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九百三十三話 決着の後

 ──"人間の国・支配者の街・パーン・テオス"。


「な……なんだ……この有り様は……!?」

「向こうにもヘラ様たちの意識を失った姿があったが……」

「まさか……ゼウス様までやられたのか!?」


 戦闘によって生じた衝撃で絶対無限からなる空間も崩壊し、支配者の街には城が戻って元の世界には元の景観が形成された。

 しかし、その傷は深い。ライたちはゼウスを含めて気を失っており、負傷した姿で転がっている。その光景は"パーン・テオス"の兵士達に戦慄を与えるのに十分過ぎるものだった。


「世界……いや、宇宙最強の支配者様が……そんなバカな……!」

「全知全能のゼウス様が不意を突かれて遅れを取る訳も無い……そうなると、正々堂々、正面から打ち破ったというのか……この侵略者達は!?」

「あ、有り得ない! あってはならない! そんな事!」


 絶対的な支配者であるゼウスが倒れ伏せている様子は兵士達にとって信じ難き事柄。故にしばし呆然としており、数秒後にハッとして武器を構えた。


「いや、しかし侵略者達も意識は失っている……想像を絶する死闘があり、その際に相討ちとなったと考えるのが妥当か……」

「それも十分有り得ない事だが……目の前の光景が真実……どうする……?」

「侵略者達は既に虫の息。主力様方の代わりに我らが仕留めれば利点は多い……!」

「ならばやるか……!」

「ああ……!」


 兵士の役目は国を護る事。この街だけではなく、国その物を護る為に日々精進している。

 中には自分さえ良ければ良いという考えの兵士も居るが、少なくともこの街の兵士達は違うようだ。

 武器を構えた瞬間に駆け出し、地響きを鳴らしながらライたちの元に迫った。そしてそんな兵士達に向け、一つの声が掛かる。


「やれやれ。虫の息と理解していながら何故にそこまで警戒する。まあ当然か。しかしそれのお陰でライたちに危害を加えられる事は無さそうだ」


「何奴!?」

「そこに立っているのは誰だ!?」

「姿を現せ!」


 唐突に掛かった声。兵士達は背中合わせの陣形を取り、警戒を高めて周りを見渡す。

 その光景を見ていた者は宝石のように紅き眼を光らせ、美麗な金髪を揺らして白亜の柱から着地した。


「再生に少々手間取った。だが、貴様らが何秒が止まっていたお陰である程度は戦えるようになったみたいだ」


「「「……!」」」

「「「……!」」」


 ──その者、ヴァンパイアのエマ・ルージュ。

 エマはライたちを背に着地し、兵士達へ小首を傾げて話す。兵士達は警戒を解かずにエマから視線を離さず、


「さて、残る兵士は何人だ?」

「「「…………」」」

「「「…………」」」


 全員がその場に倒れた。

 後から増援に来た兵士達はそれを見て今一度戦慄(わなな)く。

 しかし引き下がる訳にもいかない。兵士達は雄叫びを上げてエマに向かい──全滅した。


「もう戦いは終わったというのに。休まる暇がないな。……まあ、此処は敵地……当然と言えば当然か。……さて、ライたちはいつ目覚めてくれるのか……早く起きてくれよ。ライ、レイ、フォンセ、リヤン……目覚めたら今一度、今までのように挨拶を交わそう」


 全滅させたが、殺した訳ではない。意識無く周りに転がる兵士達を見やり、ライたちに視線を向けて陰鬱そうにため息を吐く。

 人間の国、支配者の街。"パーン・テオス"。そこに戻ってきたライたちは、不死身の肉体を持ち生きている限り再生し続けるエマ以外意識を失ったまま時が過ぎ行くのだった。



*****



 ──"魔族の国・支配者の街・ラマーディ・アルド"。


「……ぅ……ん……。……! えーと……此処は……?」


 ライたちがこの世界に戻ってきた頃、同じくシュヴァルツとマギア。そしてドラゴン、孫悟空、ハデスにポセイドン。……そして、支配者であるシヴァも元の世界に戻ってきていてた。

 最初に目覚めたのはエマと同じような体質をしているマギア。しかし傷は完全には癒えておらず、ズキズキと懐かしい感覚の痛みが続いていた。


「……ッ。あちゃ~……ちょっとこれはマズイかな……私の身体に癒えない傷を与えるなんてね……流石は支配者ってとこかな……。激し過ぎて全身痛いし……出来ればもう二度とやりたくない……」


 傷は受けたが、特に憤っている様子も無いマギア。

 本来なら負けていた可能性もある戦いで、次やるとしたら勝てるかどうかも分からないもの。マギアとしても変に苛立ち余計な事をして折角意識の失っているシヴァを起こしたくはないようだ。


「シュヴァルツ~。起きてぇ~。駄目かな……回復させようにも魔力は尽きているし……もう……これじゃ不死身の性質を持っているだけのただの常人と同じだよ……」


 受けたダメージは肉体的な傷以外にも多大なものがある。

 そのうちの一つが今現在、回復する、させる為の魔力も移動する為の魔力も残っていない。ほぼ無尽蔵の力ではあったが、半永久止まりではいつかは尽きる。それが今のようである。


「どうしようかな……兵士や主力達は意識を失っている筈だから来ないだろうけど……力が使えない今の私だと、目覚める可能性が主力よりはある兵士達相手ですら手間取りそう……」


 一先ず決着は付いた。その点に関しては申し分無いが、それとは別に体力的に様々な問題が生じている。

 純粋な傷もそうだが、少し力が強いだけの常人とほぼ変わらない今のマギアは兵士達に囲まれたら苦戦する可能性があるからだ。

 不死身ではあるのでダメージは問題無い。問題は一掃する事が出来ないからこそ時間が掛かるという事だ。

 確かにマギアは魔術が本領だが、肉弾戦が行えない訳ではない。肉弾戦でも幹部の側近クラスはあるだろう。

 しかしそれくらいの力があったとしても、次々と迫り来る敵を打ち倒すには今の状態では少し面倒。なのでそうならない事を望んでシュヴァルツの目覚めを待つ。


「兎に角、早いところシュヴァルツが起きるのを待ってヴァイスやグラオと合流しなくちゃね。支配者が最初に目覚めないように願っておこう……あ、あとドラゴン達が正気に戻っていないのも願っておかなくちゃ」


 兵士が来ない事。シヴァが目覚めない事。ドラゴン、孫悟空、ハデス、ポセイドンが正気に戻っていない事。望む事は多数ある。だが、今出来るのはシヴァの部屋で待機する事だけだ。

 魔族の国、支配者の街。"ラマーディ・アルド"。マギアは一人、仲間の目覚めを待つのだった。



*****



 ──"暗闇の空間"。


「……さて、此処は何処だろうか……私は……フム……テュポーンの姿は……」


 テュポーンとの衝突の直後、暗闇の中で意識が戻ったヴァイスは朦朧とした思考でボーッと考えていた。

 そこにテュポーンの姿は無く、此処を例えるなら次元の狭間。少なくとも元の世界でない事は確かだ。

 おそらく、衝突の衝撃で一時的に別空間へと送り出されたと考えるのが妥当だろう。

 そんな中、ヴァイスは自分の居る暗闇にて一つの人影を目視する。


「……」

「……。……あれは……そうだ……人間の国の支配者……何故こンなところに……?」


 そこに浮かんでいたのは、姿を目の当たりにした訳ではないが絵でだけなら見覚えのある存在、人間の国の支配者ゼウスであった。

 何故此処に居るのかは分からない。だが、肉体的な損傷から激しい戦闘があったという事は理解出来た。


「……。丁度良い……彼の力……直接頂くとしようか……」


 意識は朦朧としており、よく見れば半身が消し飛んでいる。なのでヴァイスはそれも補う為に、そこに浮かんでいたゼウスに手を伸ばした。



*****



 ──"魔物の国・支配者の街・メラース・ゲー"。


「……! ……。どうやら、元居た場所に戻って来たようだね。フム……一つだけ分かるとすれば……"アレ"は夢じゃなかったって事か……。そうなると……結果的にゼウスの力も手に入れたのかな?」


 元の世界に戻ってきたヴァイスは目の前に倒れるテュポーンと立ち竦む自分の身体を見やり、あの暗闇の出来事が夢ではなく現実だったと理解する。

 そしてそれと同時に──この世の全ての情報がヴァイスの脳内に伝わった。


「……ッ! これは……全知の力……そしてみなぎる全能の力……元々アレは損傷していたから完全な全能ではないようだけど……私に宿ったみたいだ……全知全能が……」


 ヴァイスに宿った力──全知全能。

 それはゼウスの有する力に類似しており、まだ詳しく分からぬのでヴァイスは自分の脳を探って情報を集める。


「成る程ね。アレは本物のゼウスじゃなかったらしい。ゼウスが生み出した自分の分身か。フムフム……ライ達との戦いでそうなったと……。完全な全知全能ではないようだけど、取り込ンだ力の少なさから一部の能力が制限されているだけか。基本的には同じ……本来は軽い攻撃を受けるだけで力が身に付くのに直接取り込ンで身に付かないのはおかしい。けど、その理由はそれ程までに全知全能の力が強大だからか……それはそうである。と、都合の良い解釈で納得するしかないようだね。あのタイミングで都合良くゼウスが流れてきたのは魔王の自分に都合の良い事柄が起きる力の所為かな。確かに魔王の子孫から魔王本人ではないにせよ魔王の力は手に入れた……。たまに作用するンだね。確かに今までも私たちにとって都合の良い事が何度か起こった気がするよ」


 ある程度の情報は纏まった。

 まず先程見たゼウスは別の世界に居たゼウスであり、ライとゼウスの衝突による世界の崩壊を食い止めた存在で、それによっての負傷だったという事。

 そしてヴァイス自身に完全無欠の力ではないが全知全能が宿ったという事。魔王の力が作用して全て都合の良い今の状態が生み出された事。

 その他にも様々な情報が入ってきたが、最重要の情報を幾つか得られただけでもヴァイスにとっては上々だろう。


「そして……フム、テュポーンには勝てたようだね。けど、まだ身体は治り切っていないかな。流石の支配者……一筋縄じゃいかなかった」


 そして、改めてテュポーンの様子を確認。

 テュポーンとヴァイス。先程の時点では二人とも互角だった。

 ──そう、テュポーンの力を取り入れ、ライやダーク。ハデスに支配者であるシヴァ、ドラゴンの力をもちいても互角でしかなかった。

 テュポーンの本気。それは先代のゼウスに勝利した事があるだけあってかなりのものだろう。やはり力以外にも、本人のセンスなどが関わっているのだろうと理解出来る実力だった。


「……。フム……こンな事になっているとはね。全知というものは本当に様々な情報が入ってくるみたいだ。……けどグラオ。君の判断がそれなら、私は否定しないさ。シュヴァルツとマギアは無事じゃないにせよ勝てたみたいだ。それは良かった」


 ふと目を細め、ヴァイスはテュポーンから視線を逸らして城の吹き抜けから外を眺める。そしてたった今得た情報から物思いにふける。

 全知の力というものは文字通り全てを知る力。故に全世界での結果が分かった。分かってしまった。

 それによって得られた情報は、グラオの自分で選択した消失。

 それが本物のグラオの意思という事も理解し、数秒間(まぶた)を閉じる。そしてゆっくりと開け、テュポーンの身体と魔物の国の主力たちの身体を浮き上がらせて何処かへ"テレポート"させた。


「……。さて、と。残る選別対象は君達だね。ライ。レイ。エマ。フォンセ。リヤン。世界の征服者にして、私を倒す救世主になりうる存在……。まあ、世間一般が勝手に私を悪呼ばわりしているだけだけど」


 魔物の国での戦闘は終わる。ヴァイスはたった今全世界の全てを知ったが、それでも目的は変わらない。全知全能の力を得たとしてもそれに対抗する存在はまだ居るからだ。

 そして全世界を知ったからこそ、どちらに転んでも世間一般が自分を否定し続ける事を知った。だが、今更どうという事は無いだろう。

 少なくとも、世間一般ではなく、自分の知る六人は自分を否定せずに付いてきてくれたのだから。


「フフ……これが全能の力かな。久し振りに感傷に浸った気がするよ……。生物兵器の完成品から全生物の完成品になる日も近い……」


 ヴァイスが何を見て何を知ったのか、それは誰にも分からない。全知を除いて。

 しかし今、ヴァイスには感情が再び戻りつつあるようだ。完全ではない全知全能だからこその効力かどうかは不明だが、それは一先ずさておき、ヴァイスは変わらず行動を起こす。

 侵略者と全世界の戦争。全世界の支配者は侵略者を前に打ち倒されたが、まだ目的は残っている。

 ライたちとシュヴァルツ達が元の世界に戻り、ヴァイスも回帰した。そしてそのヴァイスが全知全能を得た現在。


 ──このセカイに、終止符が打たれようとしていた。


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