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「始、お前、見て来いや!」
「やだよ、自分で行けよ!」
「いやいやいや、ここでお前がやれば男が上がる!」
「上がんなくていいもーん。つーか、命令すんな。言いだしっぺがやるべきだろ?」
「てめー、やれっつったらやれよ!」
「やだね!」
オレと始は、のっけから、みっともない押し付け合いをしていた。
誰ともなく景色を眺めているうちに外へ行ってみよう→でも誰が? という流れだ。
「あのさー、君たち醜い争いはヤミてくれるぅ?」
呆れた声がする。
鐶だった。
「ねー、まず先生を頼るべきじゃん?」
美紀がまともな意見を言った。
こいつは外見こそレディース入ってるが、その実まともな思考の持ち主だ。
「そーそー」
鐶がうなずく。
「あいつら、こういう時にこそ生徒を守るために命を投げ出すべきなのよ。土蜘蛛みたいな凶悪な未来人から生徒たちを守って市にやがれ。セクハラなんかで全国版にぎわしてる場合じゃねーっつの」
「あ、それ同感」
美紀もうなずく。
前言撤回。
こいつら性根が腐ってやがる。
******
とはいえ正論である。
身近にいる大人を呼ぶのが、世間一般での常識に従った行動だろう。
他のクラスメイトたちも同じ意見のようで、オレたちはぞろぞろと教室を出た。
隣のクラスも、そのまた隣のクラスのヤツらも、同じように廊下へ出てきていた。
「職員室へ行こうぜ」
「今頃、何言ってんのさ。先生たちはみんな使い物にならないさ」
と、オレたちの前に立ちはだかったのは、見るからにキザッぽい男子。
整った顔立ちで、いわゆる二枚目。
笑うと歯がキラリと光る。
身に着けているものはみな高級品。
家が金持ち。
「マサオじゃん」
オレはうざったそうにそいつを見た。
なぜだか、ヤツはオレを敵視しているというか、いつもつっかかってくるのだ。
「惜しい、マスオさんとは一文字違いかぁー」
始は何事かくっちゃべっている。
……アホだ。
「…いや、お前の思考、狂ってるし」
オレは始に汚いものでも見るような視線を浴びせたが、一向に効き目はなかった。
「相変わらず、訳の分からんことを!」
マサオは声を荒げた。
勢いだけのセリフが得意技だな。
「いや、分からんのは始だけだが」
オレは冷静に反論するが、
「うるさいっ」
マサオは、さらにイラついてきたようだ。
「さっきボクら、2−Bの有志たちが職員室へ行ったけど、先生たちはみんな現実逃避してたさ。大人たちは現実を受け入れられるほど頭が柔らかくはないってことさ」
「……ちっ、役立たずどもめ」
オレは舌打ちした。先公どもは後で全員、極刑に処してやる。
「とりあえず、オレが法律だ!」
オレはいきなり怒鳴った。
「突然何を言ってるのさ?」
マサオは哀れむような視線を向ける。
「るせぇ、てめー誰の味方だあっ!?」
オレの方こそ勢いだけのセリフだったが、
「……ボクは鐶クンの味方さ」
マサオはぼそっと言った。
そう、コイツは鐶に惚れている。
「黙れ。このキモメンがっ!」
悲しいことに鐶は相手にしてないが。
ま、みんな知ってることだが、鐶はオレに惚れてる。
「キ、キモメン…ッ。ボクがキモッ!? ボクキモッ!?」
マサオは真っ青になって取り乱す。
自尊心が客観的な判断を受け入れられないのだろうな。
「きーッ、ぼくはキモくない、キモくない、キモくない、キモくない。肌のお手入れだってしてるし、ムダ毛の処理もしているし、(以下略)」
回路がショートしたロボットの如くブツブツと自分の世界に逃避してしまった。
気の毒に。
と瞬間的に思ったが、
「さて!」
すぐに気持ちを切り替える。
「どうする?」
「んーと地形を把握するのが吉だな!」
オレは何の根拠もなく叫んだ。
ゲームではまずこれが先決だしなぁ!
「ふん、今日だけその意見に乗ってやらあ」
「あら、カイ君もたまにはまともなこと言うんだね」
「うん、カイ君が言うならぁっ」
……お前らヘン過ぎるぞ。