九百十八話 ヴァイスvs斉天大聖と四神・決着
──"四神の島・跡地"。
「さて……手加減はするけどこの星……持つのかな?」
『……!』
至るところでの戦闘が終わりつつある中、梵天を纏い、支配したヴァイスと帝釈天を纏った斉天大聖・孫悟空の戦いは、早速ヴァイスが梵天の力を用いて嗾けた。
『隕石か……!』
「うン。特大のね」
それは、梵天。即ちブラフマーの宿す創造の力にシヴァの創造を掛け合わせる事で完成した、完全なる創造術からなる超巨大隕石。
その範囲はヴァイス達の惑星の大きさを優に超えており、おそらく宇宙に創造したのだろうが天が隠れて太陽と空が見えない程だった。
「君なら多分防げるだろう? そうしなくてはこの世界が崩壊するからね。私もそれを考えた上での攻撃さ」
『……。──何の為にそんな事を?』
「おや、次は帝釈天か。うン、そうだね……私がちゃンと梵天の力を纏ったという事を証明したかったンだ。さあ……早いところアレを破壊しないとこの星が消え去ってしまうよ?」
『ったく。良い性格をしているな……!』
降り注ぐ惑星サイズの隕石に向け、金剛杵を模倣した如意金箍棒を放って一撃で崩壊させる。惑星サイズが崩壊した事で生じた山や大陸に匹敵する大きさの破片も霆を張り巡らせて砕き、塵と化させて大気圏で焼き尽くした。
「さて、じゃあ次は私も行こうか」
『ハッ、悠長に待っていてくれたのかよ。優しいな。侵略者!』
「うン。私としても世界が崩壊するのは出来る事なら避けたいからね。まあ、滅びたならそれはそれで仕方無い。そう割り切っておくさ」
『テメェが仕掛けたのによく言うぜ……!』
隕石を砕いたのを見届けたヴァイスが乗り出し、踏み込んで孫悟空の近くに迫り寄る。
ヴァイス的には別に近距離戦闘を行わなくても良いのだが、降神仙術を使った状態での力を確かめる為にも敢えて近接戦を仕掛けたのだろう。
『だが、経験で言えば肉弾戦は俺の方が得意だぜ!』
「それは良いね。だけど、肉体は斉天大聖。帝釈天の力もある程度は身に付けているけど、斉天大聖の素体に帝釈天の力が合わさっただけの力で私に勝てると思っているのかな?」
『──確かに使っている力で言えば俺の方が少ないな。だが、それで十分だ』
「おやおや。次は斉天大聖が出てきた。ややこしい能力……いや、仙術だね」
正面からのヴァイスを迎え撃つように金剛杵を模倣した如意金箍棒を今一度放ち、ヴァイスはそれを紙一重で避ける。その先に雷撃を放出して追撃するが瞬間移動で躱された。
しかし雷撃は四方八方を飛び交い、孫悟空を囲むように防御する。躱したヴァイスにもそれは届き、全身を感電させる。
「自動追尾? こンな力もあったのか。ただ闇雲に放っただけなら私に当たる訳が無いからね」
『──本来なら掠っただけでも致命傷なんだがな。いくら不死身とはいえ、神仏の力を受けてるにしちゃ軽いノリだな』
「それは常人やただの不死身の場合だろう? ……フム、今は帝釈天か。それなら君の力。それが如何に強力でも、雷を無効化する能力なら既にいくつも持ち合わせているンだ。まあ、本来なら魔王の力を入手するのが手っ取り早いンだけど、魔王の子孫以外に攻撃は受けなかったからね。ライの宿す魔王の力は模倣能力があっても模倣出来ない」
『テメェに俺の霆が効き難いのは分かった。だが、効かない訳じゃないらしい。それなら……数で押す』
──次の瞬間、三人の孫悟空たちが姿を現してヴァイスに嗾けた。
そう、元々孫悟空は分身の術で帝釈天を纏った自分の数を増やしていた。今の今まで息を潜めていたようだが、隙を見て仕掛けたのだろう。
「ああ、そう言えば君達も居たね。すっかり忘れていたよ。と言うか、随分前から居なかったような……少なくとも隕石を落とす前には既に消えていたね」
『ハッハー! 先ずは本体で小手調べって訳だ!』
『まあ、さっきは本体は攻撃しねェって言っていたけどな。仏の身で嘘を吐いちまった』
『そんな事もある。気にするな!』
三人の孫悟空たちに気付かなかった。というより、忘れていたヴァイスは改めて見渡す。
本人たちが言うに本体は直接仕掛けないつもりだったがそれは無しの方向に運び、取り敢えず数で攻め立てようと考えているようだ。
「別に構わないさ。失敗は誰にでもあるンだからね。元より私の狙いは本体のみ。だから……君達には邪魔をしないで貰いたい」
『『『…………!』』』
姿を現した孫悟空たちに向けて全方位を飲み込む雷を放ち、その身体を貫通させる。本体の半分の力を有しているだけあって消滅はしないが距離を離す事は出来ただろう。
三人の孫悟空との距離を置いたヴァイスは本体に向けて駆け出し、瞬間移動にて回り込み近距離で衝撃波を放出した。
「取り敢えず、君の意識を奪って連れ去る。それが第一優先だからそうさせて貰うよ」
『……ッ!』
衝撃波は孫悟空の全身を貫き、吐血して吹き飛んだ。
同時にヴァイスは瞬間移動で孫悟空の背後へと回り込み、力を込めて嗾ける。
「最後はやっぱり……物理的な攻撃かな」
『……ッ!』
次の瞬間、孫悟空の頭にライやダークの力を込めた拳を打ち付け、巨大クレーターを形成させて島を陥没させる。
拳の下に居る気を失った孫悟空を一瞥し、ヴァイスはため息を吐いた。
「偽物か。一体何処で入れ替わったのか」
『……』
その言葉と同時に孫悟空は消え去り、ただの髪の毛に戻る。
そう、先程までヴァイスが相手にしていた孫悟空は偽物。そうなってくるとまた話が変わるだろう。
つまり、先程吹き飛ばした三人のうち誰か一人が本物だったという事。それを思案したヴァイスはどのタイミングで入れ替わったのかを考えるが、次の瞬間に仕掛けられた。
『今だ……!』
『一気に仕掛けろ!』
『応急処置は施した!』
『すまない……! 感謝するぞ斉天大聖殿!』
『まだ結構痛むんだけどね……!』
『我慢しろ。先ずは奴を仕留める事だ!』
『うむ。我らがやらねばな……!』
『ええ、その通りです!』
『勿論です!』
「フム、四神達全員が応急処置程度の治療が施されている。そうなると、引き離したうちに一人、おそらく本物の斉天大聖が他の四神達の元に向かって治したという訳か。……うン。少し時間が掛かりそうだね」
ヴァイスに向けて金剛杵の如意金箍棒が放たれ、身体を貫き感電。そこに黄竜が土を用いて押し潰し、畳み掛けるように青竜の木々。白虎の金属が押し付ける。
それらによってヴァイスを閉じ込める箱が形成されて霆が半永久的な流転を繰り返す。外に雷光すら漏れていないが中は延々と巡り続ける雷によって悲惨な世界が形成されている事だろう。
「まあ、この程度の封じなら問題無いね。所詮は土と樹と金属。ライ達の力を使えば簡単に砕ける」
『そこに仕掛けるのが我らという事だ』
「成る程ね」
そんな牢は容易く打ち砕かれ、ヴァイスが堂々と姿を現す。そこに向けて玄武が水を放ってヴァイスの身体を飲み込み、そこに麒麟が突進した。
『ハァ!』
「……」
光速の突進を受けたヴァイスは吹き飛び、島の跡地である岩盤に直撃。そこに向けて朱雀が炎を放ち、巨大な業火でヴァイスの身体を焼き尽くした。
それによって周りの岩盤は砕け、海の水が蒸発する。
「水に打撃に炎。さて、次は?」
『『『俺達だ!』』』
先程の攻撃を受けても何とも無い様子のヴァイスに向け、三人の孫悟空が類似金剛杵である如意金箍棒を打ち付ける。
それによってヴァイスは亜光速で吹き飛び、押し付けられる事によって再び感電する。その破壊力は恒星くらいなら焦土に変える程のもの。吹き飛んだヴァイスに向けて一人の孫悟空が上から嗾け、叫ぶように言い放った。
『"仙術・天神虹霓"!』
「へえ?」
ヴァイスの視界に映り込んだものは、色鮮やかな虹。しかし次の刹那にその虹は雷鳴を伴い、放電して加速する。
それと同時にヴァイスの身体を貫き、内部から放電と破壊で打ち砕く。
それは、おそらく類似的な"インドラの矢"だろう。
帝釈天の、インドラとしての伝承には、インドラではない英雄が"インドラの矢"という武器を用いて戦う様がある。それが通った後には虹が現れるとされ、正に今の光景がそれのようだ。
ヴァイスを貫いた事によってヴァイスの身体は霆で崩壊し、即座に再生しながら仕掛けた孫悟空を見やる。
「これ程の仙術の精度。どうやら君が本物の斉天大聖のようだね。四神達を復活させたのも君……うン。良いね。流石だ。さて、このままだと不死身の身体でも持たない……実際今の仙術の再生速度は少し遅かったからね。そろそろ決めるとしよう」
『……!』
──次の刹那、帝釈天を纏った本物の孫悟空にも認識出来ぬ速度で背後に回り込み、その身体を蹴り飛ばした。
蹴られた孫悟空は島を貫き、そのまま海底と地中を進んで星の裏側に出る。そこから一瞬にしてヴァイスの元へと戻るが、ヴァイスは裏拳を打ち付けた。
『……ッ! なんだ……この力……!』
「おや、今度は吹き飛ばなかったか。流石だね。説明するなら、ライとダーク。そしてハデスの力を合わせた物理的な攻撃……とでも言っておこうかな? 君に認識させない時はシヴァやドラゴンの身体能力も使っているよ」
急激に変わったヴァイスの攻撃。それ程までに先程の仙術が効いたとも取れるが、流石の孫悟空もライ、ダーク、ハデス。そして時と場合によってはシヴァとドラゴンの力を扱うヴァイスの相手は難しいようだ。
『クッ……斉天大聖殿の援護に回るぞ!』
『うん……!』
『当たり前だ……!』
『うむ……!』
『ええ……!』
『当然です……!』
『俺たちも行くぜ!』
『本体がやられちゃ駄目だからな!』
孫悟空を一方的に圧倒し始めたヴァイスへ向け、一瞬は呆気に取られていた黄竜、青竜、白虎、玄武、朱雀、麒麟の六匹と残った孫悟空の分身たちが迫り行く。
ヴァイスは一瞥を向け、それに合わせて動き出した。
「残念だけど、今の私に君達は勝てない。純粋に力に差があり過ぎるのだからね」
『『……ッ!』』
『『……ッ!』』
『『……ッ!』』
『クソッ……!』
『此処までか……!』
動き出すと同時に六匹と二人が反応出来ぬ速度で嗾け、吹き飛ばすと同時に分身を全て消し去る。そんなヴァイスの背後から孫悟空が攻め入った。
『調子に乗るんじゃねえ! なに俺に勝った気で居るんだ!!』
「相変わらず血気が盛ンだ。帝釈天さン。それと、今回の戦いに勝敗は関係無いさ。私はあくまで回収する事が目的なンだからね」
『……!』
金剛杵を模倣した如意金箍棒が振るわれ、それをヴァイスは片手で受け止める。同時に無限に等しき霆が展開し、受け止めたヴァイスの肉体を感電させる。
だがヴァイスは微動だにせず、如意金箍棒を引き寄せた。
「良い攻撃だ。他の不死身なら無限に焼かれるだけで永遠の苦しみを味わう事になる。けど、私には意味がない」
『ハッ、不死をも殺せる電流の評価がそれかよ……!』
先程の雷は星どころか恒星を崩壊させる事も可能な力。その気になれば太陽系くらいなら訳なく感電死させる事も可能だろう。
そう、ただ崩壊させるのではなく、概念を感電死させる事も可能な電流であった。それを受けても尚無傷であり、何とも思っていない様子のヴァイス。流石に想定内だったようだ。
「さて、そろそろ終わらせるって言ったね。言ったっけ? 言ったよね。多分。という事で、終わらせるよ」
『……っ。させるか! 力を貸せ、斉天大聖! ──無論です! そうしなくてはあの醜悪な侵略者から世界は護れない!』
ヴァイスは全身に力を込め、ライ、ダーク、ハデス、シヴァ、ドラゴン。自分が思い当たる肉弾戦のエキスパートを纏う。対する孫悟空は斉天大聖の力を借り、ヴァイスに向けて構え直した。
「流石に此処じゃ世界が滅びる。この一撃の為だけに移動しようか」
『……! もう移動してんじゃねえか……!』
『我らも移動させられているな……だが、このチャンスを逃さぬ方が良さそうだ……!』
『うん!』
『オウ!』
『ウム!』
『はい!』
『ええ!』
構え直すと同時に行われた別空間への移動。
無限の広さを誇るその空間にて孫悟空と黄竜、青竜、白虎、玄武、朱雀、麒麟の六匹も構え、ヴァイスに向き直った。
「さっきは分身に言ったんだったね。よし、じゃあ改めて言おう。最後はやっぱり物理的な攻撃で決めようか」
『改めて言い直す必要があったのか?』
「まあね」
『そうかよ』
──瞬間、辺りは時間が止まったと錯覚する程に静まり返った。
そしてその均衡は、次の刹那に打ち破られる。
『──金剛杵──"天雷"……!』
『続けェ!!』
『はあッ!!』
『オラァ!!』
『ハッ……!!』
『はあっ!!』
『はぁっ!!』
先制して放たれた技は金剛杵を模倣した如意金箍棒からなる宇宙を揺るがす霆。そして四神の各々が得意とするエレメントや力を用いて力を一斉に放出する。
それらは無限の範囲を誇る強大な虚空間を突き進み、ヴァイスは力を込めた片手を引いた。
「成る程。手強いね」
それだけ告げ、それらの攻撃を正面から迎え撃つ。
手加減はしない。ライの力。ダークの力。ハデスの力。ドラゴンにシヴァの力。宇宙すらをも容易く崩壊させる事が可能な力を用いてそのエネルギーに拳を打ち付け──到達して一瞬後、無限の範囲を誇る空間が崩壊した。
*****
『……っ。ク……ソ……ッ──!』
「ふぅ。流石に重い一撃だったかな。半身が消滅しただけで済んで良かった」
地に伏せる孫悟空、黄竜、青竜、白虎、玄武、朱雀、麒麟を見やり、半身を再生させたヴァイスは"サイコキネシス"で持ち上げて意識を失った孫悟空たちを連れ帰る。
今の攻撃は、ヴァイスは宇宙その物を砕き、最悪孫悟空たちのうち何人かだけ残れば良いと考えのもの。しかし押し負けはしたが相殺し、ヴァイスの半身を消し飛ばした。
「思ったよりも強大な力だったけど、これで帝釈天と四神の力も手に入れたかな。……さて、そろそろ私も本陣営に仕掛けようかな」
つまるところ、持てる最大限の力を用いての攻撃だったという事である。
それを使って孫悟空たちに四肢の欠損無しなのは素直に称賛に値する事だろう。
ヴァイスと孫悟空。そして黄竜、麒麟、青竜、白虎、玄武、朱雀の六匹が織り成した戦闘は、ヴァイスが相手の意識を奪う事で決着が付くのだった。