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九百五十九話 魔王の最期

「絶対無限のヴァイス……」

「そんな……私の所為で……」

「いや、俺も完全に……」


 数え切れぬヴァイスを前に、構えたはいいが動きが固くなる二人。積み重なる戦闘によって既に疲弊した状態。ようやく決着の目処が立った矢先の自分たちの失態による絶望的状況。二人は既に意気消沈していた。

 その様子を見やり、魔王(元)がライとレイの肩を叩く。


【……ったく。お前ら。構えたなら最後まで突き通せ。俺的に言や、お前たちのお陰で楽しめる状況が作られた訳だからな。感謝すらしてるぜ?】


「「……」」


 魔王(元)に視線を向けるが、二人は歯噛みしたまま無言。魔王、エラトマは肩を落とし、ニッと笑って言葉を続けた。


【んじゃま、お前らは見てろ。さっさと片付けて、本来の奴だけを残してやるからよ。これが今生……いや、一応生きてはいね

ェままだったか。取り敢えず、最期の祭典。楽しむだけ楽しんでやらァ! ハッハッハ! 俺ァ案外、身内と部下とダチには優しいんだぜ?】


「……! ま、待て! 魔王!」


 ライとレイを庇うように前に立ち、力を込めると同時に加速する。

 理解が追い付かないまま何とか理解したライは咄嗟に手を伸ばすがその手は空を切り、心の底から楽しそうな笑みを浮かべているエラトマの背を見送った。


「君一人で来るか。かつては悪逆非道の限りを尽くし、世界を我が物にした存在が仲間の為に立ち上がるとはね」


【ハッ、勘違いすんな。端から世界なんてどうでも良いんだよ! 俺は俺らしく、自由気儘に生きてるだけだよッ!】


「……。もう死んでいるよね?」

【俺が居る限り、俺は生き続けてるぜ!】


 超速で迫ると同時にヴァイス達に向けて拳を打ち出す。それを一人のヴァイスが受け止め、その瞬間に周りのヴァイス達が一気にけしかけた。

 見る見るうちにエラトマは傷を負い、吹き飛ばされて空間に激突。しかし負った傷は軽傷。かなり頑丈なようである。


「フム、肉体的な強度は相変わらず凄まじい。ちょっとマズイかもしれないね」


「そうだね。先程までの無数の私たちも魔王の一挙一動で消滅した。他の全能になった主力達を相手にしていてライの肉体を使っていたとはいえ、本来なら不意討ちくらいでやられる訳が無いからね。他の全能の主力達もまとめて打ち倒した……魔王の消滅まで、何人の私たちが消えるんだろうね。流石にそれは知りたくないから情報を得ないでおこう」


 魔王(元)の実力はライの肉体に居た時点である程度分かっていた。それに加えて全知の力もあるので全て知っている。

 知った上で、全能の力をどんなに使おうとライやレイのように完全に追い越す事は出来ない事も理解済み。厳密に言えば一度は完全に追い越すが、秒も掛からずゼロで追い付く。要するにかなり厄介という事である。


【ハッ! 無駄話している暇があったら、余命僅かな俺様を心の底から満たしてみろ!】


「「「……!」」」


 瞬間、無数のヴァイスが魔王の力によって消滅した。

 全能なので実力で言えば同格。加えて全知なので何が起こるかも分かっている。そんなヴァイスが一瞬にして消え去ったのだ。

 やり方は簡単。ただ単に一瞬にも満たぬ時の中で追い越した時、全力の一撃をぶつけて細胞一つ残さず消し去ったに過ぎない。

 そんな事が出来るなら始めから実行すれば良いかもしれない。だが、そこまで出来ない理由があった。


【……ッ! ハッ、やっぱ即席の身体じゃ持たねェか……! いくら強靭な肉体だからと言って、アイツの身体みてェに一から鍛えた肉体じゃねェと崩壊も早ェな。ま、アイツの肉体でもいきなりこんな力使ったらこうなるか……!】


 ──瞬間、魔王(元)の片腕が内側からぜたように崩壊した。

 その鮮血を顔に受け、クッと小さく嗤う。

 そう、魔王(元)程の力を持つ存在は、最初から全力は出せない。

 ただの全力なら疲労が大きいだけで無問題だが、全身全霊を込めた渾身の力。即ち完全なる力を使えばそこから肉体が崩壊してしまうのだ。

 範囲や威力は比べ物にならないが、それは常人でも同じ事。常人も常に身体へリミッターを掛けており、それを解放したら凄まじい力が手に入ると同時に相応の対価として肉体に何らかのダメージが及ぶ。

 魔王の力となるとそのダメージも凄まじく、一挙一動で絶対無限の多元宇宙と共に自身の肉体も破壊してしまうのだろう。


「どちらにせよ、君の存在の消滅は時間の問題。この様子だと時を待たずして自滅してしまいそうだね」


【ハッハッハ! 全知なのに馬鹿だなテメェ! 傍から見た自滅でも、俺は自滅すると思ってねェから自滅じゃねェよ!】


「……。子供みたいな理屈だね。まあ、私も似たようなものか。子供が使う絶対に勝つ力や絶対に破れないバリアとかを実際にもちいて君達と戦っているんだから」


 そんな魔王(元)を見たヴァイスは呆れるが、自分も同じようなものだと割り切って構え直す。既に新たなヴァイス達も補充されており、一向に数が減る気配が無かった。


「……っ。俺が見ているだけって訳にはいかないか……! 付き合い自体は一年弱……けど、俺が世界征服を遂行する為の最初の仲間だからな……!」


「私も……! 生身の状態なら私が最初……エラトマさんとも、ライと同じくらいの付き合い……!」


 魔王(元)と出会った日。その日がライの世界征服遂行の一歩。そこにレイが加わり、仲間たちも増えた。

 故に、魔王(元)を一人で戦わせる訳にはいかない。ライは自分自身の力を込め、レイも勇者の剣を握り締めて力を込める。次の瞬間に二人も飛び出し、ヴァイス達に向けて迫った。


「この身体が滅びても……全身全霊、最大級の全力で……アンタらを倒す……! それが世界征服の……新たな一歩だ!!!」


「貴方を倒さなくちゃ世界に未来は無い! だから、私も本当の本気で仕掛ける!」


「フフ、そうかい。だけど、未来は必ず存在するのさ。今現在、この時この瞬間から一秒先の一瞬後。その時すでに私たちは未来へと進んでいる」


「もういいかもね。例え世界が、全ての次元が滅んでも私一人さえ生き残れば全てを解決出来る。終わらせようか」


 ライとレイ。二人による全身全霊を込めた一撃。それを正面からヴァイス達は受け止める態勢に入る。


【ハッ! んな事俺も同じだ! 俺は世界を創れねェが、破壊する事に関しちゃ誰にも負けねェ自信があるんだよ!】


 ライたちに続き、魔王(元)も今一度全神経を集中して力を込めた。

 その声と力の気配に感化されるよう、意識を失っていた他の主力達も最後の力を振り絞って朦朧とする中で起き上がり、ヴァイス達に向き合った。


「……フム……我らもやるしかないか。他の者たちを完全に回復する事は防がれるが、最後の一撃くらいは放てるようにした」


「ハッ、ありがてェ……最後まで何もしねェで寝てるなんざ真っ平だ……!」


『フフ……面白い……! 余を相手にした事……文字通り死する程に後悔させてやろう……!』


『……っ。元気なものだな……俺は息をするのも精一杯だ……。……いや……全員そうか』


 ゼウス、シヴァ、テュポーンにドラゴン。支配者たちを始めとして世界各国の主力たちが力を込める。全員次の瞬間に倒れる。もしくは死してもおかしくない状況だが、既に腹は決まっていた。


「ライ、レイ……ふふ、仲間が二人も戦っているんだ……私たちも寝ている訳にはいかないな……!」


「ああ。私はライの世界征服を手伝うつもりで来たんだからな……馬鹿げた目標だったが……手伝いくらいは出来る……!」


「うん……!」


 エマ、フォンセ、リヤンの三人も立ち上がり、絶対無限。世界全てを埋め尽くす程の存在ヴァイスに視線を向けた。



 ──そしてその瞬間、全主力による一撃が放たれた。



「オ━━ラァ━━ッ!!」

「やあ!!」

「はあ!!」

「"魔王の運命サタン・ディスティニー"!!」

「"神の決定ゴッド・デターミネイション"!!」


「"終焉の雷霆トゥテロス・ケラウノス"!!」

「"生誕の三叉槍ウィラダ・トリシューラ"!!」

『"竜の咆哮ルギスメント・ドラゴン"!!』

『消え去れ!!』


 ライたちと魔王(元)に支配者。そして他の主力たちも自身の力に全能の力を込めた一撃を放つ。

 ヴァイスはその全てを正面から捉え、全知全能の全てを解放した。


「「「"完全なる(パーフェクト・)全知全能オールノウズ・オールアビリティ"」」」


 その存在は、もはや形容出来る力では無かった。

 全知全能。それ即ち、絶対無限にも及ぶ力の集合体。

 それにはライたちの力も全て加わっており、全ての次元に居る者が想像しうる力から誰にも思い付かない想像を越える力まで文字通り、読んで字の如く全ての力が集っていた。

 正に全知全能。完全無欠。絶対無限領域を超越した全てのモノ(セカイ)。その存在が合わさった力だった。


「……ッ! 駄目か……押し切られる……!」

「……っ。私も……!」

「何という凄まじい力……」

「これはもはや……何と言えば良いんだ……!」

「……駄目……かも……」

【ハッハ……ッ! 流石に……色々と差があるか……! 燃えるじゃねェか!!!】


 全ての力。そんなものを止められる筈が無かった。

 一人一人、一匹一匹の質は世界最高峰。それこそ今は主力全員が全能であり、全能ではないライたちも全知全能に匹敵する実力を誇っているが、ライとレイ、魔王(元)以外の主力は意識が戻った瞬間に仕掛けた。故にゼウスも自身の数を増やす事が出来なかったのだろう。

 それもあって同格の質でも力に差が生まれる。数十人と数十匹vs絶対無限。全員の力が同じレベルだからこそ、最終的に状況を左右するのは"数"なのだ。


「やはり……このままではやられる……!」

「テメェがそう言うんなら、本当にそうなんだろうな……! で、どうする?」

「どうしようも無いな……まあ、我は全能故に、一時的……それこそほんの一瞬は無効化も可能だ。だが、敵は全能の絶対無限。即座に引っくり返される」

「そうかよ……俺も今は全能みてェだが、ゼウスと同じか……!」


 ヴァイスの力も一瞬は消せる。それは主力全員に言える事。しかしそれは、ヴァイスからしても同じである。

 全能の存在。左右するは数をヴァイスがまだライたちの力を消さないのは、自身の力のみで押し切ろうとでも考えているのだろう。


「……っ。まだだ……まだまだだ……! 俺は次の段階に進化を……!」


【……。ハッ、成長したじゃねェかよ。──ライ】


「……! 魔王……?」


 ヴァイスの絶対無限に追い付く為、ライの力が更に向上。一瞬にしてその段階へと到達した。しかし次の瞬間には消され、全てのヴァイスも力を上げる。

 だが、ライが気に掛けたのはそんな事ではない。魔王(元)の存在。それが一番引っ掛かった。

 魔王(元)は力を込め、不敵に笑って言葉を続けた。


【クハハハハ! 感謝しろテメェら!! たった今から、俺"達"がアイツらを消し去ってやるよ!!】


「……!」

「「「…………!」」」

「「「…………!」」」

『『『…………!』』』


 魔王(元)の言葉に全ての主力が反応を示す。全員の力でも押し切られる状態。最早どうしようもない筈。しかし魔王(元)は、魔王たちは、この状況を打破する為に行動に移った。


【オラ、出て来いよテメェら!! テメェらの子孫が大変な目に遭ってっぞ!! 力を貸せェ!!】


 誰かに向かって言葉を発する。しかしその誰かが誰なのか、ライたちは全員が分かった。


「──ハッハッハ! 仕方ないか! それじゃ、可愛い子孫の為に一肌脱いでやるよ!」


「──我は何故? いや、一時的か。まあそれも一興。……主は共に行くのか? エラトマ」


【ああ。そうなるな】


 ──その存在は、世界に伝わる神話の存在。

 ──その存在は、かつて世界を左右した存在。

 ──その存在は、血に繋がりのある存在。

 何故やって来た、やって来れたのか。それには必ず理由があるだろう。その三つの力が合わさり、全能の全てになにかが触れる。一番戦闘に立っていたヴァイスは初めて冷や汗を掻き、全神経を集中する。


「まさか……こんな事が……! ……っ。だったら……君達全員の力……貰い受けるよ!」


「「「…………!?」」」

「「「…………!?」」」

『『『…………!?』』』


 次の瞬間、ヴァイスは主力たちの全能の力を奪取した。

 あくまで奪ったのは与えられた全能の力のみであり、通常の魔法に魔術やその他の異能。身体能力は無事。ライたちとゼウスはその力を無効化出来るので問題無く、新たに吸収した全能の力をその塊にぶつける。


「魔王!!」


 しかし、その存在。例え憧れの存在が居ても、ライは魔王(元)の存在のみに話し掛ける。

 魔王(元)。──ヴェリテ・エラトマはクッと歯を剥き出しにして笑い、最期に続けた。


【辛気臭ェ顔してんじゃねェよ。ライ。ただの暇潰しでお前をそそのかしたが、ハッ、存外悪くねェ一年弱だった】


「暇潰しって……そんな理由か。てか、お前は最期までその態度を貫くのかよ。……エラトマ」


【ハッハッハ! テメェも最期までその態度か! その方が良い! 長くて短い人生は楽しまなくちゃ損だからな!】


 三つの力とライたちの力。それと織り成すは全能の光。その光の中に、エラトマの姿は飲み込まれて逝く。


【オイ、フォンセ。俺は身内の味方だから言っておくが……ライバルは多いぜ。気を付けな】


「……。ふっ……そうか……。その様子……どうやら始めから消え去る事が決まっていたみたいだな」


【クク、ああ、そうだ。後他にもアイツらの子孫や俺の血縁が居るが……ま、もう終わりみてェだ。結局、タイムリミットを待たずに消える事になるか。ハッハッハ……あー、満足だッ!】


 最後の最期まで愚痴を吐き、最期まで笑い、エラトマの姿が完全に消え去った。

 ──そしてその瞬間、同時に空っぽの絶対無限空間が消滅した。



*****



 ──"????"。


「……っ。此処は……」


 目覚めた時、ライたち主力は見た事のある場所に来ていた。

 辺りの様子は既に直っている。白を基調とした神殿のような造りの建物。そう、此処は──


「戻って来たのか……元の世界に……」


 ──"元の世界"。

 絶対無限の空間が衝突によって消え去り、結果として元の世界に戻った。

 おそらく力同士が打ち消し合い、相殺される事で今の状況が作り出されたようである。


「みんなは居る……いや、一人だけ居ないか……。それとヴァイスは……」


「……。どうやら、全ての私が消されてしまったらしいね。ライ」


「余波で重傷だけど生きている……代わりに全知全能のヴァイス達は消滅したらしいな……」


 その世界に居るヴァイスは馴染み深い何時ものヴァイス。しかし重傷であり、息をするのも辛そうな様子だった。


「……ッ! ……いや、俺も……全員が重傷か……」


 ヴァイスの姿を確認し、ライは吐血して膝を着く。

 他の主力を含めて全員が満身創痍の状態。特に最後まで力を送った支配者たちは意識が無く、他の主力たちもとても戦える状態ではなかった。


「……そうなると……ハァ……残るは……俺とアンタの戦いか……」


「フフ……ふう……そうなるね……こんな状態で戦いたくは無いんだけど……ね……」


 敵が残っているならやるしかない。二人の間に二人の吐息のみが響き、軽く呼吸して態勢を立て直す。


「ふぅ……ッ! ぐっ……呼吸だけでも……ハァ……痛むな……けど……さあ、正々堂々……自分の力で戦おうか……!」


「やれやれ……。致し方……無いね……どの道……残る主力は君だけ……終わらせるよ……!」


 互いに呼吸一つで地獄の激痛が走る。身体は痙攣し、意識は朦朧としている。血が流れ過ぎており、視界は血の不足と血その物によって狭い。だが、二人に戦いを避けるという選択肢は無かった。

 全知全能を失ったヴァイスと魔王の力が無くなったライ。世界を。全ての世界と次元を賭けた戦闘は、ライとヴァイス。二人の侵略者に委ねられた。

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