周囲で、すべての動きが遅くなった。
これで時間を稼いで、一人でも多くのニドヘグを救わなければならない。「止まれ!」
オレは精神を集中して命じた。
オレの体から魔力の帯が伸びてゆき、ニドヘグたちを捕まえる。
ニドヘグたちは、突然動きを止めた。
戦いの中だ。
はずみで、何人かが、切り伏せられたり、石弓を避けきれず食らった。
若干、魔法兵らしきニドヘグが抵抗していたが、
「むん」
オレが気合いを入れると、悶絶するように痙攣して、やがて動かなくなった。
「相変わらず、めちゃくちゃな魔力ですね…」
バークレーが呆れている。
動かなくなったニドヘグたちは、エリザベス隊が縛り上げていた。
怪我をしたニドヘグは回復魔法で治してやった。
戦場では、回復魔法は欠かせない。
怪我をした味方を治すのはもちろんのこと、拷問に掛け死にかけた捕虜を治して更に拷問にかけるのに使われる。
非人間的だが、それが戦というものである。
ま、オレは拷問するのが目的じゃないが。
「貴君らは、我が軍の捕虜となった」
オレは、ニドヘグたちに言い放った。
「貴国との交渉の一材料として活用させてもらう」
「……」
ニドヘグたちは押し黙っている。
その眼光だけが、オレらを射抜くかのように、爛々と輝いている。
「以上だ」
オレは、内心ちょっとおっかなかったが、極力ポーカーフェイスに徹した。
「……卑怯者め」
ニドヘグの一人が吐き捨てた。
「ふん、その卑怯者にも勝てぬのはどこのどなたかな? 己の未熟さを恥じるべきでは?」
オレは、負けずに言う。挑発だ。
「ぬ…」
ニドヘグは唸ったが、
「黙れ、そのような詭弁など我等には通じぬ」
別のニドヘグが言った。
どうやら、こいつがリーダー格のようだな。
「詭弁とは片腹痛い」
オレは意に介しないように言った。
「お国のために戦うのが貴君らの使命とみたが」
「……」
リーダー格のニドヘグは黙っている。
「この程度の困難で使命を果たせず、あまつさえ敵に捕えられる。それが恥でないなら、一体何なのか、教えてもらいたいものだ」
「それを貴様に言われる筋合いはないわ!」
「そうだ、卑怯者め!」
「正々堂々と戦え!」
ニドヘグたちは口をそろえて叫ぶ。
「卑怯も武の内ッ」
オレは声を張り上げた。
「敵に勝てぬ、是即ち国を守れぬという事!
貴君らの不断の心掛け、準備が甘いという事なのだ。
敵が卑怯な手を使う? その様な事は戦においては当然!
敵を非難する前に、己の甘さを恥じろ!」
オレが言うと、ニドヘグたちは驚き、目を見開いた。
「ぬぅ…」
そして、悔しそうに唸るのみ。
「命までは取らん。次の戦いまでに研鑽するのだな」
オレは言って、
「殺せ、このような屈辱を受けるくらいなら死を」
リーダー格のニドヘグは、震える声で言った。
コテンパンに論破したからな。ちょっち可哀想ではあるが、
「バカモン!」
オレはどなり散らした。
「貴君らに聞く! サムライとは何だ!?」
「…なっ!?」
ニドヘグたちは、また驚きで目を見開く。
「貴様にそのような事を答える謂れはない!」
「そうだ!」
ニドヘグたちは、口々に罵った。
「サムライとは……武士道とは何か!?」
オレは無視して、続けた。
ここで怯んだら負けだ。
ニドヘグたちを睨みつける。
「武士道とは死ぬ事と見つけたり」
オレは言った。
「なにっ」
ニドヘグたちは全員、あんぐりと口を開け、オレを見つめた。
単純に驚いていた。
「でも、ただ死ねばいいってことじゃない。何かを守るために死ぬんだ」
「……では訊こう、貴様の言う何かとは?」
「大義だ」
オレは厳かに答えた。
ニドヘグたちは、いつの間にかシーンとしていて、オレの言葉に聞き入っている。
「大義のために生き、大義のために死ぬ。
例え、俘虜の憂き目に会ったとしても、恥を忍んで生き、次の戦のために全力を尽くして戦い死ぬ。
それが真のサムライ、武士道だ」
「……」
ニドヘグたちは、その後、言い返す事はなかった。
そうです、舌先三寸です。
「カイ君ってさ、一流の詐欺師になれるわよ」
鐶がオレを見た。
からかっているように見えて、その実、誉めているようでもある。
オレらはニドヘグたちを監禁用のテントへ押し込めていた。
「状況から最善の選択をしたまでだ」
オレは言った。
「そうね」
「それに、オレらだってサムライたちの子孫だ」
「うん、そうだね」
鐶はうなずく。
どうやら、共感するところがあるらしい。
さすが、武門の家柄というところか。
黒いけど。
「なんか、ヘンな事考えたでしょ?」
「いえ、滅相もない、お代官様」
「だれが支配者の代わりに天領を治める官よ?」
あの、ヒルデと同じリアクションなんですけど、鐶さん。
現代日本人としては、ヘンだぞ、ソレ。
「誰がヘンなのよ、誰が!」
「ぐええッ」
オレは鐶の手首関節技を食らって悶絶。
「カイは一体何者なのだ?」
エリザベスは、感心と関心と疑問と不思議さを一緒くたにしたような表情。「ニドヘグどもの主義思想をあれほど熟知して活用するとは…」
エリザベスだけではなく、他のみんなも同じ疑問を持っているようだった。
「オレらが別の世界から来たのは、みんなも知ってると思うが、そこではオレらの先祖はニドヘグたちと同等の主義思想を有していたんだ」
「天界の話ですね」
バークレーが補足する。
みんなに分かりやすく、噛み砕いて説明する必要があるってことだ。
「そう。オレらの住んでいた国は、今では武士階級はなくなっているんだが、精神的な拠り所としては、やはり武士道ってのがどこかに残っている」
「なるほど。でも、ニブルヘイムに気持ちが傾いたりしないだろうな?」
エリザベスは、言いにくいことだろうに、それでもはっきりと口にした。
「それはない」
オレはきっぱりと言った。
「一度、アスガルドに仕えたからには、主君を裏切るのは武士道に反する」
「うむ、分かった」
エリザベスはうなずく。
武人ならではの通じるところがあったようだ。
「それで、一時アスガルドへ戻るか?」
「使いを出して、交代要員を寄越してもらってください。交代要員が到着したら、オレらはアスガルドに戻ります」
「了解した、カイ殿」
エリザベスは、軍隊っぽく敬礼して、そして、いたずらっぽく微笑んだ。
「カイ君、エリザベスさんと仲いいみたいじゃない」
美紀がニコニコして、言った。
でもその腹の中は煮えくり返っているんだろうな。
「いや、それは、オレは別に何も…」
いつもの如く、しどろもどろになるオレ。
「やめなさいよ、美紀ちゃん」
鐶が美紀を咎める。
ほっ、助かった。
「後で、しっかりヤキ入れてやればいいでしょ?」
「それもそうね」
前言撤回。
二人とも、なんでそんなに嫉妬深いのかしら?
「ヒルデ、二人になんか言ってやってくれよぅ」
『自業自得でしょ』
ヒルデはツーンとしてそっぽを向いている。
四面楚歌ってこの事?