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28

 派兵の期日が近づいてきた。

 既に先発隊が出発しており、現地の諸侯軍と合流する運びだ。

 ヴァナヘイムとの連絡も取れており、情勢は魔王軍に不利な感じになってきている。

 ここでどんな工作を仕掛けてくるかは分からないが、注意を怠らないようにしないといけない。


「カイ、オメーも参加しろや」

 大司教が言った。

 前振りとか、まったくなしでだ。

「参加って、派遣軍にですか?」

「おうよ」

 大司教はうなずく。

「オメーの魔法で魔王軍を蹴散らして来い」

「はあ、でも、せめて木精の件を片付けたかったんですけどね」

 オレが言うと、

「そんなのマイヤー家のボウズに任せとけ。あんまりお前が前に出すぎると、後発が育たねーしな」

 大司教はきっぱり言った。

「わかりました」

 ま、それもそうだ。


「という訳で、従軍することになったよ」

 オレは愛する彼女たちに報告。

「あたしは当然、付いてくのよね?」

 鐶は、ホクホク顔であるが、

「あたしも!」

『あたしも行きたいなー』

 美紀とヒルデは予想通りの展開。

「いや、魔王軍が何を仕掛けてくるか分からないから…」

 オレが断りの文句を言いかけると、

『あら、それはここに居ても同じでしょ?』

 ヒルデはさらりと言った。

『魔王の手下が送り込まれたら、多分、こちらの兵士だけでは対処できないわよ』

「……怖いこと言うね、ヒルデちゃんは」

『だから“ちゃん”付け、しないでよ。って、もうこのセリフ言わせないでよ』

 ヒルデはお約束のセリフ。

 言いたくないなら最初から言うなよ。

「でも、オレが従軍したら、投入してこないよ」

 オレは言った。

 万が一。

 万が一だが、そんなことになったら、オレは刺し違えても魔王を殺しに行く。

 いたずらに殺戮をしても、逆効果になるだけだ。

 なので、合理的思考の持ち主ならば、余程メリットがあるか、必要性があるか、もう打つ手がないって所まで追い込まれない限り実行しない。

 同じ理由で、オレも魔王をピンポイントで暗殺するなんてことはしない。

 RPGの勇者じゃないのだ。

 もはや単身敵地に乗り込むしかないなんてのは、戦略的に負けている証拠だ。

 ま、RPGはスタート時に既にそういう設定だから仕方ないけど。

 こんなのは、彼女たちの反応が怖いので、言わない。

 ヘタレなオレ。

 ……あれ? 待てよ、てことは、あの魔族の娘って自己判断でオレを殺ろうとしたんでスか? 単独犯ですか?

「でもぉ」

 美紀は不満そうに言って、

「エリザベスさんは行くんでしょ?」

 そして、嫉妬の炎が噴出。

『そうよね、エリザベスとラブラブになって帰ってくる気でしょ?』

 ヒルデが要らん事を言った。

 でも、眼光が怖いので、文句言えないの、ボク。

「ホントなの、カイ君!?」

「この、ハーレム・エンダーッ!」

 鐶と美紀が口々に叫んだ。

 えらい言われようだな、オレ。

 つーか、ハーレム・エンダーって何?


 何とかなだめすかしたものの、いつもよりか、ヒートアップした3人がオレの部屋に押しかけてきて、結局、4人で寝ました。

 ああ、幸せ。

 でも、誰にも手が出せないの。

 三すくみってヤツ?

 ……違うか。


 ******


 オレは鐶と連れ立って、エリザベス宅を訪ねた。

「ああ、カイか」

 エリザベスは忙しそうに動き回っていた。

 既に彼女の部下の兵士たちが終結しており、行軍の支度も最終段階に入っていた。

「オレも行軍に加わることになりました」

「え、そうなのか?」

 エリザベスは、ぱっと表情を輝かせた。


 じーっ


 横で、鐶とバークレーの視線が厳しくなったように感じたが、

「エリザベスさんの部隊に入れてもらうべきでしょうね、神殿所属のオレとしては。バークレーさんも居ますし」

 オレは、その視線から逃れるように理由付け。

「そうだな、カイの魔法があれば助かるな」

 エリザベスは言った。

 そうね。

 分かってはいたけど、そっちが嬉しいんだよね。

 がくっ。

 鐶とバークレーの視線が、『残念だったね、キミィ』という感じに変わる。

「ところで、派兵の前に一度お礼を言っておこうと思いまして」

「お礼?」

 エリザベスの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。

 初期の住まいや物資的援助、新酒造所の建設資金などなど。

「……ああ、そんなのいいよ」

 エリザベスは淡白だった。

「民草を助けるのは、我々の務めだ。

 酒造所は、今でも私の名義だし。上がりの何割かは私に入ってきているだろう? それで十分だ」

「いえ、そういう訳にはいきませんよ。オレらは感謝の意を表したいんです」

「あんまり断るのも失礼ですよ、エリザベス様」

 バークレーが諭すように言う。

「そうだな」

 エリザベスは根負けしたように言った。

「エリザベスさんは、お金は受け取らないでしょうから、学校のみんなで手作りしたものを持参しました」

 オレが言うと、

 バークレーが『よく、分かってらっしゃる』ってな感じで、苦笑した。 

「どうぞ、お納めください」

 包みを渡す。

「かたじけない、ありがたく頂く」

 エリザベスはちょっと期待のこもった表情で包みを受け取った。

 包みの中には、女子のみんなが作った可愛らしい刺繍、編み物、縫い物として人形などが入っていた。

「わぁっ」

 エリザベスは少女っぽい声を上げた。喜んでる。

 う……なんか、すっごい好きそう。

「ありがとう、カイ」

 エリザベスは無邪気にお礼を言ったが、


 しゃきーん。


 脇の二人の視線が、またもやキビしくなって、オレは居心地が悪くてしょうがない。

「あれ、これは何?」

 エリザベスは言って、包みの奥に入っていたものを取り出す。

 で、でてきたのは…。


 木彫りの彫像。(By.ロン毛)

 ハンディサイズ。

 彫った本人いわく、心が和む外見なのだそうだが、

 どうみても地獄で生み出されたこの世の苦しみを一心に受け、歪んだ欲望と悲しみをもって世に苦悩というものを知らしめるべく現れた化身のような外見をしていた。


「……ッ!?」

 それを見たエリザベスは黙りこくってしまった。

 バークレーも、鐶も、オレも、右に同じ。

 いや、だから入れるなっつたのに…。

 ま、人知れず捨てられるのも時間の問題だな。


 ******


 オレはエリザベスとバークレーと分かれ、再び神殿に足を運んだ。

 目的は地下牢の女の子だ。

「よう」

 オレが柵の前に立つと、女の子がオレを見た。

 その瞳には何も映っていない。

 何か既に抜け殻っぽい。

「調子はどうだ?」

「…見れば分かるでしょう?」

 女の子は投げやりに言い捨てた。

 大分、痩せていたが、気力はまだありそうだ。

「一つ聞きたい。君がオレを殺そうとしたのは、上からの指示じゃなくて、自分で判断したことじゃないのか?」

 オレが言うと、


 ピクッ


 女の子は肩を震わせた。

 図星か。

「本来の任務は潜入して、オレの動向をつぶさに報告するってとこだろう?」

「……」

 女の子は黙っている。

「魔力付与ってのか、魔法も使えるようだしな」

 オレは短剣を持参していた。

 今は魔力が感じられない。

「それが?」

 女の子は口を開いた。

「いや、魔王の方針を確認できた。また一歩前進した。ヤツの思考パターンを理解することができれば対処しやすくなる」

「……させない」

 女の子の瞳に殺意が宿る。

「何とでも言え」

 オレは相手にもしなかった。

 演技だ。

 本心は、乗ってきたな、だ。

 揺さぶりをかけて、どんどん情報を入手したいのだった。

「君は魔王に惚れてるな?」

 オレが言うと、

「……ッ」

 女の子の頬が明らかに真っ赤になった。

 魔王も罪作りだな。

「ヤツのために敵を葬り去ろうと思った、そうだな?」

「……」

 女の子は黙っている。

 殺意が増したようだった。

 オレの脇で、鐶が悲しそうな顔をしているのが目に入った。

 でも、今は目的のためにやらなければならない。

「てことは、君は軍勢の中では結構な地位にあるんじゃないのか?」

 オレは推測を口にした。

 魔王と直で会えるとすると、近衛隊とか護衛とかかな。

「だったら?」

 女の子は挑むように俺を見た。

「簡単だ、人質として活用する」

 そう。

 身代金を取る。不利な条件を飲ませる。

 この二つが考えられる。

「クズめ…」

 女の子は吐き捨てた。

「クズでけっこう。オレは目的のためには手段は選ばない方でね」

 オレは悪役振る。

「どんなことをして遊ぼうかな…?」

 ふっふっふっ。

 オレは悪役になりきって、嫌らしそうな笑みを浮かべ、視姦するかのように女の子の身体を見た。

 そうです、悪ノリです。

「……ッ」

 女の子は、若干引いたようだった。

 その目には憎悪の他に、嫌悪と怯えが混じっていた。

「……何をする気なの?」

「いや、別に」

 オレの悪役振りは最高潮。

「囚われた可哀想な少女を、さらに可哀想な状況に追い込もうかなーって思ってるだけだよ?」

「…ッ」

 よもや、女……性転換中……から、エロい視線で嬲られるとは思っていなかったのか、女の子は後ずさった。

「いい加減にしなさい」


 げしっ


 鐶の教育的指導が入った。

 具体的に言うと、オレの足が物凄い勢いで踏まれた。


 ぐえっ


「……!?」

 女の子は何が起こったのか分からないって顔で、オレと鐶を交互に見ていた。

「……冗談だ」

 オレは足をさすって、踵を返す。

「あ、そうそう。君をここから出す。といっても、釈放するわけではないぞ。人質として、オレらに同行してもらう」

「……」

 女の子は答えない。

 かなり動揺している様子だ。

 ま、目的は心理的動揺を誘って情報を得られやすくすることだから、それでいいのだが。

 しかし、鐶のヤツ、嫉妬深いよな。


 ******


 ヨツンヘイムの石炭採掘は順調に進んでいる。

 ヴァナヘイムの使者がアスガルドを訪れていた。様子を見に来たのだろう。

 どんだけ利益が得られるかを計るんだな。


 ちなみに石炭の発掘では、予想外なことに暗殺者が出てきたが、魔王軍は特に何も手を打ってこなかったようだ。

 黙認する気なのか、それとも他に手を打っているのか?

 ……他に手を打ってるんだよな。

 オレは考えた。

 実は表面が穏やかなときこそ、水面下では何かが進行していると思ったほうが良い。


 単純に最北のヨツンヘイムまで行って、工作するのが難しいのだろう。

 ムスペルヘイムでは強大な勢力を誇っていても、ミッドガルドを飛び越えて何かをするってのは勢力図から見ても考えにくい。

 言い換えれば効率が悪い。

 それなら、他の何かを動かして、妨害する方がずっと効率が良い。

 これまでも効率重視の策を展開してきた魔王軍が、急に方針転向するってのは信憑性がない。


 とりあえず、大司教にでも相談しよう。

 アラビカ豆についても新たな考えがあるし。

 と思って、大司教の部屋を訊ねたら、

「大司教様は、ただいま王宮に参っております」

 侍従の司教が言うので、オレも王宮に行ってみた。

 王宮では毎日議会を開いており、大司教はそれに出席しているのだった。

 オレは待合室のような部屋で待っていると、

「おや、これはカイ殿ではござらぬか」

 渋みのある声がして、ロンドヒル公爵が現れた。

 何時見てもダンディなオジサマだ。

 護衛1人をつれているだけの手薄な感じである。

「こんにちは、ロンドヒル公爵閣下」

 オレは挨拶をした。

「その節は、ご指摘ありがとうございました。お陰で早期対策を打てました」

「なに、お役に立てて嬉しい限りだ」

 ロンドヒル公爵はうなずく。

 鐶と二人でまったりしてたのが、急に権謀術数の世界に変貌した。

 隣で、鐶が緊張したようだった。

 ピシッって感じで。

「それより、カイ殿」

 ロンドヒル公爵は、オレの真向かいに座った。

「アラビカ豆の納期が決まってきたので、報告しようと思っておったところなのだ」

「それは嬉しい情報ですね」

「うむ、来月には届く」

 ロンドヒル公爵は言った。

「速やかな手配、ありがとうございます」

「いや、こちらもカイ殿のような方とのパイプを太くするに越したことはない」

 ロンドヒル公爵はさらりと言った。

 言いにくいことをさらりという人だ。が、嫌味がない。ヘンな人である。

「それでだ」

 ロンドヒル公爵は、本題に入った。

「アラビカ豆については、輸入するより栽培を手がけようと思うのだ」

 へー。

 オレが提案する前に自分から切り出したよ、この人。

 ま、今の状況から合理的判断を下せばそうなるんだけど。

「その理由をお聞かせ願います?」

 オレはにっこり微笑んで聞いてみた。

「うむ。まず、商売としての面から見れば、ムスペルヘイムより買うと値段が高くなる。次に、政治的な面から見れば、ムスペルヘイムに対する武器の一つになる」

「さすが、公爵閣下。御見それしました」

 オレはべた褒めに褒めた。

「いや、それほどでもない」

 オレのような美人 (自惚れ) から褒められて、悪い気はしないのか、ロンドヒル公爵は相好を崩した。

 冗談はさておき、

 実際、ロンドヒル公爵がいう通りなのだ。

 オレはてっきりロンドヒル公爵が、オレを敵視しているとばかり思っていたので、一つずつ提案してゆこうと考えていたのだが、杞憂だったようだ。

 実のところ、ロンドヒル公爵が言ったように、アラビカ豆は少量でも栽培する方向へ進むのが良い。

 まだ需要はたいした量ではないが、今のうちに一歩先んじて取り組んでおけば後々効いてくるはずだ。

「アラビカ豆を他の国に売ることができれば、その分だけムスペルヘイムの収益を削ることが出来る。他国にしても選択が増えるのでよろしい」

 ロンドヒル公爵は、そのコーヒーをすすりながら言った。

 メイドが運んできたのだった。

 コーヒーは着実に王宮に食い込んできたようだ。

「その通りです」

 オレはうなずく。

 ロンドヒル公爵は嬉しそうに微笑んだ。

 ……この人って、単に能力を発揮する場に恵まれずにいたんじゃないだろうか?

 地方都市の領主だしなあ。

 血筋は王族の流れなのに、相手にされないんじゃ、すねるわな、普通。

 オレはそんなことを思いつつ、

「ですが、私はもう一歩進んだ事を考えてまして」

「ほう、それはいかなるものかな?」

 ロンドヒル公爵は驚きとともに多大な興味をもって、オレを見る。

「はい、アラビカ豆の煮汁を飲ませる店です」

 これはまだ誰にも言ってないというか、今日、大司教に相談するつもりだったんだけどね。

 元ネタはヒルデから頂いた。ありがとう、ヒルデちゅわーん。


 げしっ


 オレの脇腹に衝撃。

 ちっ、鐶め、お約束ありがとう!

「……?」

 ロンドヒル公爵は首を傾げた。

 オレの意図が伝わらなかったのだろう。庶民でない公爵にはイメージしずらいかもしれない。

「簡単に言えば、王侯貴族の嗜みから、さらに庶民へ広めてゆこうということです。酒造所の設備販売と同じように、店の造りとか販売する商品は規格化し、店舗数を増やしてゆきます」

「ああ、商売的にはそれでもいいかもしれぬな」

 ロンドヒル公爵は、まだ釈然としていないようだったが、一応うなずいた。

「あ、まだ、お分かりではありませんね?」

 オレはいたずらっぽく言って、

「これが普及してゆけば、いずれ他国へも店舗進出させます」

「なんと!」

 ロンドヒル公爵は、仰天した。

「ということはつまり…」

 やっと思い当たったようだ。

「はい、他国の資源を加工・利用して他国の市場へ売ります。もちろん利益は我が国のものです。端的に言えば合理的に相手の国力を奪えます」

「理屈は分かるが、実現可能なのか?」

 ロンドヒル公爵は唸った。

 他国もみすみす国力を奪われたりはしないってことだ。

「手始めに友好国と協定を結んでから開始するつもりです。

 相手国にも経済的効果があるので始めるのは比較的簡単でしょう。

 その上で、相手国と利益を分け合うとか、金品を輸送する必要もあるでしょうから自衛のための武力を置かせてもらうとかすればよいと思います」

「うむ、それが良いだろう」

 ロンドヒル公爵は、深々とうなずいた。

「して、それは私にやらせてくれるのだろうな?」

「もちろんです」

 オレはにっこり笑顔である。

 笑顔戦術だな。

 オヤジキャラにはこの手が効くようだ。

「礼を言うぞ、カイ殿」

「いえ、まだ何も手を付けておりませんよ」

「そうだったな」

 ロンドヒル公爵は頭に手をやった。

「あ、そうそう」

 オレは唐突に思いついたように言った。

 いや、本当に思いついたんだけどな。

「実は公爵閣下のお知恵を拝借したく思っていまして」

「何ですかな?」

「はい。公爵閣下にはお心苦しい話かと思いますが、ヨツンヘイムの石炭発掘の折、魔王軍の妨害らしき妨害がなかったのです」

「うーむ」

 公爵閣下は唸った。

「まあ、その件は水に流すとしてだ。魔王の軍勢が妨害をしてこぬはずはない。何か水面下で動いておるのではないかな?」

 オレと同意見のようです。

「それが検討もつきませんで…」

「カイ殿はアスガルドに立たれてから日が浅いからのう」

 ロンドヒル公爵は、やはり言いにくいことをさらりと言って、

「諸国の情勢は調べてみられたか?」

「いえ」

 オレは頭を振り、

「ですが、すぐに調べてみます」

「うむ、それが良かろう。案外、盲点となっているところで何かが起きているかもしれぬ」

「分かりました、ありがとうございます」

 オレが深々と頭を下げると、

「いや、何、カイ殿のお力になれて嬉しい限りだ」

 ロンドヒル公爵は、何だか一瞬だけにやけた表情をした。

「公爵閣下」

 護衛がロンドヒル公爵を促した。

「そろそろです」

「おう、もうそんな時間か」

 ロンドヒル公爵は名残惜しそうに言った。

「これから会議に出席なのだ。また会おう、カイ殿」

「はい、ごきげんよう、公爵閣下」

 オレは、やはりニコニコして、ダンディオジサマを見送った。


「これからカイ君のこと、オヤジ・キラーと呼んであげよう」

 鐶が、横で呆れていた。

 その称号、イヤ過ぎ。


 ******


 ともかく、ロンドヒル公爵に言われたことを吟味した。

 諸国の情勢と言ったが、ヨツンへイム、ヴァナヘイム、ムスペルヘイム、ニブルヘイムの4つしかない。

 その他にも国はあるらしいが、遠すぎたり、小国というか部族単位のところだったりするので、この場合は除外しても差し支えないだろう。

「あ…」

 オレはそこで気づいた。

 ニブルヘイムについては、まったく調べていなかった。

 エリザベスと話した時、

『とりあえずは火種がない』

 ということで終わらせてしまったんだった。

 うーむ、ロンドヒル公爵に相談してよかったのかも知れない。

 何だか、公爵のオレに対する反応がちょっと気色悪いが、あれはあれで人材だ。

 確保するに越したことはない。


「ニブルヘイムについて知りたいだと?」

 大司教がやっと会議から解放されたところを捕まえて、オレは言った。

「どういう風の吹き回しだい?」

 オレがいきさつを説明すると、

「オメーの『オヤジ殺し』ぶりには参るね」

「そのイヤ過ぎる称号は止めてください」

「王にもちょくちょくオメーのことを聞かれるんだ」

 大司教は意味ありげに言った。

 うげ。

 オレはそっちの趣味はない。

 ……いや、今は女だから仕方ないんだけどさ。

「ま、冗談は置いといてだ。ニブルヘイムとは特に何も無いはずなんだがな」

「ヨツンヘイムで石炭を発掘した時に、何も妨害がなかったのが引っかかるんです」

「オメーが暗殺されかかっただけだったな」

 大司教は、アゴをさすった。

 いや、そうあっさり流されても寂しいんですけど。

「確かに、オメーの説明を聞いてからだと、そんな程度の妨害でお茶を濁すとは考えにくいな」

 大司教はちょっと考えて、

「ニブルヘイムに詳しいヤツを探しとく。派兵までには間に合わせるよ」

「お願いします」

 その後、コーヒーショップ・チェーン展開の件を伝えたら、

「あんな苦マズイものをこれ以上、普及させようってのか?」

 だと。

 偏見はいりまくりだなぁ。

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