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元・魔王と行く異世界征服旅  作者: 天空海濶
第六章 侍の街“シャハル・カラズ”
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九十五話 お手並み拝見

 ──"シャハル・カラズ"、広場。


 店から外に出たライたちは移動し、一際大きな広場に辿り着く。

 幹部の戦闘という事もあり、その場所には何処から伝わったのか沢山の魔族達が集まっていた。


「今ってまだ昼時だよな? この街の魔族は昼でも普通に行動しているのか?」


 先ずライがモバーレズに向けて自分が気になった事を言う。

 魔族とは基本夜行性の筈だが、何故か真っ昼間の今でも多くの魔族が集まったからだ。モバーレズはライの方を向きながら応えた。


「ああ、そうだ。この街の生活リズムは俺が旅行した国に近い感じにしたくてな。……まあ、元々"シャハル・カラズ"は他の街より昼行動が多い場所だから反感も出ずにこの体制になった訳よ」


 いわく、元々この街自体が夜のみならず朝昼にも活動していた為、他の街と違う文化にしても直ぐに馴染んだと言う。

 モバーレズはその説明を終え、更に言葉を続ける。


「……だが、ンな事はどうでも良い。ギャラリーが待っているンだ。さっさとろうぜ? 久々の楽しみだ……!」


 言葉を続けながら刀を一本取り出すモバーレズ。

 二刀流を使うと話していたが、本気じゃない為今回は一刀流なのだろう。


「……ハハ、悪いな。楽しみを先延ばしにしちまって。と詫びと言っては何だが……アンタを楽しませてあげるよ……!」


 フッと笑みを浮かべ、モバーレズの様子を確認してザッとモバーレズ相手に構えるライ。観客ギャラリーよ魔族達も息を飲み、ライとモバーレズの様子を眺めていた。


「……」

「……」



 ヒュウと一筋の風が通り過ぎ、互いのあいだに妙なが生まれる。

 その隙間を旋風が吹き抜け、ライとモバーレズの髪の毛を揺らす。



『……』



 そして、流れ行く川を泳いでいた錦鯉が飛び跳ねた。バシャッという水の音が響き渡り、数滴の飛沫を舞い上げた、



 その刹那──



「「!!」」


 ──二人は同時に駆け出した。互いに土の大地を踏み砕き、轟音と共に小さなクレーターを造り出すと同時に土煙が"シャハル・カラズ"に舞い上がる。


「オラァ!!」

「ダラァ!!」


 舞い上がった土煙を切り裂きつつライは拳を、モバーレズは刀を繰り出す。

 モバーレズの刀は刃の方では無く、みねの方を向いていた。本気ではな無い為、峰打ちの形なのだろう。

 そしてモバーレズの刀にある峰とライの拳がぶつかり合い、それによって轟音と共に大地がへこみ、先程造り出したクレーターが巨大化する。


「「……頑丈な刀(拳)だな……!」」


 ライとモバーレズが互いの武器を褒めるように言い、跳躍して距離を取った。

 魔王の力を纏わずとも巨大建造物くらいならば容易く砕ける程に成長したライの拳と、その気になれば山を切り裂けるモバーレズの刀。

 今は峰の部分だが、それらを受けても砕けないライの拳とモバーレズが持つ刀の刀身に互いは感嘆の声を漏らしたのだ。


「まあ別に……」

「……関係無いけどな?」


 次の瞬間、二人は呟くように言いながら再び大地へ踏み込む。

 その衝撃によって土が吹き飛び、遠方にある木造の建物を大きく揺らす。


「ほーら──」

「そーら──」


「「──よっとォ!!」」


 刹那、二つの衝撃によって地面が割れ、辺りには大きな亀裂が入った。そして一瞬だけ静止したライとモバーレズは同時に動き出す。


「ほらっ!」


 先ずはライが体勢を低くし、斜めに沈みながら蹴りを放つ。


「っとォ……!」


 それを軽く仰け反ってかわすモバーレズ。

 モバーレズは直ぐ様前屈(まえかが)みになり、大地を踏み砕いて距離を詰める。


「ダラァ!!」

「……!」


 モバーレズは刀の峰を横に薙ぎ、それをライがかわす。その風圧によって土煙が上り──


「「ラァ!!」」


 ──ライとモバーレズの攻撃がその煙を切り裂いてぶつかり合った。その風圧に巻き込まれ、周りに居た何人かの魔族が吹き飛んでいく。


「オイオイ……アンタの街の住人が大変だぞ?」

「ハッ、その程度で何だ? 俺の街の奴らは結構我慢強いぜ?」


 拳と刀で互いの動きが止まっており、その時にライとモバーレズが話す。

 ライは街の人々が大変だと、モバーレズはその程度で負傷する程この街の者はやわではないと。それだけ交わし、二人は次の行動に移った。


「そらそらそらァ!」


 先に仕掛けたのは目にも止まらぬ速度で刀を振り回すモバーレズ。一見すれば出鱈目でたらめに振っているようにも見えるが、その太刀筋はしっかりと計算されており際どく、相手が避けにくい場所を通っていた。


「……」


 そしてその軌道を読み、かする事なく紙一重で避け続けているライの動きも出鱈目でたらめだった。

 モバーレズの刀とライが織り成す衝撃は相手に当たらずとも、"シャハル・カラズ"の街に粉塵を巻き上げる。


「ハッ、これも避けるか!」


「ああ、止まって見える……訳じゃ無いが……避けられない速度じゃないんでな」


 それだけ言って刀を振る際に生じる隙を突き、ライはモバーレズへと蹴りを放った。


「……ッ!」


 その蹴りはモバーレズの腹部に命中し、受けたモバーレズを怯ませる。

 それによってモバーレズは数センチ移動し、ザザッと土を擦っていた。


「まだだ……!」


 その隙を突き、身体に力を入れて更に仕掛けようと動き出すライ。


「良い蹴りじゃねェか!」

「……っと」


 しかしライが動く暇も無く、モバーレズは刀を振るった。ライは軽く下がってそれを避け、数センチ程度の距離を置く。


「だが、俺のそれなりに強靭な肉体はその程度じゃ砕けない。……ダークって知っているか? そいつは幹部の中でも生粋の実力者でな……。そいつの山を砕く攻撃でも俺は砕けなかった。俺の刀は砕けなかった。お前はそのダークを倒したと聞いたが……それは本当か?」


「……」


 そんなライに向けて話すモバーレズ。ライがダークを倒したという事を知っている様子だった。

 しかし幹部がやられたのを知らない方がおかしいのでそれはそれとする。


「……ああ、本当だ。確かに俺はダークを倒したぜ」


 そしてモバーレズの質問に応えるライ。ダークを倒したのは事実なので特に応えない理由もないからである。


「ハッハッハ……なら、本当に楽しめそうな相手だ……!」


 ライが言い終え、口角を吊り上げて獰猛どうもうな笑みを浮かべるモバーレズが駆け出す。

 ダークの仇? と思っていたライだが、どうやらそういう訳でも無いらしく。──モバーレズは純粋に戦いを楽しんでいるのだ。


「なら、それに答えなきゃな……!」


 そしてそれに答えるべく、ライも大地を踏み砕いて突き進む。互いの距離は一瞬にして縮まり──


「「オラァ!!」」


 ──ライの拳とモバーレズの刀が互いの顔に向かい、二人はそれを避けた。


「ハハハ……良いじゃねェか……風圧だけで顔の皮膚が剥がれそうだ……」


 刀が当たらなかった事へ対して歯を剥き出しにし、笑みを浮かべて話すモバーレズ。


「ハハ、アンタにも言える事だよ……。峰を向けている筈なのに耳が切断されそうだ……」


 拳が当たらなかったライも歯を剥き出しにしてモバーレズの言葉に返す。

 その刹那、二人は大地を踏み砕きながら跳躍し、空中へ移動した。


「ダ──」

「オ──」


「「ラァ!!」」


 ガライの拳とモバーレズの刀がぶつかり、何故かキィンと金属同士が激突したような甲高い音が響く。

 その爆風で空気が二人を避け、"シャハル・カラズ"の街全体に突風を吹かせた。

 激突した勢いでライとモバーレズは弾き飛ばされ、少々距離が空いて砕けたクレーターの地面に着地する。


「……」

「……」


 二人は一瞬だけ静まり、


「オラァ!!」

「ゴラァ!!」


 一瞬にして互いが互いの横を通り抜けた。

 向かい合っていたライとモバーレズは瞬く間に数メートル離れた場所にて背中を見せた状態とになり、ライの頬とモバーレズの頬から遅れて出血する。二人が通り過ぎた瞬間を目撃できた者は、恐らくごく僅かだろう。


「「…………」」


 頬の出血を気にしない様子のライとモバーレズは、数メートルの距離にて無言で振り向いた。ヒュウと風が抜け、それによってライとモバーレズの髪がなびく。


「さあ、続きといこうか……」

「言われなくてもな……!」


 ライが挑発するように己のてのひらを自分の方にやりながらモバーレズへ言い、それに返すモバーレズは依然として歯を剥き出しで笑っていた。


「行くぜ……」


 大地を踏み砕かずにトンッと蹴り、静かに駆け出すモバーレズ。それと同時に体勢を低くし、真っ直ぐライの方向へと向かう。


「勝負は一瞬……。俺がとある国で見た気高き剣士……"サムライ"の立ち合いは刹那を数える間もなく終わりを迎えた……!」


 モバーレズは走りながら刀を自分の腰に納め直し、自身の動きと呟きで精神を統一している様子だった。


「……」


 それを見たライは警戒を高めて下手に動く事をせず、モバーレズの様子をうかがう。


「……!」

「……!?」


 そしてモバーレズはライに近付くに連れ、ライの数メートル前で急加速した。

 モバーレズが繰り出した咄嗟の動きに思わず身体が揺らいでしまうライ。


「これが俺の見た強き剣士の技……!」


「…………な!」


 その刹那、モバーレズが高速でライの横を通り過ぎた。


「"居合い切り(イアイド・アルシーフ)"だ……!!」


「……ッ!」


 次の瞬間、ライの脇腹に激痛が奔る。

 急成長しつつあるライ自身の能力? で物理攻撃はほぼ無効なのだが、この攻撃は何故か通ったのだ。

 恐らく刀の一点にモバーレズの力が集中し、想像を絶する威力が出たのだろう。それに加え、今のライは魔王(元)の力を纏っていない。

 なので、物理はほぼ無効だが肉体的な強度は通常の魔族より少し高い程度なのだ。

 峰打ちだったから良かったものの、刃だったらライの身体が切り離される程では無かったにせよ致命傷に近い傷を負っていた事だろう。

 しかしライでなければこの一撃で気を失っていたのも事実である。


「……ハッ、本気じゃない割には中々重い一撃を持ってるじゃねえか……。ちょっと痛かったぜ?」


 それを受けたライは冷や汗を掻きつつクッと笑いながら振り向き、モバーレズに言う。それを聞いたモバーレズもライの方を向いて言葉を発する。


「ハハハ……お前こそ何だ? あの一瞬で俺の刀に何発かダメージを与えやがったな? ……まあ、刀は砕けちゃいねェが……ヒビが生えてもおかしく無ェな……」


 モバーレズはダメージを負いながらも、ライが刀を砕く為の攻撃をあの一瞬で行った事へ驚いていた。

 刀が折れてこそ無いが、頑丈な刀にヒビが入りそうな一撃を放った事が重要なのだ。


「まあ、折れてねェから良しとするかァ……だが、ガキにしてこれ程の実力を持つお前……。末恐ろしいもンだな」


 それだけ言い、再び構えるモバーレズ。ライも身体を軽く動かし、問題無い事を確認する。

 そして、ライとモバーレズは互い目掛けて再び加速した。


「ダラァ!」


 モバーレズの刀が直ぐ様ライに向かって振り下ろされる。


「……」


 ライはそれを紙一重で横に避け、刀が空気を切り裂いた音がライの耳に響く。


「オラァ!」

「ガッ……!」


 ライは避けた勢いで裏拳を放ち、その裏拳はモバーレズのあごを直撃した。

 あごに強い衝撃が奔った為にモバーレズの脳が揺れ、それによってモバーレズの視界が歪む。


「ほらよっと!」


 モバーレズが怯んでいる隙を突き、ライは追撃を仕掛ける。裏拳の流れに乗せ、回し蹴りを放ったのだ。


「…………グ……!」


 ライの脚がモバーレズ頭に命中し、モバーレズの身体が浮き上がる。そして空中でその身体が回転し、そのまま川目掛けて吹き飛んだ。

 ザパァンと川に飛び込んだモバーレズによって川から水飛沫みずしぶきが上がり、土の地面を濡らす。


「オイオイ……痛ェじゃねェか……。為す統べ無く飛ばされたぞ……」


「それはお互い様だ。俺も油断したとはいえ、お前からそれなりに重い一撃を受けてるからな?」


 そんな川の中で立ち上がり、髪の水を絞るモバーレズ。ライも既に近付いており、川の上に架かる橋からモバーレズを見下ろしていた。


「ハッ、"油断した"に"それなり"か。随分とまァ余裕がありそうな発言だな。……ま、お前にとっちゃ家具とかの角に足の小指をぶつけた程度の痛みなンだろうよ」


 それは激痛といえば激痛だが、直ぐに治まるような痛み。

 自分の攻撃はライにとってその程度と、そう言いながら川から跳躍してライの前に降り立つモバーレズ。

 モバーレズは着物やはかまを絞って水気を抜きつつ、軽く動いて痛みの程度を確認していた。

 それを見ていたライはフッと笑ってモバーレズへ言う。


「その服装は水をよく吸いそうだな……。動きにくさなは無さそうだが……それで満足に戦えるのか?」


 それはモバーレズの服装についてだ。

 モバーレズの容姿はそれなりに長い髪に黒い瞳をしたつり目。そして問題の服装だが、着物の上から羽織はおりを身に付け、はかまという物を履いている。


「あ? これは俺が行った国の正装でな。見た目よりも動きやすいぜ? そこの国の奴は数キロ程の重さがあるって言っていたが……俺にとっては紙みたいな物だ」


「へえ……。その服の名称とかは分からないが……まあ、その服装でも問題無いって事は分かった」


 それだけ交わし、ライとモバーレズは跳躍して距離を置く。


「じゃあ、そろそろ終わらせるかァ……!」


「……ああ、それが良いな。もう少しこの街を見て回りたいし……、さっさと終わらせようぜ」


 二人は大地を踏み砕き、轟音と共に駆け出した。粉砕した大地からは巨大な土塊つちくれや岩石の塊が造られ、それをも砕く勢いで加速するライとモバーレズ。


「「オ──」」


 ライが身体を捻って拳に握力と力を込め、モバーレズが刀を腰に当てて居合い切り(必殺の一撃)を放つ体勢に入る。


「「──ラァ!!!」」


 刹那、二人の動きによって生じた風圧により、視界が無くなる程の土煙や砂埃が舞い上がる。その土煙と砂埃も一瞬にして消し飛んだ。


「…………」

「…………」


 そして土煙と砂埃が晴れた瞬間、背中合わせに立っているライとモバーレズ。ヒュウと一吹きで風が過ぎ去る。


「やっぱ、一刀流は扱い辛ェや……」


 その風が吹き抜けると同時に地面へ刀を着き、モバーレズがガクリとしゃがみ込む。ライはそちらに目をやり、口元を緩ませて言葉を発した。


「まあ、互いに本気って訳じゃないし、これは悪魔で互いの力を見せ合うのが目的? だからな。問題無えだろ」


「ハッ、それもそうだな」


 ライの言葉を聞き、殴られた箇所を押さえながら立ち上がるモバーレズ。

 何はともあれ、この戦いではライが勝利した。こうして"シャハル・カラズ"での小さないざこざ、幹部との暇潰し(たたかい)が終わった。

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