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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第三十三五章
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九百七十話 エピローグ

「……」


 何処までも静かな朝、まだ日も昇り切らないうちにライは微睡みから目覚めた。目に映る物は無機質な木の天井であり、寝返りによってベッドがきしむ。

 現在の時点で旅を終えてから既に数ヵ月が経過しており、毎日静かな場所で目覚める。

 しかし鳥のさえずりは聞こえ、ただの静寂ではないのでまだ寂しさを免れる事が出来ていた。

 ライを迎える者は誰も居ないが。


「早くに目が覚めたな……えーと……今日の予定は……」


 最近、独り言が多くなった。その逆に何も言わない日もある。

 昼間は基本的に新たな支配者として主力たちと交流があり、行方の知れているレイ、フォンセ、リヤンとも会おうと思えば、いつでもという訳にはいかないが会える。旅を続けているエマに会う機会は少ないが、それでも他の主力たちの存在もあって昼間はあまり寂しくなかった。

 だからこそ、朝と夜。誰も居ない独りの家は寂しさが増すとも言える。もう既に半年近く経っているのでレイたちも忙しくなり、出会える事も少なくなって来る事だろう。故に、より孤独感が増していた。


「少し早いけど……朝食でも作るか……」


 独り言を言いつつ、ベッドから起き上がって朝食の準備に取り掛かる。

 時間は本当に日が昇り始めた直後。人によってはまだ夜と感じる事もある時間帯だろう。しかしする事も無く、退屈なので朝食を作る事で気を紛らわせようとしているようだ。

 と言ってもまだあまり食欲も湧かない朝の食事。作れるものは色々あるが、パンを焼き、卵や果実、ベーコンなどを添えるだけという簡単な物で済ませた。

 共に食べる仲間はおらず、静かなもの。食事というのは本来静かに行うのがマナーだが、今までが今までなので半年近く経った今でも慣れないものだった。


「……暇だな……もう活動を起こすか?」


 その後静かな朝食を終え、食器を荒い掃除や洗濯を済ませたライは椅子に座って楽な体勢でボーッと天井を眺める。

 諸々の家事を終わらせても起きてから一時間半くらいしか経っていない。自宅にある本は全て読み終わっており、既に何回も読んだモノ。要するに何もする事が無い状態だった。


「……! "勇者・冒険譚"。懐かしいな。よく婆ちゃんに読んで貰った本だ」


 ボーッとしていると、ふと視線に昔読んでいた本が映り込んだ。

 それは昔祖母に読み聞かせて貰った本。ライが勇者に憧れた切っ掛けであり、祖母に、最後に読み聞かせて貰った本である。


「あの時から読んでいないからな……」


 最後だったからこそ、この本だけは何度も読み返していない。内容は鮮明に覚えているが、中々読む気にならなかったのだ。


「結局、あの時の老婆は誰だったんだろうなあ」


 呟きながら、ライは本を読み進める。読まないようにしていた本だが、自然と身体が動いていた。おそらくそれも寂しさ、孤独感からなるものなのだろう。

 しかしそれだけではなく、いつまでも当時のままで居る訳にはいかないという奥底の気持ちからなるものもあるかもしれない。


「……?」


 ──その瞬間、自宅のドアをノックするような音が聞こえてきた。

 ベッドで本を読んでいたライは起き上がり、呟きながらそのドアに手を掛ける。


「こんな早朝から一体誰だ……?」


 そして、そのドアを開いた。


「ライ! 久し振り!」

「ふふ、相変わらず元気そうで安心したよ」

「ああ、半年くらいは会っていなかったからな」

「ライ……久し振り……」


「……! レイ! エマ! フォンセ! リヤン!」


 外に居たのは半年近く前に別れ、たまにしか会っていなかったレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人。エマに至っては主力でもないので半年前から一度も会っておらず、本当に久々の再会だった。


「本当に……みんな! 久し振り!」


 思わずレイがエマたちを巻き込んでライに抱き付き、目に涙を浮かべる。レイもライと同じように、心底心細かったのだろう。

 たった数ヵ月。まだ一年も経過していない。その期間会えなかっただけで大袈裟かもしれないが、当たり前の存在がその期間居なかった。むしろ、数ヵ月という短い期間だったからこそ寂しさが後を引いたのだろう。

 その感覚はライも同じであり、どうやらエマたちも同じようである。やはり、たった一年の旅をした仲間だとしても、色々あった一年の中での信頼や友情。特別な感情は計り知れないものがあった。


「オイオイ……レイ。久し振りの再会だからって……それに、エマたちとは何処かで会ったんだろ?」


「ううん、違うの! 本当に偶然! なんかずっと寂しかったから近くにあるライの家に行こうと思ったら、みんなが来ていたんだ!」


「ああ、私も驚いたよ。魔物の国を一通り見て回ったから人間の国に向かおうとしたらフォンセも来ていたんだからな」


「ふふ、確かにな。私も魔族の国を出て向かう途中でエマと出会った」


「私は……幻獣の国を出て少ししたらエマ、フォンセが居た」


 ライは全員が事前に打ち合わせでもしているのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 本当に偶然、たまたまライの家に向かったら皆が居た。それが全員同じであり、レイはその嬉しさも計り知れないものがあったようだ。


「ハハ、そうか。けど、久し振りにみんなに会えて良かったよ。……正直、一人で心細かったからな……来てくれてありがとう」


「うん。私もそうだよ……。ライ、寂しかった……。何でだろうね……今までの別れは大丈夫だったんだけど……ライと……ライたちと別れるのは今までよりも辛い……」


「ふふ、確かにな。一人旅は好きだったが、改めて一人旅をするとなるとやはり物足りなさがある」


「私もだ。今私はルミエと住んでいるが、やはり少し寂しい感覚だ」


「うん……。クラルテさんや幻獣たちとの生活は楽しいけど……それとは別に何かが足りない感じ……」


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン。五人は全員が何処かに物足りなさを感じていた。

 しかし会う事でその何かを埋める事が出来る。皆現状に不満は無いが、やはり共に旅をした仲間の存在は大事なのだろう。


「じゃあさ、いっその事みんなで一緒に暮らそうよ! それならいつでも会えるよね!」


「え?」


 唐突な、レイの提案。

 その言葉にライたちは一瞬困惑するが、聖域の時のように互いに顔を見合って頷き、言葉を返した。


「ハハ、良いかもな。俺は賛成だ。エマとフォンセとリヤンは?」


「断る理由は無いな。フォンセたちは? 一応親戚の家に居るみたいだが……」


「ああ、勿論だ。それと、ルミエには言っておくよ。物分かりは良いからな」


「うん……クラルテさんも……何となくこうなる事を察しているかもしれないから……」


 考える間もなく、物事は決定した。

 世話になっているルミエやクラルテの事は気掛かりだが、その二人はおそらく薄々察しているのだろうと言う確信があった。

 根拠は無いが、フォンセとリヤンの親戚というのはそう言うものである。

 ともあれ、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は共に過ごす事を決め、話は纏まる。


「……あ! そうだ。忘れてた」


「「……?」」

「「……?」」


 ──話が纏まり掛けていたところでライがふと呟き、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は小首を傾げる。

 その反応を見やり、ライは優しく笑って言葉を続けた。


「──レイ、エマ、フォンセ、リヤン。おはよう!」


 それは、挨拶。今までの旅にて恒例となっていた、日課。

 それに対してレイたちも嬉しそうに笑い、それに返す。


「ライ、おはよー!」

「ふふ、ああ。おはよう」

「ふっ、挨拶、ご苦労」

「おはよう……ライ……」


 いつもと変わらぬ朝。いつもと変わらぬ挨拶。それは何より、ライたちにとって重要な事。挨拶を交わす事で、互いの存在。居て欲しい存在を改めて認識する事が出来る。



 ──ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤン。ライたちの行った異世界征服旅。

 一年というにはあまりにも激しく、濃厚だった旅は、これにて終わりを迎える。共に過ごす仲間の存在。何者にも変えられない宝物。ライたち五人はその存在たちと共に過ごすのだった。





*****



 ──昔、昔、世界が"魔王"に支配されていた頃、とある田舎の村から一人の少年が王国に招待され、"勇者"として魔王討伐の旅に出ました。


 "勇者"は街、村、森の中、加えて海の中にまで進み、人々が抱える悩みや魔物による被害から人々や幻獣を救い出しました。


 戦って、戦って、ずっと一人で孤独に戦い続けた"勇者"は、剣一つで国々を支配する魔王の部下や、悪の幻獣……そしてついには、世界を滅ぼす力を持つ"魔王"までも倒しました。


 "魔王"を倒し、王や、世界中の人々に感謝、祝福された勇者。

 それから王の娘を妻に貰い、幸せな家庭を築きました。

 その日々は楽しくて楽しくて、とても幸福な日々でした。


 しかし勇者は、今までに起こった悪い出来事は全て"神"の仕業ということをある日突然、"神"によって知ってしまいます。


 そしてその神は、勇者たちの住む世界に飽き、世界そのものを消し去ろうと考えました。


 このままでは"魔王"を倒して築いた幸せが無くなってしまう。勇者は世界の為、人々や人以外の生き物の為──家族の為に再び剣を手に取ります。


 そして聖域に乗り込んだ勇者は、自らを犠牲にして神を愛剣で滅ぼしました。 


 しかし神が亡き世界、それでは秩序が乱れてしまいます。


 それを駄目だと考えた勇者は、責任を取る事も兼ねて自らが神と成り、愛する家族の元に戻る事をせずに永久にその場に留まる事にしました。


 世界が本当に救われ、人々は歓喜の声を上げ、世界に平穏が訪れました。


 ただ一人、勇者の妻を除いて……。


 勇者の妻は勇者を待ち続けます。帰ってくることが無いと信じられず、しかし子供たちも直ぐに成長するのです。妻は勇者を待つのを止め、子育てに専念しました。勇者以外の男性を夫にせず。


 世界は勇者に救われ、しかし勇者はいなくなり、世界の平穏と秩序を引き換えに今も聖域で世界を、私たちを見守ってくれていることでしょう。


 ──しかしそれから数千年。世界は再び混沌を極めていました。


 救われた筈の人々は争いを止めず、それによって迫害される他種族。平和な世界を作り出した筈の勇者もこれでは報われません。


 そんな時、一人の少年がその被害の犠牲になってしまいます。しかしその少年にかつて世界を支配していた魔王。元・魔王が手を貸し、世界を救う為に勇者の子孫。魔王の子孫。神の子孫。ヴァンパイアと共に世界を救う旅に出ました。


 かつて神に沈められた海を渡り、支配者と呼ばれる存在が治める四つの国。魔族達の国を治め、魔物達の国を治め、人間の国を治め、幻獣の国を治め、ついにその世界を統一しました。


 しかし、全ての国を治めたとしても争いは止まりません。ついには世界全てを巻き込んだ大戦争が起こってしまいます。


 その元凶である存在に魔王を連れた少年。勇者の子孫。魔王の子孫。神の子孫。ヴァンパイアが挑み、最後には世界の支配者達も手を貸し、魔王の犠牲と共に勝利を掴みました。そしてそれによって、再び真の意味での平和が世界に訪れました。


 人々はその少年を英雄とし、世界を守護する存在として永遠に語り継いでいく事でしょう。──



*****



「──おしまい。今の世界があるのは数千年前に勇者様がみずからと引き換えに世界を救ってくれたから。平和な世界があるのは元・魔王を連れた英雄が頑張ってくれたからなのですよ」


「へー! すごいなあ英雄って! ぼくも将来、魔王を連れた英雄になる!」


 一人の少年に対し、一人の老婆が話していた。

 それは一つの伝記。本来の歴史と差違点もあるが、紛れもない歴史をつづったお伽噺。

 少年の言葉に対し、老婆は優しく笑う。


「ふふ、そう。それは無理じゃないかしらねぇ。だってもう魔王は居ないんだから」


「大丈夫! ぼくが魔王になるんだ! それで世界を旅するの!」


「おやおや。世界を旅するのかい? ふふふ、それは良い事だねぇ。それじゃ、そろそろお夕飯の準備をしましょうか。困っている人を見捨てられない英雄さんなら手伝ってくれるかい?」


「うん!」


 平和な世界。一人の老婆とその孫は夕食の準備に取り掛かる。迫害される事も無く、人間、魔族、幻獣、魔物が互いに助け合って今日も一日、そんな平和な世界が廻る。今では人間と魔族。二つの種族やエルフ、ヴァンパイアなどの幻獣、魔物との結婚も珍しい事にはなっていない。それ程までに泰平の世となっていた。



 その世界を創り出した存在はこれからも語り継がれていく事だろう。

 勇者の伝記。そして──元・魔王と行く異世界征服旅の物語は。








ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。

話数はあるので、たまに思い出した時などにでも暇潰しとして読んで頂ければ幸いです。

それでは。

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