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九百五十二話 目覚めた主力たち

 ──"パーン・テオス"。


「……。んあ? 此処は……」


『目が覚めたか。魔族の国の支配者よ。余も今起きたところだ』


「テメェ……テュポーンか。つか、今起きたところって言われてもな……まあ、先ずは……何でテメェらが此処に居るのかを考えなくちゃならねェな」


 ライたちが別空間にて本来の世界の姿と言う場所で戦闘を開始した頃、崩壊した街にてシヴァとテュポーンが目覚めた。

 周りにはドラゴンを初めとして全世界の主力が集っており、その全員が意識を失っている状態で寝かされていた。


「テメェら……いや、俺たちか。俺たちがこんな廃墟みてェな街に居る理由……それを調べ直す必要がありそうだ」


『そうよの。まあ、記憶を辿れば答えは分かる。余はヴァイスと戦っていた。それで敗れてこの様。やれやれ。余も衰えたものよ』


「成る程な。て事は此処に居る全員、過激派侵略者達にやられて積まれてるって訳か。まあ、丁寧に寝かされているのを見るに、何らかの形でライたちと合流。意識を失って寝かされた……ってところか」


『証拠も無くライたちと断定するのか?』


「ああ。身体にある鈍い痛みや疲労を考えると戦闘があったって分かる。そして此処は少なくとも魔族の国や魔物の国じゃねェ。辺りに転がっている瓦礫は大理石が多くて全体的に白を基調した存在。金や銀の装飾も施されてんな。そっから推測すりゃ、此処は人間の国の何処か。それも発展しているから幹部か支配者の街。そしておそらく、俺の記憶に残っている戦闘の、一番新しいヴァイス達との戦闘とは別件でやられた今の俺たち。その俺たちに勝てる存在はヴァイス達かライたちくらいだ。"丁寧に"寝かされているって事はライたちの方に絞られる。合格者を大事にするって言っている割に、ヴァイス達は手荒だからな」


 辺りの様子と自身の感覚から事細かく推測するシヴァ。

 街や生き物の扱いに対してある程度考える事が出来れば、今現在の自分がどの様な立ち位置にあるのかもおのずと見えてくるのである。


『成る程の。確かに辻褄は合うな。そうなると此処に居る者達はみな、余も含めてライにやられたと考えるのが妥当だろうよ。傷が基本的に打撲。魔王の子孫や神の子孫にヴァンパイアが居ればこの様に傷を残さず治療する事も可能。むしろ、見たところ今は何らかの形で戦闘が始まっているようだからの。戦力を増やす為にも多少の手間は取られど余たちの治療くらいは済ませるだろう。受けた傷と治療する術の有無。余たちは皆、ライ一人によって打ち沈められたようだ。……そうなってくると、今の状況はヴァイス達によって何らかの洗脳を受けた余たちをライが倒し、比較的安全な場所に運ばれて今の状態……こんなところであろう』


「みたいだな。これで大抵の謎は解決したな」


 シヴァとテュポーンの推測により、二人はある程度の事を理解した。

 支配者なのである程度の理解力を持つ地頭は必要なのだが、二人の知力も凄まじいモノがあるようだ。一つの国を統べている事実からしてもかなりの鋭さを有しているらしい。


『そうなってくるとこれからの余たちの行動よの。少なくとも今は強い気配を感じぬ。ライたち諸とも、宇宙の彼方か別空間にて戦闘中と考えるのが良さそうだ』


「ああ。それなら、気を失っている全員を叩き起こして臨戦態勢に入らせるか。コイツらも操られていたなら、倒された瞬間は俺たちとほぼ同じ……俺がある程度治療すれば万全になる」


 周りに居る主力たちがシヴァたちと同じタイミングでやられたとすれば、そろそろ何人かは目覚めてもおかしくないだろう。しかしダメージはあるのであらかじめ治療する事にした。

 そんなシヴァは改めて街中を見渡し、更に言葉を続けた。


「そもそも、主力が居ない様子でこの街がこの有り様。この街が何処かは分からねェが、街の住民は無事なのか?」


『街などどうでも良いが、気になるなら調べてみたらどうだ? 強い気配はないが、弱い気配が複数集まっておる場所がある。そこに避難していると考えるのが妥当だろう。それに加え、無数の軍勢が迫っておるようじゃ』


「みたいだな。んじゃ、さっさと治療を創造して対策練るか。支配者を含めた全主力が居るって事は、世界で残った街が此処だけって事だからな。迫っている軍勢とやらはおそらく生物兵器の兵士達。となると、狙いはこの街の住民。考えなくても分かるな」


 事を決めてからの行動は早かった。

 シヴァは寝ている主力たちを回復させ、態勢を整える。もうほぼ意識が戻り掛けの状態だったので数分後には全員が目覚めた。

 そして支配者の中では一番遅く目覚めたドラゴンも含め、シヴァ、ドラゴン、テュポーンの三支配者は自身の国の主力を集めて対策を練る。


「──って事で、多分だが今全世界は壊滅状態にある。質問をしたいって気持ちもあるだろうが、一先ずは保留だ。先ずはこの街の援助を行う」


『余たちは今回の件を仕組んだであろうヴァイス達の捜索だ。少なくともこの世界にはおらぬようだが、何らかの痕跡はあると踏んで良いだろう』


『まだ状況が飲み込め切れないが、取り敢えず我らは捕らえられた者達の捜索だ。生物兵器にされておらず無事な者も居る筈。全世界を探して奴らの拠点を突き止めるぞ』


「「「はっ!」」」

『『『ああ』』』

『『『御意!』』』


 シヴァ、ドラゴン、テュポーンの言葉に主力たちは行動を起こす。余計な手間を取らぬ為にもある程度の事は端折ったが、意見が出ないのを見るに支配者という存在を信じているのだろう。

 チームとしてはシヴァたち魔族が人の気配の多い城の救援。魔法使いや魔女、魔術師が多数居て主力の数も全世界の国の中で一番なのでそれが適正だ。

 ドラゴンたちは持ち前の五感をもちいてのヴァイス達の拠点捜索。生物兵器の兵士達ではなく、捕まっているだけで改造されていない存在も居る筈。なのでその行動に移るようである。

 そして優れた五感を持ち、様々な力を扱える魔物たちはヴァイス達が残したかもしれない痕跡の捜索。確かにそれがあればより詳しく現在の状況を知れるだろう。

 魔族、幻獣、魔物。その主力たちは、自分たちの出来る事を行動に起こすのだった。



*****



「──……。んで、アンタらは人間の国の主力か。それならこの街についても知っている筈。先程の会議で黙認してくれていたのは感謝するが、色々と事情を教えてくれねェか?」


 そして魔族、幻獣、魔物の三チームが行動を起こした時、支配者の一人と二匹はこの場に残り、何処にも属していない人間の国の主力たちにシヴァが訊ねた。

 場の空気は読んでいるらしく、余計な事を話さなかった主力たち。他の主力は自分たちの行動に集中させる為、居なくなってから改めて訊ねたのである。


「フム、この中では代表は我になりそうだな。ゼウス殿もヘラ殿も居ない。質問に応えよう。おそらくこの街は支配者であるゼウス殿の街"パーン・テオス"だ。この街の有り様からして、考えるまでもなく壮絶な争いがあったのは分かる」


「テメェは……トライデントを持ってんな。ポセイドンか。つか、何故か俺の三叉槍トリシューラもあったし、戦闘で使ったって考えるのが妥当か。……しかしまあ、支配者の街"パーン・テオス"か。世界最強の存在が居る街がこの様か……」


 シヴァの言葉に返したのは、今の人間の国の主力の中では実力が一番であるNo.2のポセイドン。

 曰く、此処はゼウスの街"パーン・テオス"との事。その現在の状態を見やり、染々と言葉を紡ぐ。同時に更に言葉を続けた。


「しかしまあ、何があったのかは依然として分からず仕舞い。そうなると人間の国の主力も全員が操られていたって事か?」


 主力たちの存在を改めて確認し、人間の国でも他の国と同等に全主力が操られていたのかと推測するシヴァだが、それに対して人間の国のNo.3であるハデスが挙手して訂正した。


「いや、それは違うようだ。様子を見るに、ポセイドンも言っていた事だがゼウスさんとヘラさんが居ない。アテナとヘルメスもな。その事からして、人間の国の主力の中でも支配者のゼウスさん。支配者婦人のヘラさん、アテナにヘルメスは未だに行方不明だ」


「バイデント。ハデスか。成る程な。ー事は、俺たちは一先ずその主力たちを探した方が良いかも知れねェな。まあ、強い気配がないから別空間で争っている可能性もあるが、この世界に居る可能性にすがってみるのも悪くねェ。アンタらはどうする?」


 ある程度の情報を纏め、そのまま次の行動を考える。同時に人間の国の他の主力たちにどうするかを訊ね、主力たちは言葉を返した。


「まあ、我らも行動に移らなくてはならないだろうな。自分の街も心配だが、シヴァ殿たちの部下が世界中を飛び回っていると考えれば、我らとしてはゼウス殿を優先するのが良さそうだ」


「そうだな。まあ、厄介な事ではあるが、世界が壊滅したままじゃ今後が大変だ。お前たちは?」


 ポセイドンとハデスの二人は何かと因縁もあるのでシヴァの案に同意する。

 しかし神とは気紛れで自分勝手な存在。ゼウスの言葉ならまだしも、人間の国のNo.2とNo.3。そして他国の支配者の言葉を聞き入れるかは分からないので訊ねた。


「私は当然参加しますよ。多くの自然が傷付いていますからね。ゼウス様なら全てを戻す事も可能なので、探さない理由はありません」


わらわも乗ってやろうぞ。このまま虚仮コケにされっぱなしは癪だからの。わらわの美貌を以て目にもの見せてやろう」


 先ず返したのはデメテルとアフロディーテ。

 デメテルはその性格からある程度分かっていたが、アフロディーテが即座に同意するのは意外にも思えた。しかし虚仮にされた事への仕返しと考えれば、本人の性格的に別におかしくはないだろう。


「当然、僕は参加するよ。世界中がこの有り様と考えれば、救いを必要として居る者も多数存在している事だからね。参加しない理由はない」


「私も参加致します。自分の国が襲撃されてこのままやられっぱなしというのには思うところがありますからね」


「私も参加しますよぉ。だって世界中の家族が苦しんでいますからねぇ。……それは避けたいものです」


「俺もだ。今回の問題は色々と大変だからな。否が応でも参加するよ」


「私も参加するわ。ヴァイス達には一度街が攻められているし、一回やられて操られてしまったもの。現世に戻る期間が伸びているのに役に立たない訳にはいかないわ」


 次に名乗り出たのはアポロン、アルテミス、ヘスティアにディオニュソス。そしてペルセポネ。

 この五人は性格からして手伝ってくれる事は分かっていた。そしてそうなると、残る問題はアレスにヘパイストス。

 ヘパイストスは性格的には問題が無いが、基本的に鍛冶を中心としているので参加の有無は不明。それよりも、一番の問題は粗野で残忍で不誠実な神、アレスだろう。

 自然とシヴァたちの視線が残った二人の神へと当てられ、先ずはヘパイストスが言葉を発した。


「そうだな。今回は参加する事にしよう。この様な事をしている暇かあるなら鍛冶をしていたいが、その鍛冶場が無いからな。参加せざるを得ないという事だ。自分としても二つの侵略者一行には何かと縁がある」


 どうやらヘパイストスは参加するらしい。

 というのも、面倒なので鍛冶をしていたい事には間違いないようだが、その鍛冶場が今は使えない。なので参加するしかないようだ。

 そうなると残る一人、アレス。全員がその様子を窺っていると、アレスは高笑いしてシヴァに視線を向けた。


「ハッハッハ! そりゃオメェ、この俺様が参加しない訳ねえだろ! こんなに面白そうな祭りなんだからな!」


 どうやら参加はしてくれるらしい。確かに好戦的な存在であるアレス。本人の性格からして参加しない理由は無いだろう。

 しかし、とアレスは言葉を続ける。


「だが、お前達に仕切られる筋合いはねえ。少なくとも互いの実力が分からねえからな。ハッハ! 折角此処に全ての支配者が揃ってんだ。俺様と一戦交えろや!」


「やれやれ。拒否権は無いみたいだな」


 ──その瞬間、槍を構えたアレスがシヴァの眼前に迫り、シヴァとテュポーン、ドラゴンを狙って槍を放った。それをシヴァは創造した岩で受け止め、刹那にアレスの周りに無数の岩を創造した。


「そらよ」

「……ッ!」


 その岩はアレスの全身を打ち抜き、治したばかりのその身体を傷付ける。それを感じ、アレスは本来の大きさ、二〇〇メートルとなって見下ろした。


「ハッ! やっぱり強えな! だが、此処からが本領発揮……!」

『──やかましいの。少し黙れ』

「グハッ……!?」


 そして何かを言おうとした瞬間、アレスよりも巨大になったテュポーンの巨腕に押し潰される。

 その衝撃で"パーン・テオス"の街は大きく粉砕し、テュポーンとアレスの大きさも元に戻った。


『ウム……これは……参加してくれるという事で良いのか?』


「ああ、良いと思うぞ。喧嘩を吹っ掛けたは良いが、支配者に挑むなど無謀と言う他に無いな。我ですら勝てるかは分からぬ存在だと言うのに」


 アレスを仕留め、スッと肩を落とすシヴァとテュポーンを前にドラゴンがポセイドンへ訊ねた。

 曰く、アレスも一応参加で良いとの事。事実、実力を知れたならアレスの目的も達成されたという事になる。なのでアレスに断る理由は無くなったのだ。

 シヴァ、テュポーン、ドラゴンを筆頭とし、人間の国、魔族の国、幻獣の国、魔物の国。全世界の主力たちが今回は協定を結ぶ事となり、人間の国の他の主力とヴァイス達の調査を行うのだった。

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