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九百四十二話 仲間の存在

「再生は終わったみたいだな。どうだった?」


「どうもこうもないよ! エマ達じゃなかったら捕縛の前に殺しちゃうくらい怒っていたんだからね!」


「……。そうなると今の気分はどうだ?」


「気分は最悪。だけど感情は比較的温厚。落ち着いてる。……かな?」


 再生を終え、少し機嫌が悪い様子のマギアはエマとフォンセに向けて悪態を吐きつつ構え直した。


「だけど、別に怒っていないって訳じゃないんだよねぇ。エマ、フォンセちゃん。覚悟は良い?」


「……! 何だこの気配……レイたちの方か!?」


「……! 本当だ。とてつもなく強い気配を感じる……しかし、神にも近い神聖な雰囲気も漂っているな」


「ちょっと!? 私は無視!? え、なに!? 私幽霊か透明人間にでもなっちゃったの!? ……あ、私人間じゃないや……」


 マギアの事は一先ずて置き、二人はレイたちの方から感じる強い気配に意識を向けた。

 様々な気配には似ているが、少なくともエマたちは感じた事の無い気配。慣れ親しんだマギアよりそちらに意志が向かうのは当然だろう。


「……もう! あれはシュヴァルツの気配! 何かシュヴァルツ神様になったんだって! ……あ、ヴァイスは全知全能になっちゃうしシュヴァルツは神様になっちゃうし、私だけ何も変わらない……」


「神? 成る程。だから神聖な雰囲気を感じるのか。しかし救いを与える側の神ではないようだな。死や破壊……常人達にとっての世間一般から見た悪い事を司る存在と考えるべきか」


「力を手に入れているのは私たちだけではないという事か。確かに私たちも日々成長しているが、それはヴァイス達からしても同じ。片方が何もしていない訳ではないのに成長しない訳が無いか。寧ろ私たちだけが成長していたらそれこそ違和感があるな」


 痺れを切らしたマギアの言葉を聞き、成る程と二人は納得する。

 肉体的な成長と精神的な成長。成長の方向性を問わずに突き詰めれば生き物は死ぬまで成長する事が出来る。シュヴァルツが何らかの形で神の力を手に入れているのはおかしな事ではなかった。

 エマとフォンセは互いに頷き、マギアに視線を向ける。


「マギア」

「え、なにっ?」

「悪いが私たちは向こうの様子を見てくる。今回の戦いは預けた」

「……。別に詫びる必要も無いだろうに。エマは律儀だな」


「え、あ、そう……」


 エマに名を呼ばれ、一瞬表情が緩んだマギアだが続くように言い放たれた言葉を聞いてガックリと、半ば本気で肩を落とす。

 おそらく全ての存在の中で一番のお気に入りであるエマ。マギアはそんなエマに構って欲しいようだ。

 フォンセは詫びを入れるエマに感心しつつ、二人はマギアの前から移動した。


「……って! 何で私は普通に見逃しちゃっているの!? 後を追えば良いだけじゃん!」


 無視され続けたからこそすんなりとエマたちを行かせてしまったマギアだが、改めて考えるとエマたちの用を優先する必要も無い事に気付く。

 なので二人の後を追い、シュヴァルツの元に向かう。

 エマ、フォンセとマギアの戦闘。それは継続するが、一時的に中断のような形でその場に進み行くのだった。



*****



「あ? 何か三つの気配がこっちに来んな。マギアとヴァンパイア達か」


「エマたちの気配……本当だ……」

「私たちより早くに気付くなんて……感覚も研ぎ澄まされているみたいだね……!」


 一方、力を解放したシュヴァルツはエマたちの気配を感じ取り、少し遅れてレイとリヤンもその気配を察知した。

 タイミングで言えばほぼ同じだが、シュヴァルツの方が気付くのが早かった。純粋な力のみならず、全ての感覚が満遍なく上昇しているようである。


「レイ、リヤン。無事か?」

「確かにシュヴァルツだな……」


「うん、まだ平気だよ」

「うん……」


 そして会話の途中、早くも二人が駆け着いた。

 距離で言えば数十キロ程度しか離れていなかった。なので物の数秒で到達したのだろう。その後、数秒遅れてマギアもこの場に到達した。


「やっほ。シュヴァルツ。ねえ、聞いてよ! エマとフォンセちゃんが酷いの! 私の事を邪険に扱うんだよ! 励まして!」


「……っ。マギア……自分の行いを省みて見ろよ……そりゃそうだってなるだろ。普通」


「えぇ~? そうかな?」


「まあ、自分じゃ気付かねェもんだよ。そのうち何とかなる。……かも知れねェって思っとけ」


 到達するや否や、シュヴァルツに愚痴を吐くマギア。シュヴァルツは楽しみを邪魔された事よりもマギア本人の性格を気に掛けており、肩を落として呆れていた。

 年齢で言えば数千歳のマギアの方が圧倒的に上だが、何となく子供っぽさがある。シュヴァルツはもはや保護者的な立ち位置となっていた。


「前はもう少し大人びていたんだがな……いや、グラオ、ゾフル、ハリーフ、ロキの損失はそれ程だったって事か」


「……っ」


 無論、マギアがこの様な性格になっている事には心当たりがある。

 グラオやゾフルなど、ほんの数週間前まではシュヴァルツと同等、もしくはそれ以上に好戦的な者達が仲間に居た。それもあってマギアは、所々子供っぽさを見せる事もあるが比較的精神的に大人だった。なのだが、もはや仲間はヴァイスとシュヴァルツのみ。二人程に付き合いの長いグラオも居なくなり、精神的に参っているのだろう。


「そんな事無いよ! ほら、だって私元気じゃん!」


「空元気ってやつだろ? まあ、その気持ちは俺も痛い程分かるからな」


「そんな事……!」


 マギアが子供っぽく振る舞っている理由は、内情を隠し通す為。

 自分で手を下した同族と違い、苦楽を共にした仲間。それを失った気は中々晴れないようだ。


「やれやれ。道理で変だと思ったよ。これで私に執着する理由が分かった。内面的な傷を私を愛でる事で癒やそうとでも考えているのだろう。言動にも所々殺意を感じるモノがあった。前までは簡単に殺すなどのような言葉は吐かなかったからな」


「……っ」


 実を言うと、付き合いの長さだけならヴァイス達よりもエマとの方が長い。故にエマもマギアの違和感には気付いていたようだ。

 共に過ごした訳ではないが、数千年の付き合い。たまにしか会わなかったとしてもそれ程の時の付き合いがあれば素性も含めて全て分かるのだろう。


「……。…………~~っ。もう! 五月蝿うるさい! うるさい! ウルサイ! 五月蝿い! 私だって分かってるよ! だからもう決めた……──レイちゃん! フォンセちゃん! リヤンちゃん! そして何よりエマ! 貴女達は全員、私の物にする!」


「「「…………!」」」

「……。ふふ、ようやく素直になったか」


 マギアの魔力が急激に上昇してレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人を飲み込んだ。

 三人はその力に気圧けおされるがただ一人、エマだけは不敵に笑って言葉を続けた。


「まあ、貴様の物になるのはお断りだ。やられる訳にはいかない」


「エマの気持ちは関係無いよ! 此処では私がルール! それに孤独なんて……慣れ切っているもん! "女王の怒りラース・オブ・ザ・クイーン"!」


「させるか! "魔王の炎(サタン・ファイア)"!」


 二つの炎が衝突を起こし、波打つように燃え広がる。

 その炎はこの世界を焼き尽くしながら更に広範囲へと広がり、爆発のように弾けて熱と衝撃を周囲に飛ばした。


「なんか興が冷め掛けたが……まあいい。取り敢えず、向こうは向こうで続けてるっぽいから此方も続きと行こうぜ?」


「あ、結局戦う相手は変わらないんだ」

「そうみたい……けど……今度は全方位に仕掛けてる……」


 破壊魔術を形成し、ぶつかり合う炎を粉砕してレイ、リヤン。そしてエマとフォンセにも放つ。

 仲間であるマギアを除いた無作為な攻撃。マギアの精神状態を案じたからこそ全員に纏めて仕掛けたのか、ただ単に全員を纏めて相手にしたかったから仕掛けたのかは不明。しかし凄まじい破壊力を秘めている事だけは確かだった。

 その証拠にシュヴァルツを中心として巨大な破壊痕が広がり、そのまま世界が空間諸とも砕けて崩壊する。


「だけど、止められない力じゃない!」

「……!」


 広範囲に広がった破壊の余波。それをレイは勇者の剣の一振りで切り裂き、崩壊を切り裂いて自分とエマ、フォンセ、リヤンの四人を護り、炎と破壊。斬撃の余波によってレイたち四人とマシュヴァルツとマギアの二人は弾き飛ばされ、自分の仲間たちと共に自分たちの敵へ視線を向ける。


「成る程。凄まじい破壊力だな。破壊その物を生み出している魔術だから当然だが、純粋な力ならマギアを凌駕している」

「順当に考えて純粋な力だけでもまさっていたら、それだけでマギア以上の実力を有しているって事になるがな」

「うん……何とか防げたけど、かなりマズイかも……」

「防げただけで十分だと思うよ……レイ……」


 シュヴァルツの力は凄まじい。以前からかなりの実力を有していたが、それを遥かに凌駕する程の力に到達していた。

 数的には有利なレイたちだが、今の一撃で体感するに今のシュヴァルツは支配者並み。ただ匹敵するだけではなく、本当に支配者と同じような、もしくはそれを超える力を有しているのはほぼ確実だろう。


「少し感情的になり過ぎだ。マギア。確かに気持ちは分かるが、本気でやれば最悪殺しちまう可能性もあるだろ」


「問題無いよ。もしそうなっても私の力なら蘇らせる事も出来る……全世界の選別が終わったら地獄にも乗り込んでゾフルやハリーフ。後は何処かの異空間に居るグラオ。それと検討は付かないけどロキも探し出して、それでみんな生き返らせて……! 私の幸せな時間を永遠にする! 永遠の幸福を得て全知全能になる!」


 マギアの様子を案じたシュヴァルツだが、もはや言葉は届いていなかった。

 全知全能の夢は諦めておらず、シュヴァルツの事もしかと認知している。しかし他にも様々な目的。というよりも願望が表れており、最後まで話を聞かずに飛び出した。


「私は一人じゃない! みんな……私の物! "女王の雨(クイーン・レイン)"!!」


 飛び出すと同時に魔力を込め、その魔力の塊を雨のように降り注がせる。

 一つ一つが世界を揺るがす威力を誇る雨。その全ては無差別に放たれ、一つが着地するたびに惑星程の範囲が消し飛んだ。


「間髪入れず仕掛けて来たか。だが、狙いが滅茶苦茶……場所が分かっていない筈も無いと考えれば……暴走しているな……」


「マギアは案外、昔から打たれ弱いんだ。自分で同族を殺しておいて泣きじゃくっていたからな。まあ、その後何事も無いように殺して当たり前と言う考えに至ったようだがな。元より同族があまり好きでない事を殺して始めて気付いたのだろう。……だからこそ、おそらく、失った仲間たちの事が大きく関連しているんだろうな。元々あまり好きではない同族を失ったのに比べて、心の底から好きと言える仲間(存在)を失ったのは辛いのだろう。それ故の暴走と考えるのが妥当だろうな」


「……。エマとマギアって……過去に何かあったの? かなり親しげだけど……。マギアの好意もエマにだけはかなり強い気がするし……」


「まあ、色々とな。数千年あれば語り尽くすのに何年も掛かるような体験はよくあるんだ」


 エマとマギアの関連性。それを気に掛けるレイだったが、その様な事を話しているうちに魔力の雨が降り注ぎ、レイたちの元にもその余波が到達して広範囲を消し飛ばした。


「まあ、今は話している暇は無い。早いところマギア達を止めなくてはな」


「どうやらそうみたいだね。この範囲にあの攻撃は結構大変」


 雨の余波によってレイたちの居る場所以外の全てが消し飛んだ。

 自分たちが防いだ事で一ヶ所だけ残った大地に立つレイたちは次の攻撃に備え、その場から飛び退いて距離を詰めた。


「マギア!」

「……! エマ!」


 一足早く到達したのはエマ。蝙蝠コウモリのような翼で飛行しながら進み、その名を呼ぶと同時に殴り飛ばして大地へ叩き付けた。

 そこに圧縮した風を放ち、マギアの落ちた大地がぜて吹き飛ぶ。


「……ハハ……アハハ! 来てくれたんだね! さあ、私と一緒になろう!」


「断る。ふむ、先程も断った筈なんだがな」

「断っても良いよ。無理矢理私の物にする予定だから!」


 ぜた大地から無傷で姿を現し、高笑いしながらマギアはエマに構える。

 破壊の雨はマギアを止める事でんだ。しかしマギアの戦意は高まり続ける。


「やれやれ。まだ生き残っている俺たちの中じゃ最年長のマギアがああなったら困るな」


「貴方も倒すよ。当然ね! この戦いを終わらせる!」


「ハッ、良いぜ。力を解放したが、まだまだ使い足りねェからな! もっと力を使わせろ!」


 エマとマギアが向き合い、レイとシュヴァルツが向き合う。フォンセとリヤンも各々(おのおの)で敵を定めており、全員が臨戦態勢に入る。

 レイたちとシュヴァルツ、マギアが織り成す戦闘。それはより熾烈を極めるのだった。

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