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 あの後、刺客とかは来ていない。

 が、魔王軍は必ず妨害工作をしてくる。

 オレが様々な策を考えて実行しようとしてるように、対策を立てていることだろう。


 緩衝地帯から魔王軍を追い払う事については、魔王軍はやはりミッドガルド側がすぐに派兵できないよう工作していた。

 石炭を武器にドラシールのロンドヒル公爵へ圧力をかけたに違いない。

 もっとも石炭を減らすと、ちょっと脅すだけで、頭の良い人間なら相手の求めるところを察するだろうから、証拠らしい証拠はないだろうが。

 ともかく、魔王軍はあの手、この手で時間稼ぎをしている。

 時間がかかればかかるほど、魔王軍には有利になるのだ。

 対対策の石炭の発掘が間に合うとは思えないが、それでも魔王軍の次の手を引き出すことはできるだろう。

 しかし、オレが魔王なら発掘を妨害する。

 オレらが次の手に対して罠を仕掛けるだろうことを見越した上でだ。


 また正攻法で行っても、ヴァナヘイムの協力を取り付けることはできるのだろう。

 となると、魔王軍が対ヴァナヘイムの策略を講じないはずがない。

 こちらはまず置いておこう。


 北方への貿易については、魔王軍が注意を払っているか否かは分からない。

 ただ、アスガルド内部の動きを知らないとは思えない。

 基本としては、相手が技術革新をやり遂げたのなら、それを潰さず、利用することを考えるはずだ。

 最終的には自分のものにしようとするだろうがな。

 何が考えられるだろうか?

 いや、相手がどうしたいかが先だな。

 そう考えるとはっきりする。

 魔王軍は、北方……特にヨツンヘイムとミッドガルドを不仲にしておきたい、と考えるはずだ。

 それには北方の不満を増大させるのが手っ取り早いかも。

 現在、北方は農耕や産業の技術が遅れており、ミッドガルドに世話になっている部分が多い。

 一方で、ミッドガルドは泥炭がなくても木炭やその他の燃料でもなんとかなる。

 バランスはミッドガルドに傾いている。

 こういう状況下では、より不利なほうが不満を抱えやすい。

 工作するとしたら、この辺だろう。

 ヨツンヘイムの巨人族はアクアヴィット好きだ。

 もし、好きなものが飲めなくなったら?

 もしくは毒物などが入っていたら?

 案外、魔王軍が次の手を加えるとしたらこの辺じゃないだろうか。

 北方ではヨツンヘイムより大きい国はない。

 面積でも、国力でもだ。

 その国がミッドガルドと不仲になれば、石炭の新たな開発先を探すのが難しくなる。


 その伝で行けば、ヴァナヘイム対策でもやはり不仲策を取ってくるだろう。

 ヴァナヘイムとミッドガルドの通商状況が分からんので、これは明日、大司教か誰かに聞くのがいいかもしれない。


 まとめると、魔王軍が次に打ってくると考えられれる手は、


 ・ヨツンヘイム向けのアクアヴィットなどに細工

 ・ヴァナヘイムに対する工作(詳細不明)


 となる。


 ******


 エリザベスにそのことを話し、大司教に伝えることになった。

 大司教はたまたま神殿にいた。

 ロンドヒル公爵率いる穏健派とジョージ13世率いる主戦派との話し合いはまだ決着がついてないらしい。

 一刻も早く、北方への策を進めなければならない、というところでまとまった。


 その後、マイヤー氏を訪ね、商売向きの話をした。

 ヴァナヘイムとミッドガルドの通商状況を聞いて見ると、

「ヴァナヘイムは果物が取れますな」

 アルブレヒトは答えた。

 それはいいよ。

「ミッドガルドからは何が?」

「酒が少しと木材くらいですかな」

 へー。

 ミッドガルドはヴァナヘイムより木が多いのか。

「もし、木材の輸出が止まったりしたら?」

「ヴァナヘイムでは困るでしょうね」

「そもそも家などの身の回りの建物はレンガや石造りでして、木材はヴァナヘイム人の生活では貴重品なのです」

「貴重品が手に入らないと困るのは…」

「まずは商人でしょうね」

 アルブレヒトは言った。

「それと彼らの宗教の司祭たちが困ることになる」

「え、なんで?」

「彼らは、主に木材を使って儀式用の家を建てるのですな。それがないと非常に白けるようですぞ」

 じゃあ、物資的にはミッドガルドが優勢なのね。

 ……15年前の小競り合いってのもそれが原因かな?

「魔王軍が狙うとすれば、木材の運搬を阻害するとか?」

「ありうる」

 エリザベスがうなずいた。

「奪って自分のものにすれば、自分たちが潤うのだからな」

「あ、そっか。ヴァナヘイムにちょっかい掛けたり、緩衝地帯に居座ってるのもそれが目的の一つなんだ」

 鐶は珍しく冴えていた。


 ******


 また一つ情報を得た。

 これで思考の幅も広がる。


 魔王軍は緩衝地帯に居座ることで木材の交易を阻害している。

 ヴァナヘイムは、魔王軍に相当、恨みがあるだろう。

 同時に、ミッドガルドに対しても、不満を持っている。

 ここは貿易をスムーズに流すのが良いのだが、それぐらいは魔王軍も分かっているはず。

 そうした状況で、ヴァナヘイムとミッドガルドを不仲にするには何をしたらよいか?

 ……。

 まずは比較をしてみよう。

 魔王軍とミッドガルド。

 魔王軍は初めから敵対関係しかない。攻撃するのみ。

 ミッドガルドは、基本は友好関係か中立関係だ。でも、何時まで経っても援軍をよこさないミッドガルドに業を煮やしているかもしれない。

 身近な事に置き換えてみると、良く分かる。

 敵の攻撃より、友達関係の薄情の方が頭にくるはずだ。敵の攻撃に悩んでいる場合は尚更かも。

 ……だからこその石炭策か。

 時間を稼いで、ミッドガルドの判断を遅らせるのにはそんな意味があったのか。

 最小の手数で最大の効果を得てるな。

 敵ながら天晴れというしかない。


 ではオレらはどうするべきか。

 どうなりたいか。

 ヴァナヘイムと仲良く魔王軍を叩きたいワケなんだが…。

 それには……。


『やっほー』

 ヒルデだった。

 オレの部屋にひょっこり現れる。

「あ、ごめん、もうそんな時間か…」

『遅くまでご苦労様だね』

 ヒルデは言って、オレの隣に座ってくる。

 ちなみにオレはベッドに腰掛けていた。

 こら。

 嫁入り前の娘が、男の部屋に、しかもベッドに腰掛けるな。って、今は女だけどよ。

「うん、敵の動向が気になってな…」

『ふーん』

 ヒルデは興味深げである。

『男の人って、そういうのに夢中になるのよね』

「ん、そうかな?」

『あたしの周りにいた男の人たちって、みんなそうだったわ』

「な、なんですとっ!?」

 オレは、思わずヒルデに詰め寄った。

 がばっと。

「オレの他に男なんて、許さないんだから!」

『こらこら。何、考えてるのよ』

「だってぇ」

『だってじゃないの! そんなわけないじゃない』

 ヒルデはそっぽを向き、

『あたしには、あんただけよ』

 言ったかと思うと、


 ちゅっ


 軽くキスをした。

「ヒルデー」

 オレはなんか、涙でうるうるになっていた。

『なっ…何? どうしたの?』

「いや、ヒルデの優しさというか気遣いに感激したよぉ」

『そこまで大げさに感動しないでよ』

 ヒルデは言った。

『最近、あんた頑張ってるから、ご褒美よ』

「ええ娘じゃあッ」

 オレはヒルデに抱きついた。

 霊体のはずなのに、その身体は実感があった。

『あん、もう』

「オレはお前を離さん、離さんぞうっ」

 オレが言うと、

 ヒルデは、


 かあっ


 頬を赤くしたようだった。

『ねぇ』

 はいはい。もちろんですとも、お嬢様。

 オレは真顔になり、ヒルデにキスするべく接近した。


 ばん。


 唇が触れるか触れないかってところで、ドアが開いた。

 それも乱暴に。

 扉の外にいたのは鐶と美紀でした。

「あっ…うっ……」

 オレは硬直。

 死亡確定。

 頭に4つの文字がよぎる。

「あら、なんかうるさいと思ったら、こんな夜中にラブシーンですか、カイ君?」

「夜中にこんな娘を連れ込むなんて、ホントどうしようもないわね。てゆーか、どうしてくれようかしら?」

 鬼じゃあ、鬼がおる。×2も。

 冗談でなく、死後の世界が見える。

 さようなら、さようなら。


『あら、誰かと思えば、金魚のフンのお二人さんじゃない』

 ヒルデは平然と毒のあるセリフを吐く。


 ぎゃーおっ


 ヒルデさん、頼むから止めてください。

 みんなやめような、なっ?


「なっ」

「にっ」

 鐶と美紀がメキメキと音を立てて笑顔になった。

 笑顔ですが、怖いです。

『いっつも、愛しのカイ君にくっついて暑苦しいったらありゃしない』

 ヒルデはきっついセリフを吐き続ける。

 えーと、ツンデレキャラの本領発揮ですか!?

「言わせておけば、このメス猫」

「人の男寝取っておいて、その言い草かよ」

『あら、それはこっちのセリフよ』

 ヒルデは言った。

『少なくともあたしは、あんたたちが知り合う前から、この子とラブラブなんだから』

 オレを見る。

「なっ」

「ぬっ」

 鐶と美紀はオレを凝視した。

 いや睨んだ。

 殺人光線出てるかも。穴が開くかも、いやマジで。

「カイ君、正直に答えなさいね」

「でも、事と次第に寄っちゃ、ただで済まないけどね」

 鐶と美紀は、いつもにも増して凄みがあるね。

「いや、それがさ、前世で恋人同士…」

「死ねやぁあああっ!」

「チェストーッッッッ!」

『あ、待っ…』


 ばぶしっ


 オレは往年のバトル系少年漫画よろしく宙に舞ったのだった。


 ******


「だから、最初からちゃんと説明すると、そういうことなの!」

 オレは、なぜか正座させられていたりする。

 鐶と美紀は、最初はまったく取り付く島もないくらい激怒していたが、何度も何度もしつこく繰り返すオレの態度を見て、やがて考え方を変えたらしい。

 ヒルデも壁抜けを見せたりして、説明に一役買ってくれた。

 ツンツンしてても、中身は良い娘だ。

 萌えー。

 冗談はさておき。

「でも何でここに居るのよ、幽霊さん?」

「ねえ、ヘンじゃない? たまたまあたしたちがたどり着いたところが、幽霊さんのいる場所だったなんてね」

 鐶と美紀は怒りは解いたが、まだ疑わしく思っている様子だ。

 確かに。

 不明な点が多すぎる。

 でも、オレにはそれは聞けないのね。

 ヒルデを悲しませるだけだし。

『分かった、ちゃんと最初から説明するわ』

 ええーっ!?

 そんな簡単でいいんですかい?

 謎は最後まで取っとかなくちゃでしょー?

『あんたは黙ってなさい』

 ヒルデが凄む。

 はーい、ボク、黙ってる。


『あたしが生きていたのは、何年前、いえ何十年前だったかしらね…』


 かくしてヒルデの身の上話が始まった。

次話ヒルデ視点のため、文字数が少なめになってます。<いや関係ないだろ?

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