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九百二十六話 ヴァイスvs魔物の国

 ──"魔物の国・支配者の街・メラース・ゲー"。


『敵襲!! 敵襲!!』

『侵略者が来たぞ!!』


「やれやれ。忠実な警備兵なンていつから雇ったンだい? 無法地帯の魔物の国は」


『『……ッ!』』


 ライとゼウスが別空間にて戦闘を行い続け、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とグラオとの戦闘が終わった頃、魔物の国支配者の街"メラース・ゲー"ではヴァイスが攻め入っており、見張り役である兵士達を打ち沈めて行進していた。


「さて、久し振りだね。魔物の国を纏める幹部の皆。テュポーンから話は聞いているかもしれないけど、多分ロキを倒したのは彼だろう。まあ、それはいい。仇討ちという訳じゃないけど、私たちの目的の為にもこの国を選別させて貰うよ」


『いきなり攻めて来ていきなり何を言い出す。無礼な奴だな。テュポーン様は今程好い疲労もあり微睡まどろんでいる。お帰り願おうか』


 城内へと入り、ヴァイスは久し振りに会った幹部たちに言葉を発した。

 それに返したのは魔物の国のNo.2であるアジ・ダハーカ。曰く、支配者のテュポーンは休息を取っているとの事。

 しかし、と。ヴァイスは言葉を続ける。


「そう言われてもね。私たちは先を急いでいるンだ。もう既に選別状況は終盤へと差し掛かっている。まあ、他国にはまだまだ選別していない主力は残っているけど、一先ず全ての支配者を打ち倒して上から潰して行く方向に決まったンだ」


『決まったと言われてもな。そちらの都合など知った事は無いが、この国も標的にあると言うなら我らも行動に移させて貰おう。テュポーン様とブラッド、ニーズヘッグはまだ休んでいるが、お主一人なら私たちだけで十分だろう』


 アジ・ダハーカを筆頭に、魔物の国の主力を努める者たち。

 全てを恨み、世界に飢餓をもたらす魔物の国のNo.3ヴリトラ。

 世界を覆う程の巨躯を持つヨルムンガンド。

 神殺しのヒュドラー。

 かつて"世界樹ユグドラシル"を滅ぼしたスルト。

 斉天大聖孫悟空と渡り合い、兄弟でもある大力王の異名を持つ牛魔王。

 死者の国を治める女神のヘル。

 そんな、"メラース・ゲー"に集っていた魔物の国の全戦力がヴァイスに向けて向き直り、ヴァイスは周りを見て軽く笑うような声音で話す。


「フフ……君達だけで十分……という訳でもないだろうさ。一人一人、一匹一匹が劣れ切ったドラゴンとなら互角に渡り合えるかもしれない支配者クラスの存在。相手が別の支配者だったとしても苦労する筈さ」


『そんな我らの力をお主は有しているからな。やれやれ。一時は協定を結んでいたとは言え、力を貸すのではなかった。むしろあの時生物兵器の未完成品と共に討ち滅ぼすべきだったか』


「過ぎた事を今更後悔する訳にはいかないだろうさ。君達は時間を操る力を持っていないンだからね。まあ、アジ・ダハーカなら千の魔法のうちの一つに時空間に干渉するものもあるけど、過去に戻れる訳じゃない。どう足掻いても私に治められる運命だ。……けど、君達全員は合格者。手厚く歓迎はするから安心してくれ」


『下らないな。何も過去に戻りたい訳ではない。元より過去に戻れぬ事は承知の上。過去の私がやった事だからな。少なくとも過去の時点でお主は、お主らとは協定関係にあった。故に、我らが敵と判断しているのは今現在、この世に顕在する主だ。ヴァイス・ヴィーヴェレ殿』


 過去をやり直そうなどとは微塵も思っていない。ヴァイスが今攻めて来たのなら今相手にすれば良いだけ。そう考え、アジ・ダハーカを始めとした幹部たちはヴァイスに構えた。


『ともあれ、この国に"単独で"攻めて来るとはな。生物兵器の兵士や自分自身の分身すら作らぬか。出来ぬ事でも無かろうに、何故正々堂々としているのか疑問だな』


「フフ……。なに、ただの気紛れさ。生物兵器の兵士も居ない訳じゃない。この街の外で待機しているンだ。シュヴァルツとマギアには生物兵器や私の分身を使うと言ったけど、使う必要が無いって分かったからね」


『……舐められたものだな。単独で十分という事か。まあ、確かにみなぎる自信は見て分かる。感情も消えている筈だが、闘志もある。矛盾を具現化したような存在だな。お主は』


「矛盾なんてものは人が勝手に決めた事さ。如何に辻褄が合わなかろうと、屁理屈で矛盾を誤魔化す事は出来る。概念如きに進行を止められちゃ、世界の選別なンて到底出来ないからね。今までの知能が高そうに見える無能な者達が勝手に定めた絶対じゃないルールは全て選別のあかつきに取り払うさ」


 世界の選別。それは、ヴァイス曰く全ての概念をもくつがえす事で完成するらしい。

 時間も空間も全てを取り払い、新たなルールをもちいて世界を選別する。最早もはや何を考えているのか分からないが、元々何を考えているのか分からない事が多かったので今更気にする必要も無いだろう。

 アジ・ダハーカ、ヴリトラ、ヨルムンガンド、ヒュドラー、スルト、牛魔王、ヘルの三人と四匹はそんな言葉を無視し、力を込めた。


『お主の持論はどうでも良い。仕掛けるぞ』


「それを教えてくれてありがとう」


 次の瞬間、アジ・ダハーカが小手調べに世界を焼き尽くす炎塊を放出し、それをヴァイスは返答と同時に迎え撃つ。

 炎に炎をぶつけて波が燃え広がり、城から"メラース・ゲー"の街が炎上する。その炎に紛れ、他の者たちもけしかけた。


『先ずは小手調べという事か。一気に決めれば良いものの。面倒だ』


『まあ、良いんじゃない? お父様は消えちゃったらしいけど、彼らは今敵だからね。敵は私の国に送らなくてはならないわ』


 ヴリトラが文句を言いながら暴風雨の塊を放出し、それに合わせた瘴気しょうきの含む風を放つヘル。

 その風をヴァイスは軽く消し去り、続くようにヨルムンガンドとヒュドラーが仕掛けた。


『今回は敵が敵だからな。温存しつつ全力で挑まなくてはならぬ』

『ああ、最初から全力ではあるが、力を全て使い果たす訳にはいかないからな』


 二匹は神をも殺す猛毒を吐き付け、街全体を猛毒で覆うが、それもヴァイスによって防がれる。更に続き、スルトと牛魔王が眼前に迫った。


『自分的には誰が敵でも関係無いな』

『奇遇だな。俺もだ。目の前の存在が挑むなら叩き潰せば良いだけだからな』


 スルトの炎剣と牛魔王の混鉄木こんてつぼくがヴァイスに迫り、それをヴァイスは紙一重でかわす。それと同時に片手へ力を込めた。


「うン。一連の流れからある程度の事は分かったよ。取り敢えず、君達は全員が始めから全力らしいね。だけど、全員が自分以外はどうでもいいという様子だ。まあ、個々が優れている君達にとって連携は逆に足を引っ張るからその判断は間違いないンだろう。自分に近い能力を持つ者と自然に合わせている様子からしても今のやり方が一番適正のようだ」


 魔物の国の主力たちは、全員が強大な力を秘めている。

 その半数がほぼ即死の技を持ち合わせており、他者と合わせない事でより一層際立った攻撃も可能だろう。


『だからどうした? 先程から防いでばかりだ。早いところお主も来ると良い』


「勿論そうするよ。その為に力を込めたンだからね」


『まあ、その隙にも攻撃はさせて貰うがな』


 そんな推測を話すヴァイスに向けて先を促し、それにヴァイスが返すと同時にアジ・ダハーカは漆黒の塊を放出した。

 それは最大の技、全宇宙の三分の一をむさぼるモノの──"縮小版"。精々この星の三分の一をむさぼるくらいの力しか込められていないが、それでも十分な破壊力は秘められていた。

 既に力を込め終えていたヴァイスは不敵に笑うような演技をし、その力を解放する。


「ついでに、君達に新しい力を見せてあげよう」


『『……!』』

『『……!』』

『『『……!』』』


 そして放ったのは、新たに手に入れたハデスの力。

 それをライ、ダークの力と合わせる事でより威力を増幅させ、目の前に軽く拳を打ち付けて衝撃波を飛ばし、前方の全て。アジ・ダハーカの攻撃をこの星諸とも消し飛ばした。


『何という力……そしてその様子、まだ本気ではないな?』


「ああ。三つの力は合わせたけど、その何万分の一にも満たないさ。本来なら多元宇宙にも影響を及ぼす力だからね。何億分の一か何兆分の一か……下手したら無限のうちの一つかもしれない」


 本当に軽く放った力で星を抉る破壊力。その余波は宇宙へと飛び出し、秒速数光年の速度で他の星々を砕いている事だろうが、今回はどうでも良いので気にしない。

 更に続くよう、ヴァイスは力を込め直した。


「さて、たった今(・・・・)無限の空間に(・・・・・・)君達を(・・・)送り込ンだ(・・・・・)。此処なら全力を出しても問題無い筈。早いところテュポーンと決着を付けたいからね。君達の相手はもう終わらせるよ」


『……!』


 その瞬間、アジ・ダハーカたち魔物の国の主力はヴァイスがいつの間にか創造した無限の空間に居た。

 今回のヴァイスの目的はあくまでテュポーン。故に魔物の国の他の主力たちの相手は早く終わらせたいようだ。


『本当に舐め腐り切っているな。ならば教えてやろう……"絶対悪"は相手が誰だろうと見境が無い事をな……! 温厚に振る舞っていたのはライたちと出会ってテュポーン様が落ち着き、少しは余裕が生まれたからだ。だが、それももう終わる。今一度、改め全ての存在を三分の一貪ってやろう……!』


 ヴァイスの余裕を見やり、若干の憤りを見せるアジ・ダハーカ。

 今までは比較的温厚だった。それは今の世界にアジ・ダハーカが絶対悪である必要が無かったからだ。

 生まれ持った絶対悪。存在その物が悪のアジ・ダハーカだが、今の世界に正義も悪も存在せず、その存在意義が無かった。

 しかし、流石にこの態度は見過ごせない。悪にも悪のプライドは持ち合わせている。高いプライドもまた"悪"だからこそ、アジ・ダハーカは力を込め、それに続くよう他の主力たちも力を込めた。


『宇宙……いや、この無限の世界。その三分の一。全てを貪り蹂躙してくれよう……!』


『憎たらしいな。ヴァイス・ヴィーヴェレ。俺も本気を出す……!』


『無論、我もだ。常に他者を見下す位置に居る我は見下されたくないからな……!』


『ならば私もそれに乗ろう。全てを殺すこの猛毒でな……!』


『なら、自分も自分なりのやり方をしようか。"世界樹ユグドラシル"を消滅させた一撃。受けると良い……!』


『俺にも王のプライドはあるからな。全力を以て叩き潰す……!』


『取り敢えず、私も乗ろうかしら。あまり舐めた態度を取られると即死させたくなるからね……この風で……!』


 ヴァイスの言葉に感化され、既に力を込めていたアジ・ダハーカに続き、ヴリトラは人化して神に等しき力を手に入れ剣を握り、ヨルムンガンドがその巨躯の肉体にて猛毒を形成する。ヒュドラーも神を殺した猛毒の精度を高め、より致死性の高い猛毒として込める。

 スルトが"世界樹ユグドラシル"を滅ぼした長い炎剣を扱い、妖力にて全身に力を込めた牛魔王が混鉄木こんてつぼくを構える。ヘルは即死の風を放出して構え、ヴァイスに向け、魔物の国の全戦力が一気にその力を解放する。


『滅びよ……!』

『全て消え去れ……!』

『肉体を消し去ってくれる……!』

『猛毒に侵され、藻掻き苦しみながら死に逝くが良い……!』

『この世界も終わらせるとしよう……!』

『ブッ潰れろ……!』

『死になさい!』


 宇宙の三分の一を貪る異物。全ての憎しみと怨みを込めた一撃。即死の力を持つ二つの猛毒。世界を終らせる炎剣。触れるもの全てを砕く棍棒。即死の風。

 三つの力が即死の効果を秘めており、二つの力が世界を終らせる効果を有する。そして二つが純粋な破壊の化身。

 それら全ては互いに打ち消す事もなく真っ直ぐヴァイスに進み────



「……うン。悪くない一撃だよ」



 ────ライ、ダーク、ハデス。ヴァイスの有するより強大な力を誇る三人を合わせた拳により、無限空間の世界諸とも全てが崩壊した。



*****



『『……ッ!』』

『『……ッ!』』

『『『……ッ!』』』


 その一撃の直後、アジ・ダハーカたち魔物の国の主力とヴァイスが無限の空間から元の世界に戻り、意識の失った三人と四匹と片腕が消滅したヴァイスが城の入り口付近の門に並んだ。

 その様子を見るに、既に決着は付いている。流石に宇宙規模の攻撃となると、それを相殺させたヴァイスもその力を受けた片腕を失ったが、肉体的な損傷は主力たちの方が大きいだろう。


「さて、思ったよりも手間が掛かったな。腕は再生するけど、治り立てなのは少し気になるかな。やっぱり魔物の国の主力……"ヒノモト"の神々と四神や斉天大聖に比毛を取らない存在だよ」


 失った腕を再生させ、アジ・ダハーカたち魔物の国の主力を称賛するヴァイス。

 此処に来るまでも様々な神々と戦ったが、魔物の国の幹部や側近は神という地位に立つ者が少ないにもかかわらずヴァイスに此処までの負傷をさせた。敵ながら見事と言ったところである。


「取り敢えず優先するは目的。他の魔物に荒らされないよう、アジ・ダハーカ達を保護して後で回収しようか」


 それだけ告げ、ヴァイスはアジ・ダハーカたちの周りに防壁を貼り、城の中へと入って行く。

 此処も城内と言えば城内だが、場所で言えば中庭のようなもの。なので本格的に進行するという事だ。

 世界の選別を行うヴァイス。目的の為に単独で魔物の国の城へと攻め込み、テュポーンの元に向かうのだった。

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