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九百六十一話 最終決戦・終結

「先手必勝だね。伸びろ如意棒」

「……ッ!」


 ヴァイスの握った如意金箍棒にょいきんこぼうが亜光速で突き進み、ライの腹部を打ち付ける。

 本来なら貫通していた速度と破壊力だったがライの身体は貫かれずに踏み留まり、内臓損傷による吐血はしたライが不敵に笑った。


「先攻後攻は関係無いさ……最後に残っていた方が勝ちだからな……!」


「……!」


 瓦礫の山を踏み砕き、一気に加速してヴァイスの眼前に迫る。

 ヴァイスは咄嗟に両腕をもちいて防ぎ、ライの様子を見て驚嘆した。


「凄いね。その傷で速度と威力が上がったよ。衰退していても、君は君なんだね。ライ」


「オラァ!!」


 ヴァイスの言葉には返答せず、感情を込めた拳を放つ。それを受けたヴァイスは後退り、片手の如意金箍棒にょいきんこぼうを振り回していなす。

 それをライは飛び退いてかわし、そのまま如意金箍棒の上を駆ける。ヴァイスは如意金箍棒を縮め、ライの身体を薙ぎ払うように吹き飛ばした。


「ある程度動けるようになっても、君は既に満身創痍。このままなぶられると最悪の場合死んじゃうかもしれないね。良いのかな? 肉体的な性質の筈の物理的な力の無効化も消えているみたいだし」


「ハッ、関係無いさ。俺は約束を守る男だ。全員、必ず護る。そしてアンタも倒す!」


「気概があっても肉体は追い付かない。この世は気合いだけじゃ生きていけないよ。……私が選別を完了させるまではね」


 吹き飛ばされたライは体勢を立て直し、狙いを定められ難くする為に低い体勢のまま駆け抜ける。

 しかしほんのりと回復したヴァイスはその動きを見切っており、的確にライの身体を如意金箍棒にょいきんこぼうで突き抜けた。

 一度突かれた事で体勢が崩れ、そこから連続して打ち付けられる。全身が叩き付けられ、追撃の一撃でその身体を弾き飛ばした。


「……ッ!」

「今の君なら、私が直々に攻めるまでもいかない。生物兵器の兵士達を相手にしたらどうかな?」

『『『…………』』』


 ライに向け、三体の生物兵器が放たれる。

 生物兵器の兵士達は剣や槍と言った武器を構えてけしかけ、その武器を見切ったライが拳を叩き込む。

 それによって生物兵器の兵士達は仰け反るが、所詮はその程度。即座に立て直し、ライの身体を切り裂いた。


「……ッ!」


 何とか最小限のダメージに留めてはいる。頬や腕などに小さな切り傷が作られるだけだが、かわすという行為だけで大きく神経が抉られる。

 そこに向け、ヴァイスは如意金箍棒にょいきんこぼうを構えた。


「私が直々に攻めるまでも無いけど、やっぱり気が変わった。伸びろ如意棒」


「……カハッ……!」


 亜光速で如意金箍棒にょいきんこぼうが伸び、ライの身体が吹き飛んで瓦礫の山に激突。そのまま山を崩し去る。

 そんな瓦礫に埋もれつつ、ライは薄れる意識の中でヴァイスを見た。


(マズイな……このままじゃ……全身護るって言う約束が果たせない……流石に……キツい……)


 珍しく弱気になり、フラフラと立ち上がる。意識が朦朧とし、目の前の敵すら認識するのが難しくなっていた。

 今までならそんな後ろ向きの思考に対して指摘してくれる者が宿っていたが、今はもう居ない。自分一人で何とかする他無いだろう。


「さて、もう終わりだね。伸びろ如意棒」


「……!」


 その刹那、勝利を確信したヴァイスが如意金箍棒にょいきんこぼうを射出。一部を砕き、その破片を複数に増やして無数の如意金箍棒が直進する。

 これを受けては意識が完全に消え去ってしまうだろう。何とか防御を試みるが、身体は動かない。

 そのままライは如意金箍棒によって──


「「「「ライ!!」」」」

「……!」


 ──打ち抜かれる前に、聞き馴染みのある四つの声が響き、ライを庇うように無数の如意金箍棒を受けた。

 如意金箍棒は亜光速。つまり、その者たちはライが立ち上がった瞬間に危険と判断して行動に移っていたらしい。

 その四人。


「レイ……エマ……フォンセ……リヤン……」

「「……ッ!」」

「「……ッ!」」


 共に旅をした仲間たち。

 再生力のあるエマが正面から受け、レイ、フォンセ、リヤンの三人がライを抱き締めるように庇う。

 如意金箍棒にょいきんこぼうが直撃した四人は倒れ、レイがライに視線を向けた。


「ライ……大丈夫……私たちが居る……だから、ライは一人じゃない!」


「……!」


 その言葉にライは揺らぎ、赤い滴が零れ落ちる。

 それは痛みによるものなどではない。エマ、フォンセ、リヤンの三人も小さく笑い、そのまま意識を失った。

 流石のヴァンパイアであるエマも不死身の無効化も含めた全能の攻撃には耐え切れなかったのだろう。まだその傷が癒えておらず、如意金箍棒の一撃によってより強いものとなり、空に浮かぶ輝きの恒星によって身を焼かれる。

 そう、現在は昼間。太陽がエマの肉体を貪る。にもかかわらず太陽の下へと駆け出し、ヴァイスの攻撃を受けた。

 故に、四人は全員が生死の狭間を彷徨さまよっている状態であり、せめてもの防衛として肉体が意識の消失を選んだようだ。


「邪魔が入ったね。けど、もう関係無い。さて、終わらせ──」


「黙れ……」

「……!」


 ──その刹那、ライの身体から漆黒の渦が立ち上った。

 風が吹き抜け、ライの髪を揺らす。その目には光が映っておらず、ただヴァイスという存在のみを認識。ゆっくりと振り向き、顔を上げた。


「その力……いや、あの存在は消え去った筈。何故残る?」


「さあな。けど、フォンセには魔王の血が流れている。その血を受けたからこそ……何かが目覚めたんじゃないか? それに、他の気配も感じる」


 ──魔王の力。漆黒の渦は正しくそれだった。

 しかしそうなると理由が不明。だが、庇ってくれたレイたちの血と先程まで宿っていた魔王の力が共鳴し、今一度目覚めたのかもしれない。その証拠に、普通の魔王の力とは差違点があった。

 神聖な気配が漂い、英雄の気配も顕在する。紅いオーラも漆黒の中に混ざっており、レイたちの力の集合体。それが今のライの力。

 ヴァイスは如意金箍棒を構え、生物兵器の兵士達をけしかけた。


「やれ! 兵士達!」

『『『…………』』』


 生死は問わない。そう言った意気込みで生物兵器の兵士達に剣や槍を使わせ、ライの身体を切り刻む。

 しかしライの肉体には傷一つ付いておらず、生物兵器を粉砕。魔王の力故に再生せず、ヴァイスは冷や汗を流した。


「流石にのんびりし過ぎたね。一生でもう使えなくなるけど……やるしかないか。"再生リジェネレイション"!」


 同時に──自分自身(・・・・)の腕を(・・・)引き抜いた(・・・・・)

 それに再生の力を使い、見る見るうちに肉体を形成。ヴァイスがもう一人となる。


「……! 増えた……!」


「増殖再生。君には教えていなかったかな? 私は一生に二回だけ対象を肉片から分身させる事の出来る力が使えるんだ」


「この技を使ったのは"世界樹ユグドラシル"で生物兵器の未完成品を再生させた時以来だね。力も全て同じ。私は私を使って君を倒す」


 増殖再生。ヴァイス達の説明通り、その存在を増やす再生術。その、最後の一回。

 それを使った事によってヴァイスが増殖し、ライに向き合った。


「ああそうかい。まあ、その程度なら問題無い。今の魔王の力はフォンセの魔王の力……肉弾戦向きじゃ無さそうだけど、この魔力を力に干渉させれば……」


 フォンセの魔力は主に魔法や魔術の為のもの。魔王の肉体的な力ではなく魔術方面で大きな影響を受けたのだろう。

 おそらくそれはルミエ・アステリも同じ。魔王の肉体的な力を受け継いだ子孫は居ないと考えるのが妥当なようだ。

 しかし、魔王の魔力だけあってその力は凄まじい。エレメントではなく肉体に干渉させる事で相応の力を得る事も出来る。

 別に肉弾戦にこだわらなくとも良いのだが、ライの心境からしてヴァイスを正面から殴り飛ばしたいのだろう。


「終わらせる……!」

「私たちも」

「本気で行こう」


 踏み込み、音を超えて加速。力で言えば魔王の一割程しかないが、それでも十分だろう。

 増えたヴァイスも現在のヴァイスも万全ではない。互いが互いに長期戦を行えない事実は変わらず顕在するのである。


「オラァ!」

「「"再生リジェネレイション"!」」


 ライの街を消し飛ばす破壊力が込められた拳に対し、ヴァイスは再生の力をもちいて岩盤で防ぐ。当然それは容易く砕けるがあくまで視界を狭めるのが目的。

 ヴァイス達は左右から攻め入り、ライはそれらを見切って紙一重でかわした。


「"再生リジェネレイション"!」

「……!」


 その瞬間にライの足元にある瓦礫から建物を再生。閉じ込め、同時に崩落させる。というより、再生の力が足りず自然に崩落したのだろう。

 万全ではないからこそ完全でもない。結果的には崩落によるダメージが及んだかもしれないが、今のライに効果は薄かった。


「どうやら、お互いにあまり良くない状況のようだね。力はある程度戻った。けど、それによる不調は多い」


「そうだな。だけど、それは今更だ。この勝負で……一先ずの戦争は終わるんだからな」


 互いに互いが万全ではないこの状況。しかし今の状態だからこそ決着が付きやすい状況とも言える。

 ライは瓦礫の中から一気に加速して踏み込んだ。同時に第一宇宙速度となってヴァイスの眼前に迫り、二人のヴァイスはそれを迎え撃つ。


「はっ!」

「「……!」」


 ライの拳を受け止め、もう一人のヴァイスが死角から差し込むように仕掛ける。それをライは受け止められたヴァイスの手を軸に浮き上がってかわし、背後に回り込むと同時に横から蹴りを打ち付けた。

 ヴァイスは腕をもちいてガードしたが吹き飛ばされ、次の瞬間にもう一人のヴァイスがライの懐へと迫って如意金箍棒にょいきんこぼうで打ち抜く。そのまま棒を伸ばして無数の建物を粉砕させながら吹き飛ばし、炎の魔法道具をライの吹き飛んだ方向へ放出。辺り一帯が業火に包まれた。

 しかしその瞬間に業火は掻き消され、ライが一気に迫り来る。如意金箍棒を持ったヴァイスは棒を伸ばして牽制するが、また棒の上を駆けたライが肉迫してヴァイスの顔を殴り飛ばした。

 二人のヴァイスが同じ場所で立ち上がったその瞬間、ライは全身の力を一気に解放する。


「これで終わらせる……!」

「ふむ、仕掛けて来るか」


 ライに宿った力が具現化する。それはフォンセの力のみならず、勇者と神、吸血鬼の力も合わされた力。

 対するヴァイスも全身の力を解放。白い存在が具現化し、ライの身体には紅いオーラの入った漆黒の渦が纏い、ヴァイス達の身体には何処までも純白な気配が漂う。


「アンタ、再生の力だけじゃなかったのか。その気配……普通に破壊の方向にあるな」


「ああ。あくまで再生は再生の力。だから、エレメントと同じように別方向に干渉させたらそれを破壊の力に変換する事も可能さ」


「そもそも、私のもう一つの肉体も腕の細胞を細かく分解した後、宇宙に存在する同じ材料から私の肉体を模倣しているからね。精密な使い方だからこそ完全な肉体の分身が創られるという訳さ」


 ヴァイスの再生の力。それは、魔法や魔術とはまた違った力である。だが、根本的な部分は基礎の魔法や魔術と同じ。やり方が違っても全ての異能はそうだろう。

 干渉させる対象は違えど、干渉させる事が出来れば攻撃も可能。おそらく再生の力は特殊な異能なのでやれる事に限りがあるとしても、質量を上げて仕掛ける事は可能なのだろう。


「「だから宇宙のエネルギーを再生させ、質量を増やして君に仕掛けられる」」


「そうか。どうでもいい! 俺はアンタに勝つだけだ!!」


 漆黒の渦と純白のエネルギー。その二つが周囲の空間を歪め、この星のこの場から周囲を二つの気配が覆い尽くした。宇宙から星を見れば星の中心に白と黒の渦が台風のように顕在しているように見える事だろう。


「終わらせる!」

「「君に同じ!」」


 その瞬間、二つのエネルギー波は互いに衝突を起こし、世界がモノクロに染まる。破壊と再生が流転を繰り返し、渦巻く混沌が星を飲み込んだ。

 そして間を置かず、辺りは二つのエネルギーに覆われて灰色に染まった。



*****



 灰色の世界が晴れ、辺りは廃墟と化していた。

 人々は変わらず居るので厳密に言えば廃墟と違うが、廃墟としか言い表せぬ世界が形成されているのだ。

 そしてそんな荒廃した街の中心地には、唯一立つ三人の姿があった。


「……どうやら……」

「終わりのようだね……」


「ああ、終わった」


 ライ。そしてヴァイスとヴァイス。

 先程よりも遥かに傷が深くなった三人は、闇と現実の狭間で揺らいでいた。

 次の瞬間にヴァイスの肉体が砕け、さながら土人形のように崩壊する。


「……。結果はアンタのバッドエンド。アンタの物語は終わる。……悪かったな」


「……。何故謝るのか分からないな。……君は本当に……いや、これ以上言うのは私らしくない。止めておこう。……フフ、それに、バッドエンドでもないさ。天国か地獄か、はたまた別のあの世か。そこに居る彼らに会える可能性があるのだからね。言うなれば、メリーバッドエンドかな。私からしたらそれは幸福とも言える。全能の力が無くなった今、目的が遂行されていたとしてもどの道独りだけの支配者になっていたからね。死もまた救い……なのかな」


 腕が落ち、クスリと小さく嗤う。

 既に増殖再生された方のヴァイスは朽ち果てており、ヴァイスがヴァイスを庇った事でいつものヴァイスの方がほんの少し長くこの世に残れた事が窺えられた。


「……。そうか。じゃあな」

「ああ、またね。今後、会う機会があるのかは分からないけどね」


 最期に言い残し、ヴァイスの肉体は炭のように消失した。その肉片は風に巻かれて消え去り、無機質な地面と白亜の瓦礫。吹き抜ける風にライは揺れる。


「……。さて、俺も戻るか。皆のところに」


 数分間空を見上げ、独り言を呟いて歩み出し、戦闘の余波によって飛ばされた者たちを探す。もう既に意識など遠い場所にあるのだが、それでもライは行動に移る。

 ライとヴァイス。侵略者と侵略者による、世界の命運をかけた戦い。それは、ヴァイスがこの世から完全に消え去る事で決着が付くのだった。

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