九百五十六話 最終決戦の開始
「"創造魔神"!」
開始された瞬間、シヴァが創造の力を用いて魔神を形成。その魔神からなる巨腕をヴァイスに打ち付けた。
「今更そんなものを造らずとも、範囲も威力も自由自在なんだろうけどね。敢えて造ったのかな?」
その巨腕はヴァイスが自身の片腕で受け止め、背後に衝撃を散らす。
既に全体でも戦闘が始まっており、ゼウス、テュポーン、ドラゴンの支配者たちを中心にヴァイス達と鬩ぎ合いを織り成していた。
「数が全く同じなら、一人に対して一人倒せれば良いのか。それで……いつものヴァイスはアンタだろ?」
「全ての私は紛れもない私なのだけど、此処に居る君と出会ってからの時間が長いという意味なら私で合っているね。全知でもないのによく分かったね」
「まあ、勘だな。何度もアンタと戦っているんだ。挙動に言動。その全てが寸分違わず同じでも、何となく分かる」
「へえ。理屈じゃないって事かな。どうでもいい事ではあるけどね」
絶対無限数居るヴァイス達と主力の戦闘は一人一殺で挑んでいる。なので自ずと一人につきヴァイス一人が相手になるのだが、ライは一番因縁深いヴァイスと相対した。
と言っても自分自身で見つけたので出会ったのは必然だろう。因みに既に傷は癒えている。ついでにゼウスはライとレイの傷も癒してくれたらしい。敵に回すと厄介な全知全能も味方だと頼もしい限りだろう。
「そう言う事で……さっさとアンタを倒すか」
「同じような言葉を何度も聞いた気がするね。君はまだ、まともに私を倒した事が無いだろう」
「それも今日で終わりって事だよ!」
加速し、真っ直ぐヴァイスに向かう。全員が戦っているからこそ邪魔は入らない。ある意味ある種。正真正銘の一対一とも言えるだろう。
何千何万。数え切れない程に力をぶつけ合ったライとヴァイス。今一度その続きとなる鬩ぎ合いが勃発し、ライたちとヴァイス達の衝突によって高層建造物の立ち並ぶ都市が吹き飛んだ。
「この世界ももう限界かな。破壊の余波は最小の範囲に留めているけど、流石にそこまで意識が回らなくなって来たよ」
「そうかい。それは困るな。元の世界……いや、全ての次元と全ての世界に影響を及ぼしてしまうかもしれない。そうなると色々と大変だな」
口ではそう言いつつ、止める素振りを微塵も見せない二人は鬩ぎ合う。一挙一動。拳が触れる直前の時点で世界が崩壊して再生する。
既に高層建造物など並んでおらず、剥き出しになった大地のみが残る現在。当に瓦礫なども消滅し、全能の再生が間に合ったのが大地のみという事だろう。
そして次の瞬間に世界が消え去り、無数のヴァイスと無数のゼウス。そして世界中の主力たちのみが色の無い空間にて鬩ぎ合いを織り成していた。
「それで、いつの間にか世界が滅んでいるけど直さなくて良いのか?」
「簡単に言ってくれるね。君の相手を務める身としてはもうそんな余裕は無いんだからね。ゼウスや他の私たちが居ても世界の崩壊には追い付かないようだ。いや、厳密に言えば追い付けるんだけど次の瞬間にまた崩壊するからほぼほぼ意味が無い……君の成長速度という名の何かに近い感じだね」
「へえ。全知全能になったとしても色々大変なんだな」
「随分と他人事だね」
世界は直さずそのまま続行。流石に多次元まで及ぶ影響には干渉しているのかもしれないが、流石に限界が近いのかヴァイスは仕掛けながら言葉を続ける。
「けど、君の相手をしながらだと"この空間"の修正すら儘ならなそうだ。別の世界に移転する時間は無いし、最悪、世界は後で直す方向で進めようかな。いや、修正が追い付いていないにしても他の私たちやゼウスも居る事は変わらない。別に私一人がそれを遂行しなくても問題無いか」
「そうか。俺的にも大きな被害は避けたいけど、全知になったアンタが大丈夫って言うなら大丈夫なのかもな。全知ってだけでどんな理論よりも正しいからな」
ライを相手にするヴァイスからすれば、世界修正の余裕が無い状況。ライとしても気の緩む隙が無く、二人の間に緊張が走る。
そしてその瞬間、ライとヴァイスの側面を何かが高速で吹き飛んだ。
「……ッ! 相変わら……ず……厄介……!」
「右に同じ……! 全知全能の耐性と強化された肉体だけでは……どうにもならん事も無いが……どちらかの力が尽きるまで争う事になりそうだ……!」
「ああ……何という凄まじい気迫と実力……基本的に淡々としているが……それが伝わってくるな……!」
「うん……!」
「やれや……れ……仮にも全知全能の私を此処まで追い詰めるとはね……流石のライの仲間達と言ったところかな……」
「そうだね……向こうは然も自分達が不利のように話しているけど……正直言って私もキツイものがあるよ……!」
「互いに拮抗しているね……周りの主力たちもほぼほぼ私たちと相討ちのような結果だ……」
「まだ結果は決まっていないけど……全面的には賛成かな。強いね……素直にそう思うよ」
「レイ。エマ。フォンセ。リヤン……!」
「フム……私たちもこの様か……いや、まあ相手が相手。全知でなくとも分かっていたよ」
吹き飛ばされて来たのはレイたち四人とヴァイス達四人。
おそらく互いが互いに相手を吹き飛ばす形となり、そのまま勢い余って今現在の状況という事だろう。
レイたちとヴァイス達。不死身に戻ったエマや生物兵器としての力が残っているヴァイスも疲弊しており、互いに重傷を負っていた。
「……。と言うか……いつの間にか……たった数分の間で互いの全主力が壊滅状態か……本当に勝てるか分からないな……」
「それは此方の台詞さ。私が全知な分、今の言葉の信憑性は高いだろう。それにしても、ゼウスは兎も角ただの全能の主力達も私たちと渡り合うとはね。全知全能の筈の私たちが攻めあぐねているよ」
ふと周りを見渡せば、支配者を含めた、それこそゼウスなども含めた全主力が大きく疲弊していた。
主力たち到達後に戦闘が開始されてからまだ数分。こんな短い時間で互いに満身創痍になるなど、その激しさを身を以て理解した。
体感で言うなら、ライとヴァイスが戦っている間にも時間が止まったり空間が崩壊したりと時空間問わず様々な影響が齎されていたが、その様な影響を気にするのも今更だろう。
「けどまあ、そこはただの全能と全知全能の差……次第にゼウスや支配者のような存在以外押され始めているね。決着も時間の問題かな?」
「ああ、そうだな。時間の問題だ。……誰の……とは言っていないけどよ!】
刹那、ライはヴァイスに向けて蹴りを放ち、それをヴァイスは片手で掴んで背後に放り投げる。その瞬間に触れるだけで致命傷を与える存在を生み出し、放られたライはそれに触れた。
しかし即座に砕き、そのまま加速。同時に辺りに倒れ伏せる主力を意に介さず仕掛け、主力たちとヴァイス達を吹き飛ばして肉迫した。
それによって他の主力たちと残りのヴァイス達から意識が消え去る。そんなライの違和感にヴァイスは気付き、確証を得た。
「今までは最初の一撃が拳だったけど、今度は蹴りか。それにその周りを省みない荒々しく乱暴な戦い方……変わったね? ……いや、"変わった"か。確実にね」
【クハハ! バレたか! こんな祭りに俺様が参加しねェ訳ねェだろ馬鹿が!】
「……。何で今罵られたのか疑問だけど、その情報は知らなくても良いかな」
それは、ライが魔王。もとい、魔王(元)。ヴェリテ・エラトマになったという事である。
その様子を見。いや、聞き、ライは言葉を発した。
「──オイ……周りの事はちゃんと気に掛けてくれよ。そうしなくちゃ出なくていい犠牲が出る。━━ハッ、関係無ェよ! つか、思考が読まれるからってもう普通に出て来て話すんだな。お前。──まあな。傍から見たらただの独り言だけど、俺が気にしなければ問題無いだろ? ━━ハッハ! それもそうだな! 周りの奴等も集中してて気付いてねェだろうし問題無ェか! そもそも、周りの目なんて気にするだけ無駄だからな!】
「……。うん。一人で賑やかだね。楽しそうで何よりだよ」
「──……。ヴァイスに呆れられるって相当だぞ……魔王……。━━気にすんな気にすんな! 俺は俺のやりたいようにやるだけだからな!】
久し振りに主人格となった魔王(元)が嬉々として迫り、ヴァイスはそれをいなしていく。
まともな戦闘を行うのは一週間前のライたち二人との戦闘以来。既に極限を当の昔に超越したライの肉体は魔王(元)にとっても居心地が良くなり、問題無く力を振るえるようになっていた。
【ハッハッハ! 全知全能ォ! もっと俺を楽しませろ!】
「急な変化……対応出来なくもないけど、荒々しくも精密で分かっていても避け切れない力……戦績は良いけど戦闘経験が一年弱のライより数千年の蓄えがある魔王は厄介だね」
攻撃は躱していなし、全てを最小限に抑え込む。そう、全知全能であるヴァイスが最小限に抑えるので関の山な魔王(元)の力。それはもはや、何者にも到達出来ぬ存在かもしれない。
ただ一人、勇者を除いて。
「うん。そうしようか。聖域から助っ人を呼び出そう。全能の私なら操れない事も無い……かもしれない」
【あ? 助っ人? ──まさか……!」
助っ人と聞き、疑問を浮かべる魔王(元)。ライは即座にその存在を理解し、止めに入る。しかし次の瞬間には力が込められており、その者が現れ──
「……! 今だ! お主ら!」
「分かってる!」
『了解した……!』
『良かろう』
「……!」
──ようとしたその瞬間、ゼウスの言葉と同時に支配者たちがヴァイスを狙い、ヴァイスに何かを行った。それによって何者かの召喚は阻止される。
「余所見しなければ……勝てたかもしれないのにね」
「ああ、残念だな」
「その為だけにこれを?」
「ハッ、たりめーだ。この犠牲で勝てる可能性がほんの少し上がる!」
「どちらにしても私たちが残っているのには変わらないのにね」
『なに、ただ単に主軸を潰しただけだ』
「君のような者が協力するとはね。先入観で有り得ないと割り切ってその情報を得ていなかったよ」
『フン、下らぬ』
しかしその隙を突かれ、ゼウス、シヴァ、ドラゴン、テュポーンの支配者たちは別のヴァイスにやられてしまった。
おそらく生きているのだろうが、意識を奪われたのだろう。二人と二匹は落下し、全知全能のヴァイスが造り出した場所にて動かなくなる。
支配者程の存在が身を呈して使った力、それは──
「……!? 力が……消えた……!?」
「……!」
──全知全能の奪取。
即死か全知全能の奪取。今のヴァイスとの戦闘に勝つ為に必要な方法がその何れかである。
即死は常に警戒しているだろう。なのでその点に関してはおそらく成功しなかった。
しかし、全知全能の奪取なら、同じく警戒しているにしてもほんの僅かな隙が生まれるかもしれない。そして現在、それが成功したようだ。
「力が奪われたみたいだね。けど、大丈夫さ。私たちが居れば……」
【ハッ、何だかよく分からねェが、それは阻止させて貰うぜ!】
「……!」
支配者たちのお陰でヴァイスの力を奪えたが、まだその支配者の分のヴァイス達が居る。全員全知全能なのは言わずもがな。故に全知全能を与える事も可能。
だがしかし、魔王(元)はそれを見越しており、既に仕掛けていた。
「なら、私たちもやるべきかな」
「させないよ!」
「……!」
他の三人も与えようとするが勇者の剣を用いて現れたレイに抑え込まれ、ライ、レイとヴァイス達五人が改めて向き合った。
ライとレイは背中合わせになり、ライが疑問を訊ねる。
「レイ。レイたちの戦っていたヴァイスは?」
「大丈夫。倒したよ。……けど、エマたちが重傷で……あと戦えるのは私だけ……」
「……。そうか」
文字通り、戦える存在はライとレイだけ。それはエマ、フォンセ、リヤンのみではなく、全ての主力と全てのヴァイス達。残ったのがライ、レイと五人のヴァイスだけのようだ。
尤も、主力とヴァイス達の大半を倒したのは魔王(元)なのだが、それは置いておく。
「一気に減らされてしまったね。また増やす事も可能だけど……うん。その全ては阻止されるか」
「なら私たち四人だけで戦うとしようか。力を奪われた私は観察していてくれ」
「言われなくてもそうするさ。全知全能じゃなくなったけど、今のライたちを相手にするには……"最低でも"完全な全知全能の力が必要不可欠。精々余波で死んでしまわないように気を付けるさ」
「流石の私だね。物分かりが良過ぎる。助かるよ」
「ああ。やっぱり信用出来るね。私は。私自身だから当然だね」
そのヴァイス達だが、力を奪われたヴァイスは自分が戦力にならない事を理解している。ある意味の自画自賛をし、ヴァイス達はライとレイに向き直った。
「待たせたね。自分会議が終わったよ」
「そうか、それは良かった。どうせならもう少し引き伸ばしてくれても良いんだけどな。その方が休める」
「そうさせない為に早々と終わらせたのさ。さて、続きと行こうか」
ヴァイスが委ね、ライとレイは構える。
この世界に残った主力はライとレイの二人だけ。対するヴァイスも五人だけ。一人が欠け、実質四人となる。
ライ、レイと織り成すヴァイス達四人の戦闘。この瞬間、世界の命運を決める戦闘が再開された。