九百五十三話 都市での戦闘
──"都市"。
「オラァ!」
「私の一部を飛ばすか。そもそもそれは住まいや職場であって投擲武器ではないんだけどね」
元の世界で目覚めた主力たちが行動を起こす頃、ライたちの世界の、本来の姿と言う都市にてライは高層建造物を光の速度で放り投げた。
それをヴァイスは片手で受け止め、高層建造物が崩壊して瓦礫が舞い散る。その瓦礫を操り、ヴァイスは逆にライへ向けて一気に放出した。
「お返しだ」
「遠慮する!」
それを砕いて防ぎ、そんなヴァイスの背後からレイが勇者の剣を用いて斬り掛かる。
そんなレイに向けて左右から瓦礫を飛ばし、押し潰して牽制。刹那に瓦礫は切り刻まれ、そのまま振り下ろされた。
「基本的に互いにまともな一撃は向かわないね」
「お互いに避けているからね……!」
振り下ろされた剣は空を切り、縦に都市を切り裂きながら粉砕する。
そのままレイの背後へと回り込んだヴァイスに向け、エマ、フォンセ、リヤンの三人が再び嗾ける。
「「はあ!」」
「やあ……!」
「ライが牽制。四人で仕掛ける。いつもと同じパターンか」
その瞬間にレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人が吹き飛ばされ、都市を破壊しながら姿が見えなくなった。
「まあ、どんなやり方でもアンタには全て見透されているからな。いや、見透されているというのには語弊かあるかもしれないな。始めから全て知っているんだからな」
「確かにその通りだね」
一から無限まで、光の何倍という言葉でも形容出来ぬ速度にて攻め入り、拳を打ち付ける。それをヴァイスは片手で受け止め、ライの側頭部から蹴りを差し込んだ。その蹴りは腕で受け、ヴァイスの顎に拳を振り上げる。ヴァイスは飛び退くように距離を置き、踏み込みと同時に加速してライの腹部に拳を叩き込んだ。
「……ッ!」
叩き込まれたライは地に足を着けたまま背後へと飛ばされ、複数の高層建造物を貫いて停止。その眼前には既にヴァイスが迫っており、ライはカウンターのように頬を殴り付けて吹き飛ばし返した。
「オラァ!」
「……ッ! っと、先を読まずに仕掛けてしまったね。うっかりだった」
殴り飛ばされたヴァイスは何とか止まり、自分の油断を呵責する。
次の瞬間に二人は互いの眼前へと迫り、同時に拳を放って拳同士が衝突。多元宇宙破壊規模の衝突だったが、だからこそ相殺されて周りの建物群が崩壊する程度の破壊で済んだ。
「やあ!」
「休む暇が無いね」
それと同時にレイが勇者の剣を振り下ろし、ヴァイスがライから距離を置くように離れる。刹那にエマたちも迫り、今一度ヴァイスは四人を吹き飛ばす。その先に高層建造物を叩き付け、大きな粉塵を舞い上げた。
「五人を一気に相手取るのも大変だな。まあ、私が望んだ道だからこれも試練として受け入れる他に無いけど」
「独り言が多いな。まあ、俺も人には言えないけどな」
全知全能になったとは言え、全知全能ならずして全知全能に匹敵する力を持つライたちを相手取るのは大変のようだ。それもあって独り言も多くなるのだろう。
その瞬間に二人は再び激突。舗装された道を崩壊させるように破壊の余波が広がり、辺りを盛り上げて粉砕した。同時にヴァイスは周りの高層建造物を破壊。その破片を強化してライに向けて放出した。
「……!」
「仕掛けるよ……!」
が、それは空中で停止する。見れば破壊の衝撃も止まっており、時間その物を止めたのだろうという事が分かった。
時間を止めているので今動けるのは魔王の力を宿すライとフォンセに勇者の剣の力を使えるレイのみ。リヤンも自分の祖先の創った世界に生まれた存在のみの力を扱える能力で魔王などを模倣していれば動けたのだろうが、咄嗟の行動に対処し切れなかったようだ。
因みにそんなリヤンだが、ゼウスの全知全能は使えない。ゼウスが使えないようにしているのだろう。それはヴァイスにも受け継がれており、全知全能を模倣する事は出来ていなかった。
「何の為の時間停止だよ!」
「勿論、人数を減らす為さ」
「人数を減らすだけなら意識でもなんでも奪えば良いだろ。それをしないって事は、また別に何らかの狙いがあるって事だ!」
「相変わらず鋭いね」
止まった時の中で鬩ぎ合いが織り成される。
衝突しては建物や道、乗り物が砕け、それが空中や砕けた瞬間に停止する。超高速の鬩ぎ合いは続き、時折レイとフォンセも仕掛けてヴァイスはそれらを防ぐ。一定の距離を移動した後、ヴァイスは時間停止を解除した。
「「「……!」」」
その瞬間、止まった時の中で破壊した全ての物がライ、レイ、フォンセの三人を狙うかのように放出され、見切れずに三人は瓦礫に押し潰される。
「成る程な。この瓦礫の弾丸。その全てを差し向ける為の時間停止か」
「ああ。だけど、大した傷は負っていないね。ある程度強化したつもりだったんだけど、成長力も変わらず健在みたいだ」
強化された瓦礫の弾丸。それを受けたライ、レイ、フォンセの三人は全員が軽傷を負っていた。
打撲による小さな痣や瓦礫の破片による切り傷くらいだが、ライたち並みの強度があっての負傷。ライたちから見たヴァイスも、やはり一筋縄ではいかない相手らしい。
「さて、まだ仕掛けさせて貰うよ」
「「……!」」
「「……!」」
「……っ」
次の瞬間、ライたち五人は全員が何かによって吹き飛ばされた。
先程までの衝撃波とは別。見えない何かである。
それをいち早く感じ取り、リヤンが力を放った。
「"神の目"……!」
「「……!」」
「「……!」」
ライたち全員に神の恩恵を授け、目を強化させる。それによって見えない物が視界に映し出され、その正体を理解した。
「ヴァイスの手か。不可視の力でも与えて見えない攻撃を生み出していたんだな」
それはヴァイスの手。厳密に言えば腕全体。
ヴァイスは自身の腕を五つ程増やし、それを透過させる事で不可視の攻撃を生み出していたらしい。それならライたちの肉体でライとレイを除いた全てが砕かれていてもおかしくないが、逆にライとレイ以外に多元宇宙破壊規模の破壊力は付属しなかったようである。
ヴァイスの目的は選別であり殺す事ではない。なので手加減してくれたのだろう。
殺した後で生き返らせる事も出来るが、それもそれで手間なのでこの時点で、即座に意識を奪う力を使わずに倒そうと考えているようだ。
その方が手間にも思えるが、名目はシュヴァルツ、グラオ、マギア、ゾフル、ハリーフ、ロキの弔い合戦。何人かは死んだ訳ではないが、兎にも角にもそれも目的であるので全知全能に縛りをかけているようだ。
「神の力か。それを無効化する事も可能だけど、やらないで置こう。何もかもをも遂行出来るからこその全知全能だけど、全てを遂行してしまうとつまらない。やれやれ、これでは口先だけの全能と同じだね」
「ハッ、自分の力をつまらない呼ばわりか。その力を活用して置いてよく言うよ」
「逆に、ある程度は活用しなくては君達には勝てないからね。今現在ですら勝利する未来と敗北する未来が流転し続けているんだからそれも当然さ。けど、少なくとも全知全能の力をフルに使って手段を選ばずに仕掛ければ、それは敗北する未来にしかならないようだ。書き換える事も可能だけど、その瞬間に塗り替えられる。その未来で最後に生き残るのは君か勇者の子孫くらいだけど、その二人は怒りによって全知全能の私を遥かに凌駕してしまっているからね。どちらかを残すだけで私は敗北するようだ」
「……へえ? まあ、確かに今は軽口を叩いているけど、そうなってくると本気でアンタを滅ぼすかもな。いや、今も決して本気じゃないって訳じゃないんだけどな」
「ああ、知っているよ。だって君が相手にしたって言う君は、仲間が居ないって意味で共通していたみたいだからね」
「そうだな」
刹那、ライとヴァイスは正面からぶつかり合う。同時にヴァイスが霆を放つが、それを砕いて鬩ぎ合った。
ヴァイスが一気に決めないのには様々な理由がある。全知だからこそ結果を全て知っているのだが、このまま続けたとして一番勝率の高いやり方が今の方法なのでそれを遂行しているようだ。
ライ自身もヴァイスが手っ取り早いやり方で攻めた場合にどうなるかある程度予想は付く。なのでそれについては特に言及せずに嗾けた。
「ハッ、何やかんや言って、あまり全能らしい戦い方はしない。出来ないって事だな!」
「厳密に言えば違うんだけどね。例え時空間に干渉したとしても君には無効化されてしまう。と言うより、全ての異能はそうなる。私がそれを無効化すれば無効化の応酬でキリがない。諸々の理由から結局肉弾戦に収まってしまうのさ」
「へえ。言う程全能って感じじゃないんだな」
「君達が相手の場合はそうだね。無効化や能力奪取。予知は成功してはいるんだ。成功した瞬間に追い付かれるから意味がないってだけさ。その面倒な成長力を止めようとしても同じような事の繰り返し。永遠の無限ループさ」
拳を放ち、それをヴァイスは紙一重で躱して裏拳を打ち付ける。ライは見切って避け、腕を掴んで真下に放り投げた。
その瞬間に大きな粉塵が舞い上がり、ライの背後へと移動していたヴァイスが手刀で吹き飛ばす。それによって無数の高層建造物が砕かれ、またもや一瞬にしてヴァイスに迫ったライとそのヴァイスが拳を打ち出し、互いの身体を弾き飛ばした。
矛盾すら遂行出来る完全な全知全能だが、その完全に対して文字通り匹敵するライの力。それもあって意識せずとも正面からの殴り合いという古来から続く泥臭い戦いとなってしまうようである。
いくら成長力があってもこれ程までの成長はない。そう断言出来る程の力だが、現在のライはその概念すら砕き葬る事が出来ている。ヴァイスが言うように、無限の時間があっても決着が付く事など無いのかもしれない。
「……。だけど、決着を付けない訳にはいかないかな。そろそろ時間も丁度良いかもしれない。経過時間は四十七分二十五秒。私達の体感だとそんなものではないけど、弔い合戦を終わらせても良い頃合いだ」
「……!」
その瞬間、ヴァイスの雰囲気が変化した。
ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人もそれを肌で感じ取り、全員がその場で身構える。ヴァイスは言葉を続けた。
「何度も言うけど、これは弔い合戦さ。その為に世界や空間を転々とし、様々な力を用いて仕掛けた。まだ戦い始めてから一時間も経過していないけど、彼らに対するは敬意もう十分だ。まあ、あの世に居る彼らはそれを知らないんだけどね。私の感覚の問題だ」
「……。そうか。何が言いたいのかは相変わらずの遠回しな言い方で分からないけど、要するに、だ。本当の本気を出すって事だろ? 殺害以外の方法でな」
「ご名答」
「「「……!」」」
その瞬間、エマ、フォンセ、リヤンの三人。全知全能に耐性のない三人が意識を失った。
魔王の力を宿すフォンセだが、純粋な魔王の力だけでは全知全能を無効化する事は出来ない。それはvsゼウスの時に立証済みである。
故に、この場に残った戦える戦力はライとレイのみ。そしてヴァイスは更に続ける。
「「「さて君達は……絶対無限を超える人数の私達に何処まで対抗出来るかな?」」」
「「……っ……!」」
そして現れた、読んで字の如く数え切れない程のヴァイス達。
その全てが今まで戦っていたヴァイスと同様に全知全能であり、その全てが今まで戦っていたヴァイスその者。一人のヴァイスにすらまともな攻撃を与えられていない現在、ライとレイの二人とは言えかなり厳しいモノがあった。
ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人とヴァイス。──改め。ライ、レイとヴァイス達。二人と絶対無限以上の数が居る存在の戦闘は、もはや言葉では言い表す事が出来ぬ状況となって続くのだった。