九百三十話 シュヴァルツ、マギアvs魔族の国の支配者
──"魔族の国・ラマーディ・アルド・城内"。
「何やら随分と好き勝手やってくれたみてェじゃねェか。あ? 侵略者共よォ……!」
「ハッ、たり前ェだろ。支配者さんよォ。ああ?」
「……。何かチンピラの言い争いみたいだね」
ライとヴァイスが支配者と戦闘を織り成す中、シュヴァルツとマギアはシヴァの元に到達していた。
そんな二人はドラゴン、孫悟空、ハデス、ポセイドンを従えてシヴァの前に立っており、シヴァとシュヴァルツが睨み合っていた。
「ま、取り敢えず……此処じゃ戦いにくい。テメェらが連れる主力諸とも送ってやるよ……俺の世界にな?」
──その刹那、シヴァは別の世界を創造。シュヴァルツ達をその世界へと送り出し、シヴァ、シュヴァルツ、マギア、ドラゴン、孫悟空、ハデス、ポセイドンが向き合う形となった。
そこは夜の世界。太陽の代わりに明るい満月が大地を照らし、月の明かりにも負けぬ星達が瞬く。
夜と言ってもおそらく反対側に移動しても太陽は昇っていないだろう。シヴァは永遠の夜が続く世界へと連れたのだから。
「んでもって……さっさと仕掛けるか。部下たちがやられて結構本気でイラついているからな。悪ィがテメェら……最悪死ぬと考えておけ」
「……! ハッ、本当にいきなりだな……オイ……!」
シュタラ、ズハル、ウラヌス、オターレドがやられた事や他の魔族たちが被害に遭っている事は既に知っている。
故にシヴァも流石に限界が近く、先程のシュヴァルツとの言い争いも感情的なものからなる事だった。
だからこそシヴァは既に準備を終え、シュヴァルツは空を見上げて冷や汗を流した。
「星……いや、そんな生易しいモノじゃねェな……"空"が落ちてくる……!」
──シヴァが形成したそれは、空。
空と言っても惑星に顕在する空ではなく、宇宙である。
しかしただの宇宙ではスカスカ。先ずこの人数に当たる可能性は限りなく低いだろう。無数に見える小惑星群ですらその間は数千から数十万キロ程はあるのだから当然だ。
シヴァが放ったのは宇宙を圧縮した塊である。無数の惑星恒星に小さな星の欠片。加えてダークマターなどの物質やブラックホールなど様々。宇宙程の広さなのでその全てを圧縮してもかなり広大であるが、圧縮された分質量や威力はかなりのもの。元の世界で放っていたら先ずその宇宙が崩壊する程の破壊力を秘めていた。
「早速この規模の攻撃……ハッ、砕いてやるよ! "神の破壊"!!」
「そうだね! "女王の槍"!」
『『…………』』
「「…………」」
それに対してシュヴァルツは神の力を掛け合わせた破壊術を放ち、マギアがリッチの魔力からなる槍を形成して穿った。
二人の一方でドラゴン、孫悟空、ハデス、ポセイドンも自身の力や何らかの仙術。バイデントにトライデントを用いて宇宙の塊に放つ。その瞬間、それらによって全てではないが自分達に降り注ぐ部分のみは崩壊させた。
「何も全部壊す必要は無いもんね。大きな塊なんだし」
「ああ。まあ、俺は全部壊すつもりだったんだけどな」
「じゃあ俺がテメェらを砕いてやろう」
「「……!」」
宇宙の塊を崩壊させて一息吐く二人に向け、迫っていたシヴァがシュヴァルツとマギアの身体を殴り抜き、それと同時に破壊を創造してその肉体を砕いた。
身体が砕かれた事で二人は吐血し、そのまま大きな距離を吹き飛ぶ。そこに追撃しようと力を込めたシヴァにドラゴン、孫悟空、ハデス、ポセイドンが阻止すべく動き出したが三人と一匹を瞬時に吹き飛ばし、そのまま吹き飛ぶシュヴァルツの上に立ち拳を打ち付けた。
「オラァ!」
「……ッガハッ……!?」
拳によって吹き飛ぶシュヴァルツは停止し、そのまま背部から落下。同時に無限空間の大地を打ち砕き、そこから銀河系程の範囲が消滅した。
「……ッ! 本当に……いきなりだな! "破壊"!」
「まだ生きていたか。成る程。テメェも少しは力を付けたみたいだな。確か、さっき神に近い力も使っていやがった」
広範囲を消滅させる程の破壊力を秘めた拳。それを受けたシュヴァルツは重傷ではあるが生きており、破壊魔術を用いてシヴァとの距離を離れる。そんなシュヴァルツに追撃しようとしたシヴァだが、背後から掛かった声に止められた。
「"女王の炎槍"!」
「チッ、次はテメェか。リッチ……!」
「その名前で呼ばないで! ……けど、まさかこんなにあっさり掻き消されるなんてね。やっぱり全盛期の支配者はかなりの強敵……」
止められはしたが、ダメージは負っていない。マギアによって放たれたリッチの魔力からなる炎の槍は掌を軽く薙ぐだけで消し去り、面倒臭そうにマギアに視線を向けた。
マギアはリッチと呼ばれた事に反応は示したが即座に冷静に分析。結果、全盛期の支配者は次元の違う存在であると当たり前の事が分かった。
シヴァはシヴァで、月に照らされながらシュヴァルツとマギアの様子を見て独り言のように呟く。
「人間の国の"ヒノモト"じゃ二つの獲物を追うと両方得られないっ言ー言葉があるが……それは関係ねェな。どうせ一vs二。プラス、操られているっぽいドラゴン殿ら。……ハッ、獲物は向こうから来るんだ。追うんじゃなくて確実に来るのを待つ立場ならどっちも得られんだろ」
呟き終わると同時に破壊と創造の力を纏い、それらを前後のシュヴァルツ、マギアに放つ。
マギアには確実に仕留める為破壊の力を。シュヴァルツには破壊魔術で防がれても大丈夫なように盾を兼ねた創造からなる超巨大物質。二つの技は真っ直ぐに進み、マギアとシュヴァルツは力を込めて迎え撃つ。
「破壊のエネルギーかな。もはや概念だね。"女王の鏡"!」
「ハッ、物質なら概念よりは砕きやすくて良い……! "空間完全破壊"!」
マギアが放ったのは魔力から形成した鏡のような物質。無論、ただの鏡ではなく音や光。その他の概念をも反射させる鏡である。
そしてシュヴァルツが放った力は星を砕く破壊魔術。既に以前のシュヴァルツよりも遥かに破壊力が向上しており、惑星や恒星よりも遥かに巨大な塊を崩壊させた。
「まだまだァ!」
全ての力が相殺された瞬間にシヴァは新たな恒星を創造しており、それらを爆弾のように放り投げた。
その恒星は放られた瞬間に超新星爆発を引き起こし、シュヴァルツとマギアの身体を夜の世界に産み落とされた光が飲み込む。その間にシヴァは移動を開始しており、おそらくまだ生きているであろう二人の気配を探知。二人が丁度重なる位置へと移動し、二人の身体を拳で貫いた。
「カハッ……!」
「……!」
「ついでに……焼き払う!」
その瞬間、貫通した腹部から体内へ超高温の熱を放出し、シュヴァルツとマギアを焼き尽くす。
不死身ではないシュヴァルツは貫通のダメージだけで致命傷に近いが、不死身のマギアにもダメージが通るよう細胞を一つも残さず死滅させる熱を放出したのだ。その二撃は凄まじく、後一撃でも加えたら戦況が一気に有利になる。故にシヴァは追撃を仕掛けた。
『『……』』
「「……」」
「……ッ! ハッ、操られて本領が発揮出来なくても主力は主力か……!」
だがその追撃は操られたドラゴン、孫悟空、ハデス、ポセイドンによって阻害され、ドラゴンの爪が肩を切り裂き如意金箍棒が脇腹を貫きバイデントとトライデントも身体に刺さる。
不意を突いた急所を狙う攻撃だったが咄嗟の反応で全ての急所は避けており、シュヴァルツとマギアを放り投げて引き離し、同時にそれらの攻撃による爪や棒に槍を抜き、三人と一匹も弾き飛ばして距離を置く。
「危ない……死んじゃうかと思った……!」
「……ッ! 俺はもう死にそうだ……!」
「応急処置はしたからしっかり……!」
傷は癒し、改めて二人はシヴァに構える。
一方のシヴァも四つの攻撃による傷は深く。急所を外させたとは言え大きく負傷している状態。何とか立っているが、傷の痛みと血の量が夥しいものとなっていた。
「……ハッ……まあ……死ななくて良かった言ー感じか。互いに傷は癒えたみてェだな」
「……! そうか……貴方は創造を司るんだもんね。自分の細胞や組織は治せるかな」
だが、それくらいの傷はシヴァにとってあまり意味がない。
創造を司るシヴァは自分を治療する事も可能であり、不死身と違ってその場で創造して治しているので無効化の力も受け付けぬ回復力を誇っているからだ。
対するシュヴァルツとマギアも様々な魔術を扱えるマギアが居るのでダメージの程は抑えられる。今一度三人は向き合い、シヴァは背後数十メートルに居るドラゴンたちにも警戒しながら行動に移った。
「数で不利な分、均衡状態は危険だな。やはり次々仕掛けた方が得策だ」
前方と後方には敵が居る。現状は純粋な力でもある程度有利に進められているので別に正面突破しても良いのだが、シヴァは念の為に跳躍。それと同時に巨大な火球を形成して刹那にそれを降下させた。
それはただの火球ではなく、太陽のようなエネルギーの塊。しかしその熱と光の量は太陽と比較にならない程強大なもの。
シュヴァルツとマギアは夜を光の地獄に変えてしまう程の目映さに目を細めながら魔力を込め、力を放出する。
「直撃したらマズイが……この距離ならまだ大丈夫そうだ……! "破壊の衝撃"!」
「そうだね! "女王の衝撃"!」
『『……』』
「「……」」
そして放たれた破壊魔術にリッチの魔術。無論ドラゴンや孫悟空、ハデスにポセイドンも力を放っており、その火球を破壊した。
本来なら見た時点で失明する程の光量と今の距離でも即死する程の破壊力なのだが、それは今更だろう。まだ余裕のある防御であったが火球の爆発に紛れたシヴァが首謀者であるシュヴァルツ、マギアとの距離を詰め、更に嗾けた。
「ハッ、気を取られたな!」
「……! チッ、フェイクか!」
「しまったかも……!」
火球の一番の役割は目眩まし。攻撃が目的では無かったからこそ距離の離れた場所に形成して敢えて防がせたのだ。
それによってシヴァの読み通り気が取られた二人は成す術無く吹き飛ばされる。
「……! ただ殴り飛ばしただけか? まだ何か隠してんな……!」
「うん、多分ね。貴方達! シヴァを抑えて!」
シヴァが放ったのはただの拳。と言ってもそれにも太陽系くらいなら風圧だけで消し去る破壊力が秘められていたが、今のシュヴァルツとマギアは耐えられる程度の攻撃。
だからこそ二人は警戒を高めてドラゴンたちをシヴァに嗾けた。
「ハッ、同じ力を使えようと、操られているテメェらにゃ負けられねェよ!」
それに対し、シヴァは封印術を創造。それによって三人と一匹は空間に閉じ込められ、一時的な封印が施された。
「……。封印って今みたいに生み出すものか? 創造とはまたジャンルが違うように思えるがな」
「ああ。簡単に言えば閉じ込める為の何かの入れ物と封じる為の鍵があれば良いって事だからな。そもそも封印術自体は案外単純だ。それなりに鍛えた魔術師や魔法使い。その他の職業の奴等も使える。ただ魔力やその他の力の質が作用するって訳だからな」
封印術は、扱うのが難しい力に見えて案外どんな者でも使える力である。
ただ単に自身の力が弱ければ破られる。もしくは通じないだけで一つのエレメントを極めるよりも比較的楽なのだ。
要するに、シヴァ程の実力者が使えば自分と同等かそれ以下の存在には確実に通じるのである。元よりシヴァより上の存在は少ない。つまり大抵の敵には効くという事だろう。
軽く説明をし、敵の数を減らしたシヴァは更に続ける。
「さて、ドラゴン殿や斉天大聖。それに人間の国の主力であるハデスにポセイドンだったか。そいつらは抑えた。戦った感じ、テメェら自体は大した事ねェみたいだからな。さっさと終わらせて他国の主力は正気に戻す」
「……ハッ、やってみろ……! 大した事がねェだと? 言っておくがな、その中の斉天大聖以外は俺とマギアが倒したんだよ。自分の戦果を一々語んのはダセェから黙っていたが、あまり舐められるとムカッ腹が立つ……!」
「確かにね。私たちの強さは支配者に匹敵する……それは比喩じゃなくて事実って事を教えてあげるよ。支配者さん?」
早く勝負を終わらせるつもりのシヴァの発言にシュヴァルツとマギアは少しムッとして返す。
確かに今のところ押されているが、それは全力ではない。なので本来の力を解放し、シヴァに向けて構え直した。
「ハッ、言っただろ。俺も仲間がやられて少しイラついているってな。んじゃ、お望み通り消し炭にしてやるよ……!」
「クソが……やってみろ!」
「……。シュヴァルツ。今の言葉凄く雑魚っぽいよ……」
「うっせー」
向き合い、構え合う三人。
実際、挑発はしているシヴァだが油断している訳ではない。ドラゴンやハデスにポセイドンを倒したと言う事は承知の上。故になるべく自分のペースに乗せ、戦いやすい環境を創ろうとしているのだ。
シヴァとシュヴァルツ、マギアが織り成す永遠の夜が続く別世界での戦闘。それは、一時的にドラゴンたちを封じる事で再び始まった。