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九百四十八話 決戦の幕開け

 ──"パーン・テオス"。


「「……!」」

「「……!」」


 マギアが消え去った直後、元の世界に戻ったレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人はハッとして辺りを見渡した。

 そこに広がっていた光景は崩壊した"パーン・テオス"の街。何処までこの被害が広がっているのかは分からないが、少なくとも半径数十キロは壊滅的状況にあるだろう。辺りは瓦礫の山が形成されていた。


「この有り様は一体……ヘラたちは無事なのか?」


「どうだろう……至るところから煙が上がっているね……私からしたら火薬の匂いは少ないし、この煙は戦闘の余波から出たものかな?」


「おそらくそうだろうな。しかし、ヘラたちが居てこれ程までとは……」


 マギアの件もあり、まだ割り切れる様子ではない。しかし街の有り様を見てしまったからこそ気が気ではなかった。

 世界最強の人間の国。そこの幹部が三人も居て壊滅的状況の今。その心持ちも当然だろう。


「私たちが別の世界に行っている間に何かがあったのは決定的。先ずは街を探索した方が良さそうだな」


「「うん……」」

「ああ……」


 何かがあったのは確定。それならばその何が何なのかを調べなくてはならないだろう。

 なのでレイたちは行動を起こそうとした──次の刹那、複数の束が勢いよくレイたちの横を通り抜けて瓦礫の山を粉砕した。


「「……!?」」

「「……!?」」


 レイたち四人は目で追って一斉にそちらを見やり、何かを放った張本人の姿を確認する。


「「ライ!」」

「「ライ……!」」


「……! レイ、エマ、フォンセ、リヤン。無事だったみたいだ……な……? ……いや、心なしか雰囲気が違う……向こうで何かあったみたいだな……」


 ライ・セイブル。その者である。

 ライはレイたちの無事を確認して一瞬喜ぶが、その重い雰囲気から場の空気を察知して言い淀む。同時に訊ね、レイたちは頷いて返した。


「うん……。シュヴァルツとマギアは倒したんだけど……可哀想だった……」


「可哀想……か。何があったかは分からないけど、あまり後味の良くない戦いだったみたいだな。だけど、何も知らない俺がこれ以上言及するのも野暮か」


 可哀想。その言葉だけで大凡おおよその様子を推察する。

 しかしライがあの場に居た訳ではないので多くは語らずに黙認した。


「……。ところで、ライは何を? 何かを吹き飛ばしていたみたいだが……」


 空気を重くするのも問題。なのでこの中で一番最年長のエマがライに今何をしていたのかを訊ねた。

 咄嗟だったのでエマたちの動体視力を以てしても不明の何か。ライは説明するように言葉を続ける。


「ああ、あれは操られていた他の国の主力だ。その全部がこの街に攻めて来ていたから大変でな。元々俺が戻った時点で街が半壊していたんだけど、流石に全ての主力を相手にして街が無事って訳にはいかなかった」


「全ての主力……。ライ、よく無事だったね……」


「ハハ、操られているけど……いや、操られていたからこそ弱体化していたからな。ダークたちや斉天大聖、ガルダ、アジ・ダハーカみたいな支配者に匹敵する存在もかなり弱体化していた。力をフルに放てないからな。……まあ、それでも何度かこの世界は滅び掛けたけど」


「へえ……流石だね。ライ」


 その言葉からするに、既にほとんどの主力たちは打ち倒し終えているらしい。

 ライ自身も所々に汚れなどはあるが、外傷は無く肉体的にも殆ど無傷。弱体化しているとは言え、その程度のダメージで戦闘を終えられたライに感心する。


「取り敢えず、お陰で街はこの有り様だ。最低限、住民達が避難している城には影響を及ばせないように気を付けているけど、少し前に寄ってから様子を見ていないから心配だ。ヘラたちが生物兵器の兵士達の相手をしていると言っても数が数だからな。ヘルメス以外に決定打を与えられる可能性は薄いし」


「成る程。ヘラたちや住民達は城に避難しているのか。そこで防衛しつつ、操られた主力たちはライが相手をしていた……街の有り様は敵にマギアたち以外の主力が居たからか。確かに不安ではあるな。住民達を護りながら生物兵器を相手にするのは少し気苦労が多くなりそうだ」


 街の被害は操られた主力たちによるもの。それならばこの有り様も納得出来るが、だからこそ不安があるのも事実。

 何はともあれ、先ずすべき事は城の方へと向かってヘラたちの様子を確認する事だろう。


「まあ、事態は一刻を争うって言っても過言じゃない。その様子からしても割り切れないかもしれないけど、大丈夫か? 何ならレイたちは此処で休んでいても……」


「ううん。大丈夫。残る敵は多分ヴァイスだけ……自分の私情を優先して足を引っ張ったら元も子もないから……!」


「ああ。マギアとは色々あったが、知り合いを亡くすという経験はよくしている。今回の一件も、あくまでそのうちの一つに過ぎないさ……」


「休む時間は無いからな。今回の件が終わったらゆっくりと休憩するさ」


「うん……」


 精神的なダメージがある様子のレイたちを懸念したライだが、どうやらその懸念は杞憂に終わったらしい。

 既にレイたちは気持ちを切り替えている。いや、切り替えなくては世界が救えないだろう。

 もっとも、世界を救った後はライが世界を征服するので最終的なヴァイス達との違いは出るであろう犠牲者の数くらいだが。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人は"パーン・テオス"の城へと向かうのだった。



*****



 ──"パーン・テオス・ゼウスの城"。


「ハァ……ハァ……これくらいか……かなり疲れた……」


 ライたちが城に向かう途中、生物兵器の兵士達を討ち仕留め終えたヘルメスは膝を着き、肩で息をして新鮮な空気を肺へと入れていた。

 ヘルメスの速度なら一瞬にして生物兵器の兵士達の首を切り裂く事も可能。だが、数が数なのでダメージとはまた違った疲労が現れているのだろう。


「お、無事だったか。ヘルメス」


「よぉ……ライ……それと仲間たち……そっちも無事だったみたいだな……」


 そんなヘルメスの前に、文字通り迅速に移動したライたちが現れ、その様子を視認していた。

 先程の場所から城まで十キロ程度。なのでこの距離は秒速11.2㎞の第二宇宙速度から秒速16.7㎞の第三宇宙速度程度でも出せば秒も掛からずに到達出来る。

 レイたちもそれに付いて行く事くらいは既に出来るようになっており、五人全員が城まで到着したという事だ。


「操られていた他国の主力たちは全員抑え込んだ。意識を奪って一ヶ所に纏めているから後で治すよ」


「そうか……。ハァ……俺の方は見ての通り……数が多くて手間取ったが、基本的にダメージは負わずに打ち倒した。まあ、その分疲れているんだけどな……」


 先ずは互いの近況報告。

 ライたちが此処に来た時点である程度の察しは付いているのだろうが、念の為にそれをおこなっているのだ。

 ヘルメスの方も今の光景を見れば一目瞭然。両者共に自分の目的は見事に遂行を終えたようである。


「戻って来たか。すまないな、ヘルメス。お前一人に任せてしまって」


「まあ、主なら一人でも十分だろうと判断した次第じゃ。むしろ、私たちが参加した方があの速度で動く主の邪魔になり兼ねんからな」


「ハハ……まあ、何人かは取り逃がしてしまったから城の方に向かったけど……貴女たちが居てくれて助かった。取り逃がした分の兵士を片付けてくれたから城も無事……住民も無事だ」


 事が済んだのを見計らい、ヘラとアテナも姿を現す。

 何もしていないようにも思える二人だが、アテナの盾で常に城を護っており、ヘラによって侵入して来た生物兵器も片付く。二人が城内に残っていたからこそ犠牲者が出なかったと考えても良さそうである。

 そうなると残りの問題だが、


「じゃあ後はゼウスか。俺たちの方も……というより、レイたちもシュヴァルツとマギア。敵の主力を倒してくれた。完全じゃない全知全能を得たヴァイスがどう出てくるかだな」


「「「…………」」」

「「…………」」

「「…………」」


 ライの言葉に全員が黙り込む。

 全知全能であるゼウスは、普通なら心配は要らないだろう。本人も異世界や多次元、全ての時空を含めた全て世界で自分に匹敵しうる存在は勇者を除いて三人しか居ないと言っていた。

 一人がこの世界のライだとして、残り二人はおそらく別世界のライたち。もうヴァイスが入り込む余地は無い。──のだが、何となく不安はあるようだ。


「ゼウス様なら大丈夫だろう。世界最強の存在だからな。私たちが心配するのも烏滸おこがましい、余計な事だ……」


 そんな不安の静寂の中、多少声を震わせながらもアテナがそう言い放った。

 ゼウスは全ての存在の中で最強。先代ゼウスとは異なる完全なる全知全能を有するのだから当然だ。

 思った事を全て遂行出来、矛盾すら実行に移す事が出来る存在。ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人とヘラ、ヘルメスの二人もコクリと頷いて返す。


「ああ、実際に戦ったのは俺だからな。ゼウスの強さは身を以て知っている。少なくとも、あの時点の俺が戦った中では一番の強敵だった」


 次に話したのはライ。そう、ライはゼウスの力を体感している。ゼウスが全知の力を使わなかったので勝てたようなものであり、自分自身を取り込んだライにも一瞬で到達する力。異能のみならず全ての能力に置いて完全な存在だった。

 そんなゼウスが負けるとは考えにくく、レイたちとヘラたち。全員が納得した。


「……! なんだ!?」


 ──次の瞬間、何の前触れも無く世界が揺れた。

 それにいち早くライは反応を示し、レイたちが続く。


「揺れてる……地震? ……じゃ、無いよね……」


「ああ。大地が揺れているというより、空間その物が揺れているような感覚だ……」


「それのみならず、時間に存在。全ての概念が振動している……」


「一体……」


 謎の揺れ。それを感じたその刹那、ライたちの目の前に存在する空間が歪み、いびつな形の丸が現れた。


「……。何だ、コレ?」

「何だろう……何処かに繋がる入り口……?」


 丸と言っても球体ではなく、空中に描いた絵のような丸。

 突然現れたそれにライたちは困惑の色を見せ、それとほぼ同じタイミングで人影が姿を現した。


「……! ゼウス!」

「ゼウス……!」

「ゼウス様!」


「…………」


 ライ、ヘラ、アテナの三人がその人影の名を呼ぶ。

 そこに立っていたのは人間の国の支配者ゼウス。多少の負傷はあれど、この世界に戻って来た事には変わらない。

 嬉々としてアテナは言葉を続ける。


「ゼウス様! やったんですね! 侵略者はゼウス様が?」


「……」


「……ゼウス……様……?」


 勝利を確信するアテナ。しかしゼウスは応えない。

 次の瞬間、ゼウスの"背後"から声が掛かった。


「彼は今話せないよ。意識を失っているからね。まあ、意識があればその時点で与えたダメージも何もかも回復する。全てを無かった事に出来る。合格者はなるべく傷付けたくなかったけど、今回は仕方無いね」


「……!?」


 その声は、ライたちには聞き覚えがある、というより、もはや聞き馴染んだ声。

 それを聞いた瞬間に全員が一斉に構え、ライが全員を庇うように前へ出て言葉を続ける。


「負けたのか……ゼウスは。……アンタに……──ヴァイス!!」


「ああ。どうにか勝てたよ。かなり大変だった。けどまあ、お陰で私も──"完全な全知全能"を取り入れる事が出来た」


 ヴァイス・ヴィーヴェレ。

 敵のリーダーであり、疑似全能を宿した存在。……だが、今の言葉にライたちは歯噛みをした。

 そう、ヴァイスはたった今──"完全な全知全能"を取り入れたと告げたからだ。

 完全な全知全能。それは矛盾を遂行する程の力。誰にも持てない岩を持つ事が可能であり、それでもなお誰にも持てないという条件を満たす事が出来る。

 結婚している独身者を生み出す事も、四角い丸を造る事も、何もせずに全てを遂行する事も可能。文字通り、何でも出来る完全な存在、完全な全知全能。それが今のヴァイスらしい。


「見たところ……いや、たった今全ての情報が入って来た。……成る程ね。それが彼らの選択なら否定する事は出来ない。とうとう私一人になってしまったか。寂しいものだ」


「……! 泣いている……?」


 何かの情報を得、ツーっと涙を流す。しかしそれを否定せず、心して受け入れた。

 同時にライたちへ向き直り、ヴァイスは言葉を続ける。


「彼らを生き返らせるのは後にしよう。全てを終わらせてからの復活を、彼ら自身が望んでいるようだからね」


「……。元に戻ったみたいだな。能力以外の全てが……!」


 見た様子、ヴァイスには感情が戻っている。加えて髪を含めた全身や話し方も戻っており、完全な全知全能を宿した事を除いて全てが戻ったらしい。


「ああ。全能なんだ。それくらいは可能だろう? 今更とも言えるけど、次に彼らと会う時は本来の私の姿で会おうかな。……ああ、ロキは生物兵器の時の私しか知らないっけ」


「ハッ……もう俺たちに勝つ気でいるか……! やってやるよ……アンタとは、これで最後の戦いだ……!」


「ああ、その様だね」


 魔王の力十割を取り入れ、ライの身体を漆黒の渦が纏わり付くと同時に世界が漆黒のオーラに飲み込まれた。

 レイが勇者の剣を抜き、銀色の剣尖を輝かせる。エマが念力のような力をもちいて大気や風を纏い、フォンセが漆黒の魔力。リヤンが聖なる力を纏う。

 疲弊した身体に鞭を入れるようヘルメスがハルパーを構え、アテナがアイギスの盾を構える。ヘラはゼウスの身を預り、全員が各々(おのおの)の態勢へと移行した。

 ライたちが織り成すヴァイス達──ヴァイスとの戦闘。それは全ての終着点へと向かうのだった。

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