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九百二十一話 雷霆

「オラァ!」

「フム……」


 レイたちとグラオの織り成す戦闘が激化する一方で、既にレイたちとは宇宙複数個分の距離を離れたライとゼウスがせめぎ合いを織り成していた。

 ライは言葉に表せぬ超速で攻め行き、その速度と力を合わせた拳を放つ。それをゼウスは受け止めるが刹那に押し出され、また宇宙複数個分の距離を吹き飛んだ。そのまま通り過ぎた宇宙範囲は崩壊して行く。


「まだまだァ!」

「やはり成長は早いな。まあ、取り込んだ力が力。それも当然か」


 ライの成長速度は群を抜いている。

 全能のゼウスはそんなライにも一瞬にして追い付き、追い越した力を使う事も出来るが、それすらをも即座に抜き去る速度で成長してゼウスに食い下がっているのだ。

 故にライはゼウスと対等に渡り合っている。永遠に成長を続けるライと永遠の先に到達出来るゼウス。宇宙複数程度の破壊規模など、まだまだ序の口もいいところだろう。


「俺は世界を征服するからな! アンタ相手に立ち止まっている暇はないんだ!」


「もう既に世界征服などと言っていられる規模の戦闘でもなかろうに。少なくとも、我らの住む星よりも遥かに広大な世界が崩壊しているのは事実だ」


「どんなに広範囲を破壊出来る力を有していたとして、アンタ一人にも勝てないんじゃ意味がない! 俺は俺の想いも背負ったからな……まだまだ行くぞ!」


 更に加速し、ライとゼウスのせめぎ合いが織り成される。一挙一動で多元宇宙を破壊し、ありとあらゆる次元に影響が及びそうな場所はゼウスが修正を施す。そして次の瞬間、


「オラァ!」

「……ッ!」


 ライの拳がゼウスの顔に直撃し、ひしゃげさせて殴り飛ばした。

 吹き飛ばされたゼウスは多元宇宙範囲の空間を崩壊させながら飛び行き、少し先、およそ宇宙数百個分程の近距離で停止する。


「フム、まともに受けてしまったな。やはり世界を修正しながら戦うのは不利か」


むしろ、その状態で今の今まで大したダメージを負っていなかったのが驚きだよ……!」


「だが、このままでは確実に負けるな。たった今そのイメージが入ってきた。そのイメージを修正する為、此処からは我も本気を出すとするか」


「……!」


 ──その瞬間、ゼウスに力が集中し、存在だけで強化されたライを圧倒する。

 ゼウスの本気。それが意味する事は考えるまでもない。今まで多元宇宙の修正で集中力をもちいていたゼウスがそれをめた今、もう言葉で表せる力ではないのは確かである。


「ハハ……じゃあ、宇宙の方はアンタが手を出さなくても良い方向で修正出来るんだな?」


「無論だ。たった今全ての次元を含む全宇宙に自動修正を掛けた。それでも気休めにしかならないだろうが、お主と戦う時間くらいはある」


「最初からそれをすれば良い筈だけど、言い方を変えればそんな事をしなくても問題無いって思われていた訳だな……!」


「そうだな。今、お主を宿敵と認定してやろう。さて、久々に本気を出す……!」


「……!」


 次の瞬間、ゼウスの片手に膨大なエネルギーからなる強大ないかづちが形成された。

 そのいかづちは棒状の形となり、槍のように持ち直す。ゼウスは言葉を続けた。


「──"雷霆ケラウノス"。主も知っているだろう。ゼウスの持つ世界最強の槍だ。先代のゼウスから受け継いだ武器ではあるが、先代ゼウスですら全世界を焼き尽くす力を引き出せたのだ。我が使えば一挙一動が今の我が普通に殴る場合の数倍にはなるだろう」


「数倍……たったの数倍に思えるけど、今のアンタの一挙一動で多元宇宙破壊規模……その数倍ってのは末恐ろしいな」


 ──"雷霆ケラウノス"。ゼウスの持つ一撃で世界を焼き払える武器である。

 その破壊力は前述したように宇宙(世界)を焼き尽くすもの。それだけなら多元宇宙規模の攻撃となっている今のライやゼウスに劣るかもしれないが、世界を焼き尽くす力はあくまで先代のゼウスが使っていた場合である。

 つまり、先代よりも力のある今のゼウスが雷霆ケラウノスを使った場合はそれよりも遥かに強大な力を有する事になるのだ。


「取り敢えず、久々に使うからな。雷霆ケラウノスを試すとするか」


「試さなくたって全ての情報を知っているだろうに。態々(わざわざ)試すって言う口実を作るなんてな」


 ──その刹那、ゼウスを中心に多元宇宙が感電して崩壊した。

 多元宇宙。つまりライたちの世界も含めての崩壊だが、それはゼウスが掛けた自動修正によって直される。

 それから雷鳴と閃光が遅れてから響く現在、ライとゼウスは互いに駆け出して肉迫した。


「あの一撃を咄嗟に防いだか。大したものだ」

「ハッ、どうせ防がれる事は知っていたんだろ?」

「いいや、その情報が入るよりも前に防がれたからな。あの時点では知らなかった」

「そりゃいい。つまり、一時的に俺は全知を無効化したって訳か!」


 全知の情報。それは本来、ゼウスが意識するよりも前に入ってくる。だがライの成長速度が一時的とは言えそれを追い越し、ゼウスが反応出来ない速度で多元宇宙崩壊の一撃を逆に砕いた。

 ゼウスが全知全能なのは依然として変わらないが、ライは次第にその意思全てが反応するよりも速く鋭くなっていた。


「正面から仕掛けるのは得策ではないな」

「……!」


 その瞬間、ゼウスは微動だにせずライを切り裂いた。

 切り裂いたと言っても薄皮程度であり、微量の出血のみの傷。だがその攻撃には得も言えぬ違和感を覚えた。


「おかしいな。アンタの速度は見切れる筈なのに何で俺が傷を負ったんだ? いや、まあ見切れても直撃したら意味無いし、確実に避けられる訳じゃないんだけどな」


「まあ、考えてみると良い。お主に攻撃を加えられるやり方は少ないが、そのうちの一つを使ったのだ。どうやったら自分に傷を負わせられるか、選択肢が少ないからこそそれを考えればおのずと答えも分かるだろう」


態々(わざわざ)教えてくれるなんて優しい神様だな。何も言わなければ倒せたかもしれないのに」


「フッ、我は全知。何をしようと、主が必ず我のやり方を理解する事も知っている。遅かれ早かれという事だ」


 ライに攻撃を与える方法は、実は無い訳では無い。物理的な力と全ての異能。今のライはそれらに対して無限を越えた絶対無限の耐性を持っているが、ライと同格以上の力ならダメージも与えられる。

 つまり、ゼウスはそれをもちいて仕掛けたという事だ。

 ゼウスに言われ、ライは数分思案する。ゼウスが仕掛けないのは、全知だからこそ仕掛けても仕掛けなくても結果が変わらない事を理解しているので今後に備えて少し休んでいるのだろう。

 そしてライは閃いたように言葉を発した。


「ふうん? まあ、少しは分かったな。最初は時間停止とか何らかの方法を使っているって思ったけど、直接関与する訳じゃない時間停止はどんなに実力のある者が使っても俺に効かない。そうなると催眠、金縛り、幻術、その他の可能性全て。……だけど、どれも妙にしっくり来ない。……つまり、この世界の(・・・・・)やり方(・・・)じゃない(・・・・)……って訳だな」


「ほう?」


 先ず思い付く限りのやり方を思案する。それは全てこの世界なら出来る者も居る能力だが、それはライの力と関係無く無効化されるだろう。

 その事からして先ずこの世界で行える方法ではない事が分かった。

 ゼウスの反応を他所にライは言葉を続ける。


「その事から結論付ければ……アンタ、此処に居るアンタはただの現像で本体は"別の次元"に居るな? 別の次元から俺を狙ったって訳だ。それも、理論上に存在する程度の次元なんて生易しいものじゃない。……アンタ、絶対無限ですら及ばない次元空間に居るだろ?」


「……」


 それは、ゼウスが別の次元から仕掛けていたという事。

 この世界では不可能。故に、ゼウスは既にこの世界におらず、別の次元に居てそこから仕掛けていると考え付いたのだ。

 次元を挟んだ攻撃もゼウスなら可能。次元は点、線、面、立体と様々な存在があり、ライたちのような生物の居る世界は三、四次元とされている。次元の数は二桁と少ししか無いとも謂われており、ライが相手では十次元や十一次元に存在している程度では遠く及ばないだろう。

 だからこそゼウスは絶対無限以上の領域に顕在する新たな次元その物を創造し、そこからライに攻撃を仕掛けた。それがライの推測である。

 ゼウスは笑って返した。


「フッ、正解だ。誰にも及ばぬ範囲から仕掛ければ良いと思ったのだが、バレてしまったな」


「アンタならそれも答え合わせ済みだろうさ。……取り敢えず、さっさと戻って来いよ!」


 次の刹那、ライは次元を砕き、一瞬にして絶対無限の領域に到達してゼウスを別次元の空間から引きり出した。

 それと同時にゼウスへ回し蹴りを放ち、その身体を吹き飛ばす。


「次元その物を砕くか。相変わらず滅茶苦茶な力だ」


「その次元に居たアンタがそれを言うのかよ!」


 吹き飛ばされたゼウスは空中で態勢を立て直し、雷霆ケラウノスを携えて突き刺す。空間を突っ切った雷霆ケラウノスの雷撃はライの眼前に迫り、それをライは砕いて消し去る。同時に加速し、拳を打ち出してけしかけた。


「オラァ!」

「……!」


 その拳は雷霆ケラウノスの剣尖で受け止めるがライの腕は貫けず、雷霆ケラウノスも砕けなかった。

 だからといって何の影響が及ばぬ筈もなく、新たな多元宇宙が崩壊して再生する。二人は飛び退くように離れ、相手の出方をうかがった。


「やはり正面からじゃ必ず防がれるな。避ける隙は与えないようにしているけど、どちらにしても相殺されてちゃうや」


「未来も全て知っている我に攻撃を"当てる"事が出来ているだけ十分だろう。先程までは当たってすらいなかったのだからな」


「本当にただ当てているだけだけどな。ダメージは負っていない」


「そういう訳ではない。受け止めたら受け止めた衝撃が伝わるからな。やはりまた別の次元……今度は最高次元にでも行くか?」


「そん時ゃまた砕いてやるよ。全ての次元を砕いてアンタに仕掛ける……!」


「本当にそうなるから困ったものだ。やはり正々堂々、正面から仕掛けるか」


 互いに実力は拮抗している。ライの力にゼウスが追い付くのではなく、ゼウスの力にライが成長して追い付き続いている現状、ゼウスからしてもかなり厄介なものだろう。

 それならまた別の次元に行けば良いのだが、ゼウスが如何なる次元に居ようと軽い拳の一撃でその壁を崩壊させて到達するライ。種が明かされているのだから当然だ。


「取り敢えず、仕掛ける……!」

「だろうな。その未来を見た」


 会話を終え、ライが加速して拳を放つ。それをゼウスは雷霆ケラウノスで受け止め、また多元の範囲が崩壊した。


「概念になる。多元宇宙全てに匹敵する大きさになる。逆に多元宇宙全ての中で最小の大きさになる。即死の力。考えうる全ての行為。その全てをもってしてもお主には防がれる未来しか存在しないな。我ならそれを上書きする事も出来るが、上書きした瞬間に更なる上書きが行われる。面倒だ」


「面倒なのは俺も同じだ。どんなに成長してもアンタが直ぐ追い越すんだからな……!」


「お主も直ぐに追い付くだろう。どっちもどっちだ」


 互いに互いの成せる全てをもちいても対等以上にはならない。その現状を打開する為にも、ライとゼウスは兎に角(けしか)けた。


「じゃあそれを俺がアンタを追い越して、絶対に追い越させなくしてやる!」


「……。フム、分かった」


 その場で拳を放ち、それを今一度雷霆(ケラウノス)で受け止めるゼウス。放電と衝撃波が多元宇宙に届いて内部から崩壊させ、二人の空間が消えてなくなる。

 他の次元に及ぶ影響は自動的に修正されるが、ライとゼウスの居る場所はこの二人にしか影響が及ばないので特に直されなくなったようだ。

 ライとゼウス。既に何度も多元宇宙が崩壊しているこの戦闘も、より激しく激化するのだった。

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