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九百四十五話 女王のワガママ

「"女王の食事(クイーン・ミール)"!」


 ヴァイスとゼウス。ライと主力たちが別の場所で戦っている時、本気となったマギアはリッチの魔力をもちいて大口のような塊を一気に放出した。

 その塊は一直線にエマとフォンセを狙い、空間ごと噛み砕いて飲み込んだ。


「危ないな。空間を抉られては流石にマズイ」


「空間をかじり抜く今の魔術はシュヴァルツの破壊魔術とも違うな。まあ、厄介な能力である事実も変わらないがな」


 エマとフォンセごと空間を削った魔術だが、当然二人はそれを避ける。

 避けると同時に今の魔術の力を改めて推察した。

 系統はシュヴァルツの使う破壊魔術のような空間に直接干渉するモノ。空間を破壊するのではなく飲み込む力なのでおそらく、まだあの中に空間の欠片は残っている事だろう。


「アハハ! 逃げないでよ! 私の事嫌いなの!?」


「笑うのか怒るのかどっちかにしろ。面倒な奴だ」


 避けたエマたちを見やり、マギアは笑いながら怒って魔力の塊を次々に放出していく。

 それを聞いたエマは呆れるように避けつつ踏み込み、蝙蝠の翼をもちいて飛行。そのまま言葉を続けた。


「そうだな。好きか嫌いかで言えば……苦手な奴……かな?」


「それって、嫌い寄りって事じゃん!」


 魔力の塊を次々と避け、眼前に迫って圧縮した空気を放出。同時に放電させてマギアの身体を感電させた。

 こたえた様子の無いマギアは嫌われていると言う方向でいきどおり、更に魔力を込めてけしかける。


「良いけどね……! 身も心も支配して私を好きにさせる! "女王の暴食(クイーン・グラトニー)"!」


 それと同時に魔力をより増強させて巨大化。そのまま空間ごとエマを飲み込む。

 だが、範囲が広くなっただけで先程との大きな変化は少ない。その魔力の隙間を抜けたエマは空中に手をかざした。


「やれやれ。頭を冷やしたらどうだ」

「……!」


 同時に大雨を降らせてマギアの興奮して火照った身体を濡らし、次の瞬間に雷を落として通りをよくした状態で今一度感電させた。

 マギアは魔力を操る事に集中しており、その場からはあまり動かない。なので遠距離から攻める事も出来ていた。


「こんな攻撃! 私の心には敵わないよ!」


 もっとも、ただ単に避ける必要が無いだけなのかもしれないが。

 それらを受けても衣服が焦げただけのマギアは構わず仕掛け、山一つに匹敵する空間を飲み込んで削り取る。おそらく本気なら一口で惑星や恒星、もしかしたら銀河系を飲み込む魔力を操れるかもしれない。

 今現在は範囲を控え目にしている。基本的に自分の魔術が自分に害を加える事は無いが、流石に銀河系規模にしたら自分にも何らかの被害が及ぶ可能性もあるのでその点はまだ冷静であり、破滅的にならず考えて行動しているようだ。


「ふむ、確かに心という概念には勝てるか分からないな。折れない限りは何度でも仕掛けて来るだろうからな。しかしまあ、肉体が崩壊すればいくら心が折れずとも打ち倒せる筈だ。……まあ、リッ……いや、アンデッドの貴様は怨念にでもなってしつこく攻めて来そうだがな」


 リッチという言葉を途中で止め、アンデッドと直して話すエマ。

 確かに心が折れなければ何度でも挑戦出来るだろう。だが、それは肉体が残っていた場合に限った話。

 なので相手が最後まで諦めずとも肉体その物を崩壊させればおのずと勝利を掴めるのだ。

 それが難しい事に変わりはないが。


「取り敢えず、この空間を食う大口を何とかしない事には終わらないな。やるぞ、エマ」


「ああ。だが、私に出来る事は限られている。大凡おおよそはフォンセに任せてしまうが……良いか?」


「ふっ、何を今更。そんなもの、答えは決まっているさ。むしろ、もっと頼って欲しいくらいだ」


「ふふ、そうか」


 二人で目配せをし、マギアに向けて加速する。

 マギアは魔力の塊を更に複数生み出し、叫びながらけしかけた。


「二人とも仲良さそうにして……! エマと一番付き合いが長いのは私なの! エマを盗らないで!」


「いや、私は誰の物でもないさ。婚姻関係者は居ないからな」


「そう言う意味では無いと思うぞ?」


 激昂するマギアに返答しつつ、フォンセが軽くツッコミを入れてマギアの魔術を相殺する。質量が質量なので全ては消し切れないが、それでも一部を消すだけで十分防げるだろう。

 エマとフォンセの織り成すマギアとの戦闘。それも依然として続く。



*****



「……。向こうでは凄い事になっているね……此方にまで余波が来ている……」


「うん……。けど……私たちの相手も大変……」


 そんなエマたちの戦闘を見やり、レイとリヤンは気圧けおされていた。

 あれくらいの破壊なら何度か目にした事もある。気圧されたのはマギアの凄まじい執念にである。

 何が何でもエマたちを手に入れようという執念。二人はそちらに視線を奪われていた。


「……ったく。テメェら! 俺を無視してんじゃねェぞ! 見えてんのか!? "破壊(ブレイク)"!」


 その光景を見たシュヴァルツは痺れを切らし、破壊魔術にてけしかける。

 今の破壊魔術で広範囲の空間が消し飛んだが、レイとリヤンはそれを見切ってかわした。


「当然! 視線は外しても警戒は怠らないよ!」

「うん……!」


 躱すと同時にレイが勇者の剣を振るって破壊魔術を切り裂き、リヤンはその隙間からシュヴァルツに向けて片手を翳す。


「"神の粛清(パージ・オブ・ゴッド)"……!」


「ハッ、下らねェ! "神格破壊ディティ・ディストラクション"!!」


 同時に全てを焼き払う無数の神のいかづちが放出され、それをシュヴァルツは神の力ごと粉砕する。

 それによって空間が大きく崩壊し、辺りが一瞬にして焦土と化した。

 神の力と破壊魔術が相殺し合った事で星規模の大きな崩壊は免れたようだが、やはりそれでも苦労を強いられそうである。


「……! リヤン! 危ない!」

「……!」

「……チッ、マギアの奴……!」


 次の瞬間、エマたちの戦闘の余波であるマギアの魔力の塊が此方に迫り、それをレイは勇者の剣で切り伏せて防いだ。

 距離で言えばレイたち三人とエマたち三人は然程離れていない。多少の移動があったとは言え精々数キロ程度である。

 広範囲を飲み込むマギアの余波が流れて来るのは何ら不思議ではなかった。


「見境が無くなって来てんな。冷静さも失われつつある感じだ」


 そんなマギアの魔術はレイとリヤンのみならず、シュヴァルツの方まで影響を及ぼしている。

 迫った瞬間に破壊魔術で破壊しているので大した被害はこうむっていないが、それでも面倒臭そうに相手取る。


「だったら向こうに行けば良いんじゃないかな? エマたちと合流出来たら連携が取りやすくなって相手もしやすいからね。マギアが正気を保て無くなっている今なら実質1vs1vs4。私たちにとっては都合が良いからね」


「クハハッ、それを自分から言い出すか。本心では思っていねェって事だな。……だが、確かにあのままじゃ色んな意味でマギアが危ねェかもな。まあ、危ねェって言うなら元から危ない奴ではあったが、取り敢えず放って置いたら何しでかすか分からねェ」


 戦闘を一時的に中断し、シュヴァルツは思案する。

 今のマギアは暴走に近い感覚で暴れている。思案している今もなお空間を食す魔力の塊が三人にも影響を与える程だ。

 先程までは仲間のシュヴァルツには何もしなかったが、シュヴァルツが言うようにその攻撃に見境が無くなっているのも事実。考えるまもなくマズイというのは理解出来る現在、シュヴァルツは行動に移った。


「やっぱ行くか。今の言い方……テメェらはマギアの敵になってくれんだろ? だったら話は早ェ。俺もテメェらに負ける訳にゃいかねェからな」


 それだけ告げ、レイとリヤンの前からシュヴァルツは消え去る。二人はその姿を目で追い、頷いて駆け出した。

 レイ、リヤンとシュヴァルツ。今一度三人は自分の仲間たちと合流するのだった。



*****



「全部……全部亡くなっちゃえ!」


 ヤケになったマギアが魔力の塊を放出し、それをエマとフォンセが避ける。そして隙を突いてけしかけた。

 先程から幾度と無く行われている攻防だが、一向に進展する気配はない。簡単に言えば縦横無尽に飛び回る魔力の塊。それは攻守一体であり、隙間を作ったとしても即座に埋められてしまうのだ。

 そしてまた一ヶ所。今度は大陸程の範囲が削り取られた。


「どんどん動きも鋭くなっているな。既に音速は越えている。現時点で亜光速並みか」


「まだまだ見切れる速度だが、所構わず放っているのが問題だな」


 被害を気にせず暴れ回る魔力の塊。此処は別の世界なのでいくら破壊されようとも問題無いが、エマとフォンセが破壊されるのはマズイ。無数の塊が鞭のように振るわれている今、速度よりも数による圧倒が問題だった。

 一つ一つが星を揺るがす破壊力。それが数百万は優に越える。その気になれば一つ一つで星一つを飲み込めるのだろうが、それをする必要性が皆無とも言える程の数の暴力。それらの魔力を翳すだけで世界は大きく破壊されていた。


「"魔王の守護ガーディアン・オブ・サタン"!」


 フォンセが自分たちに降り掛かる魔力の塊を防ぎ、二人でマギアの眼前に迫る。

 マギアはそんな二人を視線に収め、二人を中心的に魔力の塊を放出。魔王の守護術によってそれらは防がれ、エマとフォンセは同時に左右から挟み込んだ。


「はあ!」

「"魔王の風(サタン・ウィンド)"!」

「……!」


 そして放たれたのは二つの風。その風は凄まじい圧力でマギアを挟み、肉体を内部から粉砕すると同時に吹き飛ばした。

 しかしこれではマギアも終わらないだろう。ならば何故細胞一つ残さず消し去る炎を放たなかったと問われる。答えは否、空間を食う魔力に囲まれたマギアの周りには空気が存在しておらず、炎が意味を成さないからである。

 それなら風も同等かもしれないが、二人の場合は風を集めてそれを放出しているだけ。なので炎のように滞在させる必要も無いので仕掛けられたのだ。


「一先ず空気のある所に運ぶか」

「まあ、それを簡単にはさせてくれないがな」


 吹き飛んだマギアを見やり、追撃を試みる二人だが魔力の塊は依然として健在。それをさせまいと全ての範囲に存在し、一斉に飛び掛かった。


「やあ!」

「"破壊ブレイク"!」

「「……!」」


 そしてそれらは勇者の剣と破壊魔術によって打ち砕かれ、レイとリヤンがエマとフォンセの近くに。シュヴァルツがマギアの近くに現れて互いに向き直る。


「意外だね……マギアの技を砕くなんて……!」


「ハッ、マギアに近寄るだけで襲って来るからな。不可抗力だ」


 既に剣呑な雰囲気ではある。しかしレイとシュヴァルツの二人は何やら思うところもある様子で、リヤンも同上。エマとフォンセは乱入して来た三人を指摘せず、大地に降り立ち改めて向き直った。


「もう……何で皆邪魔するの……? 皆私が嫌いなの!?」


「オイ、ヒステリーは止めておけ。つか正気に戻れ。真面目にやれば勝てねェ相手じゃねェんだからな」


「シュヴァルツ……」

「ああ、だから──」


 錯乱状態にあるのか、マギアがブツブツと呟く。しかしシュヴァルツの姿はしかと認識出来ている様子。

 それなら説得も可能かもしれないとシュヴァルツは口を開くが、それを遮るようにマギアは一言。


「──貴方でも……邪魔するなら容赦しないよ!!」


「ッハハ……ま、こうなるわな」


 次の瞬間、マギアは両手に膨大な魔力を込めてレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人。そしてシュヴァルツに向けて叫ぶように言葉を発した。


「"強欲の女王クイーン・オブ・グリード"!!!」


 そして生み出された、巨大な魔力の塊。人の形をした魔力。──魔力の巨人。

 それに触れた空気と空間は消滅し、光も消え去る闇のみが映り込む。禍々しい悲哀と怨念と欲望が入り混じった魔力は動き出し、マギアはそれに入り込む。


「だったら……皆殺して後で生き返らせれば良いよね……?」


 人の形をした巨大な魔力の中からくぐもったような声が響き渡り、巨大なてのひらが大地に触れてそこから全てを消し去った。

 シュヴァルツは少し距離を置き、笑って言葉を返す。


「ハッハッハ! 良いじゃねェか! マギア!! このまま奴らを一網打尽にしちまおうぜ!」


「……」


 当然、マギアはシュヴァルツも標的に入れている。しかしシュヴァルツは変わらず接し、余波に気を付けつつレイたちに向き合った。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの織り成すシュヴァルツ、マギアとの戦闘。積み重なる悲痛によって暴走気味のマギアを前に、終着点に向けて進むのだった。

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