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九百二十五話 vs混沌の神・グラオ・カオス・決着

「そら!」

「……っ!」


 グラオが光を超えて加速し、向き合ったレイたちに拳を打ち付けた。

 それをまたレイが防ぎ、エマ、フォンセ、リヤンの三人が囲うようにけしかける。

 グラオ相手に囲い込みはあまり意味がないと思っていたが、レイの成長はグラオの集中力を散漫させるには十分にある。だからこそエマが何度も背後から不意を突いて仕掛けられたのだ。

 それでも隙は少ないが、チャンスは必ず来るだろうという確証があった。


「"魔王の手(サタン・ハンド)"!」


 先ずフォンセが牽制も兼ねて魔王の魔力からなる巨大な掌を形成。そのままグラオの身体を押し潰し、大穴の更に底へと沈め落とした。

 それによって巨大な粉塵が舞い上がり、フォンセの放った魔王の手は──


「ハハ、まだまだ」

「……!」


 片手でそれを防いだグラオによって持ち上げられ、巨大な手ごとフォンセの身体を彼方に吹き飛ばした。

 しかしフォンセの攻撃はあくまで牽制。そこに目掛け、エマとリヤンもけしかける。


「はあ!」

「"神の吐息(ゴッド・ブレス)"……!」


 放たれたのは二つの暴風。

 魔王と神の力によって強化された風と神の力から形成された風。二つの風が合わさる事で強大な破壊力となり、グラオの居た場所から太陽系程の範囲が風によって吹き飛ばされた。


「これも良い。けど、僕にはまだ効かないね!」


「「……ッ!」」


 その暴風壁からグラオは飛び出し、先程まで地面だった場所の空中に移動して二人の身体を叩き落とす。

 この空間の広さは無限を超える。故に如何なる範囲や地面を消し飛ばしてもそこに落ちれば変わらぬ無限空間が顕在する。それによってレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人は先程空けた穴の最下層に降り立ち、グラオも続くように着地した。


「三人とも、大丈夫?」

「ああ、心配するな。私は直ぐに再生出来る……!」

「私も応急処置は済ませた……」

「私も……」


 穴に降り立つ。厳密に言えば、レイとグラオ以外はグラオによって叩き落とされる形や吹き飛ばされた形での降下。

 三人には、不死身のヴァンパイアであるエマですらダメージがあったが、既にその傷はある程度治療していたようだ。


「じゃあ、まだやれるね。死んじゃわないように気を付けてはいるけど、このままだと危ないかもしれないから気を付けて!」


「……!」


 加速と同時に打ち付けられた拳。それをレイは勇者の剣の腹で受け止めて後退り、剣を押してグラオの身体を弾く。

 弾いた瞬間にグラオへ向けて駆け出し、エマ、フォンセ、リヤンの回復時間を一瞬でも増やす為に奮起する。


「やあ!」

「よっと!」


 剣を振り下ろし、同時に横へ薙いで斬り伏せる。そこからまた斬り込むように薙ぎ払い、身体を引いて加速を付け、そのまま突き刺した。

 しかしグラオはその全てをかわし、いなし、避け、レイの眼前に拳を放つ。それをレイはかがんで避け、全身のバネを使った跳躍と同時に斬り上げた。

 それによってグラオの顎を掠め、小さな切り傷を作る。それと同時に踏み込み、肉迫するように斬り伏せた。


「やるね……動きが更に疾く鋭くなっているよ……!」


「まだまだ……!」


 そんなレイの一連の動きを評価するグラオ。レイは更に続き、勇者の剣をもちいて牽制。斬撃、刺突、薙ぎ払い。グラオはそれらを避け、そこにエマ、フォンセ、リヤンの三人も仕掛け行く。


「吹き飛ばすと面倒だ。し潰れろ!」


 エマが空中から風を放ち、そのままグラオの身体を地面に沈める。グラオを中心に大地が割れ、そこにフォンセとリヤンも攻め入った。


「仕掛けるぞリヤン!」

「うん……!」


 グラオの身体は地面に陥没し、一瞬だが動きが止まった。そこに目掛け、フォンセとリヤンは力を込める。


「"魔王の力(サタン・フォース)"!」

「"神の力(ゴッド・フォース)"」


 そして左右から放った、魔王と神の力の塊。エレメントに干渉せず素の魔王と神の力。それがエネルギーのように打ち放たれ、漆黒の存在と純白の光がグラオの身体を飲み込んだ。

 それによって大きな爆発が巻き起こり、一瞬にして太陽系複数個分の範囲が飲み込まれる。同時にそのエネルギーが圧縮され、一点に集中してグラオの身体を滅ぼした。


「……ッ! 流石にこれは……マズイ……!」


 藻掻くように暴れ、そのエネルギーの光からグラオは逃れる。

 今のグラオの状態はというと先程まで大した傷を負っていなかった肉体は負傷しており、煤のような物が付着し出血の量も多少増えていた。


「あのエネルギー……熱いのかな。少し焦げてる」


「まあ、魔王の力だからな。この世のあらゆる苦痛が感じられるのだろう」


「神の力はどうだろう……。わからないけど、取り敢えずダメージ与える為に仕掛けたからそうなんだと思う……その割にダメージは少ないみたいだけど……」


 グラオの負傷から魔王と神の力の効果を考える三人。それによってどれがグラオに効果的なのかを判断しようとしたが、多少の負傷はあれど相も変わらずピンピンしているのであまり関係無いと判断した。

 何はともあれ、ダメージを与えたのは事実。このまま押し切れば勝てる可能性もあるだろう。


「……っ。ハハ、まともに攻撃を受けちゃったな。けどまあ、それ程までの相手って事かな?」


「そうだね!」

「それは良かったよ!」


 グラオが口を開いた瞬間、グラオに向けて先程まで話していたレイが勇者の剣を振りかざして飛び掛かり、グラオが片腕でその剣を受け止める。

 受け止めたと言っても腕に貫通させて威力を弱めたグラオ。そこからは緩やかな鮮血が流れており、グラオはそれを無理矢理引き抜いた。


「一気に畳み掛ける……!」

「良いね。僕はそれを切望するよ!」


 引き抜くと同時にレイが踏み込み、勇者の剣を薙ぎ払う。

 それをグラオは飛び退くようにかわし、そこ目掛けてフォンセが上からけしかけた。


「"魔王の咆哮(サタン・ロアー)"!」


 魔王の力を込め、直線の漆黒の柱を形成する。

 それによって超新星爆発以上の破壊が巻き起こり、グラオの身体は再び飲み込まれた。


「効くね……! まだまだあるんだろう!」

「当たり前……! "神の啓示ゴッド・レボリューション"……!」


 フォンセの力を受けたグラオはまたもや負傷する。それでも嬉々としており、次の攻撃を待機していた。

 それに応えるようリヤンが神の力を込め、フォンセと遂になる純白の光の柱が形成され、今一度グラオの身体を飲み込む。


「そこに私も仕掛けるか……!」


 漆黒と純白の柱。その中心に位置する灰色の空間に向けてエマは魔王と神の力からなる念力で世界を圧縮し、太陽系程の範囲を一つに纏めた質量を誇る岩石を吹き飛ばした。

 それを漆黒と純白の光が飲み込み、エマは念力を解放。次の瞬間に超新星爆発の数千倍には及ぶであろうエネルギー派が周囲を包み込んだ。


「その調子……! 流石の僕も意識が遠退いたよ! けど、まだまだ!」


「「……ッ!」」

「「……ッ!」」


 その刹那、形容出来ぬ色の柱と爆発の中から現れたグラオが加速し、魔王と神の力によって力が底上げされているレイたちですら反応し切れない速度で迫り、近くの四人を吹き飛ばした。

 蹴りによってレイとフォンセが飛ばされ、拳によってエマとリヤンが飛ばされる。刹那に大地へ着弾。その一撃で四人を中心に銀河系の範囲が四つ消滅する。

 魔王と神の力を纏っていなければ死していた可能性すらある一撃だった。


「今の私たちのコンディションは過去で一番と言っても過言じゃない程なのだけどな……これ程までとは……!」


「うん……。今度は私ですら見切れなかった……!」


「駄目だな……再生が追い付かない。もう少し時間が掛かりそうだ……」


「私も……再生と治癒の力が追い付かない……」


 たった一撃。それによって満身創痍となる四人。四人が言うように今の一撃はそれ程までの破壊力を秘めていた。

 レイたちは、確実に今までの過去全ての自分よりも遥かに強大な力を秘めている。今なら通常の魔法や魔術ですら世界を焼き尽くす事も可能であり、魔王や神の力もそれに伴って向上している事だろう。

 しかしそんなレイたちですら今のグラオを相手するには少し難儀。魔王と神の力による効力も残り数秒が良いところだ。


「その様子……力が戻りつつあるね。良い意味じゃなくて悪い意味で。うん、決めた。じゃあ、君達の為にもこの一撃で終わらせるとしよう」


「「……!」」

「「……!」」


 レイたちに纏う魔王と神の力が弱まりつつある様子は、グラオも理解していた。

 相変わらず高揚感が溢れて止まぬと言った表情をしているが、冷静な顔付きとなり、その身体に得も言えぬ力が纏うのを確かに実感した。


「この世界は無限大の広さを誇っている。それは素晴らしい事だ。だって──多元宇宙を破壊する力を使っても元の世界には何の影響も及ばないんだからね」


「その力を今から使うという事か……私たちは生かして連れ去るんじゃなかったのか?」


「そうだね。けど、君達なら大丈夫。そんな確信もあるにはあるよ。……さて、残り数秒、確か人間の国の"ヒノモト"には"灯滅せんとして光を増す"という言葉があるらしい。消え去る前の灯火、その最後のほむら。混沌にして原初の僕が今、この場で君達なりの足掻きを魅せる事を許可しよう」


 グラオの力は更に強大となり、それが文字通り目に見えて具現化する。

 形で言えば球体。だが、その塊が放つエネルギーは確かな破壊が備わっている事だろう。


「……ふっ……最後の最後に大物っぽくなったな。腐っても原初の神か……!」


「だったら私たちも……残りの力を全て出し尽くすつもりで仕掛けなくちゃね……!」


「ああ……!」

「うん……!」


 エネルギーの塊を前にレイたちは立ち上がり、勇者の剣を構え、念力を纏い、魔王の力を纏い、神の力を纏う。

 各々(おのおの)の放てる全身全霊を込めた最大級の力。それをもちいれば多元宇宙を崩壊させる力も相殺する事が出来るかもしれない。

 そして、その力は今──



「──"混沌の支配(カオス・エレンホス)"!!」


「はあ━━ッ!!」

「ハッ……!!」

「"終わりの魔王サタン・オブ・ザ・エンド"!!」

「"始まりの神ゴッド・オブ・ザ・ビギニング"……!!」



 その瞬間、混沌の塊が上空から放たれた。

 塊は空間を歪め、世界を崩壊させながら降下する。それを迎え撃つように世界を断つ斬撃と世界を吹き飛ばす様々な暴風雨。魔王と神の力からなるグラオの塊に比毛を取らぬエネルギー。

 通常世界のみならず多元世界をも揺るがす五つの技はぶつかり合い──光に飲み込まれ、無限空間が消滅した。



*****



 ──"──────"。


「……。成る程。これが彼女達の強さか。……ハハ、神として、その成長を見届けられたのは良かったかな?」


「「…………」」

「「…………」」


 消え去った世界は再生せず、その虚空の世界にて満身創痍のグラオは意識を失った三人を見やり、軽く呟くように笑う。

 此処は無限空間のあった場所ではあるが、単刀直入に言えば──"生と死の狭間"である。

 生きている訳ではないが、死んでいる訳でもない。そんな不確かな存在しか行けない世界。レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とグラオは自分たちの力からなるエネルギーに飲み込まれ、致命傷になりうる傷を無限に受けた。だからこそ、限りなく死に近い状態となってこの様な場所に来てしまったという事だ。


「……。さて、どうしようかな。僕の力はもう残っていない。全身もボロボロ……彼女達もおそらくだけどそう。元の世界は無理でも、あの空間に戻せるのは限られているね」


 混沌を司り、原初の神であるカオスなら今の状態でも元の世界に戻れない事はない。しかし、それには限りが出てくる。

 どうしたものかとグラオは思案し、今一度彫刻のように美しい姿で意識を失っている四人に視線を向けた。


「……まあ、今回は僕が身を引こうかな。数百億年の中でも一、二を争う楽しさだった。ゾフルとロキの安否はどうだろう……まあ、ヴァイス、シュヴァルツ、マギアには悪いけど、僕は残って彼女達は楽しませてくれたお礼に戻してあげようか」


 思案した時間は数秒。ほぼ即座にどうするかを決めたグラオは残った力を四人に差し向け、四人は混沌の塊に包まれて浮き上がる。

 此処は既に何もない。故に最初から浮いているようなものだが、グラオと同じ位置から浮き上がったという事だ。


「ハハ……良い暇潰しだったよ。ありがとう。ノヴァ・ミールの子孫。ヴァンパイア。ヴェリテ・エラトマの子孫にソール・ゴッドの子孫。……いや、今回は彼女達を尊重しよう。……レイ、エマ、フォンセ、リヤン。意識を失っていても微かな声は聞こえているかもしれないね。ライとヴァイスたちにはよろしく言っておいてくれ。僕と君達が再び会う事は……少なくとも子孫の君達とは今の時代では無さそうだからね」


 意識のないレイたちがグラオの言葉を聞いているのかは分からない。しかし、それでもグラオは一応言伝(ことづ)てを授けた。

 力が戻るまで何千何万年は優に超えるだろう。なので不死身のエマは分からないがレイたちとは会う事もないと考えていた。

 グラオにとってはたかが何千何万年。しかし何処か物寂しげだった。


「じゃあね。君達。……ハハ、さようなら!」


 最後に呟き、レイたちの姿が生と死の狭間の世界から消え去る。

 何もない生死の狭間の世界にてグラオは空を見上げ、寂しげながらも何処か満足感のある様子で振り返り、別の何処かに移動する。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの織り成していた混沌の神、グラオ・カオスとの戦闘。それは、グラオが世界から消え去る事で決着が付くのだった。

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