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九百二十三話 レイ、エマ、フォンセ、リヤンvsグラオ・カオス

 ──"別空間"。


「やあ!」

「はあ!」

「"魔王の刃(サタン・ブレイド)"!」

「"神の刃(ゴッド・ブレイド)"……!」


「良いね!」


 ヴァイス達が行動に移った頃、レイたちとグラオは依然として戦闘を続けていた。

 レイが勇者の剣から斬撃を飛ばし、エマが風をもちいて鎌鼬カマイタチを形成。フォンセとリヤンは魔王と神の力から刃を模倣してグラオに放った。

 それをグラオは軽く笑いながら拳で弾き、自身に及ぶ影響を掻き消した。

 グラオはライのように異能や物理的な力を無効化する能力を持っていないが、拳を打ち付けた事によって生じた拳圧で相殺したのだ。

 それによって切り裂かれるのは衝撃波の部分だけ。故にグラオ自身は無傷である。


「良い感じだよ! さあ、もっも楽しもう!」


「「……!」」

「「……!」」


 戦闘を楽しみ続けるグラオは加速し、光の速度を何段階も超越してレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人にけしかける。

 そんなグラオに対し、フォンセとリヤンが両手をかざして力を放っていた。


「"魔王の守護ガーディアン・オブ・サタン"!」

「"神の守護ガーディアン・オブ・ゴッド"……!」


 放たれたのは通常の魔王と神の力からなる守護壁よりも遥かに強大な防壁。世界が崩壊する力にも耐えられる存在だが、その壁は打ち砕かれてフォンセとリヤンの眼前にグラオが迫った。


「……! おや? 勇者の子孫とヴァンパイアの姿が居なくなったね」


「ここに……!」

「居るぞ!」


 壁を砕いたグラオの前に居たのはフォンセとリヤン"のみ"。レイとエマがグラオの背後からけしかけ、勇者の剣で背部を切り裂き、圧縮した風でその身体を吹き飛ばした。


「上手くいったが、まさか守護壁がこうも簡単に砕かれるとはな。少し自信を無くす」


「うん……。やっぱり本気だと混沌の神の力を存分に発揮してくるね……」


「けど、そのお陰で一撃は与えられたよ」

「ああ、そうだな。だが、来るぞ……!」


 エマが言葉を発した次の瞬間、風によって吹き飛ばされたグラオが身をひるがえして迫り、レイたちに向けて拳を打ち付けた。


「ハハ、少し痛かったよ!」

「……っ!」


 その拳はエマたちの前に躍り出たレイが勇者の剣で受け止め、衝撃波を散らし大地を抉りながら抑え込む。

 しかし拳の衝撃は凄まじく、拳を抑えた筈のレイがその痛みに苦悶の表情を浮かべる。

 その存在が存在。今更だが、やはりただでは済まないようである。


「頑丈な剣だね。……いや、剣よりも君だ。剣が無事でも、剣より遥かに脆い筈の君が砕けないなんてね」


「アハハ……! 少しは強くなっているって事かな……!」


「どうやら本当にその様だ」


 だが、グラオが気に掛けたのは痛みや衝撃は伝わっているが無事だったレイに対して。

 レイの身体は、常人に比べればライたちと同じように化け物染みているが、比較的普通である。

 だからこそ世界が崩壊しうる拳を受けても多少の痛みで済んだ事が驚きなのだろう。


「……。けど、考えてみたら君の肉体的な耐久力は最初からかなりのものがあったね。目の当たりにした戦いは少なかったけど、常人なら意識を失う程の攻撃を受けても最後まで食らい付いていた。それが異常だ。確かなダメージや手応えはある。なのに倒れない。相手にするに当たって、これ程まで厄介な存在は無いよ。下手すれば攻撃を受けても無傷の存在よりやりにくいかもしれない」


「……。珍しくまともに力を分析しているんだね、グラオ・カオス……! いつもはただ楽しんでいるだけだけど……!」


 レイの強さ。それは勇者の剣からなるもののみではない。その血縁故か、鍛練の賜物か、どちらにしても支配者クラスの実力は持ち合わせている。

 支配者と言ってもまだレイは宇宙規模の攻撃をした事がある訳ではないが、宇宙規模の攻撃に耐える事は出来ている。

 勇者の剣はありとあらゆる存在に対しての特効性能は高いが、それを操るレイが弱くては話にならないだろう。元より実力はあるのだ。

 しかしそれを差し引いても、レイの肉体的な強度は高い。グラオが言うように本人はその戦闘を全て見た訳ではないが、簡単に言うとレイは倒れない。倒れにくいという事である。手応えや感覚があっても中々倒れない存在は色々と厄介だろう。そんなグラオの分析にレイは返し、グラオは笑って態勢を立て直した。


「ハハ。普段からも口に出さないだけで分析は冷静にしているさ。だってそうしなくちゃ心の底から楽しめないからね。相手が簡単にやられても、僕が簡単にやられても、相手に逃げられてもそれは全てつまらない。時と場合次第で僕はやり方を色々と考えているんだよ」


 如何に気持ちの良い勝利を掴めるか。数百億年の退屈に飽きて戦闘を趣味としたグラオ・カオスだからこそ、そう言ったものを求めているのだ。

 仮に勝てたとしても気分が良くなければつまらない。退屈が嫌で始めた戦闘だからこそそれでは本末転倒だろう。負けるのは然程気にしておらず、つまらぬ戦いが一番嫌だ。そんなグラオはレイから距離を置き、再び四人にけしかけた。


「取り敢えず、僕と勇者の子孫の会話を静聴してくれて助かるよ。だけど、君達少し甘いんじゃないかな?」


「ふっ、レイなら私たちが横槍を入れるまでも無いと判断しただけだ。もっと簡単に言ってやろう。貴様など、私たちが誰か一人でも居れば十分だ!」


「アハハ! 言うね! 良いよ! それくらいの気概が無けりゃ、逃げ惑う弱者を一方的に痛め付けるつまらなくて退屈で存在価値も意義も何も無い戦いになっていた! その心意気にも感謝するよ!」


 エマが言い放ち、グラオが笑って返す。それと同時に回し蹴りを打ち付け、レイたちはそれをかわす。

 戦う意思。それもグラオが重要視している事の一つである。

 戦意の無い相手を一方的に破壊するのはただの人形を破壊する事と何ら変わらない。それでは何の面白味も無いだろう。

 相手が抵抗する。その抵抗を物理的に砕いて無駄にさせる。それでも足掻く相手との真剣な戦闘。グラオが望む戦闘というものはただの暴力ではないのだ。

 もっとも、やっている事はただの暴力でしかないのだが。


「退屈な戦いでも敵を痛め付けるのはめないのか。全く、良い性格をしているな」


「ハハ、その言葉は良い意味で受け取っておくよ。取り敢えず、戦意を失わない相手は喜びさ!」


 かわしたエマが風を放出し、それをグラオは同じく風圧で消し去る。そこに向けてレイ、フォンセ、リヤンの三人が迫り行く。


「今更貴方相手に戦意喪失はしないよ!」

「ああ。それ以前に、お前はこの場で打ち倒す!」

「うん……!」


 レイが勇者の剣を斬り付け、フォンセが魔王の魔力をそのまま放出。リヤンも神の力をエレメントに干渉せずそのまま放った。

 勇者と魔王と神。レイたちの世界にて語り継がれる三つの力は世界その物を創造したグラオに向けて進み──


「これくらいなら、まだ防げるかな」


 ──そのままグラオによって防がれた。


「……! これくらいなら……"まだ"防げる……?」


 だが、そんなグラオの言葉をレイは気に掛ける。

 "まだ防げる"。それが意味する事はつまり、これ以上の攻撃を放てば防がれる事無く決められるかもしれないという事。

 多少の傷は与えど、グラオにまともな一撃は与えられていない。厳密に言えばまともな一撃を与えても多少の傷しか負わせていない現状、何とかもう少し上の段階の攻撃を仕掛けなくてはならないだろう。


「じゃあ、貴方が防げない程の攻撃をすれば勝利を掴めるって事だね……!」


「ああ、そうなるね。というか僕に限らず、全ての敵にとってそうだろうさ。まあそれも、僕にその攻撃が当たるかどうかってところだけどね」


 今一度踏み込んで勇者の剣を振り下ろし、それをグラオは紙一重でかわす。同時にレイの腕を掴み、その身体を振り回すように投げ飛ばして近くのフォンセとリヤンにぶつけた。


「……っ。ごめん二人とも」

「気にするな。と言うか、先程から私たちを投擲とうてき武器のように扱っているな。アイツ。私たちは物じゃないぞ」

「うん……。確かに巻き込めるから効率的ではあるんだけどね……」


 飛んで来たレイは二人がキャッチし、レイは謝罪しつつフォンセとリヤンは気にする事無いと返す。

 三人は改めてグラオに構え直し、グラオの正面にレイ、フォンセ、リヤン。背後にエマという陣形が作り出された。


「左右と背後が手薄じゃないかな? 左右に至っては誰も居ない」


「別に貴方は逃げないでしょ? それなら無理に囲う事も無いって考えてね。攻撃も広範囲に及ばせられるだろうし、囲んだところでむだだもん」


「成る程。確かにそうだね。囲い込みって言うのは注意を散漫させる為に行うもの。それは僕には効かない。……それなら向き合ったままでも正面に三人。もしくは四人居ても同じだ。この陣形に特に意味は無いって訳だからね。ただ単にさっき攻撃したままの状態だから陣形っぽく見えているだけなのかな」


「そう。だから、私が斬り込む!」


 それだけ告げ、レイは踏み込みと同時にけしかけた。

 先程は一斉に仕掛けても無駄った。だから今回は一人ずつ仕掛けるつもりなのだろう。


「うん、良いね。僕好みのシチュエーションだ」


 一人ずつの攻め。それはグラオにとって都合が良いもの。

 集団戦も悪くないが、やはり一対一サシり合うのが一番性に合っているのだろう。

 無論、一人にだけ集中するという事はしない。一対一の戦闘の途中に横槍を入れられたとしても対応出来るよう、レイに集中力を高めつつもエマたちにも意思は向けていた。


「やあ!」

「よっと!」


 その瞬間、グラオに向けてレイが剣を振り下ろす。それをグラオは紙一重でかわし、またもやレイの手首を掴んで引き寄せ、そのまま膝蹴りを打ち付けた。

 レイはまだ自由な片手を使って何とか防ぐが力負けして押され、引き離れると同時にグラオが迫り来、勇者の剣を咄嗟に盾代わりに使うが蹴りによって吹き飛ばされた。


「やっぱり手強いね……けど、負けない!」

「ハハ、その意気だ!」


 吹き飛ばされたレイは何とかこらえ、今一度踏み込んで加速。連続して剣を振り回し、グラオに一太刀でも浴びせようと精進する。

 レイの一振り一振りは一級のもの。だがグラオには効かず、即座に反撃されてしまう。


「徐々に力は上昇しているようだね。だけど、まだ僕には届かない。もっと強くなれる筈さ」


「なれるんじゃなくて、もっと強くなる……そうしなくちゃ貴方には勝てない!」


「……! へえ?」


 グラオの反撃を受けて仰け反ったレイだが即座に立て直し、深く踏み込んで腹部を斬り付ける。

 今度は確かに決まったが、精々軽い切り傷程度の負傷。それでもグラオは楽しそうだが、レイは更に気迫を増して斬り掛かる。


「やあ━━ッ!」

「また鋭くなったね。いや、鋭くなり続けている。この様子なら、そろそろ僕の領域くらいには到達するかな」


 振り下ろし、突き、斬り込む。そこから更に加速し、力も上昇している。

 グラオもその力には感心を示しており、自分の力を"くらい"と称する程にレイの成長を楽しんでいた。

 しかしまだグラオの領域には達していない。故に隙を突いてレイの脇腹を蹴り抜き、レイは吐血して吹き飛んだ。


「"魔王の緩衝材(サタン・クッション)"!」

「……!」

「レイ……大丈夫……?」

「……う、うん。ありがとう」


 吹き飛ばされたレイはフォンセが受け止め、威力を殺して抑える。

 そんなレイの近くにリヤンが寄って安否を確認。腹部に強烈な一撃を受けて吐血したレイだが、どうやら大丈夫のようだ。


「さて、まだまだやろうよ。君達とならまだまだ楽しめる。さあ──もっと本気でやろうか?」


「「……!」」

「「……!」」


 そして次の瞬間、グラオの威圧感が増した。

 レイの実力を見て高揚感に溢れるグラオは力が入り、この戦闘をもっと楽しみたいと言った雰囲気を醸し出す。

 その威圧は凄まじく、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人が一気に緊張を高めて向き直る。


「本気……遂にグラオも本当の本気を出すんだね……!」

「先程までの本気は私たちのように本気に近いが本気ではなかったのか。ならば私たちもそれに答えるとするか」

「ああ。さっきまでも一筋縄じゃいかなかったが……益々(ますます)骨が折れそうだ……!」

「うん……此処からが大変……!」


 グラオの、本当の本気。先程までとは違うそれは、考えるまでもなくかなりの苦行を強いられる事だろう。レイたちも力を温存している暇が無くなり、グラオに構え直した。

 レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とグラオの織り成す戦闘。それは、全員が本当の本気を出す事で終着に向けて続くのだった。

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