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九百十九話 預言の一撃

 ──"人間の国・支配者の街・パーン・テオス"。


 ヴァイス達の侵略活動が一部を除いて順調な現在、人間の国にある世界最強の支配者の街では、ライが動き出した。


「俺たちの力……アンタに通じるか、確かめてみよう……!」


「……!」

「……」


 ──その刹那、光の速度を無限段階以上に超越したライがグラオとゼウスの眼前に迫り、一先ず一番近くに居たグラオの顔面を殴り付けた。


「……ッ! 早っ……!」

「……。これは……避け切れないな」


 グラオは殴り飛ばされ、ゼウスの元に迫り行く。その速度も形容するのも烏滸おこがましい程の超速。未来を全て理解しており、どのタイミングで何処に来るかも分かっているゼウスですら反応し切れず、成す術無くグラオごと吹き飛ばされた。

 激突した次の瞬間には星を何兆周以上巡ってライの背後に飛ばされ、ようやく反応出来たグラオとゼウスは互いに急停止する。それによって生じた破壊痕はゼウスによって修正されたので気にする事も無いだろう。


「これで……先ずはアンタが預言した一撃は達成だな?」


「ああ、そうだな。言っただろう? お前達のどちらが我に一撃を与えるとな」


「成る程ね。ライに殴り飛ばされた僕の身体が君に激突してダメージを与えた……と言ったところかな」


 今の一撃はゼウスが既に知っていたもの。ライとグラオ。どちらかがゼウスに一撃を与える。それがこの一撃だったのだ。

 ライ(喜)とライ(冷)の力を取り入れたライの神経は研ぎ澄まされており、力も計り知れない領域に到達している。だからこそこの世に起こる全ての事柄を知っているゼウスに攻撃を通せたのだろう。

 ライは改めて二人に向き直り、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とアテナも構え直す。


「何が何だか唐突で分からないが……お前達がゼウス様に仇なす敵という事は依然として変わらないようだな。私も相手をしよう……!」


「ライ。ライはゼウスに集中していて。私たちはグラオとアテナさんを止めておくから……!」


「ああ。生物兵器の処理だけでは物足りないからな」


「ハハ。それは面白いね。君達が僕の相手を? ライには劣るけど、相手に不足は無いかな」


 アテナ、レイ、エマ、グラオの四人が順に話、レイを始めとしたレイたち四人は、一先ずライはゼウスに集中させるよう考えていた。

 アテナは幹部としてゼウスの防衛を行い、グラオは取り敢えず戦えればそれで良いと四人に構える。


「そうか。信頼しているよ。レイ、エマ、フォンセ、リヤン」


「任せて!」

「任せろ!」

「無論だ!」

「うん……!」


 それだけ言い放ち、ライはグラオとアテナの隙間を抜けてゼウスの眼前に迫る。それを見やり、アテナは振り向いて反応を示した。


「……っ。今の速度……! 私が見切れなかっただと……!?」


 アテナが気付いたのはライが通り過ぎた後。そんなアテナに向け、レイが踏み込んでけしかけた。


「アテナさん! さっきは協力してくれたけど……今度は貴女を倒します!」


「……! お前たちに協力してやったつもりはない! あの場面ではそうした方が良いと判断しただけだ! それと、敵に"さん"を付けずともいい!」


 レイが鞘に納まった状態の勇者の剣を振り下ろし、アテナか"アイギスの盾"でそれを防ぐ。

 レイとアテナの横で、エマ、フォンセ、リヤンの三人も動き出していた。


「私たちは貴様を仕留めるか!」

「ああ……!」

「了解……!」


「ハハ。ヴァンパイアに魔王の子孫に神の子孫。本当に不足は無いよ!」


 エマが風を圧縮した塊をグラオに叩き付け、それをグラオは弾くように消し飛ばす。それによって暴風が巻き起こり、ゼウスの部屋にある家具が吹き飛んだ。


「やれやれ。部屋その物は直したが、家具にまで手が回らないな。お主が相手だと久々に程好い疲労感を味わえそうだ」


「そうかよ!」


 今のエマの一撃で本来はこの部屋その物が吹き飛んでいる。しかしゼウスが部屋のみは直したらしく、家具が舞い上がっただけのようにしか感じられなかった。

 だが、本来なら全てを元通りに出来るゼウス。それが出来ない程にライは力付けたという事だろう。


「じゃあ俺は、さっきよりはアンタと戦えているって考えて良いんだな?」


「そう思ってくれて構わぬ。まあ、先程のような力を出さない限り、状況はそのままだがな」


 ゼウスに向けて拳を放ち、それをゼウスは紙一重でかわす。同時に回し蹴りを放つがそれも避けられ、ライたちの力を宿してから最初の一撃並みの攻撃速度でなければ効かないと言い捨てられた。

 だが、それなら話は早い。ゼウスは世界の修正を施しながら戦っているので、付け入る隙はあるだろう。


「オラァ!」


「フム、遅いな。やはり無意識下で力を出し切れていないようだ。自分では理解していないようだがな」


「なにっ? いや、まあ確かに俺の一挙一動で他の場所も巻き込んじゃうから、本当に無意識のうちに力は抑えているかもな!」


「それが事実だ。たった今その情報を全て思考に入れた」


「そいつはどうも!」


 拳を放ち、避けられ、回し蹴りを打ち付けても避けられる。それならばと一瞬距離を置き、次の刹那に速度だけは先程と同等にけしかけた。


「オラァ!」

「……! フム、よくなった」


 殴り付けられ、両手で防ぐゼウスだったが弾き飛ばされて城を突き抜ける。同時に片手に力を込め、ライたちに向けて構えた。


「だが、やはり別空間でやらなければこの世界が滅びてしまうな。それも既に承知している」


 その瞬間、ゼウスはライたちを別空間へと移動させた。

 ライと全力で戦うには、宇宙程度の広さでは狭過ぎる。一概に宇宙と言っても多元宇宙を含めた様々な世界が顕在しているが、その世界全てが余波で消滅してしまうのでそもそもの次元が違う世界に転移させたのだ。


「此処でやるのか? いや、此処に来た時点でそれは確定か。この世界の広さも無限くらいあるよな?」


「ああ。まあ、無限の範囲では狭過ぎるからな。絶対無限の広さを誇っている」


「如何なる無限をもちいても到達出来ない無限……。成る程ね。それなら安心だ」


「そうでもないのだがな」

「……?」


 この空間は無限を超える絶対無限の広さを誇る空間。それなら元の世界に与える影響は無さそうだが、ゼウスは肩を落としてため息を吐く。

 しかし元の世界にも創造神やゼウス程ではないにせよ、全知全能を誇る存在も居る筈。それなら問題無いだろう。なのでライは構わず踏み込んだ。


「まあいいや。取り敢えず此処なら暴れ放題。って訳じゃないにせよ、元の場所よりはやりやすい!」


「我としてもそれが狙いだからな。好都合だ」


 光を何段階も越えて加速し、先程と同等の速度でゼウスを殴り付ける。

 対するゼウスは構え、そんなライの拳を正面から受け止めた。その余波によって複数の宇宙範囲が崩壊して消え去り、ライとゼウスの間に何とも言えぬ空間が作り出された。


「……。アンタ、俺の攻撃を正面から受け止めたな……結構強くなったつもりなんだけど、さっきみたいに吹き飛ばないのか?」


「何を言っている。我は全知全能だ。故に、如何なる存在が相手だろうと同等の力に成り、迎え撃つ事は出来る」


「……! ハハ、とんでも能力だな。つまり俺がどんなに早く成長しようと、アンタは一瞬でその領域に到達出来るのか……!」


「ああ。その気になれば明確に多元宇宙と全ての神々の中で最強と言える勇者と同じ力にもなれる。この世に顕在し、生み出される全ての能力は全能のうちの一つに過ぎんからな」


 全知全能。その存在の脅威をライは改めて理解した。

 そう、この世に存在しうる全ての能力はあくまで全能のうちの一つでしかない。如何なる能力を思い付き、自身で扱おうと体現しようと、それも含めた全能なのだから当然だ。

 知能のある存在が思い付く能力。誰も考え付かない能力。その全ては全能の一端である。


「確かにそうだな。けど、俺は元々その全知全能を無効化するつもりで戦っている。漸くアンタに追い付いて来たんだ。そう簡単に引き離されたら困る……!」


「案ずるでない。それを思ってお主の行く末を見てみたが、少なくともお主は永遠に成長を続ける。文字通りの底無しという事だ。だからこそ、我の力をもってしても果たしてどうなるかと言ったところだな」


「分からない……とは言わないんだな。となると実際は結果を知っているって事か」


 曰く、ライの能力は常に向上し続け、底は存在しないとの事。

 ゼウスは行く末を見たと言ったが、果たしてどうなるかとは考えているものの、分からない様子はなかった。やはり全てを知っているのだろう。故にライは小さく笑い、有言実行を決める為にゼウスへ向けて駆け出した。


「だったら安心した! 相手と同じ実力になれる! もしくは越えられるアンタが相手でも、俺が常に成長すれば問題無いって事が分かったからな!」


 ライは始めから全力。既に魔王の十割の力を使っており、自身の力も魔王の十割に匹敵するものをもちいている。

 ライ(喜)とライ(冷)の力も相まり、もはや力が何割か。如何程の力を有しているのか、その全てに置いて理解不能の領域へと達していた。


「オラァ!」

「フム……」


 そしてまた拳を放ち、多元宇宙の範囲が消滅した。



*****



「やあ!」

「はっ!」


 ライとゼウスの一方で相対するはレイとアテナ。

 レイが放った勇者の剣をアテナが"アイギスの盾"で防ぐが、その身体は後方へと押し退けられた。


「……っ。何て力……鞘に納めた状態でこれ程までとは……!」


「私だって成長しているんだから! 貴女にも負けないよ!」


 レイの力はかなり高まっている。無敵を誇る"アイギスの盾"だが、そもそも勇者の剣は次元が違う。無敵や完全。その言葉をもちいたとしても剣その物にそれらを凌駕する力が秘められている。なのでアテナがやられるのも時間の問題なのかもしれない。

 事実、ライとゼウスの衝突による余波からは勇者の剣がレイ、エマ、フォンセ、リヤンの四人とグラオ、アテナすらをも護っている。ライ達の戦闘は多元宇宙崩壊規模の破壊力だが、それも勇者の剣には関係無いようだ。

 それはもはや、道具や武器と言った領域では収まらない程だろう。宝具や神具の領域も遥かに超越していた。


「"魔王の炎(サタン・ファイア)!"」

「"神の炎(ゴッド・ファイア)"……!」

「はあ!」


「ハハ!」


 その一方でフォンセとリヤンが魔王と神の力からなる炎を放出し、それにエマが風の塊をぶつけて更に威力を上昇させてけしかけた。

 グラオは笑いながらそれに拳を打ち付けて衝撃波で消し飛ばし、四人が互いに距離を詰める。


「やはり多少なりとも威力の落ちる遠距離からは効果が薄いか。ほんの僅かな差だが、グラオ相手にはその差が惜しい……!」


「うん……! ほんの少しでも力を強めなくちゃ意味がない……!」


「私も出来ればサポート以外で戦いたいが、それはまだ無理そうだ。兎に角、フォンセとリヤンの攻撃に威力を上げるサポートを施す! 二人は遠慮無く仕掛けてくれ!」


「ああ、すまないな。エマ!」

「エマ……ありがとう……!」


 グラオに攻撃が通じるのはライとレイを除く今はフォンセとリヤンの魔王と神の力のみ。故にエマは威力を増幅させる手助けをしているのだが、やはり思うところはあるようだ。

 だが、本気の戦闘にそうも言っていられない。一番マズイのは無茶をして足手纏いになる事。それなら足手纏いにならぬよう、徹底的にサポートに尽力するのが一番だろう。


「ハハ! 良いね! 君達! やっぱり君達は面白いよ! もっと本気で、僕を楽しませてくれ!」


「楽しむ暇すら与えん!」

「以下同文……!」

「右に同じ!」


 エマ、フォンセ、リヤンの動きを見て楽しむグラオと、構わずけしかける三人。ライとレイの戦闘は激しさを増し、此方のエマたちとグラオも例外ではなかった。

 ライ、レイ、エマ、フォンセ、リヤンの五人とゼウス、アテナの二人。グラオの織り成す戦闘の──最終決戦が始まった。

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