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 すぐにニブルヘイムに詳しい者ってのが遣わされてきた。

 アーネストという司教だった。

 色の白い、ひょろっとした男だ。いかにも学問だけやってきましたって印象がする。

 『天の御使い』と話すとあってか、緊張している。


 で、早速、話を聞いてみた。

 以下そのまとめ。


「ニブルヘイムはミッドガルドの東にあります。

 ニブルヘイムを基点として、北にヨツンヘイム、西にミッドガルド、南にムスペルヘイムと隣接しております」

「国土は?」

「ニブルヘイムの国土の大部分は、沼地と森、それに山岳部が多く、わずかに東部の沿岸部に平野があります」

「住んでいる種族は?」

「ニブルヘイムに住むのは竜蛇族、俗にニドヘグと呼ばれる種族です。彼らは昔は狩猟で生計を立てておりましたが、最近は産業に力を入れているようです。

 ニドヘグは部族や氏族単位でコミニュティーを形成するのが基本です。それらが集まって頂点に立つのがニドヘグ王です。

 またニドヘグたちは利益より主義主張を重視し、義理や人情に厚い傾向があります。約束事を破るのが最大の恥とされるようですね」

「産業は?」

「農耕、畜産、狩猟、それに養蚕をやっているはずです」

「経…いや、商売は?」

「私はあまり商売向きのことは分かりませんが、養蚕により絹糸が取れ、それをムスペルヘイムやミッドガルド東部へ輸出しているはずです」

「他国より輸入してる商品は?」

「毛織物、ガラス細工、宝石類、楽器などですね。

 毛織物、ガラス細工はミッドガルドから、宝石類、楽器はムスペルヘイムから輸入されています」


 ふーん。

 オレは話の内容を吟味する。

 改めて聞くと、ヨツンヘイム、ムスペルヘイムと接してるって事が気になる。

 しかも養蚕って中国みたいだが、気質は何だかサムライ…?

「石炭は取れるんですか?」

 オレは、アーネストに聞いてみた。

「それはニブルヘイムでという事ですね? 石炭はあると思いますよ」

 アーネストはうなずく。

「ただ、他国へは輸出していないようですね。

 埋蔵量が少ないのか、消費数量が少なくて掘らなくてもいいのかは分かりませんが、国内消費が主でしょう」

「そうですか」

 オレは言って、思考に入る。

 石炭はある。

 なら、ムスペルヘイムと関係してくるものは何だろう?

「失礼ですが、天の御使い殿はニブルヘイムと他国との関係を知りたいということで、よろしいのでしょうか?」

 アーネストは、若干、顔を赤くして言った。

 あ、人見知りだ。

 人見知りが、勇気を出して自分から話そうとすると、こんな風になるよな。

「はい、そうです」

「でしたら、ニブルヘイムとムスペルヘイムの間では文化交流が最も盛んだというのが参考になると思いますよ」

「へー」

 オレは、歴史で習ったインドと中国の関係を思い出してしまった。

「それは学問などですか?」

「はい、その通りです」

 アーネストは言った。

「実は、私の専門はそこでして、ムスペルヘイムの北東部の地域で発生した『フォー教』が最も学問として地位の高いものでしょう。

 ニドヘグたちの中では『フォー教』を信仰する者が少なくありません」

 でたよ、仏教っぽいヤツ。

 それにしても宗教か、それもアスガルドのアバウトなヤツでなく、がちがちに戒律で縛る系っぽい。

 そういうの好きなんだろうな、アーネスト。

「そのフォー教の経典などは、ニブルヘイムに輸出されたりしていますか?」

 オレは聞いてみた。

 ホントなら、『ニブルヘイムの偉い坊さんが、ムスペルヘイムまでスゲーお経取りに行ったことがあるか』って聞きたかったけど、なんか具体的過ぎるのでやめた。

「ありえますね、ムスペルヘイムの高僧が布教しにニブルヘイムまで渡っているそうですので」

「ありがとう」

 オレは微笑んだ。

 話は一旦、終わりということだ。

「お役に立てましたでしょうか?」

 アーネストは、おどおどした様子で聞いてくる。

「もちろんです」

 オレは笑顔で答えると、


 ほっ


 アーネストは安心したように息をついた。


 ******


 ニブルヘイムは、ムスペルヘイムとの交流が最も多く、ミッドガルドはその次、ヨツンヘイムとの交流は極小なようだ。

 それが何を意味するのか。

 ムスペルヘイムの影響力が高いということ。

 ニブルヘイムに住む竜蛇族、ニドヘグはフォー教を信じるものが多く、義理人情に厚く、約束事を破るのが恥。

 そして、主義主張を重んじる。

 恐らくこの辺に、何かが潜んでいるのではないだろうか。

 オレは推測した。

 例えば、典型的なパターンとしては、こうだ。

 悪の王が治める国が我らの領土を侵そうとしている。

 不埒な悪魔どもに正義の鉄槌を叩き込み、我らの教義をかの地に広めて善き国に変えてゆくのだ。

 むろん、ここで言う、悪の王が治める国ってのはミッドガルド。

 勧善懲悪の思考パターンを用いて、いつの間にか教義を広めるってことを前提に話を進めるのが目的だ。

 事実だけを言えば、


 侵略されそうでしたが、逆に侵略してみました。


 って話だが、宗教などを持ち込んで味付けをすれば、これほど美味しく感じるものはないということ。

 やってる本人たちに罪悪感がないってのが最大の利点だろう。

 ま、どこの世界でもやることは同じだ。

 逆に言えば、それだけやられているって事は、何がしか効果があるってこと。だから典型化する。


 話を一旦、置いとこう。

 批判をするのが目的じゃないのでな。

 もし魔王軍が策を打ってくるとしたら、どんな風に推し進めるか?

 タイミングは、ミッドガルドが辺境の魔王軍と戦っている時だろう。

 こちらとしては、後ろを突かれることになる。

 その方法は、正面からではなく最も効率の良いところを狙うはず。

 つまり、こちらの泣き所だ。

 潰されたら困る部分。

 ……ヨツンヘイムに限れば石炭採掘所か。

 今回発掘した石炭は、ミッドガルドの国境近くに位置していた。

 もしかしたら、ニブルヘイムとも近いのかもしれない。


 オレは早速、大司教を訪ねた。

「背後を突く気とはな」

 大司教は唸った。

 最近、オレの周りでは唸ってばかりの人が多い。

「だが、それだけで派兵が取り消されたりはしないだろう? 我がミッドガルドがそれしきで潰れるはずもない」

「そうですね」

 オレはうなずく。

「でも、石炭を潰せば、辺境における情勢は元に戻ります。

 石炭の共同開発ができなければヴァナヘイムにメリットはありません。

 ヴァナヘイムの協力がなければ、今回の戦いは根底から覆りますからね。

 そうなったら、派兵して一時的に魔王軍を追い返しても、恐らく適当に戦って撤退するだけでしょう。

 状況が変わらなければ、魔王軍は頃合を見てまた攻撃してきます。そうなれば堂々巡りです」

 そうなのだ。

 肝心なのは、戦って勝つことではなく、その後に相手が踏み込んで来れないような間合いを作ることなのだ。

 従って、ヴァナヘイムと辺境とミッドガルドが協力することが第一となる。

「そうか…」

 大司教は苦い顔。

「ですが、分かったこともあります。こんな回りくどい手を打ってくるってのは、直接叩く余裕がないってことです」

「だとしたら、どうなんだ?」

 大司教は聞いた。

 ピンと来なかったようだ。

 このところ連日の会議で疲れが出てきたのかもしれない。

「こちら側から見たら、付け込む隙だということです」

「ふむ、そのへんの具体策は任せた」

「はい」

 いつものやり取りをして、打ち合わせ終了。


 ******


 オレは、今取り組んでいる課題を整理してみた。


 ヨツンヘイムの石炭について。

 魔王軍が仕掛けてくるとしたら、ニブルヘイムを介してやってくるだろう。

 やり方としては、まだ不明な部分が多いが、フォー教を利用するのではないかと思われる。

 ニブルヘイムの住人、ニドヘグたちには、フォー教を信仰する者が多いことから。

 従って、石炭採掘所の防備を固める必要がある。

 同時に辺境への派兵を進めて、ヴァナヘイム、辺境の諸侯、ミッドガルドの三者で、魔王軍を叩く。


 アラビカ豆について。

 アラビカ豆の輸入を続けるとともに、アラビカ豆の栽培を行う。

 コーヒー・ショップ事業を始め、徐々に普及させてゆき、いずれは国外にも店舗を進出させる。

 そして、他国のアラビカ豆を使って、他国の市場へ売り、収益をごっそり回収する。

 他人のふんどしで相撲を取るってヤツだ。


 小麦の増産について。

 試験農場を設立し、小麦の栽培指導を行い、収穫量を高くし、食糧の貯蔵に努める。

 余剰分は、ヨツンヘイムなどの小麦の取れない国へ輸出し、影響力を強めるとともに利益を得る。

 また、酒造所より出る絞りカスやクズ小麦を肥料として活用したり、飼料にして畜産と絡める。

 家畜の糞便を肥料とするのも忘れない。


 酒の輸出市場縮小について。

 救済策として、醸造アルコールの生産を行う。

 木精、つまりメタノールに混ぜて安価で安定供給をしてゆく。


 人質の有効活用について。

 魔族の女の子は、魔王の軍勢の中では地位があると考えられる。

 暗殺は自己判断のようだ。

 身代金を取るとか、不利な要求を飲ませるなどの活用法が考えられる。


 そして、ニブルヘイムについて。

 オレの考えでは、ニブルヘイムとは友好関係を築いてゆかなければならない。

 でなければ、ムスペルへイムとつながりの強いニブルヘイムは、いつ何時、ミッドガルドの背後を突くか分からないからだ。

 逆に言えば、ムスペルヘイムを拠点とする魔王軍には、ニブルヘイムを介さなければ、ヨツンヘイムを叩くことができないのだ。

 最も効果があるのは、ニドヘグたちに約束をさせてしまうことだろうな。

 約束を破るのを嫌う種族であれば、それが拘束力となり、そう簡単にはヨツンヘイムに手出しできなくなる。


 これらの懸案中、最優先が求められるのは、


 ・ヨツンヘイムの石炭採掘所の防備を固める

 ・ニブルヘイムと根本からの友好関係を築く


 の二つだろう。

 辺境の緩衝地帯への派兵は決定事項なので、除外。

 どちらも防御というのが気に食わないのだが、まあ、後手に回ってしまったものは仕方ない。

 魔王軍の方が攻撃優勢ということなのだ。

 防御が即ち攻撃に転化できるよう心がけてゆこう。

 その他の懸案は後回しか、誰かに頼もう。


 ではどう進めたらよいか?


 石炭採掘所の防備を増やすことについては、辺境へ派兵する兵力を割く訳だから、最低限の兵力で行わなければならない。

 となると、オレ、鐶、エリザベスの部隊だけで十分かもしれない。

 襲撃があるとしても、ニブルヘイムの全軍が押し寄せるわけないだろう。少数精鋭で奇襲をかけてくるはずだ。


 ニブルヘイムとの友好関係については……まあ、道々考えるか。


 ******


 オレがサウナ後に部屋でまったりしていると、

『カイ、いる?』

 ヒルデがひょこんと顔を出した。

「おう、どうした?」

『別に』

 ヒルデは言って、ささっとオレの側へ腰を下ろす。


 ぴた。


 身体をくっつけてくる。

 おおっ。

 オレは、つい相好を崩してしまう。

『カイが従軍する前に、二人だけの時間が欲しいの』

 ヒルデは、何だか切ない表情をしていた。

「従軍って言ったって勝てるいくさだ。気持ちは分かるけどな」

『うん、でも、ちょっと怖いの』

 ヒルデは少し震えていた。

「大丈夫」

 オレはヒルデを抱きしめた。

「オレは、もうヒルデの前からいなくなったりしない」

『うん』

 オレはヒルデにキスした。

「絶対、帰ってくる」

『うん、分かった』

 ヒルデはうなずきつつ、ずっとオレに頭を預けていた。

「なんなら、ここに泊まってくか?」

『……そうしたいけど、でも、あの娘たちが…』

「呼んだかしら?」

「ジャジャジャジャーン!」

 呼んでねーけどな。

 思いつつ見ると、戸口に立つ者たちがいた。

 もちろん、鐶と美紀である。

 あうーん。

 何で、いつもこうなるのッ!?

「ふーん、カイ君、それはダメダメよ!」

「そうよ、カイ君、やらしいことする気でしょ!?」

「いや、ヒルデの心情を考えたらそうせざるを得ないだろ、人としてッ」

 オレは訴えたが、

「問答無用ッ」

「その通りッ」

 鐶と美紀は、オレとヒルデの隣へどっかと腰を下ろす。

「さあ、あたしといちゃつくのよ!」

「ダメよ、あたしとキスするのよッ!」

「まっ、なんてはしたないの、美紀ちゃん!?」

「うるさいわね、したもん勝ちなのよ、世の中ッ」

「なにー、じゃあ、あたしは舌入れるもん」

「舌くらい、もう入れてるもんねー、カイ君ッ!?」

 いや、オレに振るな。

「ホントなの、カイ君ッッ」

 鐶がオレに詰め寄る。

「エーイッ」

 そんで、いきなりオレの頭をつかんで、ぶちゅっとキスをした。

 あうっ。

 舌が。舌がッ!?

 にゅろん。にゅろろん。

「うっ…」

 オレはうめいた。

 やべー、これ以上はマジやべー。

「こらああっ!」

 美紀がムリヤリ、オレと鐶を引き剥がす。

「ちっ…」

 鐶は舌打ち。

 ふう、助かった。

『ん…』

 と思ったら、ヒルデが素早くオレにキスしていた。

 おおおっ!?

 すげー。

 ご馳走責めってヤツ?

 オレの理性は、そろそろ決壊しそうだってとこで、

「だっしゃああああああっ」

 美紀がキレた。

 そして、最終奥義発動。

 オレは乱舞系の猛攻を受け、昇天したのだった。

 いやーん。

 またこのパターンなの?


 ******


 オレは朝っぱらから神殿を訪れていた。

 大司教に石炭採掘所の防衛の件を伝えないとね。

「おう、早いな」

「急を要する事ですので」

「なんだい?」

「はい、ヨツンヘイムの石炭採掘所の防衛ですが、エリザベスさんの部隊とオレたちが行こうと思います」

 オレは説明を始める。

「うん、その辺が相場だろうな」

 大司教は唸りつつも、うなずく。

「それと今すぐにでもニブルヘイムと友好関係を築く方策を考えないといけません。何時までも背後に怯える状況を維持する訳には行きませんから」

「具体案はあんのかい?」

「それが、まだ思いつきません」

「じゃあ、もしニドヘグが採掘所を襲ってきたら、殺さずに生け捕りにしろ」

 大司教は言った。

「人質を使ってヤツらと交渉できる」

 なるほど。

 でも、そんな器用な事ができるかな。

「できるだけがんばって見ます」

 オレはうなずいた。


 そして、その足でエリザベス宅に行き、同じ事を伝えた。

「軍部から追って通達があると思います」

「通達など待ってる暇はないぞ」

 エリザベスは、やはりせっかちだった。

 ま、この場合は正しいかもしれないが、組織上はまずいんでないかな。

「来ましたよ、通達」

 バークレーが入ってきた。

 ご都合主義だなあ。

「では、支度してきます」

「早くしろよッ」

 エリザベスが凄む。

 鬼軍曹ですか?


 オレは戻ってすぐみんなに報告。

「留守中は、マサオ、お前がみんなの面倒を見ろよ」

 オレは、最近、出番のないマサオを指差した。

「任せてくれさまえさ」

 マサオは請け負った。

「準備オーケーだよ」

 鐶が言った。

「こっちも」

 美紀が言った。

『あたしも』

 ヒルデが言った。

「え、なんだい、君たちッ!?」

「二人とも着いてくって聞かないのよ」

 鐶は困ったような笑顔である。

「き、危険だっつーのッ!」

 オレは慌てふためく。

「キミたちに何かあったら、オレは生きてけないんだってば!」

「もう、待ってるだけなんてイヤなのッ」

 美紀は主張した。

『あたしは、幽霊だから死なないんだけど』

 ヒルデも主張した。

 うーん。

 百歩譲って、ヒルデはつれてったとしても、美紀はダメだ。

「イヤアッ、美紀、頼むから、オレの言うこと聞いてよぅっ!!」

 オレは恥も外聞もなく、頼み込む。

「で、でもォ……」

 美紀は食い下がる。

「いつも、あたしだけ、待ってなきゃならないなんて、耐えられないんだもん!」

「そ、そんな事言ったってさあ…」

 オレは、ほとほと困り果てた。

 早く出発しなければならないって時に…。

「美紀ちゃん、わがままはやめなさい」

 鐶はぴしゃりと言った。

「足手まといなのよ」

「ぐっ…」

「カイ君のお荷物になって、カイ君を危ない目に会わせたいの?」

「で、でも…」

「あたしのように一人で戦えるんならいいわ。でもそうじゃない」

「……」

「カイ君が美紀ちゃんをかばって全力を出し切れないのが一番ダメなの、それは一番やっちゃいけないことなのよ」

「戦えればいいんでしょ?」

 美紀は開き直った。

「美紀ちゃん?」

 鐶は怪訝な顔。

「戦えるもん、今、ここで証明するもん!」

 美紀は叫んだ。

「……面白いじゃん」

 鐶は真顔になった。

 諭すモードから、ガチンコモードになったのだ。

 凄みが増す。

 一歩踏み出した。


 パチン。


「キャッ」


 何をしたか分からないほどの早業で、鐶の掌が、美紀の頬を打っていた。

 ビンタだった。


 きっ


 美紀は、鐶を睨みつけ、


「このっ」


 フルスイングで平手打ちを見舞った。

 鐶は、ほとんど動かずに上体だけの動きで、それをかわした。

 見切っている。

「あらーっ」

 美紀は自分の力でくるりと一回転した。


 バチン。


 そこへ二撃目の平手打ちが見舞われる。

「キャッ!?」

 美紀の悲鳴。

「このーッ」

 美紀は怯まなかった。

 やはり、フルスイングで平手打ちを返す。

 空振り。

 バチン。

 鐶の平手打ち。

「くっ…」

 悲鳴が上がらなくなった。

「このっ!」

 美紀は、やはりフルスイングで平手打ち。


 バチッ。


 鐶はもろにそれを食らった。

 悲鳴はない。

「あ…」

 美紀は呆然としている。

 な、なぜ?

 オレは内心穏やかじゃなかった。

 オレの愛するスイートハートたちが、ケンカするなんて。

「…ふん、やればできるじゃん」

 鐶はじっと美紀を見据えてから、

「早く支度してよ? それでなくても遅れてんだから」

 さっさとオレの隣へ歩いてくる。

「え…?」

 美紀は、ぱちくりと目をしばたいている。

「あ、あにょー、オレの意見は……?」

「あん?」

 鐶は殺気だった目でオレを睨む。

 こ、こわー。

 チビりそうです。

「カイ君、分かる? あたし、今、虫の居所悪いの」

「よーく分かりました」


 ごすっ


 オレは八つ当たりの一撃を食らって、ノビた。


 ******


 はい、気がつくと、既に出発してました。

 エリザベスの部隊とオレの愛する三人娘と一緒ですよ。

「あれ、もう出発したの?」

「カイ君が気持ちよく寝てる間にね」

 鐶が言う。

「それより、美紀ちゃんとヒルデちゃんを守りなさいよ?」

「ああ、もちろんだ」

 オレは言った。

「お前も含めてな」

「…バカ」

 鐶はそっぽを向いた。

 ちょっと頬を染めていたようだった。

 素直じゃないな、キミは。

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