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九百二十四話 勇者の子孫、ヴァンパイア、魔王の子孫、神の子孫vs混沌の原初神

「今まで何処か手を抜いていたグラオの本気か。此処からは完全に未知の領域だな」


「うん。ライとの戦いでもそれに近い力は使っていたんだろうけど……本当の本気……検討も付かないね」


 威圧感が高まったグラオに対し、警戒を高めつつその威圧を肌で犇々(ひしひし)と感じているエマとレイがその順に話した。

 グラオの本気。言葉だけの本気なら何度か目撃、体験し、話にも聞いていた。だが、今回はそれとは全くの別物と考えても良いだろう。それ程までの力を解放しようとしているのだから。


「取り敢えず、今更御託も何も要らないよね。じゃあ──仕掛けるか」


「「……!」」

「「……!」」


 その刹那、レイたちが反応するよりも前にグラオが超速で移動し、レイたち四人を吹き飛ばした。

 正面に居たレイ、フォンセ、リヤンの三人と背後に居たエマが同時に吹き飛ばされ、虚無の空間にある大地を大きく抉りながら直進する。それと同時に数キロ程吹き飛ばされて何とか停止し、グラオが居た方向に視線を向けた。


「これしか飛ばなかったか。最低でも複数の銀河を越えるくらいの気持ちで仕掛けたけど、やっぱり強いね。君達」


「……っ」


 吹き飛ばされた方向は全員が同じ。正面のレイたちは兎も角、背後に居た筈のエマですら同じタイミングで吹き飛ばす程のグラオの力。

 光を超えると時間が止まると謂われているが、まさにそれを体現したかような感覚だった。


「まだまだ仕掛けるよ!」

「やあ!」


 追撃するよう、グラオが拳を振り下ろし、その拳をレイが勇者の剣で受け止める。それによってレイの足元から大地がひしゃげて陥没し、そのまま太陽系を凌駕する程の大穴が形成された。

 だが最低限の大地はフォンセとリヤンが造り出しており、レイたちがその穴に落ちる事は無かった。


「一挙一動が超新星爆発並みだな……これは私たちももう少し力を高めなくてはな……! "魔王の援助(サタン・アシスト)"!」

「じゃあ……私も……! "神の救援(ゴッド・アシスト)"……!」


「「……!」」


 グラオの力を改めて感じ取り、フォンセとリヤンは魔王と神の力をレイとフォンセに分け与え、その身体能力を一時的に著しく向上させた。

 魔王の力と神の力。それらは種類は違えど、体内に入れる事で大きな力を発揮する。

 常人ならその強大過ぎる力故に自ら身を滅ぼしてしまうが、レイとエマならその心配も無いだろう。今のままではまだまだ力不足。故に、本当にこの一時的にだけ魔王と神に匹敵する力としたのだ。


「凄い……力が溢れてくる……それに……私の血肉が活性化しているみたい……勇者の血と魔王と神の血が絶妙に混ざり合っているのかな……」


「そうだな。確かにかなり身体能力の向上を感じる。これが魔王と神の力か……」


 言葉で上手く言い表す事は出来ないが、確かに自身の力の増幅を感じる二人。特に勇者の血を引くレイはその効果が大きく発揮されている雰囲気だった。

 だが、と。フォンセは軽く説明するように話す。


「この力は本当に短時間しか使えない。魔王と神の力はそれ程までだからな。持って数十分と言ったところか」


「うん……。今までこんな事した事無いから少し不安だけど……今のグラオにはそれくらいしなくちゃ……!」


 時間制限のある肉体強化。初めての試みというそれはデメリットがいくらあるのか分からない。だが、それを実行しなくては本気のグラオの相手にもならないだろう。

 フォンセとリヤン。そして身体能力を強化したレイとエマは改めてグラオに向き直った。


「悠長に待っていてくれたとはな。意外だったよ」


「ハハ。本気でやるなら相手の強化は望ましいからね。終わったなら……仕掛ける!」


 次の刹那、会話を終えたのを見計らったグラオが加速し、レイたちの眼前に迫った。

 グラオが待っていたのは身体能力の強化を望んで。相手が強ければ強い程暇潰しが楽しくなる本人の性格上、敵が強くなるのを敢えて待つくらいは普通のようだ。


「そらっ!」

「やあ!」


 その瞬間、グラオが拳を放ち、その拳をレイが受け止めた。それによって先程の大穴を更に広げる衝撃波が周囲に伝わり、爆発的な暴風によって強化されているエマ。そして魔王と神の力を纏っているフォンセとリヤンが吹き飛ばされた。

 しかし即座にグラオの元に迫り、攻撃を受け止めたレイが飛び退くように離れてそこからフォンセとリヤンがけしかける。


「"魔王の手(サタン・ハンド)"!」

「"神の手(ゴッド・ハンド)"……!」


「二つの手か……!」


 魔王と神の力をもちいて巨大な一つの手を生み出し、その手を握り締めてグラオを左右から叩き潰す。

 しかしグラオは両手でその手を抑え込み、力を込めて弾き飛ばした。


「これでもダメか……!」

「純粋な力もやっぱり高まってる……」


「なら、身体能力が高まった私が仕掛けよう」

「……! また背後から……霧って見付けにくいね」


 フォンセとリヤンの攻撃も防がれたのを見届け、霧と化していたエマがグラオの背後から迫り、巨大な暴風の塊を叩き付けた。

 それをグラオは直撃し、読んで字の如く風に巻かれるよう吹き飛び、渦巻く風によって生じた螺旋状の破壊痕を残して彼方に消えた。


「ふむ、確かに向上しているな。ただの風がさながら隕石の如くだ。いや、何なら超新星爆発には匹敵しているか?」


 風の塊は正面に消えたので如何程の破壊範囲かは分からない。だが、既に数光年分の範囲に何も残っていない穴を更なる深さと広さにした今の力は、かなりのものとなっていると実感出来た。


「ふっ、恒星が数億年の一生を掛けて生み出す巨大な爆発がこうも簡単に再現出来るとはな。これが魔王と神の力か。そんな魔王と神は末恐ろしい存在だが、爽快な力ではあるな。これからも重宝したいが、私ではなくフォンセとリヤンに掛かる負荷の大きさが分からぬからあまり多様は出来ぬな。しかし、今はまだ使い続けよう」


 力は実感出来たが、他人に力を分け与えるというフォンセとリヤンの負荷は分からない。なのでエマは今のグラオとの戦闘以降、その力を使うかどうかはフォンセとリヤンの状態次第と考えているようだ。


「成る程ね。本当にかなりの力になったみたいだ。だけど、精々僕を吹き飛ばす程度に留まっているね!」


 その様な事を考えていた時、吹き飛ばされたグラオは何でもないように戻って来た。

 どれ程の範囲に及んだのかは不明だが、グラオにとってはまだ効果が薄いようだ。

 何光年吹き飛ばされようとグラオはその距離を一瞬にして飛び越せる。故に来たと思った次の瞬間には既にレイたち四人に仕掛けており、咄嗟に反応出来たのはレイだけだった。


「……! へえ? 君だけが反応出来たのか。神や魔王の力を纏っている彼女達は一動も出来なかったのに」


「私も纏っているけどね……!」


「……!」

「……!」

「……!」


 レイ以外の三人が反応を示したのはレイとグラオが衝突し、会話を終えた後。次の刹那にはレイとグラオによる衝突の余波が広がり、エマ、フォンセ、リヤンの三人が数メートル程飛ばされた。

 三人は各々(おのおの)で力を纏っているので飛ばされた距離はその程度だったが、先程の穴が更に深く広くなっている様子を見れば如何程の衝撃波が伝わったのか分かりやすいだろう。


「何という速度だ……!」

「それに反応出来たレイもレイだな……!」

「うん……。レイには私たちの力要らなかったかも……」


 レイとグラオのせめぎ合いを見やり、レイに感嘆する三人。

 レイの成長速度はライに勝るとも劣らない。魔王やライ達二人によって底上げされたライに比べたら劣っているようにも思えるが、フォンセとリヤンによる力と勇者の剣以外のモノを利用していないレイが数百億年分の経験があるグラオに追いすがるのは流石だろう。


「私たちも見ているだけという訳にはいかないな。先程の速度は反応が遅れたが、見切れない程じゃなかった。何とか食い付いて行ける筈だ」


「ああ。天と地程の差がある訳じゃないんだ。何とかなるかもしれない」


「うん……。と言うか……何とかしなくちゃならない……!」


 レイに感化され、エマ、フォンセ、リヤンの三人もグラオの元に迫り行く。

 その間にも二人のせめぎ合いは続いていた。

 レイが剣を薙ぎ、グラオがそれをかわして拳で仕掛け、それをレイが避けてしゃがみ斬り上げる。グラオは仰け反って躱し、片手を支えに蹴り上げたがレイは紙一重で避けて回り込むように剣を薙いだ。そしてグラオはそれも躱す。


「私たちも仕掛けるぞ! "魔王の雷(サタン・サンダー)"!」

「"神の雷(ゴッド・サンダー)"……!」

「はあ!」


「……!」


 グラオに三つのいかづちが降り注ぎ、直撃と同時に感電する。

 剣を薙いだレイはエマたちが来るのを分かっていたかのような動きで飛び退き、目映い放電の中に居るグラオ目掛けて斬撃を飛ばした。

 果たしてそれが当たったのかどうかは分からない。だがその雷は宇宙にも及びそうな程の電圧であり、大地がいかづちのみで消滅した。


「良いね……。効いたよ……。まだ少し痺れる感覚が残っている。それに僕の肉も少し斬れた。……ハハ、良いじゃん! 今の一撃、破壊力だけならさっきライに吹き飛ばされた時と近いよ! けど、まだまだ! さあ、もっと楽しませてくれ!」


「効いたようではあるが、まだまだ余裕は残っているみたいだな。まあ、あれで終わっていたら拍子抜けも良いところか。……私的には拍子抜けで終わる方が助かるのだがな」


「拍子抜けで終わらせる訳にはいかないさ。僕だってそれなりにやる気なんだからね。今回の僕たちは全世界への宣戦布告とそのままの侵略が目的。つまり、今までのように途中で帰るって事は無いのさ。僕はそれがとても嬉しいよ!」


 今回のグラオは、決着が付くまで戦闘を行える。それは目的が目的だからこそ心置き無く戦えるという事。

 今までの途中離脱はグラオ本人も気にしていたらしく、本気で最後まで戦える現状を心から楽しんでいた。


「やれやれ。数百億年生きた割には本当に子供っぽい性格だな。それでいて子供みたいに単純ならまだやり易かったのだがな」


「ハハ。性格なんて人それぞれさ。まあ、僕は人とはまた少し違うんだけどね。種族その物が。……けど、そんな事はどうでもいい。血沸き肉踊る本気の戦い……もっと楽しもうよ!」


「危ない!」

「ああ、理解している。何とか追えた……!」


 一歩踏み込んだグラオが仕掛け、レイがエマを庇うように勇者の剣を守衛に使い、エマは飛び退いて距離を置く。

 同時にエマは片手に風を纏い、その風に雷の力を混ぜる。次の瞬間にはそれを放ち、レイ、フォンセ、リヤンが距離を置いてグラオの周囲にのみ爆発的な衝撃波が広がった。


「その程度かい?」

「ああ、この程度だ。今はな……!」


 そんな衝撃の中から無傷で姿を現し、一気にエマの眼前に迫る。それをエマは霧になってかわし、距離を置きながら星をも吹き飛ばす程の暴風を放出した。


「じゃあ、そのうちが上がるって事かな?」


 風に対しては拳からなる衝撃波で防ぎ、不敵な笑みを浮かべながらエマの方を一瞥して話す。

 エマは笑って返した。


「ふふ、そうだな。だが、本格的な戦闘は私一人じゃない。早いところ貴様を倒すとするさ」


「もう少しで貴方を超える事が出来るかもしれないからね……!」


「超えなくてはいけないからな。超えてやるさ。世界の創造主をな」


「うん……!」


「ハハハ! 出来ると良いね。本気の僕を相手に」


 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人がグラオに向き直り、グラオは四人を順に見渡してより力を込め構え直す。

 レイたち四人とグラオの織り成す戦闘。それはまだ続く。

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