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九百四十四話 操られた主力たち

 ──"パーン・テオス"。


「酷い有り様だな。ほんの数分居なかっただけでこれ程までに荒らされるのか。確かに残った主力はヘラ、アテナ、ヘルメスだけだけど……短時間でこの被害……何か別の理由がありそうだな」


 レイたちとゼウスがこの世界とは違う別空間でヴァイス達と戦闘を行っている最中、操られて弱体化していた支配者たちを倒して一足早く元の世界に戻ったライは建物から建物へと跳び移りながら攻められている"パーン・テオス"の有り様を見、一際高い時計塔で停止して何かあったと推測していた。

 何かあったと言うのなら攻められている時点でそうだが、それとはまた別の何か。

 街の有り様は街その物が半壊しており、焼けた建物に割れた大地。街路樹や低木は消滅して街の至るところに血の痕も見え、所狭しとゼウスの城に住民達が集っている。三人とは言え、主力クラスが居て生物兵器の兵士達に蹂躙されるなど違和感しかなかった。


「そうなると考えられるのはシヴァたちと同じように主力が誰か操られている……ってところか。この街以外世界は壊滅しているらしいから、全世界の主力が攻めて来ていても全くおかしくはないからな。……いや、もしかしたらオーディンやバアルとかみたいな別世界や別空間の主力も何人か操られている可能性も考えられるな……」


 考えられる線は、他の国の主力たちが操られた事で防ぎ切れなくなったという事。

 操られた事で本来より弱体化しているとしても四つの国で主力の存在、もしくは主力に匹敵する存在の数は八十人(匹)以上。その中からヘラ、ヘルメス、アテナに支配者を除いても七十人(匹)以上は確実。加えて、おそらく居るであろう生物兵器の未完成品達。それ程までの数と力を誇る実力者に攻められてはこうなるのも仕方無い。むしろ、街が半壊で済んでいる今はまだ幸福と言えるだろう。


「一旦城の方に向かってみるか。何があったにせよ、この街の主軸に行けば何か分かるかもしれないしな」


 それだけ呟き、時計塔を砕かぬように力を抜いて跳躍。同時に空気を蹴って加速し、一直線で城の方に向かった。

 現在の速度は音速以下。なのでソニックブームや衝撃音なども発せられず、生物兵器や操られているかもしれない主力たちに気付かれる心配は無いだろう。

 しかしそれでも高速ではある。物の数分で城の方にやって来たライは物陰に隠れてその様子をうかがった。


『『『…………』』』

「「「…………」」」


「あれは……やっぱり操られているみたいだな……」


 そしてそんな城を生物兵器の兵士達が囲んでおり、見た事のある者たちもその中に居たので自分の推測が当たったと確信し、少し考える。


「……。まあ、取り敢えず俺が突っ込んで気を引くか」


 その思考の結論は、一瞬にして決定された。

 操られているというだけで支配者ですら大した力を有さなくなった。つまり、主力クラスと言えど操られている今なら容易く打ち倒せるだろう。

 ライは自分が突撃する事で一先ずの気を逸らせる為、物陰から飛び出した。



*****



 ──"パーン・テオス・ゼウスの城"。


「さて、どうする? 囲まれてしまったぞ」

「ああ。他国の主力や我が人間の国の主力まで操られてしまっているとはな。中々やりにくいものだ」

「まあ、アテナの守護術で城全体を囲んでいるから暫くは破られなさそうだけど、大変な現状は変わらないな」


 ライが行動に移る少し前、ゼウスの城の中ではヘラ、アテナ、ヘルメスの三人が対策を練っていた。

 城自体はアテナの使う"アイギスの盾"。それの効力範囲を広げる事で護っているようだが、あくまでその場凌ぎでしかない。

 なのでどうするかと考えているヘラたち。そんな次の瞬間、外から轟音と共に窓を揺らす衝撃波が伝わった。


「「「…………!」」」


 その衝撃波に三人は反応を示し、窓の近くにある壁から姿を見せぬように覗き、その光景を確認した。


「防壁で覆っている筈なのに衝撃波が来るなんて。まさか破られたのか?」


「いや、そんな感覚は無い。衝撃それは私に直に伝わるから確かだ」


「ならば一旦何事だ?」


 盾が破られたとは考えにくい。破られたなら破られたでアテナに衝撃が伝わって来るからだ。

 それなら何が原因なのかとヘラが呟き、その答えが城の外で暴れていた。


「そらよっと!」

『『『…………!』』』

「「「…………!」」」


 ──拳一つで生物兵器の兵士達が細胞一つ残さず消滅し、その余波で他の生物兵器も不死身を無効化にされて死に至る。

 主力たちにはある程度の手加減をしているが、弱体化しているとは言え主力なのは変わらない。手加減したままでは意識を奪うまでには及ばないようである。


「やっぱりそれなりの力を込めなくちゃ駄目か? いや、そもそも必ず意識を奪って解決しないといけない事なのか?」


 呟きつつ攻め入る主力たちを吹き飛ばすライ。

 主力は全員が知った顔であり、頑丈な肉体を持っているが支配者程ではないのでやりにくいところがある。

 もっとも、主力だけあって手加減ばかりはしていられない強さも健在だが。


「あれは……少年か。先程までは姿が見えず、気配も全く感じなかったが……成る程。同じく姿が見えなかったゼウス様のように別の世界で戦っていたと考えるのが妥当か。それが終わってこの世界に戻って来たという事だな」


「それなら、娘たちも少年やゼウスと同じように別の世界にて戦っているという事か。少年の気配は戻ったが、他の者たちの気配は相変わらず感じぬから、今も交戦中かの」


「そうみたいですね。まあ、ライが一人加わるだけで戦況は一気に有利になる。アテナ。この城は君に任せて良いか? 俺はちょっと手伝って来る」


「ああ、問題無い。何ならヘラ様も行って良いですよ。あの少年の行い、征服には賛同出来ないが……確かにこの街の事を思っているようだ」


「フッ、そうか。……まあ、取り敢えず、私は第二陣として待機していよう。このままでは必要無いかもしれんがな」


「じゃ、行ってきます」


 それだけ告げ、ヘルメスは城の外へと飛び出した。

 アテナとヘラは城の防衛をそのまま行うらしく、一先ず敵と相対するのはライとヘルメスだけのようだ。

 それとは別件だが、アテナはアテナでゼウスに言われたように暫くはライの様子を確認するらしい。

 何はともあれ、ライの参戦によりヘラ、アテナ、ヘルメスの三人も改めて行動へと移った。


「少年。微力ながら力を貸す。早いところこの者達を打ち沈めよう」


「……! ヘルメスか。ああ、分かった。数が多いから大変だったんだ。頼む!」


「了解した。おそらく他国の主力たちが居るから生物兵器の兵士達をあれ以上に纏めて吹き飛ばす事が出来なかったのだろう。俺が生物兵器を相手にするから君は主力に集中してくれ!」


「ありがとう! 助かる! じゃあ、主力たちを正気に戻してくる!」


 城の外に出たヘルメスは一瞬でライと合流し、効率的な役割分担をおこなって行動を起こす。

 主力たちの存在があったからこそ手加減せざるを得なかったライだが、生物兵器の兵士達は何万と居る。それはかなり大変だろう。

 主力の意識を奪うのに集中する必要もあり、それをさせてくれるヘルメスの助太刀はライにとって有り難い事だった。


「不死身特効のハルパー。正に今の状況の為だけにあるような武器だな。そしてそれを使う俺……ある程度は活躍出来そうだ」


『『『…………!』』』


 次の瞬間、光の速度に到達したヘルメスがハルパーを構えて踏み出し、その刹那に複数の生物兵器の兵士達を切り捨てた。

 閃光のような軌跡が残り、同時に生物兵器の頭が飛んで身体が動かなくなる。

 不死身の存在に癒えぬ傷を与えるハルパー。その効力もあり、首をねるだけで不死身の存在を行動不能に出来るのは楽で良いものだった。


「んじゃ、俺もアンタらの相手をするか。……今更だけど、此処に居る操られた主力は三人だけなんだな。まあ、強い気配は複数感じるから至るところに操られた主力が居るんだろうけど……──なあ、ダーク、シャドウ、ブラック。魔族の国の主力で支配者を除いた上位三人のアンタらが相手なんてな」


「「「…………」」」


 ライが相手をしていた主力、それはダーク、シャドウ、ブラックの三人。

 自分の種族という事もあって魔族の国の主力とは何かと関わりが深いが、今は情に流されている暇は無い。元より意識さえ奪えば後からフォンセやリヤンの力を使って元に戻す事が可能なので深く考える必要も無かった。

 いざという時は、ヴァイスにやられていなければゼウスの力もある。なので三人を倒す事が先決だろう。


「街への被害と住人達の安全が最優先だな。そうなると、ある程度の手加減はしたまま……余計な余波を出さずにやるか」


「「「…………」」」


 行動は決まった。既にダークたちは攻め込んで来ており、ライの眼前にダーク自身と影、剣魔術が迫り来る。

 それらをライは見切り、ダークの腕を掴んで背後へ受け流すように放り、手を軽く振るって二つの特殊魔術を消し去る。同時に二人へと迫り、両手で二人を殴打して吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたシャドウとブラックは誰も居なくなった街の歩廊を飛び行き、砂塵を舞い上げる。そんなライの背後からダークが迫り、ライは振り向き様にけしかけた。


「……!」

「よっと!」


 ダークの拳を紙一重でかわし、カウンターのように顎を打ち抜く。それによってダークは天空へと吹き飛ばされて周囲の雲を消し去った。

 それから遅れて余波が広がり、空中の雲を全て掻き消す。刹那にライは跳躍。一瞬で追い付くと同時に身体を捻って横からの回し蹴りを放ち、ダークの身体を下方へと叩き付けた。


「……」

「先ずは一人……!」


 その一撃でダークは動かなくなる。意識を失ったのだろう。

 そのまま空気を蹴って加速。先程吹き飛ばしたシャドウの元に迫り行く。


「……!」

「やっぱり気付きはするか……!」


 そんなライの存在に気付いたシャドウは魔王の影を生み出し、その他にも鞭や槍のような影をもちいてけしかける。

 ライはそれら全てを一撃で砕き、そのままの勢いでシャドウの顔を殴り抜ける。


「……ッ!」

「オラァ!」


 それによってシャドウは今一度吹き飛び、数十キロ先の山に衝突して停止。力を弱めたので宇宙にまでは吹き飛ばず、星を何周もする事無く動かなくなった。

 数十キロ先の光景は、少なくともライの目には見えない。しかし手応えはあったと確信し、最後にブラックの元へと向かい、到達した。


「魔族の三人衆、アンタで最後だブラック!」

「……!」


 ブラックは魔王の剣魔術を形成し、星ごとの一刀両断を試みる。しかしライは拳の余波でその剣魔術を消し飛ばし、ブラックの背後から側頭部へ蹴りを打ち付けて吹き飛ばした。

 シャドウとは逆方向の山に吹き飛び、その山を粉砕して停止する。またもや姿は見えぬが、ブラックも動かなくなり、意識は完全に奪えたようだ。


「これで三人は終了……さて、後は……」


 ダーク、シャドウ、ブラックの三人を打ち倒して意識を奪ったライは振り向き、


「……何十人と何十匹だよ、これ……」

「「「…………」」」

『『『…………』』』


 まだまだ残っている操られた主力たちに視線を向けた。

 気配はあったが姿は見えなかった主力たち。やはり様子をうかがっていたらしく、ブラックたち三人を倒したからこそ、その姿を現したのだろう。


「まだ他にも気配はあるな……一気に全員で掛かって来ない様子を見ると、俺の消耗が狙いか? 確かに今は回復してくれるフォンセとリヤンは居ないけど……少し考えが甘いかもな。……いや、操られているから何も考えていないか。全員が全員、本来の力の半分以下だ」


 一斉に仕掛けて来る様子は無い。その事からしてライが消耗するのを待つ為にも軍勢を分けて待機しているようだ。

 城の方ではヘルメスが相手をしてくれているが生物兵器の兵士達もまだまだ居る。弱体化しているのでまともにやり合っても大したダメージは負わないのだろうが、主力クラスがこの数。考える必要も無い程に中々面倒なものだろう。


「まあいいや。取り敢えず全員倒して目を覚まさせる。催眠如きに屈する存在じゃないしな。主力たちは……!」


 しかしやらない訳にはいかない。世界最後の砦、この街と主力たちを護る必要がある以上、それは決定事項である。

 アテナとヘラが城内を護り、ヘルメスが生物兵器の兵士達を減らす中、ライと操られた主力たち。即ちライと全世界との戦闘が開始された。

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