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九百二十話 レイvs守護女神・決着

「やあ!」

「……っ!」


 レイは踏み込みと同時に勇者の剣を振るい、アテナの身体を"アイギスの盾"ごと吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたアテナはゼウスの城に衝突して外壁にヒビを入れ、背中を強く打ち付けて肺から空気が漏れる。


「何という力……!」

「まだだよ!」

「……ッ!」


 ダメージを負い、アテナから一瞬意識が遠退く。次の瞬間には目の前のレイに視線を向けるが、目の前のレイは既に眼前へと迫っていた。

 それと同時に鞘に納まった状態である勇者の剣の剣尖がアテナの腹部に差し込まれ、背後の城壁が砕ける。そのまま城内へと引き戻され、大広間にて二人が向き合う。


「……。そう言えば、私達っていつの間にか外に追いやられていたんだ……」


「移動の際に外に飛び出しただけだろう。ゼウス様がゼウス様なりに戦いやすい場所へと送ってくれただけだ」


「成る程ね。それなら此処に戻って来ちゃったのは想定外かな?」


「さあな。戦う場所など関係無い。兎に角、やる事は貴様を打ち倒すだけだ……!」


 移動の際にいつの間にか城の外へと追いやられていたレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とアテナとグラオの二人。ライとゼウスは元より戦闘によって城の外に飛び出していたが、それはゼウスなりの配慮だったのかもしれない。

 何はともあれ、レイとアテナの戦場は城の中に変わった。それならそこでるだけだ。


「私も貴女を倒します!」

「思い出したかのように敬語を使うな!」


 レイが再び勇者の剣を振り抜き、アテナが"アイギスの盾"で防ぎながら距離を置く。同時に槍を構えてレイに向き直り、そのまま槍を突き立ててけしかけた。


「はあ!」

「やあ!」


 槍の剣尖は勇者の剣で受け止め、それによって生じた衝撃波が周囲に散る。

 同時に二人は距離が置かれ、その距離を一瞬にして詰め寄りレイがアテナを吹き飛ばした。


「……っ。成る程な……! 貴様は戦闘によって力が開花するタイプの人間か……! 勇者の子孫と言う割には大した事ないと思ったが……此処からが本番のようだな!」


「……!」


 吹き飛んだアテナは"アイギスの盾"をもちいてレイに仕掛け、打撃武器のように殴り飛ばす。それをレイは勇者の剣で受け止めたが後退り、そこに追撃するようアテナが槍を構えて突き出した。


「ハッ!」

「……っ」


 その槍も勇者の剣で受け止める。だがまた押されて身体が下がり、アテナはその槍を横に薙ぎ払った。


「……ッ!」


 薙ぎ払われた槍も勇者の剣で受け止めたが、急に迫った横からの一撃。レイは勢いに押されてしまい、渡り廊下の壁に叩き付けられる。

 その光景を見、アテナは確信したように言葉を続けた。


「やはりな。戦闘で力が目覚めるタイプの者は、目覚めるよりも前に倒せば良い。実に簡単な話だ。このまま仕掛けさせて貰う!」


 それだけ告げ、連続して槍を突く。

 そう、レイは戦闘の中で本来の力。潜在能力を引き出して自身を向上させる。なので始めから手を抜かずに全力で攻め立てれば本来の実力で劣っていたとしても付け入る隙はあるのだ。


「確かにそれは困るね……けど、私も此処まで生物兵器の敵と戦っていたからね……! 今回はもう力を引き出せるよ!」


「くっ……!」


 突かれる槍を振り払い、アテナの側頭部に鞘に納まった勇者の剣を振るう。それも"アイギスの盾"で防がれるがアテナは怯み、その隙を突いてレイは迫った。


「盾の届かない範囲から……仕掛ける……!」

「させるか! "女神の絶対防御テア・アポリトス・アミナ"!」

「……! 全部の範囲を……!」


 迫るレイに対し、アテナは何処にも隙間の無い完全な盾を生み出して剣の一撃を防いだ。

 元々"アイギスの盾"自体の範囲は通常の盾より少し広いくらいしかない。だが、神の力を込める事でその防御範囲を拡大させ、隙間も何もかもを消し去った絶対的な守護壁を生み出したのだ。

 防がれた今度のレイはアテナを弾き飛ばす事が出来ずに自分の手に全ての衝撃が伝わり、手が痺れて痛みを伴った。


「この防御……流石にこのままじゃ駄目かな……!」

「フフ……ようやく抜いたか。伝説の剣を……!」


 アテナを覆う広大な"アイギスの盾"は流石のレイにもこのままでは対処不可能。故に、レイは勇者の剣を抜いて銀色の剣尖を光らせ、アテナに向き直った。


「もう手加減するのも難しいから……気を付けて、アテナさん……!」


「フッ、あまり舐めるなよ? 守護神として、貴様ら侵略者から国を護るのは私だ! ありとあらゆる神話の武器をも凌駕する勇者の剣……その力、見てやろう……!」


 レイが忠告し、アテナはフッと笑って返す。無敵を誇る"アイギスの盾"に対する全てを凌駕する勇者の剣。アテナは退かず、レイに構える。その刹那、レイは踏み込みアテナに向けて加速した。


「"女神の集中壁テア・シンケントロシ・トイコス"!」

「……! 私の剣の位置にピンポイントで……!」


 そしてレイは勇者の剣を振り下ろすが、その着斬地点に向けてアテナは力を集中させ、先程の盾よりも遥かに強度を高めた防壁を当てる。

 勇者の剣とアイギスの盾が正面衝突を起こし、その衝撃波が辺り一帯に広がった。


「はぁ━━っ!」

「……っ。まさか……!」


 その瞬間、神の力によって強化された一点集中の盾が押され、そのまま盾にヒビを入れた。


「くっ……! この盾をもってしても……勇者の剣には届かぬと言うのか……!?」


「届く届かないの問題じゃない……純粋に私の意思が勝っただけだよ……!」


 勇者の剣は、適正者が持たなければただの剣と変わらない。故に、強い意思と強い肉体を持つレイが使って初めて形を成すのだ。

 レイはそのまま押し切り、アテナの身体を切り裂いた。


「……ッ! カハッ……!」

「安心して……急所は外したから……!」


 盾が砕け、その破片が散る。それと同時にアテナが倒れ、その姿が消え去った。


「……! 消えた……ゼウスが元の世界に送り返したのかな? 確かに兵士達もヘルメスやヘラも居ないもんね……」


 その光景を見、ピクリと反応を示すレイ。改めて考えてみれば確かに他の兵士や主力の姿も無い。この世界にはこの世界でも十分に戦える者だけを送り、役目を終えたら戻しているのだろう。

 何はともあれ、レイとアテナの戦闘は早くも決着が付く。レイは勇者の剣を鞘に納め、次はエマたちの手助けをする為に城からグラオの元へ向かうのだった。



*****



「"魔王の雷(サタン・サンダー)"!」

「"神の雷(ゴッド・サンダー)"!」

「天候は……雷!」


「ハハ、悪くない一撃だよ!」


 レイとアテナの戦闘が終わった頃、グラオに向けてエマ、フォンセ、リヤンの三人が各々(おのおの)の力をもちいたいかづちけしかけた。

 それを見たグラオは笑って拳を放ち、衝撃波を飛ばしてそれらを防ぐ。それと同時に三人に向けて駆け出した。


「だけど、僕に届かせるにはもう一息かな!」


「……っ! "魔王の盾(サタン・シールド)"!」

「"神の盾(ゴッド・シールド)"……!」

「防御は二人に任せるか……!」


 駆け出すと同時に拳を打ち出し、それをフォンセとリヤンが防ぐ。それによってグラオは弾き飛ばされ、霧となって背後に回り込んでいたエマが念力で風を圧縮し、グラオの背部に叩き付けた。


「……! へえ? 僕が気付けなかったなんてね。君も少しは力を付けたみたいだ」


「ふっ、数千年生きようが生き物は成長出来るからな。不意さえ突ければ貴様にも攻撃は加えられる。……まあ、私は生き物ではないかもしれないし、見たところダメージは無いようだがな」


「みたいだね」


 風の衝撃波でグラオの周りには何かによって押し付けられたかのようなクレーターが形成され、無傷のグラオが楽しそうに笑う。

 ダメージを与えられないのはエマも知っていた。なので特にグラオが無傷な事に今更反応は示さないが、エマも成長し、ある程度はグラオと戦えるようになっているのだ。


「その隙を私たちも突く! "魔王の熱線サタン・ホット・ワイヤー"!」

「私も……! "神の裁きゴッド・ジャッジメント"!」


 そんなグラオに向けてフォンセが高熱の光線を撃ち出し、リヤンが神の力からなる先程のいかづちより遥かに強大な破壊力を秘めた雷を放出した。

 既にエマは霧となってグラオから離れており、それらが直撃。惑星範囲の世界が消え去り、次の刹那に小さな範囲にだけ陸地の残った谷にグラオ立っていた。


「そこも狙い撃つか!」

「……!」


 グラオの立っている小さな足場。そこにエマが雷を落とし、轟音と閃光が瞬きグラオが白く包まれる。

 消え去ったのは惑星程の範囲だが、無論の事近場の城とエマ、フォンセ、リヤンの三人の居る場所は残っている。そうでなくては死にはしないにせよグラオを見失い面倒な事になるからだ。


「良いね。今の連携。悪くない攻撃だったよ!」

「……!」


 その刹那、グラオは自分の足場を踏み砕いて加速し、エマの顔を殴り付けて頭を吹き飛ばした。

 飛ばされたエマの頭は天空を舞い、フォンセとリヤンの元に落下する。


「おっと。頭が飛ばされてしまったな。フォンセ、リヤン。すまないが私が再生するまでグラオを引き付けておいてくれ。今の一撃は大した事無かったが、奴なら私の事を細胞一つ残さず消し去る事も可能だろうからな」


「ああ。しかし、慣れてはいるが頭だけで話す姿は何とも言えないな」


「うん……少し不気味……」


「ふふ。まあ、声帯が残っていれば話す事も可能だからな。別に不思議じゃない」


「それ以前の問題だと思うが……まあいいか」


 身体は消滅しても問題無いが、頭も消されては大変。なのでエマは、取り敢えず再生するまでの時間をフォンセとリヤンに稼いで貰う事にした。

 不死身のエマが頭だけで生きている事は別に不思議ではない。やはり色々と思うところはあるようだが、取り敢えずグラオを優先する為に二人は構えた。


「さて、次は君達かな。けどまあ、安心しなよ。君達を殺すつもりは毛頭無い。ヴァンパイアを消滅させる事はしないし、君達はちゃんと回収するよ」


「……。そう言えば、お前達の目的がそれだったな。それなら遠慮無く攻め立てて良いと言う訳だ」


「当然。逆に、遠慮なんかしたら許さないよ?」


「……!」


 その瞬間、グラオは一歩踏み出し、フォンセの眼前に迫った。

 フォンセは咄嗟に魔力を放出してグラオの勢いを殺し、その僅かな隙で仕掛ける。


「"魔王の槍(サタン・ランス)"!」

「……!」


 魔王の魔力からなる槍を打ち出し、グラオの肩を掠めた。それによってグラオは初めて傷を負い、そこにリヤンがけしかけた。


「"神の刃(ゴッド・ブレイド)"……!」

「おっと……!」


 その二つによってグラオの肩と脇腹に小さな切り傷が付けられる。だがグラオは構わずに迫り、二人の身体を殴り飛ばした。


「ハハ、やるね!」

「「……ッ!」」


 先にフォンセの身体を殴り付け、フォンセが吐血して吹き飛ぶ。そのフォンセにリヤンがぶつかり、二人は転がるようにグラオから距離が離れた。

 無論、それもグラオの狙い。一人を攻撃するだけで二人を巻き込める。これ程効率の良い事は少ないだろう。


「さて、続けるよ!」

「「……!」」


 リヤンの膝に寝転がる形となったフォンセは咄嗟に飛び起き、グラオに構えて魔力を放つ。


「くっ……! "魔王の(サタン)"──」

「遅いよ!」

「「……ッ!」」


 だが、それを放つよりも前にグラオによって蹴り飛ばされ、フォンセとリヤンが重なるように倒れ伏せる。そこに向け、グラオは今一度踏み出した。


「させるか!」

「あ、再生したんだ。ヴァンパイア」


 そんなグラオに風で切り込むエマ。グラオの身体は上から強い力で押され、足元から大きく陥没する。しかしグラオは何ともなく、エマを回し蹴りで吹き飛ばして引き離した。


「……! しまった……!」

「先ず……二人!」

「「…………」」


 引き離されたエマは吹き飛び、地面を抉って転がる。衝撃によって意識が朦朧もうろうとしている二人にグラオが迫り、


「させないよ!」

「……!」


 アテナを倒し、駆け付けたレイが勇者の剣で受け止めた。

 グラオは容赦していなかった。今の拳には恒星くらいなら崩壊させる力が込められていた事だろう。しかし、それをレイは正面から受け止め、グラオを離すように既に鞘から出している勇者の剣を振り抜いた。


「レイ!」


「おやおや。随分と早いね。勇者の子孫。今の君じゃ、アテナも簡単に倒せちゃうのか」


「全然簡単じゃなかったよ……けど、貴方を倒す為にエマたちに力を貸す!」


「良いね! その意気だ!」


 エマが名を呼び、グラオが不敵に笑う。

 今回のレイは本気。アテナにも手加減はしていなかったが、少なくともグラオ相手には明確に相手を殺すつもりと言える気概で挑んでいる。


「レイが来たか……すまないな。リヤン。巻き込んでしまった」


「ううん……。大丈夫……。けど……私たちもグラオを倒そう……!」


「無論だ……!」


「ハハ。二人も元通りか。良いね、良いよ。最高だよ! さあ、僕達もろうか! 最終決戦ラストバトル!」


 レイの登場により、場の流れが変化してフォンセとリヤンが起き上がり、グラオに構える。グラオは心の底から楽しそうに笑い、レイ、エマ、フォンセ、リヤンに構え直した。

 レイとアテナ。二人の戦闘が終わった事で手助けに来れたレイ。

 よって、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの織り成すグラオとの戦闘も、愈々(いよいよ)本格化するのだった。

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