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13

 翌朝。

 みんな起きてきた順に、適当に朝食を取った。

 朝食は、鐶と美紀、藤田と谷の4人が作っていた。

 ちなみにメニューは麦粉を水で溶いて作ったお粥と干した果物。

 確か『ブブイ』とかいうんだよな。うろ覚えだが。

 麦粉はエリザベスに調達してもらっていた。

 干した果物はこの前、エリザベスに分けてもらったものと同じ。

 どっちも酸っぱくて食べづらいものだが、ないよりマシ。

 美味しいものが食べたければ、その努力をしなければならないということか。

 せめてパンが食べれるレベルまでは頑張りたい。

 で、朝食を食べ終わった後、クラスの代表者全員で皿洗いを手伝った。

 今後は料理だけでなく、すべての家事を班ごとでローテーションを決めて行うべきだな。

 でないと食器や調理器具が片付かず、次にやるべき作業に移れない。

 今は何もすることがないからいいけどね。


「昨日、ここに幽霊が出た」

 オレが言うと、

「えっ?!」

「脅かさないでよ!」

 鐶と美紀は、ぶるっと震えて、

「カイ君、夢でも見たんじゃない?」

「性別が変わったから、精神的に疲れてんのよ」

 好き勝手に言ってくれる。

「いや、確かに見たんだ」

 オレは主張したが、信じてもらえなかった。


 とりあえず午前中は休息とした。

 みんな疲れてるしな。

 オレはと言えば、鐶、美紀、始、マサオのいつもの面々で雑談。

「オレらが『天の御使い』として保護されるためには、アスガルドの人たちにオレらが役に立つってことを知ってもらわなきゃな」

「そうだね。でもどんなことで役に立つのさ?」

 マサオが訊いた。

「すばらしき『萌え』の世界を知ってもらうってのはどうかな?」

 始が真面目な顔をして主張したが、

「簡単だ。この世界の人たちにできなくて、オレらにできることをやればいい」

 オレは無視した。

「それって、どんなこと?」

「まず、アスガルドの経済、産業における現状と技術レベルなんかを知る必要があるな」

「あたしたちの世界と比較するってこと?」

 鐶が言った。

「そうだ。この世界に『今のやり方でも問題ないけど、より効率の良い方法があったらいいな』ってな事があれば好都合だ」

「でも、そういったのって、あたしたちに出来るかな?」

 美紀が不安げに言う。

「高校生でもできる事を選べば大丈夫。いつも習っていた授業を思い出せ。意外に役に立つはずだぜ?」

 オレは自信たっぷりに答えるが、

 うーん。

 みんな、あまり自身がなさそうである。

 ま、初めて何かに挑むってのはこんなもんだ。


 昼食の後、クラスの代表者たちを集めた。

 鐶たちとした話を繰り返す。

「理屈は良く分かるよ」

「けどね」

「やったことないからね」

「難しいことはヤだよ」

「めんどくせー」

「おだまり!」

 オレは、何でかオカマ言葉……いや、外見に合ってていいのか……で怒鳴った。

「あのな、オレらは自分たちを商品として、アスガルドの人たちに売りつけなきゃなんねーの」

「でもよぉ」

「デモもストもカカシもシカもクマもありません!」

 オレはぴしゃりと言った。

「いや、クマって……?」

「クマはクマじゃあっ!!!!」

 オレは勢いだけのセリフで押し切った。

「とにかく、エリザベスさんの家を訪問して情報収集をしてくるので。はい、志願者はッ?」

「……」

「……はい」

 藤田だけが小さく手を上げた。


 残りのヤツらは留守番。

 組んだローテーションを守らせるよう言いつけた。

 出来てない時は、代表者に罰を与えると。

「何で、ボクまで行かなきゃなんないのさ」

 マサオはぶつくさ言っていたが、

「お前は最初からノミネート済みだ」

「ひどい、ボクの人権はどこに行ったのさ?」

「んなもん、ない」

 オレは断言。

「ほらほら、ケンカしてるヒマあったらさっさと歩く!」

 鐶がオレらの尻を蹴った。

 一脚で二回蹴っている。バランスがいい。威力は言うまでもない。

 尻が痺れた。

「おう、カイじゃないか。どうした?」

 エリザベスは自宅にいた。

 すぐに客間に通される。

「えーと、一応、住み心地とかの報告に」

「律儀だな、カイは」

 エリザベスは屈託なく笑った。


「それから、この先、オレらに何ができるのかを考えたんだが、まずはこの世界を知らないとなーって思って」

「情報収集か、ご苦労だな」

「まあ、そんなもんです」

 オレはうなずいた。

「バークレーの方が適任だろうが、教会に顔を出しているのでな。部下はみな自宅に帰してるし、私でよければ答えよう」

 エリザベスは面白がっているようだった。

 身分は高いようだし、知識水準もある程度以上のレベルにあるのだろう。

「よろしくお願いします」

 オレは用意してきた質問をした。

 アスガルドの国体、産業、経済などについて訊く。

 エリザベスとのやり取りを簡単にまとめると以下。

「アスガルドの統治者は?」

「アスガルドはジョージ13世が治めている。ジョージ13世は王族だ。その周囲には縁戚の王侯貴族たちがいて、比較的強力な軍隊を持っている。また家柄も由緒正しい血筋でな、誰もが王として認めている」

「政治は?」

「王の下に宰相がいて、実際の政治を執っている。宰相の下には大臣がいて、外交や内政を見ている。宰相は大臣から、大臣は王族か有力貴族の中から選ばれるのが普通だな。大臣の下には実務を担当する執政官が仕えている。これは昨日話した教育機関を卒業した者が多いな」

「主な産業は?」

「農業と畜産が主だな。穀物はほとんどが麦を植えている。麦の育ちの悪いところにはライ麦や蕎麦を植える場合が多い。それを製粉して粥かパンにするのが普通だ。穀物は政府の管理下にあるが、実際には役人の代わりに商人が買付けて、製粉したり、保管したりしておく。手間賃を引いて政府から購入し、小さな商人や店舗に卸す。野菜も植えてはいるが、あまり多くはない。畜産はペムルを飼うのが普通だ。肉が美味しくて育つのも早い」

 ペムルとは林でマサオを襲った動物を家畜化したものらしい。

 ブタとかイノシシに似ている。

「他に産業は?」

「酒かな? 一般的に麦酒が飲まれてる。それとアクアヴィットだな。アクアヴィットは『命の水』とも呼ばれるが、製造法についてはよくは知らん。確か加熱しているのだと思う。……味か? 強い酒だぞ」

「経済は?」

「……商売のことでいいのかな? 商売はヴァルハラよりもビフレストの方が盛んだ。商人が集まり交易をしている。政府は商人から売上税を取って後は商人たちに任せている。商人たちの中には豪商がいて、ギルドを形成している。ギルドと政府とつながっていてな、政府の代わりに商売全般をコントロールしている。牛耳ってるともいうな」

「国や貴族で、直接商売に手を出している人はいますか?」

「多くはないが、何人かいるな。実名は差しさわりがあるから言えんが」

「国外から購入している、もしくは国外へ売っている、つまり、輸出入しているものはありますか?」

「詳しくは知らんが、確かアスガルドは海が近いので魚の塩漬けが多くミッドガルドへ売られている。あとはアクアヴィットだな。逆に手に入りにくいのは燃料となる炭かな……あいや、泥炭だったかな。肥料にもなるし。ヨツンヘイムから輸入しているはずだ。ミッドガルドは泥炭もないし、石炭の埋蔵量も少ないのだ」

「国の安全保障については?」

「……軍隊のことだな? それは機密事項になるから、あまり教えられんぞ」

「じゃあ、ここ数年で戦争はありましたか?」

「15年前にヴァナヘイムと小競り合いがあっただけだ。短期間で終結した」

「あ、あと、ミッドガルドの周辺にある国を教えてください」

「西にヴァナヘイム、東にニブルヘイム、北にヨツンヘイム、南にムスペルヘイムだな」

「どんな人たちがすんでますか?」

「ヴァナヘイムは我々と同じ人間、ニブルヘイムは竜蛇族、ヨツンヘイムは巨人族、ムスペルヘイムは魔族と人間の混成国家及び小国が乱立している」

「ヨツンヘイムとミッドガルドは比較的友好関係にある。ミッドガルドは泥炭が欲しいし、ヨツンへイムの巨人たちはアクアヴィットが好きだが、自前の生産設備が極端に少ない」

「魔王の軍勢はムスペルヘイムから?」

「そうだ」

 エリザベスはうなずいた。

「ヤツらはムスペルヘイムの大部分を掌握し、版図を拡大するため北に進軍中なのだ。ムスペルヘイムには、ヤツらにかなう国はない」

「ありがとうございました」

「お役に立てたかな?」

 エリザベスは、何だか恥ずかしそうに言う。

 実際、彼女はかなり頭が良いようだ。

 広範囲な各項についてを答えたし、ポイントを捉えていると思う。

 これなら、すぐにオレらの出来うることを見つけられるだろう。

「そういや教会の方はどうですか?」

 オレは話題を変えた。

「うむ、こちらの方はバークレーに任せている。しばらくはかかりそうだが、順調に進んでいる様子だ。大司教へのお目通りも二、三日で可能になるだろう」

「分かりました、よろしく頼みます」

「任せておけ」

 エリザベスは請け負った。


 オレらは宿に戻った後、クラスの代表者たちと話し合った。

 留守番の代表者たちは、ちゃんと管理していたので罰はなし。……ちぇっ。

「エリザベスさんから得た情報を鑑みるとだな、オレらができそうなことは、アクアヴィットとかいう酒を造ることだろうな。そしてそれを欲しいヤツらに売る」

「酒造りだって?」

 ロン毛が言った。

「アクアヴィットは間違いなく蒸留酒だ」

「焼酎とかウイスキーとかの蒸留酒?」

 藤田が訊いた。

「そう」

 オレはうなずく。

「設備さえあれば作れるだろう」

「蒸留設備ってかなり高度な金属加工技術がいるんじゃない?」

 藤田は心配そうである。

「先にアスガルドにどの程度の機械設備があるかを確認する必要があるな。それに作るとしてもそんな大きなものは要らない」

 オレは言って、指を2本立ててみせる。

「課題は二つ。技術的な革新、販売量を確保する」

「何で?」

 谷が不思議そうに訊く。

「前にも言ったようにオレらは天界から来たことになってるからな、この世界の人たちより進んだ技術を持っていておかしくないし、それを求められる可能性が高い」

「ふーん」

「それと物を売れば収入が入る。何を言っても先立つものは金だ。その金で安全が買えるかもしれない」

「オレらも自由に使える金ができるってか」

 ロン毛は目を輝かせた。

「そうだ。ロン毛にしては冴えてるな」

「『にしては』は余計だろ。それに、ちゃんと名前で呼べよ」

「ヤダ」

 オレはそっぽを向く。

「現時点での案はこんな感じだ、また明日続けて情報を仕入れてくるさ」


 酒の造り方に詳しい生徒がいないかと思ったが、家が造り酒屋でもない限りムリ臭い。

 一応聞いてみたが、やっぱりそんな生徒はいなかった。

 仕方ないのでエリザベスに頼みに行った。

「アクアヴィットの造り方だと?」

「そう、どこか製造所をしりません?」

「分かった、こういうのはガスが詳しいから、あいつに聞いてみる」

「えろうすんまへんなあ」

 オレは何だか商人になった気分だ。

「どこの訛りだ?」

 エリザベスは笑って、使いを仕立てた。

 オレは一旦宿へ帰った。

 夕方、エリザベスの使いが来た。

 ガスより、『明日にでもつれてってやる』とのご返事。

 ありがたや、ありがたや。

 オレは思わず、心の中でガスを拝んだ。

12/24訂正 ニヴルヘイム → ニブルヘイム

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