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九百二十八話 ライvs人間の国の支配者

 ──"別空間"。


「この程度か?」

「まだまだァ!」


 雷霆ケラウノスもちいたゼウスが一気に仕掛け、それによって生じたいかづちをライは砕いてけしかける。

 閃光と雷に身体を包みながら二人は衝突を繰り返し、一挙一動で多元に連なる無限の世界を崩壊させる。全能のゼウスだが、戦闘方法は至ってシンプルな肉弾戦。今更魔法や魔術。その他のエレメントなどで仕掛けても意味がないと全知故に理解しているからこそ最適解なやり方を選んでいるのだ。


「オラァ!」

「そこに来る事も分かっている」


 そんなゼウスに拳を放ち、ゼウスはそれをかわしてライの背後へ回り込むと同時に手刀でその身体を吹き飛ばす。そこに雷霆ケラウノスを放出し、宇宙ごとライを焼き払った。


「……筈なんだがな」


 しかし吹き飛ばされたライは即座にゼウスの元へ戻り、ゼウスの懐に拳を叩き込んで逆に殴り飛ばした。

 次のどの瞬間何処に仕掛けられるのかもゼウスは理解している。だが、それでも反応が追い付かない程の一撃を叩き込んだのだ。

 全てを理解している筈なのだが、完全には防げない攻撃。吹き飛ばされたゼウスはため息を吐き、空中で停止して次にライが迫ってくる場所で構える。


「今更全方位を狙ったところで意味はないが、取り敢えずそこに仕掛けるか」


「……!」


 ライの到達地点。そこを理解したゼウスだが、直ぐに避けられてしまう事も知っているので全方位に向けて雷霆ケラウノスの雷を放出し、そんなライの身体を打ち止めようと試みる。

 無論の事その結果も知っている。なので自分に都合の良い結果を全能の力で生み出した。が、しかし。その結果はライの成長によって上書きされ、雷霆ケラウノスの雷撃を粉砕したライはそのままゼウスの側頭部に後ろ回し蹴りを打ち付けてその身体を吹き飛ばした。


最早もはやただ成長しているだけには思えんな。全能に匹敵する……もしくは凌駕する成長力……ある種の能力ではないのか?」


「アンタ、全知なんだろ? それなら少し考えれば自分自身で答えが見つかるんじゃないか?」


 ライの成長力は、ただ成長しているだけのようには思えない様子のゼウス。

 ゼウスは全能。本来なら相手がいくら強くなろうともそれを一瞬にして超越する事も可能な程である。

 しかしライは成長力だけでそんなゼウスに食い下がっている。確かに何かしらの能力が作用していると考えるのもおかしくはないだろう。──それが全知のゼウスでなければ。

 全知のゼウスならそんな疑問の答えも全て理解している筈。吹き飛ばしたゼウスの側に寄り、再びけしかけたライの言葉に対してゼウスはライをいなしながら言葉を続ける。


「うむ。それに関しては既に承知している。承知した上での疑問だ。常軌を逸した成長力を見せる存在は割と居る。だが、その全てには"時間"という制約がある。少年の場合はそれすらをも感じさせずに成長しているからな。我は相手の強さを一瞬で超えるが、少年にも同じ作用があるようだ。ただ純粋に、普通の"成長"というだけで説明出来ないが逆に成長としか説明出来ないその力が問題だ」


 本来全知のゼウスに疑問は無い。相手が能力を無効化しようが、何らかの封印術を使おうが全てを理解出来る。出来なくては全知を名乗れないだろう。矛盾すらをも矛盾した状態で全てを動かせる全知全能。故に疑問が思い浮かぶ方が難しい程だ。

 無論、全知が疑問を浮かべる方法という矛盾も遂行する事が出来るが、それとこれとはまだ別の話。

 何はともあれ、同じ矛盾でもライの力はまた特殊という事だ。


「まあそれはいい。その力が分からないという訳ではないからな。確かな成長力ではある」


「それは良かったな!」


 返答と同時に近くのライへ雷撃を放ち、それをライは粉砕して加速。そのままゼウスの眼前に迫り、流れるように回し蹴りを放つ。

 ゼウスはその蹴りを仰け反ってかわし、同時に雷霆ケラウノスを鞭のように振るって広範囲を斬り付けた。

 元より一挙一動で多元宇宙に影響を及ぼすモノだが、余波などではなく純粋に刃の部分が広範囲という事である。

 もっとも、全体が雷なので何処までが刃なのかは不明だが。

 そしてその刃をライは正面から砕き、ゼウスの懐に迫って拳を振り抜いた。


「まあ、我が正面から受ければ良いだけか」

「……!」


 その拳は片手で受け止め、それと同時に雷霆ケラウノスをライの腹部に突き刺した。

 そう、ゼウスは何も自身の能力を過信している訳ではない。出来ない事などない全知全能の存在だが、あくまで戦闘は自分が行うもの。なので今の状況が出来上がり、ライは吐血してゼウスはそのまま感電させる。


「……ッ! ッハハ……この程度で良いのか? 何ならこのまま俺を殺せるだろうに」


「いや、この状態では殺せぬさ。それも知っている。そして我の目的はお主を殺す事でもないからな。やろうと思えば無効化を無効化して即死の力を使う事も出来るが……どうやらそれも不可能のようだ。たった今如何なる即死の術もお主には効かない事が分かった。フム、お主は全ての無効の力の最上位に位置するらしい」


「……ハッ……そりゃ良いな……! どうせアンタもそれを実行出来るんだろうけど……!」


「ああ。だが、実行したらその時点でまた成長して最終的に全ての多元宇宙の中での無効化術の最高位を我と主で争う事になるようだ」


 ライは雷霆ケラウノスを無理矢理引き抜き、鮮血を散らしてゼウスの眼前に迫る。

 それも知っていたゼウスは既に雷霆ケラウノスを納めており、同時にライの拳に自分の拳を打ち付けて相殺した。

 その瞬間に二人の姿は消え去り、一瞬にして複数の多元宇宙を崩壊させる勢いでせめぎ合う。

 ライが拳を放ってはゼウスがかわしてカウンターのように雷霆ケラウノスを振るい、それを躱し砕いたライが再び迫ってけしかける。


「まだまだ……俺はアンタを超える……! 最終目標は支配者も倒しての世界征服だからな!」


「この規模のやり取りの中でまだあの小さき星の世界を懸念するか。我と互角の時点で……というより、既に他の支配者とも一線を画しているだろうに」


「強さはあくまでおまけだ! 後々アンタを含めた世界中の全員を納得させて名実共に世界の支配者となる! ……あ、国の運営とかは俺じゃ無理だから変わらずアンタらに任せるからそこんとこよろしく」


「……。随分と適当な侵略者が居たものだ」


 ライの言動に若干の呆れを見せ、構わず鬩ぎ合う。と言っても呆れたのはライの思案について。

 世界征服はするが、国や世界の運営は依然として支配者を含めた主力たちに任せると言うのだから当然である。

 当然ゼウスはそれも既に知っていたのだが、知っていたとしても実際に聞くとまた印象が変わるのだろう。


「てな訳で、さっさとアンタらを倒して世界を治める!」


「口だけで治めると言って世界の事は我らに丸投げというのは色々と面倒だな。何やかんや国を治めるのは面倒だ。世界には全知全能というだけで()すがる存在が多いからな。全知だからこそ多元宇宙の情報も入ってきて大変だ」


「その割には俺が城に入った時は割とのんびりしていたみたいだけどな」


「まあ、全ての問題を解決する事は出来るからな。容易だとしても一つ一つ対応するのが面倒なだけだ。我自身を何人か生み出せばそれも解決出来るが、一人でどうとでも出来る問題に我が我の力を借りずとも良いだろう」


「……。ハハ……アンタ、その気になれば自分自身……全知全能のアンタを何人も生み出せるのかよ……」


「無論だ。全知全能……この世に顕在する全ての能力と顕在しない想像上の能力。如何なる力を持とうと、無限に等しき数の能力を持とうと、所詮それらも我の有する全能の一端でしかない、思い付く限りの力は全て我も使えると思ってくれて構わぬ。それが事実だからな」


「ハッ、そうかよ」


 国の運営、住民達の問題その他諸々etc.

 全知全能云々はて置き、世界征服をしたならしたで色々と面倒事は増える。なのでライの望む世界征服は基本的な制度などは変わらず、なるべく穏便に世界の問題を解決する事。

 侵略しておいてその様な事は完全に無責任だが、それも仕方無いと言えば仕方無い。ライの年齢は十四、五から変わって十五、六。ある程度の知識があったとしても基本的に年相応の夢物語を望んでいるだけなのだから。


 だがライにはその夢物語を具現化させる力がある。それには支配者や主力達の手助けが必至だが、ライなりにも色々と考えているようだ。

 当たり前の事ながら、何も無責任に全てを投げ出す訳ではない。当然ライ自身も奔走し、各々(おのおの)の問題を解決しようとはする。あくまで手助け程度に主力の力を借りたいだけなのである。

 何はともあれ、世界を治めるには気苦労が多くなりそうだ。


「取り敢えず、その全知全能の力。俺の世界征服のあかつきにはアンタから何度も借りる事になりそうだ。けど、出来る事は全て俺が自分でやるから心配しないでくれ。アンタの今の仕事量が少し減るとでも考えていてくれよ」


「……。もう雇用する事は前提か。お主、支配者を随分軽く見ているようだな」


「いいや、全くそうは思っていないさ。むしろ支配者の存在は尊敬している。と言うか、俺よりも長く生きている存在は……いや、生きとし生ける全員を尊敬しているよ。これから未来を切り開く存在も尊重する。俺とは違う人生を歩んでいるだけで全員尊敬に値するさ。……まあ、流石に悪人とかは無理だけどな。傍から見たら俺も悪人だけど。……と言うか、アンタには俺の本当の考えもお見通しだろ?」


 ライは他者を敬っている。それは年齢関係無く、老若男女。ライにとっての罪人などの一部の例外を除いた全てだ。

 だからこそ尊敬する者達同士で争っては欲しくない。世界征服という名の世界平和。"暗黒郷ディストピア"とも違う真なる意味の"理想郷ユートピア"。それの創造。ライの目的は旅立った当初から変わっていない。

 ライの言葉に対してゼウスは軽く笑って返した。


「……。フッ、さあな。既に世界は何度も創り替えられている。我が見た過去に未来……その全ては無限に分かれ、そこから新たなる世界が生まれるのだからな。お主の望む世界がどうなるかは……今はまだ見ないでおこう」


「ハハ、そうか。それは良いな。先の事を全て知るのも考え様だ。それがアンタの力なのは知っているし、俺も正直羨ましい。……だけど、未来はやっぱり自分の手で掴まなくちゃな!」


【ハッ、俺の力を多用していてよく言うぜ? ──ライ!】


「……。ハハ、今はお前も俺の一部だからな。魔王!」


 ライとゼウスの会話を聞き、思わず魔王(元)が表に出てきた。

 世界は常に廻っている。そして常に変化している。誰が今この瞬間に何をするのか。それこそ呼吸や瞬き一つで世界は大きく変化する。

 その未来を今知るのは勿体無いと判断したゼウスは一時的に全知の力を抑え、ライに向けて構え直した。


「良かろう。ならば我を倒した暁には協力してやらぬ事もない。ただの暇潰しのつもりだったが、存外有意義な時を過ごす事が出来た」


「ハッ……断っても無理矢理協力させるさ。少なくとも、全知全能の力を悪用に全く使っていないアンタはこの世の全てに冷めているって訳じゃなくて……ちゃんと善意があるって分かったからな。むしろ、何もしたくないなら人間の国で支配者を続ける訳も無いだろ?」


「フッ……それもノーコメントだ」


 雷霆ケラウノスが鳴り響き、目映い閃光を醸し出す。ライはより力を込め、自分を含めたライ三人分の力と魔王の力を合わせてゼウスに向き直る。

 ライとゼウスの織り成す多元に渡る絶対無限空間での戦闘は、終結に向けて進むのだった。

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