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九百四十六話 女王の暴走

「私の言う事……聞いてよ皆! 私だって凄いんだから! "女王の傲慢(クイーン・エレガンス)"!!」


 何かか切れたように叫び、山よりも巨大な魔力の塊から身体の一部を放出して辺り一帯を空間ごと消滅させた。

 マギアは全てを見下し、そこから更にけしかける。


「まだまだ……全部消さなきゃ!」

「……! 範囲を広げた!」


 全てを飲み込むよう、山や大陸とは比較にならない広範囲を消滅させる。

 レイたちとシュヴァルツは持ち前の力で耐えられているが、足場も自分たちの範囲しか存在しておらず、残る場所は空間も何もかも消滅した闇しか映していなかった。


「やれやれ。本当に見境無しだな。近寄ろうにもあの乗り物? いや、纏った魔力の塊か。アレが邪魔だ。おそらくマギアがあの中に居るのだろうが、周りの空間が歪んでいるのを見るにアレに触れるだけで消滅するのだろうな」


 周りの様子を見やり、マギアの纏っている魔力の塊には触れるだけで全てを消滅させる力が備わっていると推測するエマ。あれでは近寄るに近寄れないだろう。

 しかし、とエマは未だに放出される塊を避けながら疑問が浮かんでいた。


「外部には空間消滅の力が備わっているようだが、内部はどうなんだ? 見たところマギアは無事……外部には消滅の力が宿っているが内部は普通に生存出来る空間が形成されていると考えるのが妥当か?」


 それは外部と内部の影響について。

 しかしあの魔力の様子を見れば深く考えずとも晴れる疑問。自分以外の全てを消そうとするマギアが自分自身を消滅させる訳が無いのも踏まえ、単純に外部と内部で使っている魔力の種類が違うのだろうという事が分かる。


「ハッ、テメェら! 俺も忘れるなよ! "破壊ブレイク"!」


「「……!」」

「「……!」」


 その瞬間、エマたちと同じようにマギアの魔術を受け流していたシュヴァルツがエマたちに向けてけしかけた。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人はそれを避け、残っていた僅かな足場も空間ごと粉砕する。


「空間に直接干渉する奴が二人。片方は暴走中。かなり厄介だな……! "魔王の大地(サタン・グランド)"!」


 砕かれた足場を新たに造り、全員がそこに着地して二人を見やる。

 空間を砕く破壊魔術は特殊魔術だが、全知全能を目指すマギアが疑似特殊魔術を使えないという、事も無いのは見ての通り。

 敵味方関係無く攻め立てるマギアは厄介だが、それに合わせて仕掛けられているシュヴァルツも流石という他に言い表せないだろう。


「やはり役割分担は重要だな。マギアが厄介と考えれば、マギアに三人。シュヴァルツに一人は当てなくてはならない」


「ああ。そうなるとシュヴァルツと一人で戦える存在が必要だが……どうする? 今のシュヴァルツは支配者並み……少なくとも私では相手にならないな」


「神様に特効の力も持っているみたいだから……私も苦手……」


「そうなると私かフォンセだね。フォンセは空を飛べるからマギアに向かって。私はシュヴァルツと僅かな地上で戦うよ……!」


 誰が誰と戦うか。先に決めるべきは一人しか居ないシュヴァルツだが、純粋な実力と相性からしてエマとリヤンは不利。なのでレイとフォンセが候補に挙がり、レイがみずから名乗り出た。

 確かにシュヴァルツは飛行能力を持っている訳ではない。ただ単に空を破壊してその破片に乗っているだけ。マギアの位置が高所であるという事からしても飛行能力を持つレイ以外の三人は重要。なので一番妥当な相手だろう。


「そうか。だが、良いのか? ……というのは愚問だったな。例え相手の実力が高くとも、それを選んだのがレイならそれに間違いは無いのだろうからな」


「ああ」

「うん……」


「みんな……」


 フォンセの言葉にエマとリヤンも頷き、レイは言葉を飲み込んでシュヴァルツに向き直る。


「それじゃ、気を付けて……!」

「レイもな……!」


 同時に踏み込み、破壊魔術を展開するシュヴァルツにレイが迫り、巨大な魔力にエマ、フォンセ、リヤンの三人が迫り行く。

 次の瞬間に大きな衝突を引き起こし、破壊魔術が切断され全てを消滅させる魔力の塊と神の力、魔王の魔術が衝突して相殺される。


「邪魔をしないで! "女王の憤怒(クイーン・ラース)"!!」


 絶叫に近い声を上げ、神の力と魔王の魔術を逆に飲み込んで吸収。そのまま一斉放出と同時に世界を崩壊させた。


「余波が……!」

「ハッ、関係無ェよ! "破壊ブレイク"!」


 その余波はレイとシュヴァルツの元にも到達する。しかしレイは勇者の剣で切り裂き、シュヴァルツは破壊魔術で破壊して最低限の足場は残す。気を取り直してレイはシュヴァルツの懐に攻め入った。


「やあ!」

「"破壊ブレイク"!」


 刹那に起こる勇者の剣と破壊魔術の衝突。それによってマギアの魔術も二人の周りからは消え去り、更に踏み込んでけしかけた。


「まだまだ!」

「当たり前ェだ!」


 勇者の剣と破壊魔術がぶつかり合い、その余波のみでマギアの力を粉砕して無効化する。

 勇者の剣が横に薙ぎ払われてシュヴァルツはそれをかわし、片手に破壊魔術を纏って掌底しょうてい打ちを放ち、それをレイは紙一重で躱して余波を切り裂く。

 残り僅かな足場だが構わず繰り広げられるせめぎ合い。魔力の余波は二人の余波に掻き消され、二人だけの空間が形成される。刺突、薙ぎ払い、切り上げて回転。突き、打ち、周りを破壊しての衝突。

 既に存在していない空間がそれらによって更に砕け、キラめく欠片が舞い散った。


「レイは問題無さそうだな。私たちも仕掛けるぞ!」

「ああ! "魔王の手(サタン・ハンド)"!!」

「"神の創造ゴッド・クリエイション"……!」


 レイとシュヴァルツの一方で、マギアを覆う魔力に対して異能を無効化する魔王の手と消えた空間を再生させる神の力が干渉して余力を飛ばす。

 先ずはマギアを見つけ出すのが先決。魔力の巨人は山よりも巨大な為、何処に居るかも検討が付かなかった。

 気配を辿ろうにも周りでは時間や空間の概念が消されているので気配が存在する訳もなく、その力を何とか無効化して捜索するしかなかった。


「アハハハハハ!!! 私は嫌われているのに皆仲良しで羨ましいよ! だから皆、死んじゃって!! "女王の嫉妬(クイーン・ジェラシー)"!!」


 瞬間、マギアの妬みと嫉みが混ざり合ったような塊が放出され、辺り一帯を焦土と化す。

 そう、焦土と化したのだ。

 今までは空間その物を消滅させていたが、嫉妬の炎によって魔力が熱を持ち、空間を焼き払う力になったようである。


「全て空間に干渉するのは同じだが、魔力の性質が様々なモノに変化するようだな。これも魔術を極めた熟練の技という事か……!」


「既に魔王の力に匹敵する破壊力だ……! これはマズイかもしれない……!」


「神の力にも近い威力……二つ合わせても敵わないかも……」


 縦横無尽に魔力が飛び交い、世界が消滅して焼き払われる。

 時間に空間。存在などの概念が消失してもなお魔術の暴力は続き、流石のエマ、フォンセ、リヤンも耐え切れなくなりつつあった。

 しかし触れればその時点で全てが消滅する。既にフォンセ自身の魔王の性質は逆に無効化される段階へと達しており、今この世界に居る者たちは全員、レイの持つ勇者の剣以外が消されてしまうだろう。


「しかし、これ程の力……使用者に何のリスクが無い筈も無い……おそらくマギアの放てる魔力の質を大幅に上回っているからな……! 自分の身を犠牲にしての破壊力と考えた方が良さそうだ……!」


「「……っ」」


 魔法や魔術。その他の異能は、基本的に自分に対してデメリットになる事は無い。

 自分の出せる範囲の場合は、であるが。

 つまり、今のマギアの力はマギア自身の能力を大きく上回るモノとなっている。これを使用しているのを考えると、あの魔力の中に居るマギアも戦いが終わった瞬間に何らかの被害に遭うのは明白だった。


「別に奴を心配している訳じゃない。腐れ縁だが、奴は既に後戻り出来ぬ場所にまで来ているからな。それは殺戮などのような生易しいモノではない。人を食うという意味なら私も既に通り過ぎた道だ」


「「…………」」


 フォンセとリヤンの二人はエマの言葉を静聴する。

 マギアのした事は取り返しが付かないものである。エマは必要だからこそ人を食らって生きて来たが、マギアは完全な私利私欲の為に非道な実験を繰り返している。

 世界が禁忌とした生物兵器の製造に関わった時点で既に手遅れだろう。しかし、とエマは言葉を続けた。


「どちらにせよ始末は付けなくてはならないが、あのまま自滅させるのは色々と思うところがある。腐れ縁と言えど一度は繋がってしまった縁だからな。フォンセ、リヤン。道を切り開いてくれ」


 マギアの犯した禁忌からして安らかな最期は訪れないだろう。だが、だからこそエマはせめて自分に出来る事をしようと二人に話す。

 それを聞いたフォンセとリヤンの二人は互いの顔を見合せ、エマに視線を向けた。


「任せろ!」

「任せて……!」


「ああ、任せた!」


 同時に返答し、エマが返してマギアの元へと加速する。

 勝負は一瞬。光の速度だろうと、それを超える速度を出せようとこの一瞬にして勝負が決まるのは確定。故にエマの加速に合わせ、フォンセとリヤンは魔王と神の力を放出した。


「"魔王の覇道サタン・ドミネーション"!!」

「"神の聖道ゴッド・ホーリーウェイ"……!!」


 放たれた力は魔王と神の力からなる別々の道。それらが合わさり、一つの道となって魔力を切り裂き、エマの為の道が作られる。それを見やり、マギアは近寄ってくるエマにけしかけた。


「来るなら……私の物になって! "女王の色欲(クイーン・ラスト)"!!」


 放たれたのは強い催眠作用のある魔術。しかし破壊や消滅の力は備わっていない。そんな催眠、エマには無意味だった。


「貰うぞ。望み通り、貴様自身をな……!」

「……! ……っあ……!」


 瞬間、霧と化したエマがマギアの背後に回り込んで耳元で囁くように言い放ち、鋭く白い牙でマギアの首筋を貫いた。

 そこから溢れ出た鮮血を吸い、ヴァンパイアとしての成分をマギアの体内へと放出する。

 マギアの身体はこの世の如何なる快楽よりも鋭い快楽が襲い、魔力の巨人が揺らいだ。


「んっ……させ……ない……私が貴女の物になるんじゃなくて……貴女が私の物になるの……エマ……!」


「……!」


 揺らぎ崩れた魔力の巨腕が迫り、辺りを崩壊させながらゆっくりと近寄る。

 どうやらマギアは敗北するよりも前に、エマと共に自分自身を消し去ろうとしているようだ。

 その光景を見やり、シュヴァルツはレイから距離を置いた。


「ハッ、道が出来たか……! この機会を待っていた!」


「え!?」


 突然のシュヴァルツの行動に困惑の色を隠せないレイ。シュヴァルツは構わず直進し、生身のままで全てを消滅させる魔力の中に飛び込んだ。


「テメェ、マギア! 勝手に死にやがったら許さねェぞゴラァ!」


 当然破壊魔術は纏っており、ただ闇雲に攻め入った訳ではない。しかし揺らいだとしても不死身であるマギアの命すらをも削る魔力の塊。神と化したシュヴァルツの破壊魔術も徐々に剥がれ落ちる。

 しかしシュヴァルツは獰猛な笑みを浮かべており、拳を握り締めて言葉を発した。


「さっさと正気に戻りやがれマギアァ━━ッ!!」


「「……!?」」


 破壊魔術は纏わず、純粋な腕力でエマとマギアの二人を殴り抜く。

 二人の身体は魔力の巨人から打ち出されて吹き飛び、フォンセが造っていた大地に直撃して大きな粉塵を舞い上げる。

 結果としてエマの牙から逃れたマギアは空を見上げ、叫ぶように言葉を発した。


「シュヴァルツ!! 何で……!!」

「クハハッ、ようやく戻ったか……!」


 次の瞬間、魔力の巨人の迫り来ていた巨腕が自分自身を崩し、空間ごと消滅する。

 最期に映ったシュヴァルツは高らかに笑い、スッと目を細めてマギアに向けた言葉を発する。


「……。ハッ、後は任せたぜ。どうせ元々、生き返らせてくれるつもりだったんだろ? マギア・セーレ!」


「……ぁ……ああ……!」



 ──刹那、強大な魔力から形成された巨人は空間、そして──シュヴァルツ・モルテごと世界から消滅した。



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