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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第三十三五章
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九百六十七話 案内

 ──"聖域"。


 聖域の探索を開始したライたち五人と勇者。

 大樹から離れ、青々しい草原を歩む。青空はあるが、周りは黄金の光に包まれていてかなり目映い。だが、それは目が痛くなるモノではなく優しい明るさだった。

 緩やかに流れる小川の近くを通り、辺りの景色を眺める。そんな中、ライは勇者に訊ねた。


「そう言えば、勇者って聖域で何をしているんだ? 食べ物も無さそうだし、景色は綺麗だけど数千年も居たら見飽きそうだし」


「そうだな。まあ、基本的には現世を眺めているって感じだな。食事は必要無い身体になっている。睡眠もな。たしなみとしてならたまには食事をしたり惰眠を貪る事もあるけどな。それに、此処に来た時言ったようにあの大樹を始めとしてこの草原とかを作っている。元々の聖域は神聖な気配はあるが、見た目で言えば洞窟とかに近い無機質な存在だったんだ。それで俺は植物を育てた。数千年の成果がこれだ」


 今の聖域の光景は勇者によって創られたモノ。どうやらかつての神が居た時の聖域は今よりもすさんでいたようだ。

 いや、どちらかというと荒んでいるというよりは、あまりこの世に干渉せぬよう潜んでいたというのが正しいかもしれない。


「樹は一本だけなのには何か意味があるのか?」


「何となくだ。だだっ広い草原に樹が一本。何か良いだろ?」


 即答だった。

 これらは勇者が育てたモノ。しかし大樹以外の樹が見えないが、雰囲気作りの為にそれだけ生やしたらしい。

 植物を生み出したのは如何様な方法なのか不明。しかし勇者クラスの魔法が使えれば自然を生み出す事くらい容易いのかもしれない。

 本来は自然を生み出すとなると人造になるが、聖域に居る勇者は概念のような存在。故に自然という分類に当てはまるだろう。


「確かに雰囲気は良いけど……そう言えば、関係無いけど聖域ってかなり広いよね。ご先祖は迷わないの?」


「ん? ああ、この世界自体、今の姿は俺が創ったモノだからな。迷う事は無い。ま、ほぼ無限の範囲だからあくまでこの数千年のうちに創った範囲しか分からねえけどな」


「へえ。そうなると無機質だった聖域ってかつての神様が全部創ったのかな?」


「さあ、どうだろうな。……ハハ、そもそも聖域の起源が分からないからな! それについては全知の存在にでも聞かなくちゃな!」


「アハハ……聖域の起源は謎のままだね」


 今見えている範囲はあくまで勇者が聖域に来てからの数千年で創ったもの。それにしては自然が少ない気もするが、おそらく樹海のようにならぬよう管理も行き渡らせているのだろう。

 ふと勇者はレイの剣を見やり、訊ねるように話す。


「そう言や、その剣は俺の剣か。今更だけど懐かしいな。数千年振りに見た」


「うん。これは私の家の家宝だったんだけど、旅に出る時にお父さんとお母さんが渡してくれたんだ」


「成る程。俺の武器が家宝か。それは嬉しいな! 子孫が大切にしてくれるのは凄く嬉しい事だ!」


 勇者の剣。ノヴァからすれば自分の剣。それを気に掛けたが、家宝になっていると聞いて嬉しそうな雰囲気で笑う。

 やはり自分の愛用していた武器。大切にされているのは嬉しいのだろう。

 そして、勇者の目にはもう一本の剣が映り込んだ。


「……ん? それは天叢雲剣あまのむらくものつるぎ。別の伝承に出てくる刀剣じゃないか」


「え? あ、うん。これは……八岐大蛇ヤマタノオロチをから出てきたんだ。けど人間の国の"ヒノモト"にも同じ物があって、二本ある理由が謎なんだよね」


「伝承の剣が二本。確かに気になるな。別の世界が存在しているのを考えると、似たような世界線がありそうだし、そこから来た八岐大蛇ヤマタノオロチに宿っていたって可能性が一番か?」


「私もその線が高いって考えているよ。武器を生み出す事が出来る人でも、全く同じ本物の武器を二つ造れないと思うから」


 二本存在している天叢雲剣あまのむらくものつるぎ。レイたちは別の世界から来たと考えており、勇者もその様に推測した。

 考えてみれば色々あってゼウスから話を聞かなかったが、そうなのだろうとほぼほぼ確信していた。


「成る程な。ま、分からない事は考えていても仕方無いって事だな。取り敢えず聖域の案内だ。案内って言っても、特に見所は作ってないけどな。強いて言えばあの大樹。つまり名物案内はもう終わったな」


「やっぱり全体的にライに似た性格だな。ライよりも適当なところはあるが、英雄とは必ずこうなのか?」


「ハハ、俺が英雄か。勇者と同等に扱ってくれるなんて有り難いものだよ」


「ううん。私たちにとっては立派な英雄だよ。ライは」

「ああ、その通りだ」

「うん……」


「ハハ。一人旅じゃなく、信じられる仲間が居るのは幸せ者だな。仲間を大事にしろよ。今後、男女として色々と問題は出てきそうだが、それはまあいいか」


 今の聖域は基本的に勇者が創ったモノ。しかし客も来ないので名所などを創る必要も無く、主な目的は無機質な世界の景色を変える為に彩りを付けたのだ。

 なので名所は存在せず、当の勇者は軽薄に笑う。その様子からライに似ていると思うエマたち。ライは英雄と言われた事に少し照れていたが、レイ、エマ、フォンセ、リヤンからすれば英雄。そのやり取りを勇者は温かく見守っていた。

 一連のやり取りの後、ふとレイは勇者の前へ回り込むように言葉を発する。


「……! そうだ。ご先祖様! 聖域の案内が特に無いなら、私と手合わせしてくれませんか?」


「……! 俺と?」


 それは、手合わせを願いたいという事。

 レイは軽い態度を改め、師に稽古を浸けて貰うかのような態度となる。

 その行動に困惑する勇者。唐突に手合わせを頼まれたのだからそれも当然だろう。

 しかしフッと小さく笑い、言葉を続けた。


「……。そうか。確かに子孫と稽古をする機会は滅多に訪れない。実力はある程度分かっているが……良いぜ、乗ってやるよ……!」


「……!」

「「……!」」

「「……!」」


 その雰囲気にレイを始めとしたライたち全員が反応を示し、思わず勇者から距離を置く。

 口調は変わらない。態度も同じ。しかしやる気になった。ただそれだけで多くの修羅場を潜り抜けて来たライたちに最大級の警戒をさせた。


「おっと、悪い。つい嬉しくて力んじまった。けどその身のこなしからしてかなり強いのは分かる。俺も軽い気持ちで相手をするのは悪いと思ったんだ」


 先程の雰囲気から一変、重い空気が一瞬にして消え去り、ライたちが警戒を解くレベルに下がる。威圧感や雰囲気。それらをこれ程まで巧みに操れるというのは、力の使い方が相応に上手いという事。それだけで実力の高さが分かった。

 しかし、とレイは小さく笑って言葉を続ける。


「いいえ。先程のレベルで構いません。それくらいの気概で来てくれた方が私も嬉しいですから……!」


「ハッハ。流石俺の子孫。肝っ玉が大きい。……いや、俺の遺伝子ってよりスピカ寄りの肝っ玉かもな」


 レイの態度に勇者は笑う。自分の子孫が頼もしくて嬉しいのだろう。

 どうやらレイの性格や精神力はノヴァよりスピカに近いらしく、レイの雰囲気が似てるという、夢では大人しかったティエラもこれくらいの精神力を持っていたのかもしれない。

 何はともあれ、数分だけの聖域案内が終わり、勇者とレイ。かつての英雄と英雄の子孫の手合わせが始まった。



*****



 ──辺りには穏やかな風が吹き抜けていた。

 その風によって小さな草花が揺れ、向き合う二人、レイとノヴァの髪も揺れる。

 空は快晴。場所が宇宙なので空の存在理由は不明だが周りは気が遠くなる程に平穏無事であり、世は天下泰平。二人の心持ちもその気配と同じく、何処までも静寂だった。


「それじゃ、遠慮無く掛かって来てくれ。勝敗は……まあ、旅立った当初のレイなら俺に鞘でも使わせたら勝ちって事にしていたが、今の実力なら剣を抜かせたら勝ち……という事にでもするか?」


「ハハ……随分と余裕だね……! そんなルールは要らないよ。普通に、次の瞬間にでも頭や胸。急所が斬られるって態勢になったら勝ちって事で良いよ!」


 力の差は分からない。レイもこの一年以上の旅にてかなり鍛えられているからだ。

 しかし勇者の出した提案にレイは軽く笑って返し、従来の決闘のような形で決着を付けると告げた。

 それについて少し考え、勇者は言葉を続ける。


「そうか。それならもう俺が勝っちまっているんだけどな」


「私の身に体感させてから言って!」


 同時に踏み込み、レイが一気に加速して迫った。

 レイが移動してから草花が遅れて揺れ、突風が吹き抜けて勇者の剣を持ち主に叩き込む。当然、既に鞘からは抜いていた。


「それじゃ直ぐに終わってしまう。折角の子孫との手合わせだからな。もう少し楽しみたいものだ」


「……っ。当たらない……!」


 振り下ろした剣を避け、腕を組む余裕を見せながら連続してレイの扱う剣を避け続ける。

 当たらない事にレイは歯噛みし、そこから更に仕掛けるがそれも当たらない。一度距離を置き、薙ぎ払うようにけしかけた。


「やあ!」

「ふむ、鋭くなったな。戦いの中で成長する、俺と同じような力だ。……やっぱり血を受け継いでいるんだな……」

「……。え? 涙……?」

「バ、泣いてねーよ!」


 自分の子孫の存在を実感し、感極まって涙を流す勇者、ノヴァ。レイはその涙に戸惑うが、それでもなお剣は当たらない。

 感極まりながら光の速度以上の剣尖をかわすというのはかなりのものだろう。


「ふざけているようにも見えるけど……全く隙がない……」


「俺は至って真面目だ。あくまで手合わせ。稽古みたいなものだからな。常に成長続けるから、頃合いを見て仕掛ける」


「その前に終わらせる!」


 一旦頭を冷やし、冷静に判断する。

 少なくとも今の段階で必要以上に攻めて来る事は無さそうだ。ノヴァはレイの稽古を付けている感覚なので、手合わせを直ぐに終わらせるという事もしないのだろう。

 それならばとレイは意識を集中し、ヴァイスとの戦いでの事を思い出して奮い立たせる。


「……!」

「……! 動きが変わったな……」


 余計な意識を消し去り、狙いを定めて仕掛ける。

 連続して放たれた突きを勇者は左右に揺れるように避け、薙ぎ払われた剣の上に跳躍して乗る。レイは乗られた瞬間に刃を向けて斬り上げ、ノヴァは反転するように飛び退いた。そこに向けてレイは迫り、同時に剣を振るう。

 ノヴァは指で剣の腹を押して軌道を逸らし、レイの背後に回り込んで鞘を取り出した。


「喉元に剣尖。これで終わりだな。次の瞬間には急所を斬れる。が、可愛い子孫にそんな事する訳無い」


「……っ」


 辺りは静寂に包まれる。最終的には鞘から剣を抜かせる事すら出来ず、鞘に納まったままで決着が付いた。

 これが勇者の実力。レイもレイで完全な本気には到達出来なかったが、本番で到達出来ずにやられてしまえば何の言い訳も言えず、待っているのは死。到達出来なかったレイの負けだろう。


「はあ……。やっぱり強いね。ご先祖。……一太刀入れるのが精一杯だったよ……」


「……。ハハ、一太刀だけでも入れば十分だろう。負けるかもしれないって思ったから俺も鞘の状態とは言え剣を使ったんだからな」


 その瞬間、ノヴァの頬が切れて少量の鮮血が流れた。

 どうやら最後に剣を振るった時、勇者も避け切れずに掠ったようだ。

 勝負としてはレイの負けたが、一矢は報いたらしい。


「お前たちも静観してくれてありがとな。良い稽古だった」


「ハハ、俺たちも参考になったからな。流石勇者だ」

「ああ、当然だが、数千年前に戦った時より遥かに強くなっているな」

「この勇者とほぼ対等に渡り合った私の先祖……魔王も、よく善戦出来たな。まあ、実力は今と昔じゃ、勇者も魔王も違うんだろうけどな」

「うん……私の先祖も互角には渡り合えたかもしれないなら……なんか嬉しい……」


 レイとノヴァの戦いに余計な言葉は発さず、静観して見届けたライたちは各々(おのおの)で感想を言う。

 そのいずれも過去に相対した存在に対してであり、自分たちの先祖をフォンセとリヤンは改めて思い直す。

 そんなこんなが終わり、続いてライが言葉を発した。


「じゃあ、次は俺に稽古を付けてくれ」


「…………。……はい?」


 思わず素っ頓狂な声が漏れる勇者。レイと同様、唐突な申し出。この反応も頷ける。

 勇者による聖域の案内。それが終わり、レイと手合わせも終えた直後、嬉々としてライが名乗り出るのだった。

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