九百五十五話 全世界の主力vsたった一人の侵略者
──"都市"。
「……ん? おや、君達は……全世界の主力じゃないか。成る程。ゼウスの力によって今現在の状況が生み出されたみたいだね」
全世界の主力たちがこの世界に来た瞬間、無数のヴァイスたちがその存在に気付いた。
そして次の刹那、何処からともなく二つの影が高層建造物を打ち砕き、吹き飛ばされて主力たちの前に現れる。
「「……ッ!」」
「……! アイツら……!」
無論、ライとレイである。
二人は既に重傷を負っており、吹き飛ばされた軌跡と共に鮮血が線を引く。
シヴァがそんな二人をキャッチし、その姿を改めて確認した。
「……。よ、よぉ……シヴァ。久し振り……じゃないな……」
「あ……こんにちは……」
「そんな事言ってる場合かよ!? 割と余裕あんな、オイ!」
重傷な筈のライとレイの挨拶に対し、シヴァは思わずツッコミを入れる。
しかしこの負傷から本当にマズイ状況にあると理解し、即座にヴァイス達へ視線を向けた。
「まあ、取り敢えず問題は目の前に居るコイツらか。世界が埋め尽くされてんな……」
『我の時もこんな感じであった。我の場合は我自身も数を増やしてなるべく耐えたが、二人だけで持ち堪えているのは大変だろう』
「ハハ……。まあ、確かに大変だな。ゼウスは既にエマたちの意識が無くなっているのも気付いたみたいだな。けど、やられっぱなしってのは性に合わない……!」
それだけ告げ、自身の力を大きく込めたライは加速。ヴァイス達の中へ単独で迫り、次の瞬間に全知全能のヴァイス達を吹き飛ばした。
「やれやれ。数の差による影響をあまり受けていないようだね。まあ、吹き飛ばされるだかなら先程から同じだけど」
一部のヴァイス達。掻い摘まみつつ多少厳密に言えば数億人は吹き飛ばしたが、如何なる無限を用いても到達出来ぬという絶対無限の数には遠く及ばない。
即座に別のヴァイス達が陣形を取り直し、吹き飛ばされたヴァイス達も全員がほぼ無傷で戻ってきた。
「とまあ、こんな感じだ。何度か吹き飛ばしてはいるんだけどな。それがほぼほぼ無効にされているというかなんて言うか。兎に角ただひたすら面倒って事だな」
「ハッ、確かに面倒臭そうな存在だな。試しに俺も一気に消し飛ばすか。──"ビッグバン"!!」
「残念。それはゼウスとの戦いで既に消しているさ」
ライとヴァイスのやり取りを見やり、宇宙並みの範囲ごと消し飛ばそうとシヴァが最大級の技を以てして仕掛ける。が、そのビッグバンは即座に掻き消されてしまった。
しかしその隙を尽き、惑星サイズの大きさとなったテュポーンが巨腕を伸ばして更に嗾けた。
「当然、今の私たちにそれは効かないよ」
『フム、成る程の』
だがそれも容易く防がれ、数メートル程度の大きさに戻ったテュポーンが肩を落とす。
ライの多元宇宙に影響を及ぼす拳。シヴァとテュポーンの宇宙その物を崩壊させる力。その全ては簡単に防がれる。
その光景を見やり、ドラゴンは改めてヴァイス達に視線を向けた。
『シヴァ殿とテュポーン殿の攻撃が防がれては、俺の力も及ばないと考えるべきか。他の支配者に匹敵すると謂われている主力たちの力もな。これは困ったぞ。手助けに来たは良いが、助けにならん』
正直なところ、ドラゴンから見て自分自身は今回あまり役に立たないと踏んでいた。
年老いており、全知全能ではないマギアにも敗れてしまった自分。せめてもの気休めになれば良いと考えて来たのだが、全知全能を相手にするという事はかなり大変な事だと改めて理解した。
一方でヴァイスはライとレイ以外の主力に視線を向ける。それはおそらくライたちやゼウス。今まで戦っていた方のヴァイス。そんなヴァイスは言葉を続ける。
「当たり前さ。今更支配者という存在は大した事もない。優秀だから残すけど、ゼウスくらいしか相手にはならないね。これは嫌味や罵倒ではない。紛れもない事実さ」
全知全能。その存在の前では、たった今シヴァたちが放った力もあくまでそのうちの一つでしかない。当然それを阻止する事は可能であり、全ての主力にそれを言える。
余裕のあるヴァイスを前に、静観していたゼウスが言葉を発した。
「その点に関しては無問題だ。たった今、お主ら全員を全能にした。これで攻撃も通じるだろう」
「そうみたいだね。阻止が間に合わなかった」
「『『……!?』』」
その刹那。限りなくゼロに近い一瞬。いや、最早時すら経過していないゼロの境地。それすらをも超越した瞬間の中。その間にゼウスはシヴァを始めとして全ての主力たちを全能へと変え、それを止められなかった事をヴァイスが簡単に後悔する。
ゼロの間に何が起こったのかは分からない。しかしゼロの時で何らかの攻防が繰り広げられ、全ての主力はゼウスの力によって全能の存在となったのは確かのようだ。
「……? 俺やレイは特に変化が無いようだけど……それに、"全知全能"じゃなくてあくまで"全能"か」
だが、そんな主力たちを見、ライは疑問をぶつける。
自分とレイは全能になっていない。加えてただの全能であり、全知ではない。
厳密に言えば全知も全能の一部なのだが、自身の全能を用いて自分自身を全知にしなくては得られない力。ライが疑問に思うのは普通だろう。
ゼウスはそんなライに向けて説明するように話した。
「そうだな。少し説明しよう。ヴァイスもその間に攻め立てる事は無さそうだからな」
「ああ。別に結果は変わらないからね。未だにどちらが勝つのか分からない。その説明で少しでも有利になる事も無さそうだから構わないよ」
「との事だ。……さて、先ずお主ら二人を全能にしなかった理由だが、ただ単に"する必要がない"だけだな。今さっきヴァイスが言ったように例え我らが来ずとも、力を与えずとも戦闘の結果は流転を続けている。そして他の主力に全知を与えなかった理由は、余計な事を知る必要が無いと判断しただけだ。どうしても全知を得たい者は自身にその恩恵を授けるだろうからな」
「へえ。よく分からないけど、要約すると力を与えても与えなくても結果は変わらないって事か。主力たちを連れて来たてまえ、本当にただ手助けしてくれるって訳だな」
理由は説明の通り。ドラゴンが言っていたような気休めの為に主力たちには全能の力を与え、先程よりはある程度戦えるようにしたという事だろう。
ライとレイの力がそのままなのも全能を与えたところで結果が変わる訳でもないから。納得すると、ライの方へ声が掛かった。
「ライ。一体これは……」
「私たちが気を失った一瞬で何が……」
「ヴァイスがいっぱい……」
「エマ、フォンセ、リヤン!」
「無論、その者たちも目覚めさせて置いた。加えて全知全能の耐性を与えた。その者たちも全能の力は必要がないみたいだからな」
エマ、フォンセ、リヤン。
ヴァイスによって意識を奪われたエマたちだが、その辺りもゼウスの力によって既に解決していた。
確かに全知全能は便利。便利どころの話ではなく、魔王の力に比毛を取らぬ程に都合の良い能力である。
都合の良い補正すらをも能力の一つとする全能。ライは改めてよくゼウスを倒せたなと苦笑する。
「ま、取り敢えずこれで戦力は揃った訳だ。説明や諸々の時間を与えてくれるなんて、その辺は聞き分け良いんだな。アンタの目的とかに対する聞き分け自体は悪いけど」
「君は一々私を下げるような発言をしなくては気が済まないのかな? まあいい。全知全能と全知全能。無効化の力と全能。駒は出揃ったって訳だね」
場の空気が一転。辺りに緊張が走る。
崩れ掛けていた高層建造物が倒壊し、遠方にて粉塵を舞い上げる。それすら静寂の一部となり、数回の呼吸によってライたち五人と全世界の主力。絶対無限数のヴァイス達が弾けるように攻め入った。
「行くぞ……ヴァイス!」
「やるよ……!」
「今度はやられぬ……!」
「右に同じ!」
「うん……!」
「俺たちも行くぞテメェらァ!!」
「続け。全世界の主力」
『好き勝手させてなるものか!』
『全能の余。フッ、もはや最強と言っても過言ではないな』
ライが全力の拳を打ち付け、多元宇宙破壊規模の衝撃を大きく散らす。レイが勇者の剣を持って仕掛け、全ての存在を切り裂く剣尖を振るう。
全知全能の耐性を得、自分自身も強化されたエマが世界の存在を圧縮して放ち、全盛期の魔王の魔術を凌駕したフォンセが魔術を放出。神の力を凌駕したリヤンが同等に仕掛けた。
シヴァは全能からなる多元宇宙に影響を齎す三叉槍を構えて仕掛け、ゼウスは雷霆。用いて多元宇宙破壊規模の雷撃を放つ。
テュポーンは自身の力の範囲と破壊力を広げ、ドラゴンも同じように強化させて仕掛ける。
その他の主力たちも全能の力によって強化した力を使う。
魔族の国の主力は体術。超能力。風魔術。剣術。
剣魔術、矢魔術、盾魔術に光魔術。
影魔術。魔王の力を含めた禁断の魔術。足技。召喚術。錬金術。
刀と刀。忍術。槍術。狙撃。
魔術。操術。土魔術。強化した兵器。死霊術。
あらゆる魔法。火魔法。水魔法。風魔法。土魔法。
人災、震災、洪水、重力。
幻獣の国の主力がレイピアと魔法。火炎と不死の火。翼や爪などを用いた体術。鋭い牙。強度な角。様々な魔法。仙術に妖術と妖術。
大地の力に自然と金属。炎に水。そしてドラゴンに匹敵する存在の力。
魔物の国の主力が千の魔法。怨念の力。巨躯の締め付け。神殺しの猛毒。肉体的な力。炎の剣。エマのような天候術。混鉄木からなる一撃。瘴気を含んだ風。
人間の国の主力が海の力とトライデント。冥界の力とバイデント。様々な体術。ハルパーを用いた斬撃。アイギスの盾を使った打撃。何者も寄せ付けぬ反射術。太陽の力。月の力と精密な矢。暴虐無人な槍。自然の力。炉のような火。葡萄酒の津波。冥界の別の力。創造した武器からなる一撃。
──と、各々の出来る力全てに全能を合わせ、全てが多元宇宙を崩壊させる程の力となってヴァイスに迫る。
その他にも鍛冶の神の側近が使う棍棒。美女神の側近の光や剣。自然。戦争の神の街に居た者の剣、銃、魔法。弓矢。体術。
別の太陽の力。天羽々斬。月の刀。
等々。妖怪達や地獄に居た魔王や悪魔達。"世界樹"の主神の存在は無いが、それ以外、本当の意味での全主力が絶対無限数存在するヴァイス一人に向けて仕掛けた。
「やれやれ。流石に数が多いね。見ているだけで目が疲れてくるよ」
「俺的には、アンタの数の方が目に毒だと思うけどな……!」
その全てをヴァイスは同じ力で返し、それらの衝突によって多元宇宙とありとあらゆる次元や世界線。パラレルワールドなどを巻き込む破壊の余波が吹き荒れた。
しかしその世界自体は無事。全知全能の存在がその世界線に匹敵する数存在しているので全ての次元の修正は容易いのである。
「さて、我も主に匹敵させるか。お主らは使わずとも良い。この者達の大半は我が相手取る」
破壊の余波による衝撃波が吹き荒れる中、ゼウスは自身の数をヴァイスと同等にして迎え撃つ。
他の主力にも全能の力が宿ったとは言え、まだ完全に慣れてはいない。なので慣れているゼウスがヴァイス達の過半数を相手にするらしい。
他の主力たちも全能なのでその気になれば慣れさせる事も可能だが、余計な手間なのでゼウス一人で良いと判断したようだ。
「うん。らしくなって来たね。君達全員と私一人の力。数で言えば1人vs73人と17匹。厳密に言えば絶対無限と絶対無限。それらによる攻防。鬩ぎ合い。少し私が不利かな?」
「ハッ、思ってもいない事を。てか、自分で言っているように一人だけで俺たちと渡り合ったるじゃねえかよ!」
「まあ、先程までは二人vs絶対無限の私たちだったからね。数で言えばようやく対等って事だよ。……それに、侮ったりなどはしない……出来ないからね。その辺は宜しく頼んだよ」
ライたちとヴァイス達。全世界の主力たちに全能の力が授けられ、全知全能のヴァイスと鬩ぎ合う。
一人vs七十三人と十七匹。もとい、絶対無限vs絶対無限。この瞬間、世界と侵略者が織り成す最後の戦いの幕が真の意味で開かれた。