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 オレは、すぐ、ロンドヒル公爵の指摘について考えた。

 公爵がウソをつく必要はない。

 というか、そういう類の指摘ではない。

 言われてみれば、自明の理的な事だ。

 対処しない訳にはいかない。

 それはいい。

 問題は、対処した後だ。

 考えすぎかもしれない。

 でも、それを考えすぎとして考慮しないのが最もまずい。

 考えた末に、放っといても構わないとか、本当にただの指摘としか考えられないという所へ落ち着けばそれでいいのだ。


 まず、公爵の立場になってみよう。

 利権と地位の両方を守りたい。

 それが偽らざる本心だろう。

 それらを守るには、何をどうしたらよいか?

 オレが公爵だったら、石炭は細々とでも続けつつも、アラビカ豆の商売に乗って利益を吸う。

 もし、利益が出ないなら止める。

 それでよい。


 魔王軍とのかかわりについてはどうか?

 もちろん、利用価値のなくなった公爵に、魔王軍にコントロールされていると思われる、ムスペルヘイムの商人が、石炭をこれまでどおりに売り続けるってことはないだろう。

 恐らく、公爵のところには何らかの通達が来ているはずだ。

 高値になるか、数量を削減するかは分からないが、だからこそ公爵はぐずぐずと何時までもヴァルハラに残っていたのだ。

 ダメモトで派兵撤回を訴えていた訳だ。

 しかし元を正せば、利益でつながっていた関係だ。

 利益がない以上、魔王軍が公爵にかかわってくる余地はないと思う。

 魔王軍もヒマではないのだ。


 アラビカ豆の輸入についてはどうか?

 ムスペルヘイムの商人は売れるものは売るだろう。

 だが、その数量は未知数である。

 その数量を盾にしても、『じゃあやらん』とやめられてしまうだけだ。

 そこまで市場が形成されていない。

 従って、魔王軍がムスペルヘイムの商人を通じて、アラビカ豆を使った工作をしてくる可能性は薄い。


 以上のことから、公爵の指摘について、魔王軍が関与している可能性はほとんどないと考えられる。


 指摘についての対処法としては、何が考えられるか?

 既に酒税引き上げが決定しており、酒の市場は縮小する見通しだ。それが事実だ。

 事実を曲げることは出来ない。

 現実に立脚した上で、商人や酒造所の経営者たちはどうなりたいと考えるか?

 商売を守りたい。

 もっと突き詰めれば、利益を守りたい。

 だから、他に食べてゆける商売があればよい。

 酒造設備の販売権を買える者には、それを売る。

 そうでないものには……。

 商人については簡単だ。

 他に代わりになる商品をあてがえば良い。小麦、アラビカ豆が考えられる。

 酒造所の経営者は、何がいいだろう?

 オレはしばし考えて、気づいた。

 原料から製品への流れを見ればよい。

 酒造所は、酒造原料用の小麦を購入するルートを持っている。

 その原料小麦を転用することができれば新たな製品を販売可能だ。

 それが、今後のアスガルド、ミッドガルドに有益な物であれば、尚良い。

 食用にならない等級の低い小麦の利用法。

 ……小麦粉。

 そこから作り出されるのは、パン、麺、麩……。

 ……いや、食べ物はダメかもな。

 食べ物なら、やはり等級の高い小麦の方が味が良い。


 食べ物以外では何があるか。

 飼料、肥料ってとこか。

 酒造過程で出る絞りカスもあるし、ここは農業面で考えるべきか。

 肥料を作って売る会社ってのはどうかな?

 うーん、なんか弱いな。

 そもそも、面倒くさくて時間がかかるのはダメだ。

 あまり元とかけ離れた業種であっても、転向しにくい。

 酒といえば、その製造工程は、醸造発酵、蒸留がメインだ。

 この設備を生かして、何か他のものができないか。

 アラビカ豆で酒を造る?

 ダメだな。

 とりあえず棚上げして、先に進もう。


 では、指摘に従って、対処をした後のことを考えてみよう。

 商人は酒の代わりとなる商売をする。

 商品が時流と共に変わってゆくのは世の常だ。大きな問題はない。

 問題はやはり、酒造所の方だな。

 酒造所が別業種に成り代わるのはかなり難しいことだろう。

 上手く転向できない者もいるはずだ。

 そうなると、不満が高まる可能性がでてくる。

 その不満を魔王軍に利用されたら、厄介だ。

 やはり、不満がなく、すんなりと移行できる業種が好ましい。


 そして、移行がすんなり行った後のことも考える必要がある。

 でも、何をするかも決まっていないんじゃ、先に進まないよなー。

 という訳で、後回し。


 ******


「小麦を使って何か作れないかなぁ?」

 困った時の神頼み。

 ……いや、鐶だのみ、美紀だのみ、ヒルデだのみ。

「小麦ねえ…」

 鐶は遠い目。美紀のように料理が得意ではないらしい。

 武術一辺倒だからな、コイツ。

「小麦ってやっぱ、小麦粉にしてなんぼってトコよね」

 美紀が言った。

「いや、それが等級の低い小麦なんだ」

 オレは意図するところを説明する。

「ああ、そうなんだ。酒造所にあてがう新たな商品ねえ…」

『小麦粉って美味しいよねー』

 ヒルデはマイペース。

「あの、聞いてた、オレの話?」

「麦飯」

「麦パフ」

「麦味噌」

「麦焼酎」

「麦太郎」

 いや、最後のは名前だろ。

 とりあえず乱発しても何も良いアイディアは浮かんでこない。

「うーん、分かんない」

「だよねー」

 鐶と美紀はさじを投げた。

『小麦粉をうすーく焼いたパンが美味しいのよねー』

 ヒルデはやっぱマイペース。なんだか小麦粉系の人らしい。

 オレの前世にも買い与えてたみたいだしな。

 そこへエリザベスがやってきた。

「どうした、みんな、難しい顔して?」

「エリザベスさん、何かありませんか?」

「は?」

 エリザベスはヘンな顔をした。


「そういうことか」

 エリザベスは言った。

「すまんが、私はそれどころじゃないんだ。今回の派遣軍に配属されたしな」

「そういわず、軍人の観点から何か一言」

 オレが冗談っぽく言うと、

「うーん…」

 根が真面目なエリザベスは、やっぱり真面目に考えた。

「保存食が作れないかな? 行軍中は携帯用の食事、特に食べやすいものが重宝される。従来の固焼きパンは固くて噛み切るのが面倒だし、水がないと飲み込めない」

「へー、軍用携行食ってヤツですね」

 オレが何気なく言うと、

「保存食なら味噌だよね。戦国時代には味噌を玉にしたものを兵糧として持ってったんだよ」

 味噌玉というらしい。

「へー」

 オレは相槌を打つ。

 味噌といえば発酵食品。

 発酵。

 発酵設備。

 保存食、軍用携行食。

 酒造所でも作れるかも?

 取り留めのない思考が乱立する。

「味噌って、麦でも作れるんだっけ?」

「何、言ってんのよ、カイ君」

 美紀が言った。

「味噌の原料は大豆だよ、麦味噌は麦麹を入れるから麦味噌って呼ばれてるだけだよ」

「あ、そうなの?」

 がっくし。

「大豆ってアスガルドにある?」

「さあ?」

 美紀が首を傾げる。

 とりあえず、今までアスガルドで暮らしていて見たことがない。

『豆っていえば、ブロード豆があるね。あれ、揚げて食べると美味しいのよね』

 ヒルデが言った。

 思い出して幸せそうな顔をしている。それはそれで、萌える。

 マイペースな上に、グルメな幽霊さんだ。

「ブロード豆?」

『えーとね、こんなの』

 ヒルデは地面に木の枝で、お絵かきして見せた。

 莢に入った丸くてデカイ豆。断面図。

 莢の形がなんだか、芋虫にも似ている。

「あ、これ、ソラマメじゃん」

 美紀が言った。

 うーん、物知り博士だなぁ。博士っ娘萌え? いや違うか。

「アスガルドにもあるのか?」

『山岳地帯で植えられてるはずだよ』

 ヒルデはすぐに思い出した。

「そういえば、豆板醤はソラマメで作るんだよね」

 美紀は思い出したように言った。

「じゃあ、ソラマメを原料に麦麹を使って…」

「そんな手間かかるもの、派兵まで間に合わないって」

 鐶のツッコミ。

 あ、そうか。味噌って1年以上熟成させるんだっけか。

「どんなに早いものでも3ヶ月はかかるよ」

 美紀が言った。

 がっくり。

 てなやり取りがあったが、結局、話はまとまらなかった。


 でも、味噌作りはいいかもしれない。

 時間はかかるが、今後の兵糧として使えるかも。

 『味噌玉』とか『芋がら味噌』みたいにな。


 てなことを考えてると、

「カイ君、いる?」

 美紀が部屋に入ってきた。

 なぜか両手を後ろに回している。

「さっきの話だけど、確か、中国の甜麺醤ティエンミィエンジャンって小麦粉から作られてたはずだよ」

「へー、面白いな」

 オレは心の1ページにそれを書き加えた。

 甜麺醤と。

「それにね、中国では発酵させて作ったものは『ジャン』って言ってね、肉で作ったら肉醤、魚で作ったら魚醤ってな感じで、みんな調味料になるんだよ」

「ふーん、でも何でそんなに詳しいんだ?」

 つーかそれぐらい詳しかったら、さっき披露してもいいと思うんだが。

「え、それはそのぅ……」

 美紀はしどろもどろになる。

 その時、ちょうど美紀の手から、


 ばさ。


 何か本のようなものが落ちた。

 百科事典?

「ごめん、これ、図書館から持ってきたんだ。ヒマな時に読もうと思って」

「おお、でかした、美紀!」

 オレは思わず、美紀に抱きついていた。

「きゃっ…」

 美紀は驚いていたが、それでも嬉しそうだった。頬を染めている。

「ちょっと借りるぞ」

 オレが言うと、

「うん、いいよ。でも…」

 美紀はうなずいて、


 つぃ。


 と、顔を上げた。目を閉じている。

 おう、キスをせがまれたぞ!


 いやっほぅっ!


 オレは、もちろん、一も二もなく美紀の唇を奪いにかかる。

 が、

「何、やってんのよ!」

「げふぅっ!?」

 鐶の一撃が、オレの後頭部目掛けて叩き込まれた。

 な、なぜだ?

 どんな技なんだ?

 鐶は、美紀の後ろに立っているのに!?

 不思議だね!

 格闘モノっぽい、お約束のセリフはともかく、オレはそのままベッドへ倒れこんだのだった。


 ******


 甜麺醤。

 百貨辞典には、小麦粉に水を加えて練って蒸し、麹カビをつけて塩漬け、発酵させ、砂糖や香料を加えて調理した甜味噌とある。

 でも、具体的な作り方が書いてありません。

 うーん。

 とりあえず、休憩。

 ま、さっきから休憩ばかり入れてるけどね。

 パラパラと百科事典をめくってみる。

 知識って重要だなあ。

 『あ』から開いてみた。

 あ、い、う、え、お、と流し読み。

 そして、そこはそれ。オレも魂は男の子なんで、エロい単語をつい読みふけってしまう。

 えーと、可愛い女の子3人に囲まれて、ちょっと欲求不満なんですよ?

 ふと。

 ある単語がオレの目に留まった。


 醸造アルコール


 食用に用いられるエタノールのこと。醸造用アルコールともいう。主に日本酒(清酒)などの増量、品質調整、アルコール度数の調整などに用いられる。(By.Wiki)


 ふーん。

 蒸留を繰り返してアルコール度数を高めてゆけばできるかもな。


 ******


 新たなアイディアをまとめてみよう。


 ・小麦粉

 ・パン、麺、麩など小麦粉加工品

 ・肥料

 ・飼料

 ・アラビカ豆で酒造り

 ・保存食、兵糧

 ・味噌 味噌玉、芋がら味噌?

 ・麦麹

 ・ブロード豆 ソラマメ?

 ・豆板醤

 ・甜麺醤

 ・肉醤、魚醤など

 ・醸造アルコール


 何だか、一杯あるな。

 それに前々から考えてはいたがまったく進めていない、


 ・小麦栽培 農場経営


 を入れると結構な数のアイディアが出ていることが分かった。

 この中ですぐに取り組めそうなのは、


 ・飼料

 ・醸造アルコール


 の二つだろう。

 それから、エリザベスより要望があった、つまり需要が認められるのは、


 ・保存食、兵糧


 となり、それには、


 ・味噌 味噌玉、芋がら味噌?


 が、目される。


 ・保存食、兵糧 : 味噌


 で、関連づけた方がいい。

 やはり長期的視野で見たら、味噌を作るべきかもしれない。

 麦麹は自然、味噌にぶら下がる形になる。


 ・味噌

 ・・麦麹


 となるかな。

 アスガルドやミッドガルドの人々に受け入れられるかは分からんが。


 また農業面での方策として、


 ・小麦栽培 農場経営


 が必要になるだろう。

 国力をつけるには、まず食糧事情をよくすることだ。

 衣食足りて礼節を知る、だっけか?


 それにぶら下がるのは、肥料と飼料か。


 ・小麦栽培 農場経営

 ・・肥料

 ・・飼料


 肥料、飼料の原料としては、原料小麦より異物として選別されたクズ小麦と酒の絞りカスを当てればよさそうだ。

 よしよし段々、練れてきたぞ。

 もう一度、整理してみる。


 ・小麦栽培 農場経営

 ・・肥料

 ・・飼料

 ・小麦粉

 ・・パン、麺、麩など小麦粉加工品

 ・保存食、兵糧

 ・味噌 味噌玉、芋がら味噌?

 ・・麦麹

 ・・ブロード豆 ソラマメ?

 ・・豆板醤

 ・・甜麺醤

 ・・肉醤、魚醤など

 ・アラビカ豆で酒造り

 ・醸造アルコール


 こんなもんだな。

 醸造アルコールについては、後でデイヴ酒造所に行って相談してみよう。


 で、後回しにしていた、これを推し進めた後の事を考えねばならない。


 醸造アルコールとは何か?


 まずは、酒に添加する添加剤及び増量剤。

 ……自然な味そのままに慣れてるこの世界の人々にはあまり好まれないだろうな。


 次に燃料。

 この世界には機械産業がないので、主にランプ用だな。

 アルコールランプは普通はメタノールを使用しているけど、別にエタノールでも構わないだろう。

 薄めれば飲めるし。

 酒精として、消毒用としても使える。

 既に使われてそうだが、それはそれで市場があるって事だ。


 さらに市場に出回った時のことを考えよう。

 確実に大量生産となるな。

 いかにして安く上げるか、使用の幅を広げるか、という事が焦点になるだろうな。

 売り先も確保する必要がある。

 また結論としては飲める訳だが、既にヨツンヘイムに酒造所が出来始めていることから、酒の販売が冷え込んでいるので、輸出用にはなりにくい。

 やはりそこへ魔王軍が工作してくる可能性は薄い。

 てことは、今のところ問題はない。


 *****


 オレは早速、デイヴ酒造所へ行った。

 鐶、美紀、ヒルデの3人も、なぜか着いてきた。

 物見遊山のつもりなのだろう。

『あら、愛する夫の仕事場を見学したいって思うのは、妻として当たり前の感情よ』

 ヒルデが爆弾を投下したので、

「くえーっ!!!」

「な、な、な、なにいちゃってくれてやがんのよぅっ!!!!」

 鐶と美紀が暴走してしまった。

 心の中で、何かが決壊したとも言うな。

「カイ君、今すぐ式挙げて!」

「カイ君、今すぐあたしを妊娠させて!」

 おいおい、何だか、メチャクチャな事、言ってるぞ、キミたち。

 つーか、今、オレ肉体上は女なんですけど。

 いや、ヒルデとは前世で一回結婚してるけどって、アレは別人に成りすましてたから、法的には違うし、って限りなく微妙。

 でもそれを言うと、多分、イヂメ殺されるので、言わないの。

 ボク、ヘタレだから。


 で、鐶と美紀をなだめるのに一苦労でした。

 あー、疲れた。

 多分、オレは彼女らの間で疲れ果てて死ぬ。絶対。確定。死亡確定。


「おぅ、酒精かぁ…」

 デイヴ叔父さんは言った。

「うん、作れないことはない」

「何か問題でも?」

 オレが聞くと、

「オメ、歩留まり計算してみたか?」

 デイヴ叔父さんは、オレを見た。

 あ、そうか。

 原料に対して、できる製品の割合が少なくなるって訳か。

 これまでの酒より精度が高いわけだからなあ。蒸留を何度も繰り返す必要があるって事か。

 その分だけコストが割高になるな。


 どうしたかというと、大司教に振ってみました。

 たまには頼ってみようかなっと、言うこと。

「じゃあ、今の木精と混ぜりゃあいいんじゃねーの?」

 大司教はさらりと言った。

 木精とはメタノールのことらしい。

 あ、そうか。

 増量剤として使用するって手があったな。

 別に酒と比較する必要はなかったってことだ。

 酒より歩留まりが低くても構わないって考えならスタートを切れる。

 木精との組み合わせが可能だろう。

 でも、どっちが高くてどっちが安いんだろう?

「自分で調べろ」

 大司教の厳しいお言葉。

 忙しかったのかしらね。

 ついオカマ言葉になるオレ。


 はい、アルブレヒトに相談を持ちかけてみました。

「木精ですか……酒精と混ぜ合わせるですと?」

 アルブレヒトは唸った。

 増量剤が近代産業を突き動かし、技術の発展に寄与した一面があることは否定できない。

 最近は自然派嗜好で嫌われているようだが。

 一部のデメリットのためにメリットを忘れてしまうのはよくないことだな、うん。

 オレは自分にそう言い聞かせ、

「そう、木精は恐らく、酒精より高いのではないかと思います。高くて少ないものを純度100%で使用するより、安くて大量生産できるものと組み合わせることでコストダウンと安定供給がはかれます」

 アルブレヒトに説いた。

「なるほど、それもそうですな」

 アルブレヒトはうなずく。

 商売人だけにそういうことに対しては敏感だった。

「では知り合いの商人に伺ってみましょう」

 アルブレヒトは酒に変わる商売を探しているところだ。

 ちょうどその時にアイディアを持ってきたので、彼は食指が動いた様子である。


 メタノールはアルブレヒトに任せ、オレは小麦の栽培、農場経営の件について考えてみた。

 デイヴ酒造所に行ったついでに周囲の麦畑を見てきた。

 既に秋小麦の収穫は済んでおり、その辺の面積は開いているが、春小麦の畑が植えられていた。

 秋までには収穫されるだろう。

 百科事典には8月上旬頃に収穫とあった。

 便利だな、百科事典。

 ちなみに秋小麦は文字通り秋口に植え、越冬して、5月末〜6月始めまで頃に収穫される。

 そのためこの時期を『麦秋』というらしい。 

 春小麦はいうまでもなく、春先に植えて秋までに収穫する通常の作物のサイクル。

 肥料らしい肥料は入れられておらず、また耕地が人力もしくは牛馬などの家畜のため、あまり深く耕地できていない。


 植えたら後は、お天道様次第よ!


 ってなアバウトな栽培だ。

 男らしいかもしれないが、それで収穫量は増えない。

 ま、今は女だからね。

 ご都合主義。

 それに、オレはギャンブラーではないので、一発屋みたいなことはせず、条件を整える方向で行きたい。


 農作物は、まず収穫量、次に味ってのが基本だろう。

 収穫量が増えれば、民衆に食べ物が行き渡る。食べ物が国中に行き渡れば、民衆は労働、兵力など、働くことに専念でき、結果として国の力となる。

 余剰分がでれば食糧の乏しい国に輸出できる。

 ミッドガルドは元から小麦の生産量が多いので、オレが取り組むべきことはあまりないのだが、通常、食糧を握っていれば、周辺の食糧の乏しい国への影響力が増す。

 従って、増やして困るって事はない。

 当面はそんなところだろう。

 そうなると、最も重要なのは肥料だ。

 肥料の質がよければ、収穫量は向上する。

 肥料はその原料により効果が異なる。

 まず、牛糞。

 次に、鶏糞。

 その他に、豚、羊などの糞。

 それから、植物の茎や葉なども肥料となる。

 牛糞は、畑そのものの力、つまり地力を付ける。

 鶏糞は、要は植物の栄養分。手っ取り早く育てるのに向いている。

 植物の茎や葉は、繊維質が豊富で、フカフカしており、カリウムなどの微量元素も含まれているだろうが、牛糞と同じように地力を付けるのに向いている。

 その他にも石灰や苦土くどなどの微量元素があるが今の時点では考えなくても良いだろう。

 そういや、アスガルドに牛っていたっけ?

 ま、それに近い動物がいればオーケーだろう。

 肥料は試験農場を設立して、試験栽培をする。肥料の効果を確認できたら、徐々に広めてゆけばよい。


 それと畜産だな。

 飼料に関しては今でも酒の絞りカスを畜産業者に売っているが、家畜の糞を購入することを考えれば、持ちつ持たれつの関係を構築してゆくべきだな。

 デイヴ叔父さん曰く、

「家畜の糞も、姉ちゃんにかかったら商品かよ」

 ええ、何でも商品にしますわよ。

 あら、また、オカマ言葉になってしまった。

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