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九百三十八話 最後の主力

「……。どうやら、既に私たちが来る事は知っていたみたいだね。やっぱり全知全能の主神。かなり厄介だ」


「へえ? よく分かんな。それが全知全能の力って訳か。ハッ、良いもんゲットしたんじゃねェか」


「私よりも先に全知全能になるなんて。妬けるなぁ。けどまあ、良いかな。まだ完全じゃないから他人を全知全能にしたりは出来なさそうだけど、私は自分の力で全知全能になるからね。ヴァイスと違って完全な……ね♪」


「フフ、それは良いね。確かに今の私の全知全能では他人に分け与えられる力やその他の力も限られている。なれると良いね。マギア」


 支配者の街、全世界最後の砦"パーン・テオス"。

 そこにやって来たヴァイス、シュヴァルツ、マギアの三人は防護壁を粉砕して生物兵器の兵士達を流し込み、高台からその光景を眺めていた。

 ライとゼウスの攻撃。それを受け止めた事によって瀕死の重症だったゼウスの力を取り入れたヴァイスはまだ完全な全知全能ではないらしい。しかし本人は然程さほど気にしておらず、構わず街に攻め入る準備をしていた。


「さて、取り敢えず私たちも行こうか。これが本当に本当の最終決戦。準備は出来ているね」


「疑問系じゃなくて確証して言ってんな。ハッ、当然……! 全ての主力は俺たちの手中……残るライたちが一番の最高難易度だが、やってやるよ……!」


「一番の最高難易度って……最高だから一番なのに貴方の一番はいくつあるの……」


「ハッハッハ! 俺が認めた奴は全員が一番だからな! 強さに順列はねェ!」


「あ、そう」


 シュヴァルツの言葉を指摘するが、その主張を聞いて身を引くマギア。

 取り敢えずシュヴァルツが唯我独尊なのは分かり切っている事。なので何を言っても変わらないだろうと半ば呆れながら諦めた。

 そんなやり取りをしつつヴァイス達も"パーン・テオス"に侵入する。と言っても身を隠さず堂々と正面から。街を破壊しながら直進した。


「やれやれ。あのバリケード、結局無意味に終わるのか。強化してやったというのにもう破られるとは先が思いやられるな」


「しかしまあ、それがあったから場所を特定出来たのは儲けものだ。気配を辿れば見つけられるが、集中する時間が勿体無い。さっさと見つけられたのだから良しとしよう」


「ああ。お陰で此処で被害を食い止められそうだからな。それは良い事だ」


「うん、そうだね。生物兵器の兵士達はゼウスさんたちが何とかしてくれるだろうし、私たちがヴァイス達を相手にすれば良いのはまだマシだね……!」


「うん……」


 そして直進する三人を囲うよう、建物の上や影からライたち五人が集う。

 堂々と正面から攻めて来たという事は何らかの力はあるという事。元より正面から来る事は多かったが、警戒するに越した事は無いだろう。

 建物の影などヴァイス達にとっては大した影響も無いのだろうが、念の為にそこから様子をうかがっているのだ。


「既に気付かれている可能性は高いかもしれないな。気配は消してるけど、それくらいで誤魔化せる訳でもなさそうだし気付かれていたら気付かれていたで準備はしておくか」


「まあ、する準備ももうほぼ無いのだがな。後を付けながら出方を窺うくらいだ」


「と言うか、私たちの会話が私たちに届いている時点で奴等に聞こえていてもおかしくないのだがな……」


「うん……。一応破壊音とかで五月蝿いけど……あまり関係無さそう……」


 ライたちは会話をする事が出来ている。ヴァイス達より五人の距離が近いとは言え、建物の上や影に隠れている状態で会話が届くのは少し問題かもしれない。

 五人の距離は精々十メートル程。ヴァイス達は数百メートルは離れているが、果たして気付いて放置しているのか、はたまた気付いていないのかそれを知る者はヴァイス達本人か全知。もしくは特定の能力を持つ者だけだろう。

 何はともあれ、ライたち自身はそれがどうかは分からない状況である。


「まあ、気付いているにしても気付いていないにしても、向こうも何らかの行動は起こすか。取り敢えず後を付ける……いや、もう仕掛けるか」


「「うん……!」」

「「ああ……!」」


 悠長に待っては入られない。今現在、この瞬間にも"パーン・テオス"の街が大きな被害を受けているのだから当然だ。

 住民達が逃げたのか捕まってしまったのかは不明。しかし残っている住民の事を考えても早いところヴァイス達を何処か別の場所に移動させた方が良いだろう。

 おそらくヴァイス達の目的は住民などではない。全ての主力を捕らえる事を優先にしていると考えれば、まだ暫くの間はヴァイス達は民間人に手を出さないだろう。

 生物兵器の兵士達がどうなのかは分からないが、他の主力も既に行動に移っている。なので大きな心配は必要が無さそうである。


「じゃ……早速仕掛けるか……!」


 その瞬間、ライは踏み込み第三宇宙速度に加速してヴァイス達を狙った。

 今のライやヴァイス達にとっては遅過ぎる速度だが、基本的に今までヴァイス達と戦う時は第二宇宙速度~第四宇宙速度で初撃を繰り出していた。なので今回もその速度で仕掛けたに過ぎないのである。


「オラァ!」

「……ハッ、いきなり仕掛けて来るか! 上等だ!」

「やっぱり気付いていたのかよ!」


 ライの放った拳に対し、シュヴァルツが拳で迎え撃つ。

 その二つは正面衝突を引き起こして大地を粉砕し、巨大なクレーターを形成して周りの建物が崩壊した。


「肉体的な力もかなり向上しているみたいだな。俺はまだ本気には程遠いけど、渡り合っている。……いや、本気に程遠いのはお互い様か」


「そうだな。今の俺達ゃ、空中に浮かぶ泡を割らないように触るくらいの感覚だからな」


 互いに全く力は入れていない。しかしこの一撃で街が半壊。それ程までに今のライやシュヴァルツにとって世界は脆く儚いようだ。

 だが、そんな世界はどうでもいい。少なくともシュヴァルツはそう思っている事だろう。その証拠に既に周りを覆い尽くすよう破壊魔術を展開していた。


「さて、全て砕けろ! "破壊ブレイク"!」


「ああ。確かに全て砕けたな」

「……!」


 放たれた破壊魔術は街を崩壊させるよりも前にライによって打ち砕かれた。

 砕くと同時に踏み出し、シュヴァルツの頬を打ち抜く。それによって吹き飛び、建物を複数戸粉砕して粉塵を舞い上げた。


「私たちも仕掛けるよ!」

「当然だ!」

「無論……!」

「うん……!」


「あ! エマ! 久し振り!」


 シュヴァルツを殴り飛ばした瞬間にレイたちも攻め入り、そんなレイたちを前に主にエマに着目しているマギアが行動に移った。


「取り敢えず、少し話そうよ! "女王の壁(クイーン・ウォール)"!」


「「……!」」

「……!」

「やあ!」


 即座に放った防御の壁魔術。それによってエマ、フォンセ、リヤンの三人が弾かれ、レイが勇者の剣をもちいて切り裂く。それと同時に踏み込み、マギアの身体を貫いた。


「……ッ! いったーい! 不死身が無効化されるんだっけ……!」


 咄嗟にかわして急所は避けたマギアだが脇腹に深々とその剣が突き刺さり、鮮血を流してマギアの顔が苦悶に歪む。

 マギアは飛び退くように距離を置いて脇腹を抑え、改めてレイたちに向き合った。


「凄く痛かったけど……レイちゃんなら許してあげる! エマたちも居るからね! だけど、お返しはするよ! "女王の吐息(クイーン・ブレス)"!」


 許すとだけ告げて魔力を込め、それを一気に放出する。それによってレイたちは吹き飛ばされ、ライに吹き飛ばされたシュヴァルツも戻って来た。


「ハッ、相変わらず強いみたいで安心したぜ……! そうでなくちゃり応えがねェからな!」


「もう戻ってきたか。まあ、軽く吹き飛ばしただけだし当然かな」


 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人とヴァイス、シュヴァルツ、マギアの三人が互いを見やって様子を窺う。緊張感によって誰も言葉を発さなくなった時、今まで一連のやり取りを見ていたヴァイスが口を開いた。


「フム、早くも目的の存在に会えるなンてね。私たちも運が良いみたいだ。だけど、数的には私たちが不利だね。一先ず君達とはシュヴァルツ、マギア。──そして彼らに相手をして貰おうか」


「……!」


 その刹那、岩石のような物がライ目掛けて直進し、それと同時に炎。そして鞭のような腕が伸びてきた。

 それを見たライは確信し、それらを全て防いで言葉を続ける。


「成る程な。アンタ、全世界の支配者を操ったのか」


「『『…………』』」


「ああ、そうだね。彼らはとても強い。本来なら手厚くもてなす予定だったンだけど、今回は……そうだね。君達と残りの支配者ゼウスを手中に収めるまでは兵士として戦って貰おうかな……なンて考えたンだ」


 ──その者たち、魔族の国の支配者、破壊神にして創造神である、"魔神マジン"を謳われる支配者、シヴァ。

 幻獣達の王であり、全ての幻獣を統べる存在。幻獣の国の支配者、"神獣シンジュウ"のドラゴン。

 魔物の王を謳われ、全ての魔物を支配する強大な存在。魔物の国の支配者、"神魔物カンマブツ"のテュポーン。

 そう、言わずもがな、この世界の全てを治めている四つのうちの三人。支配者たちがライたちの相手をするらしい。


「よく操れたな。他の主力も操っているのかもしれないけど、支配者なんて存在はかなり大変そうだけどな……!」


 それは当然の疑問。催眠などは、主に本人の意思が関係している。そう思い込む事で操られてしまうのだ。

 支配者たちの精神力はその程度の筈が無い。なので操れている事実に困惑する。

 それに対してヴァイスは笑って──そう、笑う"フリ"ではなく、笑って言葉を返した。


「フフ……そうだね。前までの私たちなら精々操れて……純粋な力で上回っていたドラゴンくらい。私一人では幹部くらいしか操れなかった。けど……今の"全知全能の私(・・・・・・)"ならそれも可能さ」


「……。なんだって?」


 思わず言葉を聞き返す。

 しかし、聞こえなかった訳ではない。寧ろハッキリと聞こえ、その言葉がライの耳に、脳裏に残り続ける。

 ──"全知全能"。

 それはゼウスの持つ、文字通り全てを思い通りに出来る力。

 そんな訳無いと思いたいが、確かにゼウスから攻撃を受ければそれを学習して全知全能になれるかもしれない。だが、ヴァイスはまだゼウスと接触していないのをライは知っている。故に聞き返してしまう程の疑問だった。

 それを聞いたヴァイスはクスッと小さく笑い、更に言葉を続けて説明した。


「君の考えている事も分かるよ。ライ。便利なものだね、全知全能は。……本来、君に不都合なら"テレパシー"すら無効化されてしまうけど、全知全能なら考えている事も手に取るように分かるンだから。説明するなら、私が戦っていたテュポーンとの戦闘直後に何処からか全身負傷したゼウスが流れて来てね。それを拝借したンだ」


「全身負傷のゼウス……成る程な。あの時か」


 ライには心当たりがあった。

 ライと戦っていた方のゼウスは、自分たちのぶつかり合いで絶対無限にも及びそれすらをも超越する全ての世界と次元が崩壊するのを避ける為にもう一人の自分を生み出した。それによってそのゼウスがヴァイスが居たという世界と次元に流され、それをヴァイスが取り込んだのだろう。

 滅茶苦茶な理論にも思えるが、ライとゼウスは全ての次元に干渉した攻撃を放った。そんな絶対無限すら越える次元の中から一つに到達するなど限りなくゼロに近い確率が、それが偶々(たまたま)ヴァイスの元に届いたのだろう。

 言ってしまえば、もう一人のゼウスが別の次元に到達していたとして、それが何処であっても確率はヴァイスの元に到達するのと同じ。その中から"ヴァイスの居ない時空に到達する確率"と"ヴァイスの居る時空に到達する確率"なら後者の方が確率が低くなるが、今回は偶然ヴァイスがそのうちの一つに選ばれて今に至るという事だろう。


「理解が早くて助かるよ。お陰で私は全知全能の力を手に入れた。まあ、まだまだ調整が必要だけどね。本体が負傷していたからか、完全な全知全能とはまた少し違うようだ。疑似全能程少ないという訳じゃないけど、完全な全知全能と違って出来ない事もある。例えば矛盾の遂行とかね」


「へえ……まあ、それなら大丈夫そうかもしれないな。俺の考えている事が分かった事からして魔王や俺の無効化も一部は逆に無効化されるみたいだけど、全てじゃないって事だ」


「ああ。そうだね。その点に関しての不利を何とか経験や他の者達の力を使って埋めるとしようかな」


 ライとヴァイスが向き直り、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とシュヴァルツ、マギアの二人。そしてシヴァ、ドラゴン、テュポーンの一人と二匹も向き直る。

 ゼウスに比べたらまだまだ発展途上の全知全能。それなら対抗手段もあるだろう。

 ライたちとヴァイス達。二つの侵略者、世界最後の主力たちが行う戦い。──その、最後の戦闘が始まった。

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