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九百五十話 世界の模倣

「このまま見ている訳にはいかない。私たちも仕掛けるぞ!」


「ああ。傷は痛むが、これが常人の感覚というだけ。あくまで選別対象として見ている奴に私たちを殺すつもりは無さそうだ。……まあ、殺した後で生き返らせる事も可能だから必ず生き延びられる保証は無いがな」


「うん……。その辺も考えて行動しなくちゃね……」


 ライ、レイ、ヴァイスの三人がせめぎ合いを織り成す中、ダメージは残りつつもエマ、フォンセ、リヤンの三人が立ち上がってヴァイスに向き直る。

 幸いかどうかは分からないが、三人は遠距離や中距離からの攻撃にも長けている。直接相手にするのは難しそうだが、サポート方面に力を入れればライたちの手助けになる事だろう。


「向こうは行動に移るみたいだな。私たちもおちおちしていられない。遠距離や中距離から仕掛けなくては巻き込まれる。投擲とうてき武器を使おう」


「そうだな。何故か奴は私たちが使う武器を全て用意しくれている。罠かもしれないが、本当に殺すつもりがないならそれに乗る他あるまい」


「そうですね。今の俺たちに与えられる影響は少ないですけど、やれるだけやっておきましょう」


 エマ、フォンセ、リヤンの三人が向かい、それに感化されたヘラたちも行動に移る。

 親切なのか舐められているのか、はたまた罠でも仕掛けられているのかは分からないが、ヴァイスはヘラたちを連れる時、一通りの武器一式を用意してくれていた。

 何が起こるのかは分からないので油断は出来ないが、ヘラたちもヘラたちでしかと自分たちの役割を理解し、行動へと移る。


「オラァ!」

「やあ!」

「フム……」


 拳を放ち、それが片手で逸らされる。

 剣を振るい、刃の無い部分に軽く触れられ、軌道を逸らされる。

 しかしライとレイの二人は変わらずけしかけ、その全てをヴァイスはいなした。


「まだまともには仕掛けて来ないか。様子見しているのか?」


「まあ、そんなところだね。私がしている事を述べてしまえば、君達の動きの推測さ。君達の成長力は全知による先読みすらをも凌駕する。ある程度は読めるから最低限避ける事は出来ているんだけど、何度か正面から受けなくてはない攻撃もあるからね。いくら全知全能だとしても、能力にかまけてしまえば必ずそこが隙になる。だから学習は全知になった今も必要なんだ」


 ライとレイの攻撃に対し、ほとんど避けてばかりのヴァイスの意図はライたちの動きをより正確に読む為のものだった。

 全知全能にはそんな事必要無いのだが、全知全能をも凌駕するライとレイの成長力。全能をもってすればそれに追い付く事も可能であるが、即座に成長力で追い越されて無限のループに陥る。

 しかし、いくら動きが鋭くとも癖は中々抜けない筈。ヴァイスはそれを見抜き、仕掛けようと考えているのだろう。全知なのでその癖も既に知っているのだろうが、実践とただ知っているだけという事柄は大きく違う。いくら情報を持っていてもそれを生かせなければ意味が無いだろう。


「言葉だけの能力なら誰でも言えるさ。例え何の力も持たない常人が"自分には凄い能力がある"。"無限の能力を持っている"。……と言っても、行動に移さない能力を豪語するだけの全能と何も違わないからね。私はそれを遂行する力がある。学習して取り入れ、最善の行動に移る。こんな基礎が何より大事さ」


「ハッ、それで俺たちにはまだ仕掛けないのか。相変わらず慎重だな。行動自体は大胆に行うのによ」


「フフ、慎重さと勇気。それは上手く使い分けなくちゃね」


 言葉だけの全知全能なら知恵を持つ全ての生物にも言える事。しかしそれを実行する事によって初めて名実共に全知全能となれるだろう。

 例え何千何万、無限の能力を使えるとしても、それをするのとしないのとでは大きく変わっていく。言葉だけの全能など、ただの大法螺。嘘。妄言。虚言でしかないからだ。


「じゃあ俺は、勇気を以てアンタに仕掛けるさ!」

「私も!」


「成る程。慎重さは無しの方向で進めるか」


 それだけ告げ、今一度二人はヴァイスにけしかける。

 拳を打ち付け、勇者の剣を薙ぐ。それらをかわすヴァイスだが二人の攻撃の鋭さはより一層増し、それでもいなすように受けて行く。


「そこだ!」

「"魔王の蛇(サタン・スネイク)"!」

「"神の柱(ゴッド・ピラー)"……!」


 そんなヴァイスに向け、エマ、フォンセ、リヤンの三人が嗾けた。

 エマがいかづちを圧縮して放電させ、フォンセが魔王の魔力を蛇のように放出。リヤンは神の力でヴァイスを中心に消滅の柱を形成し、それらが直撃してヴァイスの周囲を消し飛ばした。

 ライとレイはその行動を既に理解している。なのでヴァイスのみに直撃し、


「今の攻撃が来る事も分かっていたよ。全てを知っているんだから当然だね」


「ハッ、まあ簡単にはやられないか……!」


 無傷で姿を現した。

 全知全能であるヴァイスは先程の力を事前に把握する事も、防ぐ事や回避する事もどうにでもなる。何なら防がずとも問題無い程だろう。

 だが、だからこそそれは承知の上。次いでヘラ、ヘルメス、アテナの三人がけしかけた。


「はっ!」

「ハッ……!」

「はあ!」


「その攻撃も無意味さ。そもそも、ライと勇者の子孫以外の攻撃は何の影響も及ばないくらいだね」


 神の力からなる弾く掌底しょうていに不死身を殺すハルパー。神の力が備わった槍。その全てをヴァイスはいなす。

 続くように距離を置いたヘルメスが銃や弓矢を構えて射出。それらも避けられ、ヴァイスはヘラとアテナの後頭部を掴んで二人を勢いよく衝突させ、一瞬にしてヘルメスの眼前に迫りその身体を吹き飛ばした。


「フム、君達では相手にならないね。もう帰って貰おうかな」


「「「…………!」」」


 ──次の刹那、ヘラたちの意識が消え去り、その身体が何処かへと移転する。

 おそらくヴァイスの力によって意識が奪われ、同時に元の世界に戻されたのだろう。全能の力ならそれも容易く行える。数が減ったのは問題だが、一先ずはヴァイスの相手が優先だ。


「オラァ!」

「……。またいきなり来たね」


 刹那に超速で迫り、拳を打ち付けるライ。ヴァイスは片手で受け止め、その衝撃波が背後に向かって宇宙の範囲を消滅させた。

 純白の粉塵が舞い上がり、ライは言葉を続ける。


「今の力……相手の意識を奪う能力か。それを使えばこの戦いをしなくても良いんじゃないか?」


「いや、どうやら君と勇者の子孫には通じない力みたいだ。まあ、その気になれば通す事も出来るけど、通した瞬間に再びそれに対する耐性を得られる。それが君達の力だからね。繰り返しても意味が無いから今まで通りにやるとするよ」


 全能は、全てライたちに通じる。しかしそれを上回る速度でライたちも成長する。もはや成長という言葉で言い表せるレベルのものではないが、何はともあれ通用するが通用しないという矛盾した力という事だ。

 魔王の自分にとって都合の良い現象を引き起こす力は、未だに健在という事だろう。それを越える勇者の力もレイに宿っている。もはや能力で現せる問題ではなさそうである。


「じゃあ俺たちも、今まで通り仕掛けるさ!」

「うん!」


「ああ。私も本気で仕掛ける!」

「同じく!」

「うん……!」


 ヴァイスの言葉を聞き、ライは更に進化して仕掛け、それに続くようレイも仕掛ける。

 エマ、フォンセ、リヤンの三人も完全な本気となりて仕掛け、今のフォンセとリヤンは正しくかつての神と魔王の再来とも言える力だった。


「オラァ!」

「やあ!」

「はあ!」

「"魔王の力(サタン・フォース)"!」

「"神の力(ゴッド・フォース)"……!」


 そして一斉に各々(おのおの)の攻撃が放たれる。

 ライは全力の拳を打ち付け、レイは勇者の剣を全力で振るう。

 エマは世界を念力のような力で圧縮して放ち、フォンセとリヤンが魔王と神の力を具現化してけしかける。

 それらの攻撃は真っ直ぐにヴァイスへと向かい、


「その力全て……全能の一端だね」

「……!」

「「……!」」

「「……!」」


 ──全て(・・)同じ力(・・・)で返した(・・・・)

 ライの拳には自分の力を同じものとして迎え撃ち、勇者の剣はその剣を模倣して衝突させる。

 世界の圧縮には世界の圧縮。魔王の力には魔王の力。神の力には神の力。

 全て同じ攻撃で完全に防いだ。


「勇者の剣も再現出来るのか……!」


「まあ、可能ではあるね。使用者が別人だから勇者の子孫よりは能力が劣るけど、私が強化すれば問題無い」


 不可能の筈の勇者の剣の模倣。根本的な部分は違うらしいが、ヴァイス自身の力があるのでそれは誤差の範囲でしかないだろう。

 だが、だからと言って引き下がる訳にはいかない。


「なら、アンタを超えるまで仕掛け続ける!」


「ああ。そう来る事も既に承知しているよ。だってそれが君だからね。ライ」


 加速。迫り、眼前に一撃。

 それをヴァイスは受け止め、複数の多元宇宙が崩壊して修正される。

 やはりヴァイス的にも貴重な人材を失わせない為、必要以上の破壊はゼウスの時と同じように修正しているのだろう。

 次の瞬間に純白の世界から城の中のような場所に変わり、ヴァイスは更に仕掛けた。


「同じ景色だけじゃ飽きるだろうからね。ちょくちょく君達が今までに見てきた光景を再現して上げるよ。ちょっとした恩恵かな」


「ハッ、よくもまあ、そんな気遣いが出来るな!」


 城内にある物はヴァイスに操られ、それぞれがそれぞれの特徴を生かして攻め立てる。

 レッドカーペットがライたちを包み込むように仕掛けられ、鎧と槍がそのまま放られる。頭上からはシャンデリアが落下し、城壁の煉瓦レンガが弾丸のように迫り来る。

 しかしそれらはライの敵ではない。容易く砕いて打ち落とし、変わらずヴァイスへとけしかけた。


「アンタなら自分の力で世界を破壊する程度の弾丸とかは撃ち出せそうだけど、それをしないで態々(わざわざ)この模倣空間の物限定で仕掛けるなんて律儀だな!」


「何事にも遊び心は必要さ。ちょっとしたユーモアすら存在しないなんてつまらないだけだろう? ……さて、景色が変わるよ」


 次に変化した世界は巨人の家。ライたちは巨大な書斎のような部屋におり、先程と同等周りにあったペンや本。椅子に机などが迫り来る。

 本は鳥のように羽ばたいて攻め行き、ペンは槍のように打ち出される。椅子や机はその大きさから隕石のような存在であり、それらを砕きかわしたライは本を足場に加速。ヴァイスの眼前に再び迫る。


「確かに遊び心は大事だけど、今は構わずアンタを倒す!」


「ああ、構わないよ。まあ、当てられたらだけどね?」


「……! 本!? 本に止められるのかよ! 俺!」


「本は本でもその強度は複数の宇宙に匹敵する。というより、今の君の力に合わせて上げてある。そう簡単には破られないよ」


「オラァ!」


「……まあ、君が瞬間的に成長してそれを打ち破れる力になったらやられちゃうけどね」


 防がれた瞬間にライが成長。本の強度を上回って貫き、ヴァイスの身体を吹き飛ばした。

 ヴァイスの身体は書斎の巨大窓を突き破って巨人の家を複数戸貫き進み、破壊痕を残しながら消え去る。それと同時にライの背後から回し蹴りを放ち、ライはそれをかわした。


「どれくらいの距離飛ばされたのか分からないけど、大した距離は吹き飛んでいなさそうだな。また何かしたのか」


「ああ。まあ、何かという程の事じゃない。ただ純粋にこらえただけさ。吹き飛ぶ途中でね」


 次の瞬間に再び景色が変化。闘技場のような場所となり、周りは人々の歓声や声援に溢れていた。


「闘技場……! 全く、嫌な記憶を思い出させる……!」


『ギャアアアアアアッッッッ!!!!』


「そして怪物か……!」


 闘技場にいち早く反応を示したのは何かと縁の深いフォンセ。目の前には種族が分からぬ生物、おそらく"合成生物(キメラ種)"であろう怪物がおり、威嚇するように吠え立てる。次の瞬間にフォンセは魔王の槍魔術で怪物を貫き、絶命させて消し去った。


「やあ!」

「闘技場に剣。見事な組み合わせだね」


 フォンセが怪物を打ち仕留めた瞬間、レイは勇者の剣をもちいてヴァイスへ仕掛ける。ヴァイスは創造した槍を片手にそれを受け、弾き飛ばしてせめぎ合う。

 同時に二人は弾き飛ばされ、また別の世界に移転した。


「さて、戦いはまだまだ始まったばかり。色んな世界で色んな戦いをしようじゃないか。全知全能の私とね」


「アンタ、そんな性格だったっけ? ……まあいいや。この茶番にいつまで付き合えば良いのか分からないけど、アンタを倒すまで続くのは決定事項だからな!」


 次の世界は白銀の雪山。吹雪に雪と同じ色の白髪を揺らし、ヴァイスは両手を広げてライたちに言い放った。

 世界が一々変化するのは目が少し疲れるが、大きな支障は無い。故に構わずライたちは臨戦態勢のままである。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの織り成すヴァイスとの戦闘。それは、ヘラ、ヘルメス、アテナの三人が元の世界に戻され、他国の主力たちも居なくなり、自分たちだけになった現在も続くのだった。

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