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九百五十一話 世界の真実

 ──"ヴァイスの創った雪の世界"。


 猛吹雪が吹き荒れる雪山にて、ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は一気にけしかけた。

 ライは今までのように肉体を使い、レイも勇者の剣をもちいる。エマが周りの雪を圧縮し、フォンセとリヤンもかつての存在と同等の魔王の力と神の力を纏う。

 ヴァイスはそれらを見やり、片手をかざして応戦した。


「この雪も全て私の力。強度も範囲も変幻自在の力さ」


「オラァ!」

「やあ!」

「はあ!」

「"魔王の炎(サタン・ファイア)"!」

「"神の炎(ゴッド・ファイア)"!」


 片手を翳すと同時に雪を操り、巨大雪崩と変化させて仕掛ける。

 ライはそれを拳で砕いて吹き飛ばし、レイは勇者の剣で切り裂いて道を切り開く。

 エマは圧縮した雪をぶつけて相殺し、フォンセとリヤンは己の炎で蒸発させて消し去った。

 雪崩を消滅させた瞬間にライたちはヴァイスの眼前へと迫り、そこから更にけしかける。


「強度があっても所詮は雪って事かな。まあ、その気になれば溶けない雪を創る事も可能だけど、一先ずそれは置いておこう」


 それに対し、ヴァイスは雪の壁を貼って防ぐ。刹那にそれは砕かれるが本人は無傷であり、雪を今一度操って波のように押し掛ける。

 マイナス数十度の波は常人からすれば脅威的だが、ライたちにとっては意味が無い。先程と同じように雪を粉砕し、それを切っ掛けにしたのかまた別の世界へと移転し、次は桃色の花弁。即ち桜が舞う"ヒノモト"のような景観の場所に移動した。


「今度は比較的穏やかな場所だな。雰囲気は悪くない」


「ああ、そうだね。だけど、この景観とは裏腹にこの世界も私その物さ」


 次の瞬間、穏やかに舞っていた花弁が一転、空中で停止して刹那に高速でライたちの眼前へと迫り行く。

 耳を澄ませば風を切る音が響き、おそらくだがあの花弁は鋭い刃のような物である事が分かった。


「全知全能の刃。触れるのは危険かな」

「そうだね……!」


 その花弁をライは紙一重でかわし、レイは直接触れずに勇者の剣で切り裂く。

 エマ、フォンセ、リヤンの三人も各々(おのおの)のやり方で対処し、花弁は全て過ぎ去る。そしてその瞬間、背後に顕在する複数の山々が一枚の花弁によって大きく切断された。


「やっぱりそれなりの威力が秘められていたか。まあ、あの程度なら触れても問題無かったかな……!」


 花弁の破壊痕を見、改めてヴァイスの眼前に迫る。同時に拳を打ち付け、ヴァイスはそれを紙一重でかわしてライの頭を掴み地面に叩き付ける。それによってクレーターが形成され、ライは倒れ伏せた状態から跳ね起きるようにヴァイスの頭へ爪先蹴りを叩き込んだ。

 ほぼ同時に二人は弾かれ、そのまま距離を詰めて正面衝突を引き起こした。それによって世界が砕け、また新たな世界へと移転する。


「本当に忙しないな。一瞬(ごと)に世界が変化するや」


「今のは少なからず君も原因の一つだとは思うけどね。まあ、私たちの衝突が切っ掛けで世界が崩壊したんだからどっちもどっちという事かな」


 次の世界は海。そう、海である。

 ライたちが立っている場所は数百メートル程度の範囲しかない砂浜。残りは全て海であり、波の音が鼓膜を揺らし、ライたちとヴァイスは向かい合う。


「見渡す限りの海……まあ、ポセイドンの世界で見たような光景だな。いや、海ってだけだからこうなるのも当然か」


「そうだね。そして今まで通り、この世界を利用して仕掛けさせて貰うよ」


 その瞬間、海を操りヴァイスは高波を引き起こしてライたちにその波を叩き付けた。

 荒れ狂う波の暴力はライたちの立つ小さな島を一瞬にして飲み込み、海底へと沈んだライたちは各々(おのおの)で周りの水から自分を護る。


「大丈夫か? レイ、エマ、フォンセ、リヤン」


「うん。フォンセとリヤンが壁? を貼ってくれたから平気だよ!」


「ああ。周りが海だと、高確率で島なんか一瞬にして消え去ると踏んでいたからな。予測は出来た」


「うん……」


「……っ。だが……不死身性を失ってそれでも水……流水だと私の力が抜けてしまうな……」


 海水による影響は、エマを除いて問題無い。どうやらエマは不死身性を失っただけで、他の能力は全てヴァンパイアのままらしい。

 しかしこの世界を砕けばまた直ぐに戻る筈。そう考え、ライは海中で拳を放った。


「オラァ!」

「フム、気泡を飛ばしたか」


 拳で海中を殴り付けた事により、その部分の水が蒸発して消え去り、衝撃波が気泡となって迫り来る。

 しかしその気泡も即座に消え去り、海を消滅させながら真っ直ぐに衝撃波のみが進んでいた。

 それを一瞥したヴァイスは片手を翳す事で衝撃波を相殺して消し去り、その間にフォンセの守護を抜け出したレイが息を止めて勇者の剣を振り下ろした。


「……!」

「……。海中での動きも変わらず行える……か」


 勇者の剣をかわし、レイの正面から海が真っ二つに切断される。そのまま広範囲が消え去り、背後の水が前方を飲み込んで一時的に空気が生まれる。一呼吸と同時にレイは剣を横に薙ぎ払い、ヴァイス諸とも世界を切り裂いて世界を元に戻した。


「おやおや。君の力でも無限の空間くらいは容易く消し去れるようになってしまったか。まあ、既に分かっていた事だけどね」


「……っ。外れた……!」


 ヴァイスは勇者の剣をギリギリでかわした。しかし今までの世界と同等に無限の広さを誇る空間を切り裂いた事には素直な称賛を告げる。

 刹那に紅葉広がる森の中へと移動させられており、ヴァイスは片手に木の枝を持っていた。


「折角だ。私も武器を使おう」


「木の枝……馬鹿にされているようにも思えるけど、どうせ全能の力で強化されているんだよね……!」


「ああ、勿論さ。私の木の枝は宇宙を断つ」


 ──瞬間、片手に持った木の枝を振り下ろし、そのまま宇宙の範囲に匹敵する世界を崩壊させた。が、それをレイは勇者の剣で全て防ぎ、左右と後方からエマ、フォンセ、リヤンの三人がけしかける。


「はあ!」

「"魔王の衝撃波サタン・ショックウェーブ"!」

「"神の衝撃波ゴッド・ショックウェーブ"……!」


 放たれたのは三つの衝撃波。エマは空間を圧縮して撃ち出し、フォンセとリヤンは自分の力から放出する。

 無論、エマの衝撃波にはフォンセとリヤンの力も合わさっており、その破壊力はいずれも太陽系から銀河系を崩壊させる程の力が秘められていた。


「うん、やっぱり君達四人は連携が得意なようだ。ライが主に一人で道を切り拓き、続くように四人の連携が仕掛けられる。支配者ですら確実なダメージを負う攻撃だね」


「「「…………!」」」

「これも駄目……!」


 それらの衝撃波を消し去り、同時に赤く染まった紅葉を先程の花弁と同様、刃として攻め立てる。

 エマ、フォンセ、リヤンの三人はそれによって切り傷を付けられ、そこから流れた鮮血によって紅葉が別の赤で染まる。


「そらっ!」

「来る場所を教えてくれるなんて優しいね」

「……っ。そうじゃねえよ!」


 そこを突いたライが空から拳を放ち、ヴァイスの言葉にツッコミを入れて叩き付ける。刹那に巨大なクレーターが形成され、辺りの岩盤が抉れて天を舞った。

 クレーターの大きさは数キロ。確かに巨大ではあるが、それは宇宙規模の範囲を抑えた事によって生まれたもの。宇宙を数キロに収めるなど、ヴァイス自身は大した傷も負っていないのだろうという事が分かった。


「さて、君が仲間と共に仕掛けるなら私は自然と共に仕掛けようかな?」


「その自然もアンタの力の一つ。結局はアンタの力だろ!」


「……。痛いところを突いてくるね。独りは寂しいものさ。だから私は私で孤独を誤魔化そう」


 紅葉生い茂る空間から変わり、青々とした葉の生い茂る森の中。そこにある木々を操り、葉は刃。根は鞭。幹は槌として攻め立てる。

 それに対してヴァイスは自然と共にと告げたがライに指摘されて少し落ち込む。同時に強化した生物も生み出し、一気に仕掛けた。


「葉っぱに根に幹に……蜂とかの虫にその辺に居そうな四足歩行の動物。全員強化されて純粋な力だけなら支配者クラスか……!」


「ああ。その気になれば全てを今の私や本当の支配者。全ての神々や君達にする事も出来るけど、そんな事をしたら終わってしまうからね。これはシュヴァルツたちの弔い合戦も兼ねている。最終的には生き返らせるけど、そう簡単に終わらせちゃ、色々と悔いが残りそうだ。……まあ、合格者の君達とは選別後も普通に接するんだけどね」


「傍迷惑な話だな……!」


 その気になれば全ての存在を全知全能にして仕掛ける事も可能。だが、シュヴァルツ達の考えたヴァイスは比較的正々堂々と戦うらしい。

 この場にシュヴァルツやグラオが居たら確かにそれを望むかもしれない。ヴァイスなりの仲間に対する気遣いなのだろう。


「取り敢えず、この程度なら殴るだけで戻りそうだ!」


「ああ、それも分かっていたさ」


 植物や動物はライが吹き飛ばし、全てが光の粒子のようになって消え去る。あくまでヴァイスの力から生み出した"攻撃"なので本物の存在とは些か違うらしい。

 全知全能なので本物の生物も生み出せるのだろうが、それはしない方向なのであまり警戒せずとも良いのかもしれない。


「さて、次の世界は……」

「もう変えるのか。どうでもいいけどな!」

「よし、こうしよう」


 ヴァイスが森から新たな世界に変換させようとした瞬間にライが拳を放ち、ヴァイスはそれを受け止めて世界を変化させる。

 そしてライたちの眼前には、


「此処は……"アヴニール・タラッタ"みたいな雰囲気の街だな……」


 無数の高層建造物。塗装された道。馬車とも違う車輪の付いた鉄の乗り物。

 その光景は、まさしくいつぞやに寄った街"アヴニール・タラッタ"のようなものだった。

 ポセイドンの街"タラッタ・バシレウス"に近しい街であり、既にレヴィアタンによって海底に沈んでいた都市である。

 見た事がある光景では既に街自体が廃墟となっており、周りは海だった。

 今現在も人の気配は無く無数に顕在する乗り物も動いていないが、その街の本来の姿とも言える光景なのだろう。


「フフ、そうだね。確かにその通りさ。しかし、"アヴニール・タラッタ"とは違うよ。あの街は既に過去に──かつての神によって沈められた街だからね」


「……! 何だって……?」


 かつての神によって沈められた街。それを聞いたライは思わず聞き返す。

 その反応を見やり、ヴァイスは楽しそうに言葉を続けた。


「何もこうも。かつての神は勇者に倒されるより以前に世界を海に沈めているのさ。まあ、大抵の者は気付いていないんだけどね。何故なら私たちの過ごしていた世界とは違う世界線での出来事さ。この街は……うん。かつての神が勇者に倒されていなかったら今の時代の私達が過ごす事になる予定だった街……とでも言っておこうかな」


「かつての神が……既に世界を滅ぼしていた……? 俺たちの世界とは別の世界を……? この街は俺たちが居る予定だった街って事か!?」


 ヴァイスによって言い放たれた言葉。それは耳を疑う情報が多く、ライは全てを疑問系で返した。

 その様子を見たヴァイスはより詳しく説明する。


「まあ、更に厳密に話すならそうじゃないけどね。少なくとも本来の私達の世界じゃ君は居ない。私もね。何なら魔族・幻獣・魔物・神・悪魔・妖怪。その全てが存在していない世界だよ。居るのは魔法や魔術。特別な力を失った人間と同じく力の失った幻獣に魔物くらい。その存在が居た記録も概念としては残っていたみたいだけどね」


「……!?」


 ついにライは言葉を失う。

 何がどうあってこの世界が生まれたのか、何故ヴァイスがそれを知っているのか。

 しかしヴァイスは全知全能を得た。ヴァイス程の探求心があれば、確かに世界の真実を知る事を優先していそうではあるだろう。


「言うなれば私達の世界は正史とは違う別の世界……俗に言う異世界だね。だから色々な存在が健在し続け、それが今もなお繁栄を続けている。分岐点で言うなら、かつての神を勇者が倒していたかどうか。かつての神がそのまま残っていたら一度世界は海に沈められ、新たな世界創造から正史へと合流する筈だった。……君も聞いた事くらいはある筈だ」


「そんな事……いや、確かに魔王がそれっぽい事を言っていたような……」


 様々な事柄が告げられ、ライの困惑は加速する。レイたちも同様に理解が追い付いていないようだ。

 だが、全てではないがライは魔王(元)によって以前に似たような事を言われたかもしれない。記憶があった。

 それは前にグラオが創り出した偽りの"世界樹ユグドラシル"での出来事。"世界樹ユグドラシル"にある人間の国の"ミズガルズ"に寄った時、魔王(元)はかつての神が世界を海の底に沈めようとしていたと言っていた。

 本人も詳しくは知らなかったようだが、それがこれだとするなら確かに辻褄は合うだろう。


「……。確か、レヴィアタンは神が創り出した最強の生物。ベヒモスが最高傑作だったけ。そうなると人間の国にあった海底都市"アヴニール・タラッタ"と幻獣の国にあった森林都市……そこを襲わせたのがかつての神って事か?」


「そうなるね。先ずは一、二を争う規模で発展していた街を滅ぼした。そこから本格的に事を起こそうとする前に自身の力に限界が来て、そのまま勇者に倒されたって訳さ」


「……! いや待て! 事を起こそうとする"前"に……? それならかつての神は、全世界に宣戦布告した時点でもう消え去る直前だったのか!?」


「まあ、そうなるのかな。けど、消え去るギリギリ前だからね。力はそのまま。その気になればそのまま世界を沈める事も出来た……けど勇者に阻止された。矛盾点は存在していないだろう?」


 "アヴニール・タラッタ"と同じように、かつて発展していた森林都市。それも神の影響によって滅びたらしいが、その神は弱っており勇者に倒された。突き詰めれば突き詰める程新たな疑問が生まれていた。

 それを案じたのか、ヴァイスは両手を広げて言葉を返した。


「さて、色々と知りたい事があるのは重々承知しているよ。だけど、それではシュヴァルツたちの弔い合戦が進まない。後は事が済んだら私が話すか、ゼウスにでも聞いてくれ。全知全能の彼はそれを知っている筈だからね。もしくは聖域に居る勇者かな」


「……!」


 確かに疑問は増え続ける。だが、それでは戦いが進まないとヴァイスは先を促した。

 それに対してライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人が構え直し、改めて向き直る。まだまだ知りたい事は多いが、その世界の為にも今はヴァイスを打ち倒す事を優先しなくてはならないのは事実である。

 ライたちとヴァイスの織り成す戦闘。それは、ライたちの世界の本来の姿と言う都市にて続行されるのだった。

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